教えてほしい時の表現「ご教示願います」を正しく覚えよう
ビジネスシーンでは、常に学ぶことが要求され、特に上司や先輩に教えを乞う場面は多いものです。そのような場面で使われることが多いのが「ご教示願います」という言葉です。「教えてください」よりも丁寧な言葉ですが、そのニュアンスを正しく理解していないために、間違った使い方や失礼な使い方をしてしまっていることがあります。
教えを乞う場合に使える「ご教示願います」を、正しく理解して活用できるよう、基本から応用まで様々に学んでみましょう。
「ご教示願います」の本当の意味とは?
「ご教示願います」は、多くの人が知っているように「教えてください」の意味を持っているのですが、その本当の意味やニュアンスを知らないと誤用の元になります。
「ご教示願います」は、「教える」「示す」という字がありますが、「実際に教えて見せることができる」ような案件について使う言葉です。つまり「やってみせてください」が本当の意味するところになります。
「ご教示願います」使う時は丁寧な表現にこだわりすぎない
「ご教示願います」は敬語表現になりますが、「教示」が教え示すことを熟語で表現したものであり、それに尊敬を示す接頭語である「ご」がついていることによって敬語表現になります。
その後に「願います」という言葉がつきますが、ここを「ご教示お願い申し上げます」という形にすることも可能です。
しかし、最も伝えたいことは「教示」ですので、あまりにも丁寧な表現にこだわりすぎると本意が伝わりにくくなります。基本的には取引先が相手だとしても、「ご教示願います」で十分に用を足していると考えられますので、無用に丁寧さを足し加えることは控えた方が良いでしょう。ここで「ご教授願います」をうまく使うポイントを見てみましょう。
上司や取引先などには「ご教示いただきたく」など希望形にする
基本的に「願います」は依頼や命令を意味する言葉ですので、丁寧とはいえ「命令」となります。そのため、どんなに丁寧にしてもニュアンスの強さは残ることを理解しておかなければなりません。取引先や上司など、より丁寧さが求められる場合は、「ご教示いただけましたら幸いです」「ご教示いただきたく存じます」と命令・依頼の形ではなく、希望の形にすると相手の意向を尊重する分だけ丁寧に聞こえます。
メールや手紙の文末では「ご教示のほど」という使い方をする
「ご教示願います」は本来、文語表現でメールや手紙を書く時に使います。その際には「ご教示のほど、何卒よろしくお願い申し上げます」という使い方も可能です。「ご教示のほど、よろしくお願い申し上げます」は文の結びで使いつつ、用件を促すことができる便利な表現として覚えておくと良いでしょう。
「ご教示願います」の類語表現の例文
「ご教示願います」と同じように、「教えてください」を意味する類語表現はたくさんあります。そのニュアンスなどを確認し、例文を見ながら使い方を確認しておきましょう。
「ご教授願います」は知識やスキルを授けてほしい時に使う
「ご教授願います」は、「ご教示願います」と同様に「教えてください」という意味になりますが、「教える」「授ける」という字を使っている通り、「知識やスキルなどを授けてほしい」というニュアンスが強い表現です。そのため、やってみせるだけで良いというよりは、しっかり理解するように教えてほしいというニュアンスとなりますので、教える側もある程度の時間をかけてじっくり教えるような用件の場合に使います。
- 「こちらの工法についての基本的なことについて、ご教授願います」
- 「この新しい部署における私の業務について、ご教授をお願いできますでしょうか?」
- 「税理士の先生から、未上場株の価格の算出方法についてご教授いただける機会がもてそうです」
「ご指導願います」は実技や訓練によく使われる
「ご指導願います」も「教えてください」の表現としてよく使われる表現です。ある目的や方向に向かって教え導くことが「指導」の持つ意味ですが、「教示」よりも固さの無い表現です。また、主に書類上の事務仕事などよりも実技、訓練という意味で使われる傾向があります。そのため、「ご教示願います」に比べると、座学というよりは実際に依頼側がやってみて、それについてレビューをするような場合に使われることが多いです。
- 「ビジネスマナーについてご指導願います」
- 「今回は営業同行をお願いしていますが、新しく配属された新入社員たちに特に営業マインドについてご指導いただけると幸いです」
- 「週末の成果発表会のプレゼンについてご指導をお願いできますでしょうか?」
「ご指南願います」は相手の知識やスキルなどに敬意を払う時に使う
「ご指南願います」は、「ご指導願います」と同じような意味を持っていますが、主に武術や芸能の分野で使われることが多いです。ビジネスシーンではあまり使われませんが、「経営指南」より相手の知識やスキル、また相手本人に敬意を払っている場合に使われることがあります。
- 「起業したての若輩者でありまして、●●社長に企業経営についてご指南いただけましたら幸いです」
- 「新しい技術開発のために、創業から続く様々な伝統工芸技術をご指南願ったところ、快諾いただけました」
- 「今回は工房の中でも最年長の●●さんに、切削技術についてご指南願おうと思います」
ちなみに、指南という言葉は古代中国の方角を指し示す車「指南車」に由来しています。指南車は車の上に備え付けられた人形の指が常に南を向くように作られたもので、のちに「指南」と略され、一定の方向を指し示すということから、人に進路を教え導く意味として使われるようになりました。
ビジネスにおける「ご教示願います」の使い方と例文
ビジネスシーンでよく使われる「ご教示願います」の例文を見ながら、どのような場合に使うといいのかを確認しましょう。
予定などの「情報」を教えてほしい場合の「ご教示願います」
- 「来週、●●の案件についてのキックオフミーティングを持ちたいのですが、部内の皆様のご予定をご教示願えますでしょうか?納期は今週末までにお願いいたします」
- 「こちらの案件について、今後の対応についてどのようにしていけば良いかご教示願えますでしょうか?」
- 「こちらのホテルの宴会室の空き状況をご教示いただきたいのですが」
このように、知識やスキルというような体系だったものではなく、予定やスケジュール、空き状況などのようないわゆる「情報」を教えてもらう時に「ご教示願います」はよく使われます。
手順を教えて欲しい場合の「ご教示願います」
- 「大変恐縮なのですが、新しいコピー機のホチキス止めの方法についてご教示をお願いできますでしょうか?」
- 「サーバールームのセキュリティロックの手順につきまして、ご教示願えますでしょうか?」
- 「報告書類の中で必ず入れなければならない項目につきまして、ご教示をお願いしたく存じます」
ビジネスシーンでは比較的簡単な内容と思われるものについて、その手順を教えてほしい場合にも「ご教示願います」は使われます。
教えてもらえるよう依頼をする場合の「ご教示願います」
- 「お世話になっております。先日は大変申し訳ありませんでした。弊社としても、できる限りの損失の保障を考えておりますが、先方の希望される条件についてご教示いただけましたら幸いです」
- 「Webサイトの採用欄を拝見してご連絡を差し上げました。貴社への就職を希望しますが、採用試験の詳細についてご教示をお願いできますでしょうか?」
- 「先日送付いただきました書類の内容につきまして、2点ほどご教示いただけたらと存じます」
その他にも様々な内容について「ご教示願います」は利用可能です。ただし、相手によっては「願います」という表現は依頼よりも丁寧な命令という印象を与えてしまいますので、表現に気をつけて使いましょう。
「ご教示願います」の他の言い回しをする際のポイントと例文
「ご教示願います」は敬語表現にはあたりますが、「願います」は命令の意になります。ここで紹介する他のやわらかい言い回しを覚えておき、自在に使えるようになっておきましょう。
文頭に「恐れ入りますが」などのクッション言葉を入れる
文頭にクッション言葉を入れることによって、「ご教示願います」の強いニュアンスを和らげることができます。「お忙しい所恐れ入りますが」「大変恐縮ですが」「申し訳ないのですが」など、相手の貴重な時間を奪うことに対して恐縮していることを言葉で示しましょう。
- 「お忙しいところ恐れ入りますが、ご教示願えますでしょうか?」
- 「お忙しいところお手数お掛けしますが、ご教示願います」
- 「ご多用の中申し訳ありませんが、ご教示のほど宜しくお願い申し上げます」
「申す」などの謙譲語を使い「願います」をより丁寧にする
「願います」は強いニュアンスがありますので、上司や取引先にはこの部分をより丁寧にする人もいます。この場合は、お願いをする立場である自分を下げて謙譲語を使うことで、相手の都合にも配慮した言い回しとなり、柔らかい印象になります。「申す」「いただく」「願う」「存じる」などの表現を使うと良いでしょう。
- 「こちらのマニュアルについて、ご教示のほどお願い申し上げます」
- 「あの顧客への提案のノウハウについて、ご教示いただきたく存じます」
- 「先日のA社様への接待につきまして、ご感想をご教示願えましたら幸いです」
「願います」を使わず他の言葉に言い替える
「願います」という表現が強いのなら、その表現を使わない言い方をすることで相手にも強く聞こえない言い回しにすることが可能です。「いただく」などの表現を使うと良いでしょう。「賜る」も使えますが、最上級の敬語表現になりますので、大げさと取られないように注意してください。
- 「大変お手数ではございますが、ご教示いただければと存じます」
- 「忘年会の開催日について、早めにご教示くださると助かるのですが」
- 「先日の書類のチェック方法についてご教示賜れますでしょうか?」
「ご教示願います」は基本的に文書でのやり取りに使う
「ご教示願います」は、基本的には文語表現であり、メールや文書などのやり取りの中で使う敬語です。そのため、対話の中で教えを乞う場合には使わない方が良いでしょう。例えば「部長、先日の件、対応についてご教示願います」という使う方をすると、指示や命令のような印象を与えてしまいやすく、目上の相手には特に失礼にあたる場合がありますので注意してください。
口語で「ご教示願います」を使いたい場合は、「ご教示をお願いできますでしょうか?」「教えていただけますでしょうか?」などの言い回しの方が無難です。上司など目上の方に使う場合には以下の例文のように「ご指導いただけます(いただけない)でしょうか?」が最も自然な表現です。
- 「お休みのところ大変恐縮ですが、今度の土曜、ゴルフのご指導をいただけないでしょうか?」
- 「面白い商品だなと思ったのですが、今度いらっしゃる時に詳しい内容を教えていただけますでしょうか?」
「ご教示願います」は教えてもらう側が使う敬語
「ご教示願います」は「教えてください」を意味する言葉になりますが、そのニュアンスには注意が必要です。「やってみせる」という意味合いがあるために、簡単にはやって見せてもらえないようなことを教えてもらう際の使用は控えた方が無難です。
例えば3ヶ月かかるようなプロジェクトについてその実現のための方法を「ご教示願います」と言ってしまうと、「やってみせろ」と挑発的な受け取り方をされて、失礼だと思われてしまうことがありますので注意しましょう。
また「教示」は教えてもらう側が使う表現であり、教える側が使うことはありません。「これから営業トークの考え方について教示しますのでしっかり聞いてください」という使い方はしませんので、使用の際は間違えないように気をつけてください。
「ご教示願います」の類語表現ややわらかな言い回しをなど理解し、使用する場面ごとに適切な表現を選べるようにしましょう。「ご教示願います」という敬語の正しい使い方がわかると、周囲から得る評価を下げないで済むようになります。