知っているようで知らない「住宅手当」のコト
就職活動をする際には「福利厚生が大事」というのは就活を始めたばかりの学生でも知っているほど常識になっていますが、しかし福利厚生の項目は気にしていても、その中身まではあまりよくわかっていないものです。実はこれは社会人になってからも同じことが言えます。
たとえば「住宅手当」というのは良く耳にする福利厚生の項目ですが、これがどのようなもので、どのような時に該当するのか、きちんと知らず、思っていたような手当がもらえていないという人もいます。手当の内容をわかって、上手く受けられるようにするのが賢い使い方です。
住宅手当とは?
住宅手当とは、企業が従業員に対し住宅の費用を補助する福利厚生の一種を言います。
給与における「手当」の扱いは、基本給とは別に「個人の事情に合わせて支給する性質の賃金」を言いますので、住宅手当の場合は住宅の状況によって支給金額が決定されます。
高度成長期と言われた頃は、それぞれがマイホームを持つことが国を挙げて推進されていたこともあり、住宅手当を企業が提供することが優秀な社員を集めたり、また社員の企業に対するロイヤルティを高めるために機能していました。
一般的な住宅手当は、従業員の住宅ローンの返済額に対して月々決まった分を補助するという形で支給されます。支給金額や毎月の支払額に対する割合は企業によっても違い、家族の状況や年齢などを加味して考えられることが多く、同じ企業であっても手当の額に違いがあることも多いです。
広い意味での住宅手当は、住宅ローンだけではなく賃貸の家賃支払いにも適用されますが、この場合は「家賃補助」と言われることがほとんどです。
住宅手当でも家賃補助でも法律上の決まりがあるわけではなく、名称や金額、制度や支給条件などは企業が自由に決定して良いことになっており千差万別です。
住宅手当を受けるための条件
住宅手当を受けるために必要な条件は企業によって違いますが、代表的な項目として以下が挙げられます。
1 家賃の条件
住宅手当と言っても無限に手当を出すことはできませんし、また給与などに見合った家に住んでいるものとして制度は設計されています。そのため、家賃についても条件があることが多く、家賃や月々のローン支払いが「5万円以上」「10万円以上」などの条件がついていることがあります。
住宅手当は家賃と連動して手当額が変わるのが普通ですが、一般的に家賃の上限は設けず、手当額に上限を設けるようにしているところがほとんどです。
2 距離の条件
住宅手当をわざわざ支給するのは、会社にとってもそれが有益であると考えられるためです。そのため、「会社から1.5km以内」「徒歩15分以内の距離」などの距離に関する条件をつけて住宅補助を支給している場合もあります。転勤時などで家賃補助を受けることができる場合はこうした条件が重視されます。
3 家族の条件
一定の家族の状況に配慮して住宅手当を支給している会社もあります。こういった場合、配偶者や子供の人数など扶養家族の人数を考慮して支給額の査定にプラスしたり、直接的に金額をプラスしている例もあります。
ただし、高齢の両親を介護し扶養している場合など、家族の在り方が複雑化してきているため、支給の線引きが難しくなってきています。
4 雇用契約による条件
住宅手当では「正社員であること」が支給の条件となっていることがほとんどです。人数が増えるほど企業が負担する住宅手当の額が大きくなることや、企業への貢献の対価がこうした手当であるという考え方があるためです。
また、支給に関しては制度を撤回すると従業員の生活に大きく響くこともあることから、「●●年度以前入社の正社員」という条件、または「社歴が●年目以上の正社員」になっている場合もあります。また、役職によって住宅手当の支給額が変わることもあります。
住宅手当は課税対象?
住宅手当は基本的に所得扱いとなり、課税対象となります。
住宅手当は基本給を補うために導入されているとみなすことができ、その分は所得税の支払いが必要となりますし、住民税や社会保険料の標準額にも参入されます。
法律上、「手当」と言われるものは給与を補う性質のものであり、一部の恒常的に発生しないもの(出張時の宿泊費や交通費、宿直時の手当など)を除いては課税扱いとなります。
ただし、社宅の場合には、給与から家賃を天引きすることによって節税になるようにしてくれていることが一般的です。また、企業が仲介することで通常の家賃よりも安くは入居できるようになっている「事実上の住宅手当」も存在します。
住宅手当は基本給を補うものとして考えられるために課税扱いとなっていますが、給与から手当分を抜いた家賃を天引きし、その分を会社の経費として社宅代として支払ったことにすると、節税が可能となります。
住宅手当と家賃補助の違いは?
住宅手当と似たようなものに「家賃補助」がありますが、この両者が同じ意味になっている企業もあれば、別になっている会社もあります。別扱いされている会社では、住宅手当があっても家賃補助がない場合もありますので注意してください。
法律上は住宅手当も家賃補助も同じもので、一定の条件を満たせば支給される性質の手当てです。しかし、おおよそ住宅手当は購入した家に対する支払いを補助するもので、家賃補助は月々の家賃を補助するためのものとして理解されています。
企業が家賃の一部を負担する形の家賃補助の場合は、家賃の企業負担分を天引きすることによって企業も個人も節税できるように工夫されています。
住宅手当はいくらくらいが相場なのか
支給される住宅手当の金額や住宅費用に対する割合は様々です。
多くの場合は最大の支給額が定められており、上限が決まっている中で、家賃や住宅ローンの支払いからの割合を計算して支給額を決定します。割合は全額になることはほとんどなく、50%程度までというところが多くなっています。
多く支給される会社では10万円ほど支給される場合もありますが、多くの場合は1~2万円程度になっており、導入されておらず、住宅手当ゼロという企業も多くなっています。業界や業種による差は今はほとんど見られません。従業員の福利厚生に対する考え方の違いが住宅手当やその他の制度の違いにつながっていると考えられます。
住宅手当は導入企業が減ってきていることもあり、支給額もどんどん落ち込んできている状況があり、減額や制度廃止などがあると生活が一変します。そのため、リスクのように捉えられることも多くなっています。
日本における住宅手当は今後減少が見込まれる
住宅手当はもともと昔の日本のライフステージを支えるための仕組みであり、しかるべき時に家庭を持ち、マイホームを持ち、といったステップを支えるためのものでした。
しかし、今はライフスタイルが多様化し、必ずしもそういったステップを踏まなくなっています。「マイホームを買った人には支給されるが、親から実家を相続した人には支給されない」など、制度面での不公平感も強くなっています。
また、ルームシェアの形を取ったり、配偶者が籍を入れない事実婚である場合はどうなるのかという問題も生じており、生活スタイルに制度を適合させるのが難しくなっています。
住宅手当は企業の収益状況にかなり余裕がなければ難しい制度でもあり、手当分を基本給に入れた方が魅力的に見えるなどの理由から住宅手当を支給しないケースも多くなっています。
なお、厚生労働省が発表した平成28年職種別民間給与実態調査の住宅手当の支給状況によると、住宅手当を支給している企業が50.2%、支給なしの企業が49.8%となっています(注1)。
住宅手当は「あればラッキー」と考える
「福利厚生の王様」とも言われる住宅手当ですが、その制度を維持することが企業の財務状況や社会の変化から難しくなりつつあり、実際にその姿は少しずつ消えつつあります。
そのため、就職活動や転職活動の際の企業選びにおいて、「住宅手当を重視する」というのはあまり効率的ではなくなってきており、実際「重視しない」という人が増えてきています。住宅手当が途中でなくなってしまうことで生活が大変になったという話も多いです。
住宅手当は「あればラッキー」と思って、もし制度があった場合はなくなった場合のことも考え、住宅手当がないことを前提に生活を考えた方がリスクは少ないでしょう。
参考文献
- 注1:厚生労働省「平成28年職種別民間給与実態調査 住宅手当の支給状況」