労働組合を知っておこう
ニュースや新聞などでよく名前を見ることのある労働組合ですが、「労働者の集まりで会社じゃないもの」くらいの認識の労働者も多いです。また、自分が労働組合に加入しているか、していないかも把握できていない方も少なくありません。名前は耳にしても詳しく知らない労働組合の基礎知識をいま一度確認してみましょう。
労働組合とは?
労働組合は、労働者が自発的に団結し、勤務時間や給与など労働条件の改善をはかるための団体です(注1)。日本国憲法第28条には「勤労者の団結する権利」が保障されていますが、それを形にしたものが労働組合で、労働組合法によってその詳細が定められています。
日本に限らず、労働者と使用者(企業・組織)の間の関係(労使関係)では、使用者側が強い権限を持っており、労働者が不利な立場になることが少なくありません。特に日本においては「就職」ではなく「就社」と言われるほど、会社の影響が労働者に強く、また労働者も会社に依存する労使関係が長く続いています。
労働者が自発的に集まって組織を作り、使用者との取り決めである「労働協約」を定めたり、賃上げや労働条件の改善を巡っての交渉や、時には業務を一斉に休止するストライキなどを組織・実行することによって、企業と対等の立場から、労働者側の意志や希望を伝える役割を担います。
なお、厚生労働省のデータによると、平成28年現在、日本における労働組合数は24,682組合、組合員数はおよそ994万人にものぼることがわかっています(注2)。
労働組合を運営しているのは労働者
労働組合を運営しているのは、基本的には様々な労働者です。単位組合においては社員の誰かが労働組合の代表者として運営しています。
上部組織になると発起人が代表者となったり、また委任された影響力のある人が代表者として活動することが多くなっています。当然、一人で運営するのは難しいため、代表者には特定行為の代行を委任する権利が与えられています。
代表者と運営上のスタッフによって労働組合の運営は行われ、総会への参加や活動参加によって組合員は労働組合として活動することになります。
労働組合には種類がある
一言で「労働組合」と言っても、実にたくさんの種類があります(注3)。まずは労働組合の種類を頭に入れましょう。
単位組合
同じ会社に属する労働者が集まって作る労働組合で、日本では単位組合が多い特徴があります。主に職場における労働環境や待遇の改善などについて働きかけます。
地域ユニオン
「●●ユニオン」「●●連合」などの名前になっていることが多い組織で、一定の地域に属する労働者が自発的に組織している労働組合です。単位組合よりもより広範な活動が可能で、会社を超えて労働条件の改善、待遇改善などに働きかけることができます。大きな規模での活動を行えるため、社会的な影響も大きく、ニュースなどのメディアにも取り上げられやすいです。
産業別組織
地域ユニオンと一緒になっていることもありますが、同じ業種の人々が集まって組織する労働組合です。その業界・業種における労働組合が強いほど条件の改善が進みやすくなり、全国的に就業条件が良くなっていきます。
ナショナル・センター
産業別の労働組合が集まって作る国の労働組合の代表とも言える組織です。経団連などと大枠の賃金・待遇改善の方向性を相談するのは規模的にナショナル・センター(対象が絞られる場合は産業別組織や地域ユニオン)となり、交渉の結果が労働条件に順次反映されていきます。
ITUC(国際労働組合総連合)
世界各国のナショナル・センターが集まり、世界中における労働問題の解決のための組織です。本部をベルギーのブリュッセルに置き、世界中の労働者と協力しながら公正な労働基準を確立するために尽力しています。
労働組合では何ができるのか
労働組合では具体的にどんなことができるのでしょうか。労働組合が行っていることを見ていきます。
1 経営側に各種の団体交渉・団体行動を起こす
「春闘」というと賃上げのための労使交渉を言いますが、これ以外にも、職場のルールや労働条件、人事評価などについての改善のための交渉を行うことができます。ストライキなどを行うことを決定したり実行するのも労働組合です。こうした団体交渉・団体行動を行うことで不利な立場に立たされることがないように法律で保障されており、行動に関してその後のことを心配する必要はありません。
2 労働者の雇用が安定するように働きかける
不当な解雇やリストラなどに目を光らせ、労働者の雇用の安定に対して働きかけます。また、企業が倒産したり企業売却があった場合にも、従業員が最大限正当な扱いを受けられるように働きかけます。
3 良い労使関係を築くため情報提供や助言をする
より良い労使関係を作るためのデータや他社の事例の紹介、また助言などを行います。ただし、単位組合ではこの機能は無いため、より上部団体に加盟する必要があります。上部団体では、より下部の組合の運営を助ける役割も担っています。
4 各種共済制度を作成する
労働組合によっては、共済制度を設けているところもあります。上部団体になるほどスケールメリットが出るため、加入者に有利な条件での共済制度を作ることが可能です。
労働組合による問題解決の流れ
労働組合に所属していても、いざ何かがあった場合に労働組合を使って問題解決にあたる方法を知らないという人も多いです。
労働組合では「労働相談」に関する窓口があり、まずはそこに連絡をするのが一般的です。相談内容に応じて、問題解決のための専門家を紹介してもらえたり、アドバイスや代理交渉などのアクションに進むことができます。
労働相談窓口は所属している組合員であれば誰でも利用可能です。労働組合によっては組合員以外からの相談を受けつけているところもあります。
ストライキなどを労働組合が組織する際には、労働組合の組合員に対して周知が行われます。そのため、何かの活動がある際に乗り遅れたりすることはありません。
労働組合へは誰でも参加できる
基本的に労働組合への加入は任意になっており、その加入については、入社時に人事もしくは労働組合側から案内があるのが一般的です。途中からの可能も、労働組合の窓口に連絡することで可能です。
労働組合は地域や業種、会社などの条件さえ問題がなければ、誰でも加入することが可能になっています。正社員やパート、アルバイトなどによる雇用形態や、年齢・性別・国籍などによって違いが出ることはありません。
労働組合の加入者は毎月労働組合費を納める必要がありますので、その有無によって加入しているかどうかを確認することが可能です。労働組合費は、労働組合の活動のための資金源となり、主には広告や調査、活動や運営のための積立金などの用途で使われています。月額費用は1,000円前後から数千円が相場で、組織の規模などによって違ってきます。
自社に労働組合がない場合は自分で立ち上げることも可能
労働組合は、労働者が主体となり自主的に組織し、労働条件の改善を目的として結成するという労働組合法第2条に記載された条件を満たしていれば、自由に作ることが可能です(注4)。
組合の結成については専門のアドバイザーの相談を受けることができますので、気になる方は日本労働組合総連合会に問い合わせたり、Webサイトで情報を確認してみるとよいでしょう。
労働組合と労働委員会の違い
労働組合と混同されやすいのが「労働委員会」です。労働委員会も労使間のトラブルの解決のための機関ですが、労働組合が労使間のトラブルを労働者側から交渉・解決にあたるものである一方、労働委員会は、労働者の団結をサポートし、労働者と使用者の関係において公正な調整を図る機関です(注5)。
労働委員会は公益の代表者(公益委員)、労働者の代表者(労働者委員)、使用者の代表者(使用者委員)の三者で構成されており、様々な視点の委員が話し合うことで労使の問題に対して客観的かつ公平に問題解決の方向性を見出します。
労働委員会には、都道府県に設置されている都道府県労働委員会と、国に設置されている中央労働委員会があり、労働組合や使用者の申請に基づいて問題の処理にあたります。
日本では労働組合が減りつつある
日本において労働組合の組織数は徐々に減ってきている状況があります。
主な原因としては、主な労働組合の担い手だった正社員の数が減ってきて非正規社員が増えていること、また特定の政治活動や思想によって運営されている労働組合が増えていることもあり、心理的に避けられていることなどがあります。
また、社会のモラルの向上やインターネットなどによる情報化が進んだ結果、昔のように極端に労働者に不利な労使関係が少なくなってきたため、そこまで必要性を感じない人も増えています。
しかし、「ウチには労働組合がないから労働者の立場が弱い」という話を耳にすることは多く、労働組合に対する期待がないわけでもありません。できれば誰かが頑張っている労働組合に「乗っかりたい」という気持ちの人が多くなっていることも、労働組合組織が減少する原因になっています。
問題があるなら労働組合には労働者側の代弁をしてもらおう
労働組合は労働者側の集まりであり、代弁者として使用者との間で生じているトラブルの解決のために働きかける組織です。
徐々に減っているとは言われているものの、最近の「働き方改革」において、賃上げや労働時間短縮によるワークライフバランスの調整などの面において、大事な働きをすることが期待されています。
何となく所属していたり、労働組合についてよく考えたことがなかったという人も、自身の労働環境に改善の必要性があるのであれば、労働組合の労働相談窓口を利用してみてはいかがでしょうか。
参考文献