ビジネス文書で使われる「つきましては」は間違っているかもしれない
ビジネスでは多くの文書が飛び交っていますが、その中でよく見かけるフレーズのひとつが「つきましては」です。普段何気なく使っており、また何気なくその意味を理解していることと思いますが、実は普段使われている「つきましては」の中には、間違った使い方をしているものも見受けられます。
正しい言葉を使うことは、文字情報のやり取りが増える中でとても重要なこと。普段は特に気にしていないという人も、一度この「つきましては」の正しい使い方について考えてみましょう。
「つきましては」の辞書的・文法的な意味
「つきましては」の意味を辞書やWebサイトなどで調べてみると、「『ついては』を丁寧にいう言葉、それで」などの意味を持つ接続詞であることがわかります。漢字で表記すると「就きましては」となりますが、あえて漢字で書くことはほとんどありません。
この「ついては」は「それで、そういうわけで」という意味になるため、「つきましては」は内容を接続する敬語表現、丁寧表現であると言えます。
- この件については後ほど報告します
- この件につきましては、後ほど報告いたします(敬語表現)
文頭の「つきましては」と文中の「つきましては」は違う
この「つきましては」というフレーズですが、実は文頭で使われる場合と文中で使われる場合は意味が少し異なりますので注意してください。
文頭の「つきましては」は、「それで」の意味
文頭に使われる「つきましては」は、会話における「それで」の意味を持っています。話している内容をつなげ、大事なことを伝える時に使います。
- それで、この製品を100ケース入荷したいと考えています
- つきましては、この製品を100ケース入荷したく存じます
前に伝えた内容を受けて、「つきましては」を使う場合はその後に続くのは本題や結論になる内容を伝えます。逆に言えば、「つきましては」の後ろには大事な内容が入りますので文書を読む場合や話を聞く場面では注意するようにしましょう。
文中の「つきましては」は、「~については」「~に関しては」の意味
文中に使われる「(~に)つきましては」は、「(~に)ついては」「(~に)関しては」という意味を持つ言葉になります。つまり、内容を指し示すために使われる言葉ですが、特別に重要な内容ということではありません。
- こちらの製品の入荷の検討については、次回までに資料を作成します
- こちらの製品の入荷の検討につきましては、次回までに資料を作成いたします
例のように、ある件を指し示し、それに関係する話を続ける場合に使います。そのため、何も無いところから「つきましては」を使うことはできません。
「つきましては」は目上の人に使っても大丈夫
「つきましては」は敬語表現となりますので、目上の人や取引先の人に使っても問題はありません。ビジネスシーンでは「それで」「~については」はなるべく使わずに、「つきましては」を利用した方が間違いありません。
ただし、口語でも常に「つきましては」を使っていると堅苦しい印象を与えてしまいます。文語としては「つきましては」で大丈夫ですが、直接話しながらコミュニケーションを取る場合には、相手に合わせてどちらがより適切かを判断した方が良いでしょう。
注意しなくてはならないのは、敬語というのは「つきましては」だけでは作れないということです。極端な例ですが、「この件につきましては後でね」という使い方はありません。敬語表現を使えば敬語になるのではなく、表現全体を敬語に直していかないと敬意は伝わりませんのでいつも意識しておきましょう。
「つきましては」を使ったビジネス文書の例文
ビジネスシーンで「つきましては」を正しく使えるように、例文をたくさん見て、使い方に関する感覚を養いましょう。
ビジネス文書の文頭に「つきましては」を使う例文
先日の結婚披露宴への参加へのお礼と、お食事会開催のお知らせ
先日はご多用の中、私の結婚披露宴への参加をいただき誠にありがとうございました。多くの方々にご参列、お祝いをいただき、また長期の休暇までいただきまして大変恐縮です。
つきましてはささやかではございますが、お礼のお食事会を開催いたしますので、是非ともご参加いただけますようお願い申し上げます。
前の内容を受けて、「つきましては」を使って続けています。改行してあげると読みやすくなり、また本題が伝わりやすくなります。
商品の不具合に関するお詫びと対応につきまして
このたび、発注いただきました商品に不具合がありましたこと深くお詫び申し上げます。
つきましては、早急に新しい商品と交換対応させていただく所存でございます。つきましては、ご多忙の折まことに恐縮でございますが必要事項を記載の上、弊社サービスセンターまでご返送いただけますようお願い申し上げます。
書き方に問題はありませんが、「つきましては」を同じ文書の中で何度も使うと内容の把握が難しくなります。この内容で「つきましては」を使うなら、行動を促すための最後の文でのみ使うのが適切です。
ビジネス文書の文中に「つきましては」を使う例文
部内ミーティングの議題につきまして
お疲れ様でございます。
来週の部内ミーティングですが、「技術者採用についての人事部への提案」につきまして議論をしていきたく存じます。
つきましては、報告事項につきましては書類ベースでなるべく済ませ、会議中は短時間で終えて先の議題の議論に時間を割く予定です。
ご協力のほど、何卒宜しくお願い申し上げます。
この例文では、タイトル、文中、文頭に「つきまして」が使われていますが、文頭の「つきまして」と違い、「~に関して」の意の「つきまして」は複数回使っても大きな問題はありません。ただ、意味を混同させたり、しつこく感じさせてしまうため、あまり何度も使うべきではありません。
「報告事項につきましては」とありますが、この文章で報告事項は議論されていないとしても、会話の外の文脈で共通理解がある内容なら「つきましては」を使っても構いません。
文書の内容の理解を助ける「つきましては」の使い方例文
「つきましては」を使う場合には、文頭か文中かで意味が変わりますが、特に文頭における「つきましては」は大事な内容を指し示す内容ですので重要です。
ビジネス文書では、相手の理解を助け、余計な時間を奪わないことがマナーになりつつあります。そのため、「つきましては」を発見しやすく、また内容を読み取りやすいように、メールなどでは改行したり1行空けてから「つきましては」を挿入して締めくくると理解しやすくなります。
A社への新製品提案に関しての相談
お疲れ様でございます。
私のクライアントで、A社という企業がありますが、先日別件で営業に伺った際に、ビルのスマート化によってエネルギー消費量の削減をしたいというニーズがあることがわかりました。〇〇シリーズなら、先方のニーズに応えることができるのではないかと考えているのですが、メリットの提案や、収集するべき情報、懸念事項などについてご相談させていただけないでしょうか。
つきましては、今週中のご都合の良いお時間を2~3頂けますでしょうか。私は明日の午後以外であれば合わせられます。
よろしくお願い申し上げます。
ちょっとした気遣いで、ビジネス文書はずっと読みやすくなり、コミュニケーションの効率も変わります。賢く、気の利いた人だと思われるためにも、こうしたテクニックも身に着けておくと良いでしょう。
「つきましては」の類語表現
「つきましては」ばかりを使っていると堅苦しい印象になりますし、逆に何気なく使っている言葉も本来なら「つきましては」の方が適切な場合もあります。類語表現や、そのニュアンスについても確認しておきましょう。
「従いましては」は丁寧でフォーマルな印象
「つきましては」を文頭で「それで」の意で使う場合には、「従いましては」で代用できます。これは「したがって」を敬語表現にしたものです。「従いましては」の方が、若干敬語として丁寧で、相手を持ち上げるような言い方になりますので、他者の意見などが前にある場合に使うと適切です。逆に、自論に対して「従いましては」を使うと若干違和感がありますので気をつけましょう。
良い例
- A社の○○会長によれば、中国からの輸入価格が今後高まる可能性があるため、早急に手を打つ必要があるそうです。従いましては、当社としても仕入れ先をアジアに分散していくべきと考えます。
良くない例
- 私見ですが、中国からの輸入価格が今後高まる可能性があるため、早急に手を打つ必要があります。従いましては、当社としても仕入れ先をアジアに分散していくべきです。
当然ですが、「(~に)関しては」という意味で使われる「(~に)つきましては」を「従いましては」で代用することはできません。「先日の議事録の件に従いましては後ほど報告します」という文だと、わからなくはないとしても強い違和感があります。
「おきましては」人や社名で使われる丁寧な敬語表現
「つきましては」が「(~に)おいては」の意で使われる場合は「おきましては」で代用できます。「おきましては」の特徴は、人や社名などにくっついて、「~においては」「~については」の意味になることで、挨拶などの定型文で良く使われます。「おきましては」は敬語表現で、非常に丁寧な印象を与えることができます。
- いつもお世話になっております。B様におかれましては、ますますご盛栄のこととお慶び申し上げます。私事ではございますが、この度、総務部のCさんと結婚することになりましたので、ご報告申し上げます。
「関しましては」はやや内容に重きを置くニュアンス
文中で「つきましては」を使える場面では、「関しましては」を使っても問題はありませんが、やや内容に重きを置いた印象になります。「その件に関しましては、現在議論中です」のように使いますが、「その件につきましては、現在議論中です」と比べると、その件についてしっかり踏み込んで議論しているように聞こえます。
「~にあたって」「~に際して」なども「つきましては」の類語
文中では「~につきまして」と同様の意味を「~にあたって」「~に際して」も持っていますが、ややニュアンスが異なります。
「出発につきましては、20時頃とさせていただきます」だと出発が20時頃になりますが、「出発するにあたって、20時までにトイレは済ませてお集まりください」と、20時よりも前の時間にすべきことを示すために「~にあたって」は使います。
「出発につきましては、20時頃にバスが到着します」であれば出発の方法についての内容が話されていたことが前提になります。「出発に際して、20時頃にバスが到着します」という場合は、事前に出発に関する内容は必要なく、出発の時に何が生じるかを単純に示すだけとなります。類語ではありますが、いつでも言い換えられるものではないことに気をつけて使い分けましょう。
「なお」は「つきましては」と使い方が違う
「つきましては」と同じように、前の内容を受けて大事なことを続けるための接続詞に「なお」があります。「つきましては」と違い、注意を促す内容や捕捉が続くことが多いです。つまり、「なお」の後に続くのは本題ではないという点で、混同しないことが大切です。
- 先日生じた事故によって、機械系統にトラブルが生じている可能性があります。つきましては、工場を一度停止し、安定稼働のチェックを行います。
- 先日生じた事故によって、機械系統にトラブルが生じている可能性があります。なお、この件に関して弊社従業員の操作には一切の瑕疵が無かったことを確認しております。
ビジネス文書では「つきましては」をスッキリ使おう
「つきましては」はビジネスシーンでは頻出する言葉ですが、それだけに何も気にしないで使っていると「つきましては」だらけの文書になっていることもあります。
「つきましては」の意味や用法を正しく理解し、できるだけ必要なところだけに絞り込んでスッキリ使えるようになると、読みやすい文章を書けるようになり、コミュニケーションもスムーズになります。ビジネス文書を上手に書きたい人は、自分の「つきましては」の使い方について時々セルフチェックしてみるとよいでしょう。