「取り急ぎ」の意味を知ろう
「取り急ぎ」とは、ビジネスメールにおいて「取り急ぎ〇〇まで」というフレーズでよく使用される表現です。文末につけるとメールを締めくくる挨拶として使うことが出来るのでとても便利ですが、正確な意味を知らずに使うと失礼にあたってしまう場合もあります。
「取り急ぎ」の持つ意味や正しい使い方について、例文と一緒にチェックしましょう。
「取り急ぎ」の意味とは?
「取り急ぎ」は「取り急ぐ」という動詞の連用形で「とりあえず急いで」を意味します。「とりあえず」は日常的に使われるのでご存知かと思いますが、「十分な対処は後回しにして暫定的に対応するさま」を表す言葉です。つまり「十分な準備が整っていないが今の状態で」という意味になります。
これらの意味から考えると、ビジネスシーンで使われている「取り急ぎご連絡まで」は、「十分な連絡ができずに申し訳ありませんが、ひとまず連絡できる範囲でご連絡させていただきます」というニュアンスを含んでいることがわかります。
また、急用であることとは別に、慣用的な修飾表現として季節の挨拶状などの文面で使われる場合もあるようです。予期せぬ便りの唐突さや相手を大事に思う気持ちなどを表現するときに用いられます。
「取り急ぎ」の正しい使い方と例文
「取り急ぎ」はどのような場面でどんな風に使用するのでしょうか。正しい使い方と例文をチェックしましょう。
「取り急ぎ」の正しい使い方
「取り急ぎ」を使う場合は準備が不十分な状態にあります。したがって上司や取引先など目上の人や敬意を払うべき対象に使うのは本来失礼にあたります。同僚や部下、よく知った間柄でのみ使用するようにしてください。
お互いに“急ぎである”と認識できる親しい上司や先輩になら「取り急ぎ」を使っても問題ありません。その場合は「〇〇まで」といった省略表現を使うことを控えてください。表現を省略しないように考えた上で「取り急ぎ〇〇まで申し上げます」という言葉遣いをする人がたまにいますが、これは間違いです。
「取り急ぎ」を使った例文
「取り急ぎ」を使用していいのは至急連絡が必要な場合のみです。以下に例文を挙げます。
「取り急ぎ」を使ったビジネスメールの例文
(社内・他部署の同僚あて)
総務部 田中さん
お疲れ様です。
営業部の佐藤です。
先程は、△△の件に対応していただき、
誠にありがとうございました。
~(詳細を短めに)~
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
取り急ぎ、ご連絡まで。
「取り急ぎ」を使うときに注意すべき5つのポイント
メールでの「取り急ぎ」の使い方でありがちなミスをしないために注意すべきポイントを5つご紹介します。
1 目上の相手には省略表現を用いない
「先ほど頂いた資料を拝見いたしました。ありがとうございます。取り急ぎご連絡まで」
「〇〇まで」といった表現は、「まで」以降の言葉を省いている省略表現です。同僚や部下、親しい上司、よく知った間柄でのみ使用してください。上文の場合、省略しない表現は「取り急ぎご連絡申し上げます」となります。
2 相手との関係性を考慮する
相手が取引先、お客様、関係性の遠い上司の場合、「取り急ぎ」は使用しないでください。特に気になさらない方もいますが、不快な思いをされる方も当然います。「取り急ぎ」を使っていい相手かどうか、自分との関係性を考慮しましょう。
3 お礼を言う場合には使わない
×「先ほどはお忙しいところお時間を割いて頂き、誠にありがとうございました。取り急ぎお礼申し上げます」
本来、お礼というのは丁寧に心を込めてするものです。お礼の言葉に「取り急ぎ」を付けられると、受け取った相手はぞんざいに扱われた印象を感じてしまう可能性があります。早めにお礼をしなくてはと相手のことを考えてとった行動も、表現一つで誤解を招いてしまいかねないため、使用を避けることをおすすめします。
4 取り急ぐことの他の内容を含まない
×「メールを拝受いたしました。ありがとうございます。取り急ぎご連絡申し上げます。また、別件ですが、〇〇の資料を修正いたしました。こちらに添付させていただきますので確認をお願いいたします。」
「取り急ぎ」は急ぎで連絡していること前提で使用するものなので、他の用件は入れないようにするのが基本です。上記のように、取り急ぎの内容のついでとして別件に触れるのはNGとなります。
どうしても触れたい場合は、「また、別件ですが、〇〇の資料につきましては追ってご連絡いたします」というように別途連絡する旨を伝えるまでに留めましょう。
5 のちに必ず正式な連絡を入れる
「取り急ぎ」は間に合わせの処置として使う言葉ですので、あとでしっかり連絡をとることが前提となります。「取り急ぎ」で連絡したにもかかわらず、正式な連絡を入れないのはマナー違反となります。
「取り急ぎ」の類語・言い換え表現
「取り急ぎ」は同僚や部下、よく知った間柄でのみ使用するのがルールですが、仕事においては上司などの目上の人に「取り急ぎ」連絡したい場合もあるでしょう。
「取り急ぎ」を使ってはいけない上司や取引先などの相手に対して急ぎの連絡を入れたいときには、以下の「取り急ぎ」の類語と言い換え表現を活用しましょう。
「取り急ぎ」の類語
- 至急:非常に急ぐこと。大急ぎ。
- 速やかに:物事の進行が早いさま。時間を置かずにすぐ行うさま。
- 急ぎで:急いですること。急を要するさま。
- 早急に:非常に急ぐこと。
- 直ちに:時をあけずに行動を起こすさま。
「取り急ぎ」に含まれている「急いで」の意味がこれらの言葉にも含まれています。しかしこれらの表現は「至急、ご連絡まで」というような使い方ができません。似ている言葉でも「取り急ぎ」に差し替えて使うことはできませんが、言い換え可能な表現は存在します。
「取り急ぎ」の言い換え表現
- 「まずは」
- 「要件のみのご報告で大変恐縮ですが」
- 「大変略儀ではございますが」
取り急ぎの言い換え表現として、よく使われるのが「まずは」という表現です。「取り急ぎ」を知らない子どもでも知っているような言葉です。“後から再度ご連絡いたしますが、ひとまず”というニュアンスで使用されます。
さらにかしこまった言い方へ言い換えると、「要件のみのご報告で大変恐縮ですが」「大変略儀ではございますが」といった敬語を交えた表現になります。
「取り急ぎ」の英語表現
勤務する企業や会社によっては、国際的なコミュニケーションを必要とし、時に英語でのビジネスメールのやりとりをする場合があります。しかし、日本語を英語で何と表現すれば良いのか戸惑うことは多いでしょう。
英語には「取り急ぎ」と直訳できる言葉はありませんが、近い意味を持つ表現があるのでいくつかご紹介します。
カジュアルな表現
- (This is) just a quick note.
- This is a quick note to report ~ to you.
- This is a quick note to let you know about that.
「取り急ぎ、ご連絡(ご報告)まで」
メールの書き出しの文末に一言添える感じで使います。「a quick note」という部分が「取り急ぎの連絡」を表しています。社内の人には使っても良いですが、社外の人には使わないほうが良いでしょう。
フォーマルな表現
This is (just) friendly reminder ~.
「念のためにお知らせいたします(取り急ぎご連絡まで)」
リマインダーメールを送るときに冒頭でよく使われる表現です。“friendly”を含んでいることで柔らかいニュアンスになっています。
どちらでも使われる表現
I just want(ed) to ~.
「ただ~したいだけです」「取り急ぎ~」
冒頭で使う表現です。ビジネスシーンだけでなく日常的な場面でも使えるのでこれ一つ覚えておくと便利です。
「取り急ぎ」は日本語では文末で用いる表現ですが、英語になると基本的に冒頭で用います。
また、日本語の場合もそうですが、後から必ず再度連絡や報告を忘れずにしましょう。いつまでに連絡をするのか、具体的な日程や時間を入れられるとベストです。
「取り急ぎ」は意味を理解して正しく活用しよう
今回はビジネスメールでよく使われる「取り急ぎ」の意味と使い方についてご紹介しました。何かと使い方の難しい言葉ではありますが、使えるようになると非常に便利です。
社会に出ると、学生時代よりもはるかに多くの場面で敬語表現や堅苦しい言葉を使わなければなりません。授業で習った範囲ではカバーしきれないほど、難しい表現を知っている必要があります。
ビジネスシーンでは、対応一つ、言葉遣い一つで仕事が円滑に進められるかどうかが決まってしまうケースもあります。それゆえに知識をたくさん蓄えておくことはとても大切なことです。日々生活している中で、意味や使い方の知らない言葉に出会ったときは、積極的に調べて自分のものにしてしまいましょう。