「所存です」の意味や用法を知っていますか?
ビジネスシーンでは普段使わない様々な言葉が用いられ、それを上手に使いこなせるようになるだけでも仕事がうまくできるようになった気がするものです。
中でも多く耳にする機会があるのが「所存です」という言葉です。耳にする機会は多いとは言え、実際に使うには、正確な意味がわからないと職場の上司や取引先など目上の人からの評価を落としかねません。
ビジネスマンとしての語彙力アップのためにも、「所存です」とはどういう意味で、どのように使われる言葉なのか、よくある誤用とともに確認しておきましょう。
「所存です」の辞書的な意味
「所存(しょぞん)」という言葉は耳慣れませんが、所存は辞書では「心に思うところ。考え」と説明されています。「所存です」は「思います」「考えます」という意味です。
所存は「存ずる所」と書きますが、「存ずる」には「考え・思い・情報がある」という意味があります。「存じております」「ご存知ですか」が「知っています」「知っていますか」の意であることはよく知られていますが、これに通じる表現です。
普通の「思います」「考えます」よりも、その「思いが常にある」というニュアンスになり、その場の思いで終わらず、「思いを持ち続けている」もしくは「思いを持ち続けたい」というニュアンスになります。
「所存です」は敬語?
「所存です」は敬語のひとつで、「思う・考える」の謙譲語にあたります。
ビジネスシーンでも「思います」という表現は使って問題はありませんし、失礼になることもないのですが、場合によっては少し子供っぽく幼稚な印象を与えかねない表現です。そのため、公的な場などで挨拶をしたり、ビジネス文書などの際には「思います」に代わる言葉として「所存」という言葉を使うのがベターです。
謙譲語は、「自身のこと」を自分を下げて表現することで相手を立てる敬語です。そのため、「所存です」は目上の人に対して、自分の思いを表現する際に使う表現となります。ビジネスシーンでは基本的に相手を立てるため、目下や同等の相手に用いられる場合があるとしても、れっきとした敬語表現であることに注意してください。
「所存です」を使うべき場面
「所存です」の意味は「思います」「考えます」です。そのため、自分の考えや思いを表現して伝えるような場面で使用します。
ビジネスシーンでこうした表現が必要になるシーンとして想定されるのは、公的な場において挨拶やスピーチを求められる場面や、顧客相手に会社や商品・サービスの方向性を話す場面、また自分の意見を求められた場合などが想定されます。
「思います」では軽く感じさせてしまうと感じる場合には、「所存です」を使うとしっかりした表現に聞こえるようになります。
「所存です」でありがちな誤用
「所存です」は意味を理解してしまえば使うのは難しくありませんが、実はちょっとした誤用も多い言葉です。
1 二重敬語に注意
「所存です」という敬語表現で時折見られるのが敬語表現です。二重敬語について昔ほどうるさく言われることはありませんが、しっかりした敬語に慣れた人には違和感があったり、「学がない」という悪い印象を持たれることもあります。
「所存です」はすでに敬語表現として機能していますが、丁寧に表現しようという気持ちが強くなりすぎて「ご所存です」と使ってしまうケースが見られます。「所存です」は「自分を下げる」謙譲語表現ですので、丁寧に言いたいとしても「ご(御)」をつけるのは不適切です。少しでも丁寧に表現したい場合は「所存でございます」と助動詞「です」を丁寧な表現にしましょう。
2 二重表現に注意
日本語表現の中の誤用に見られることが多いのが二重表現やダブルミーニングと言われるものです。同じ意味の言葉を重ねて使ってしまうもので、理解の妨げにはなりませんが、冗長になることもありますし、違和感から本題が頭に入ってこないこともありますので避けるべきです。
二重表現は「本を読書する」「店舗に来店する」のような表現のことです。
「所存です」に関して言えば、「私としましては、A社の件に関しては全力で対処しようと思う所存でございます」となると二重表現となります。「思う」と「所存」は、表現は違えど同じ意味を持っていますので、注意してください。
3 敬語の主語の間違いに注意
「所存です」は敬語表現のうち、謙譲語にあたる表現です。謙譲語というのは、自分もしくは自分の属する組織を主語として使う言葉になりますので、相手側を主語とする表現としては使えません。
× 「A社長が就任のご挨拶の中で新しい事業プランについて所存を語られた」
× 「B様のご所存をお聞かせ願えませんでしょうか」
この場合は「所存」ではなく「(ご)意向」を使って表現するのが適当です。「意向」は自分に対しても相手に対しても使える表現ですが、厳密には敬語表現ではありませんので、前後の文脈から敬語表現を判断することになるため注意してください。
「所存です」の正しい使い方と例文
では、「所存です」のありがちな間違いを知ったところで、実際に、「所存です」の正しい使い方を例文で確認していきましょう。
1 挨拶・スピーチなどで使う「所存です」
人事異動によって配属が変わったり、また昇進昇格などがあると社内のメンバーたちの前で挨拶を求められることがあります。そういった場で決意を述べる際に「所存です」はよく使われます。
配属先での挨拶で
本日より●●支社より本社営業部に配属になりました山田です。
まだ環境の変化に頭が追い付かず、右も左もわからない状態ではございますが、一生懸命皆さまから学び、一日も早く追いつけるように努力する所存でございます。
何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
「思います」の場合は「努力しようと思います」と前の言葉が意志を示す未来形になりますが、「所存です」については「努力する所存でございます」と現在形になる点に注意してください。
2 ビジネス文書で使う「所存です」
履歴書や契約書など各種書類においても自己PRなど、自分の考えを記載する場面があります。
履歴書の自己PR
私は10年、C言語に特化したエンジニアとしてキャリアを重ねてきました。1万人規模が常時利用する大規模なシステムの構築プロジェクトに関わるなど、大規模案件での経験が多いのが強みです。御社に入社できた際には、培ってきたプログラミング能力にさらに磨きをかけ、業務の改善や効率化を、プログラミングを通してサポートしていく所存でございます。
こうした文書では、「思います」と書くと転職などの際には「学生のようで不安」と評価されることもあります。「所存です」と表現ができると、社会経験がしっかりしている社会人として好印象につながります。
3 謝罪の場面で使う「所存です」
謝罪の場面で、今後の改善策や方向性を示すときにも「所存です」はよく使われます。
謝罪の場面で
今回はD様におかれましては、当社のサービスに不備があったことでご迷惑をおかけすることになり、大変申し訳ございませんでした。
今後は二度とこうしたことが起こらないよう、従業員教育を徹底すると共に、二重チェックの態勢を整備していく所存でございます。
何卒ご容赦いただけますよう、宜しくお願いいたします。
クレーム対応や謝罪においては、徹底的に相手を高めて接することがマナーです。「思います」よりもしっかり敬語表現として「所存です」を使うことがふさわしい場面と言えます。同様に、始末書や顛末書などを記入する時も、「所存です」を使った方が誠意が伝わります。
4 プレゼンテーションで使う「所存です」
プレゼンテーションなどでは考えや計画、方向性を話す場面があります。
今後のシステム開発計画について
最後に、今後のシステム開発計画のスケジューリングと方向性になりますが、来年3月中のリリースを目標に、1月までに全てのコーディングを終了させ、2月はデバッグ、3月は様々な調整や確認をする予定です。そのため、10月から20人のエンジニアの増員を行う所存でございます。
この場合、「思います」「予定でございます」でも良いのですが、「所存です」を使うこともできます。ただし注意したいのは、自分もしくは自社の考えではなく、他者(または他社)にその計画の主権がある場合、「意向です」の方が適切な場合があります。
「所存です」を正しく使いこなすとしっかりして見える
ビジネスシーンでは自分の意志や考えを表現することが多くなりますが、その際に「所存です」が使えるだけでもしっかりした人だという印象を与えることができます。
礼状や時候のお手紙を出す際にも使えますし、普段のビジネスメールの中でも使えるなど用途が広く、様々なシーンで活用できます。「思います」「考えます」よりも一歩進んだ大人の表現として覚えておいて損はありませんので、社会人はもちろん、就活生なども積極的に覚えて使えるようにしておくと良いでしょう。