「都合が悪い」の敬語に要注意!
ビジネスシーンでは敬語を使うのが常識ではありますが、普段使い慣れないために、実は敬語ではない表現を敬語として用いてしまっていることがあります。
その中でも特に間違いが多いもののひとつが「都合が悪い」という言葉の敬語表現です。「都合が悪い」をそのまま敬語表現やビジネスに適した表現だと思って使っている人は少なくありませんが、実はこれは正しい敬語ではありません。
「都合が悪い」とはどういう意味?
類似の表現についてもイメージがしやすいよう、「都合が悪い」の敬語表現について触れる前に、まずは「都合が悪い」の意味を確認しましょう。
「都合が悪い」というのは「条件や状態が悪い」という意味となります。元々「都合」という言葉には「条件・状態」というような意味があり、それが良くないことが転じて「予定が合わない」「条件が合わない」という意味でよく用いられます。
オフィシャルな場面においても「都合が悪い」という表現を使う機会は多いものですが、主に以下のようなケースで使われるのが一般的です。
ビジネスにおける「都合が悪い」とは?
- 相手の申し出や提案に対して、こちら側の予定や条件の調整が難しい場合
- こちら側の申し出や提案に対して、相手の予定や条件の調整が難しい場合
「都合が悪い」の敬語表現は「ご都合が悪い」ではない
「都合が悪い」の敬語表現と言われたときに、多くの人がまず考えるのは「ご都合が悪い」という表現でしょう。「ご都合が悪いようでしたら別の日時とさせていただきますが」といったフレーズはよく聞くものですし、丁寧に表現しており尊敬語であると思われがちですが、これは間違いです。
「ご都合」は「都合」の敬語表現として適切です。実際、取引先などとスケジュールを合わせる際に、「ご都合はいかがでしょうか?」などの表現は常套句として使われています。
「ご都合が悪い」の問題は「悪い」の方で、「悪い」は尊敬表現ではないですし、そもそも敬意を表す言葉にはマイナスの印象を与える「悪い」という表現は不適切です。また、「ご都合が悪くいらっしゃる」という表現も二重敬語となり間違った表現となります。
「ご都合がよろしくないようでしたら別の日時とさせていただきますが」というように、都合が「悪い」ではなく「よろしくない」を使うのが適切です。
都合が悪いの敬語「ご都合がよろしい」を使いこなそう
「ご都合」という言葉を使う場合には、その後に続くのは「悪い」ではなく「よろしい(よろしくない)」が適切です。
×「ご都合が悪くなければ、ご一緒させていただくことはできませんか?」
〇「ご都合がよろしければ、ご一緒させていただくことはできませんか?」
この二つの文章は、意味としては「都合が悪くない」ということで同じです。しかし、「よろしければ」の形で許可をされた方が少なくとも好意的に受け取れます。仮に都合が悪くないとしても、その場合はイヤイヤである可能性もあるため、受け取る側の印象も違ってきます。
「都合が悪い」時にビジネスシーンで使える表現4パターン
「都合が悪い」を普段使うシーンというのは、「忙しい」というようなことが言いたいシーンであると思われますが、ビジネスシーンで「忙しい」という理由で何かを断るのはご法度です。それは相手の面子を潰すことになってしまいます。
ビジネスマナーは相手を立て、良好な関係を築くためのものですから、知恵のある表現で印象よく対応しましょう。また、相手の都合を問う際も表現に注意が必要です。
1 「取り込んでいる」
×「今、都合が悪いので、申し訳ございませんが股の機会にさせていただきます」
〇「ただいま取り込んでおりまして、申し訳ございませんがまたの機会にさせていただきます」
「忙しい」「都合が悪い」と言いたくない時に便利な表現が「取り込んでいる」という表現です。「早急に解決しなければならないことが生じている」という意味を持ちますので、相手に詳細を伝えずとも、忙しい状況であることを伝えることができます。「取り込んでおる」は「取り込んでいる」の謙譲語表現となっています。
ただし、「取り込み中です」という形で言うと強い拒否に聞こえますので、丁寧に表現するよう注意しましょう。
2 「差し支えができる」
×「急用で都合が悪くなりまして」
〇「急な差し支えができまして」
「差し支えができる」は、急用などで都合が悪くなった場合に使える表現です。「都合が悪い」と表現すると自分の都合という印象が強くなりますが、「差し支え」という表現の場合は「自分の意にならない用事や問題」というニュアンスになりますので、相手側も「それなら仕方ない」と納得しやすくなり、信頼を落とすことがありません。
相手の都合を尋ねる際にも、「もし差し支えなければ、ご教授いただけないでしょうか?」などと利用することができるので覚えておくと便利です。
3 「都合をつけられない」
×「その日は都合が悪く、参加は難しくなりそうです」
〇「その日は都合をつけるのが難しく、参加は難しそうです」
「予定が合う」ことを「都合がつく」、「予定を合わせる」ことを「都合をつける」と表現することがあります。「都合が悪い」が「予定が合わない」の意味であるなら、「都合をつけるのが難しい」「都合をつけかねる」といった表現も使うことができます。
都合を尋ねる際にも「もし、ご都合がつくようでしたら来週打ち合わせのお時間をいただけないでしょうか?」というようにも使えるので覚えておきましょう。
4 「ご都合のほど」
×「都合のいい日程をお聞かせください」
〇「以下の日程についてご都合のほどお聞かせください」
本来は「ご都合のつく日程についてお聞かせください」という表現ですが、「ご都合のほど」と短く表現してもスマートに都合を伺うことができます。ただし、選択肢が不明瞭な場合には使えないので注意してください。
都合を問われた時の返事にも配慮できれば完璧
都合が悪いにしても都合がいい場合にしても、注意したいのは自分が都合を尋ねられたときの返事の仕方です。
あくまで自分の都合に対しては「ご都合」は使いません。「次回の面接ですが、いつならご都合がよろしいでしょうか?」と聞かれた時に、相手の質問に釣られて「はい、明日ならご都合がよろしいです」などと答えてしまう人も多く見られます。
また、都合を尋ねられ、都合がいい場合だとしても「はい、それなら都合がいいです」というようには答えません。こういった回答は、「何かのついでで丁度良い」という印象を与えかねず、相手に失礼な場合もあります。「はい、結構です(問題ありません)」「申し訳ありません。都合がつかないため、別の日程でご検討いただけないでしょうか?」などと返しましょう。
都合が悪い場合に大事にしたいクッション言葉
どんなに注意をしていても、どうしても都合が悪い場合というのは出てくるものです。その時には、様々な形でお断りをしたり、調整を依頼することになりますが、その際にはクッション言葉を上手に入れることができるとより丁寧に聞こえます。
クッション言葉とは、本題の前に挟むことによって言葉を丁寧にしたり、敬意や謝意などを表現するための言葉です。以下にいくつか紹介しますので、うまく活用してください。
1 「大変申し訳ございませんが」
- 「その日は都合をつけるのが難しいそうです」
- 「大変申し訳ございませんが、その日は都合をつけるのが難しそうです」
1文目のままでも意味は通るのですが、例文のように「大変申し訳ございませんが」を一言添えるだけでも、相手の受け取る印象は大きく変わります。より誠意を伝えたいときに活用したいクッション言葉です。
2 「あいにくですが」
- 「その時期は取り込んでおりまして」
- 「あいにくではございますが、その時期は取り込んでおりまして」
「あいにくですが」は「残念ながら」という意味の表現で、相手の意に沿えず申し訳ないという意味で使う言葉です。相手の依頼や提案に対して、自分の都合が悪い時に用います。
上記の例ではさらに丁寧な表現として「あいにくでございますが」としています。前置きとして「ご提案ありがとうございます」などの感謝の言葉が一言あると、より丁寧に聞こえます。
3 「やむなく」
- 「その日は不参加とさせていただきます」
- 「やむなく、その日は不参加とさせていただきます」
「やむなく」は「仕方なく」という意味ですが、「仕方がない」は諦めの気持ちを感じさせるのでビジネスシーンではあまり使いません。「やむなく」は「気持ちはあるが適切な方法などがない」という意味ですので、「残念ながら…」というニュアンスを伝えることができます。
「都合が悪い」は正しく使わないとイメージダウンにつながる
都合が悪い状況はビジネスの中でどうしても発生しますが、その際にいかにスマートにお断りや調整依頼ができるかは、ビジネスパーソンとしての信頼度に大きく関係してきます。
もともと都合が悪いとは言え、相手の提案などに対してお断りをするというのは、相手に対して失礼となる可能性も高いです。加えてマナーのない受け答えをしようものならイメージダウンは避けられませんので注意してください。
都合が悪い場合でも、正しい表現でスマートに返すことができてこそ、調整上手として様々な場面で活躍することができるでしょう。慣れるまでは難しいものですが、正しい表現を身に着けられるように繰り返し練習しましょう。