有給休暇を取得する理由を聞かれたらどう伝える?
勤め始めて半年が経つと、定められた日数だけ有給休暇を使うことができるようになります。しかし、この有給休暇の消化率は会社によって大きく異なり、平均しても権利として持っている日数の半数も使えていない人は多いもの。それゆえに「有給休暇はあってないもの」と言う認識の人も少なくありません。
有給休暇が使いにくい理由としては「周囲の目が気になる」といったものが最も多く、他にも「休むと業務が回らない」「評価が下がる」などと言った声もよく聞こえます。そのため、特別なことが無ければ有給休暇は申請できないと誤解している人も多い傾向にあります。
実際、有給休暇を取得しようとするたびにその理由を確認する上司もいるのが現状ですが、果たして労働者側には理由を告げる義務はあるのでしょうか?
そもそも有給休暇とは
有給休暇は正式には「年次有給休暇」と言い、有給休暇は6か月以上継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、企業側は最低10日間(勤務年数に応じて最大20日)の有給休暇を与える義務があります(注1)。これは法律上で定められている労働者の権利であり、労働者の請求や使用者の承諾により生じるものではありません。
年次有給休暇の取得を理由に労働者に対して不利益な取扱いをすることは、労働基準法によって禁止されています。つまり、有給休暇を理由に人事考課上不利になったり、減俸などが発生することは法律違反となります。しかし、有給休暇取得に対し会社は時季変更権という、有給休暇の取得タイミングを労働者に相談することができる権利を持っています。
有給休暇の取得に理由を申告する必要はない
法律上、有給休暇はどんな理由であっても企業側に告げる必要はなく、そしてその理由により休みを取り消されたりすることはありません。これは労働基準法に定められている労働者の「休む権利」であって、有給休暇の取得は自由となっています。
有給休暇を取得する時の理由は「私用です」で大丈夫
有給休暇は労働者にとって法律上の権利であり、法令上は特に理由を申告する必要はありません。もしも理由を聞かれたら、「私用です」と答えればいいです。しかし、就業規則によって有給休暇の取得に関して事前申告が必要となっている場合には、病気などの場合を除き、規則にしたがって手続きを行う必要があります。
また、有給休暇の理由については言わなくても良いのですが、会社側からの時季変更権の行使があった場合には必要となることもあります。
時季変更権とは?
基本的に使用者は、労働者の休暇の際も事業活動が止まらないよう、計画的に仕事を割り振ることが義務付けられています。しかし、繁忙期であったり、同じ日に多くの社員が休暇を申請した場合にはどうしようもありません。時季変更権とは、こういった場合に労働者に対し有給休暇の取得日について再考を依頼できる権利です。必ずしも労働者は考え直す必要はありませんが、相談には応じる義務があります。
時季変更権が行使されたら有給休暇取得の理由を伝えると認められやすくなるかも
時季変更権が行使された場合、会社側が休んでほしくない日となるため、その日は特別な理由がない限りはできるだけ応じるべきです。しかし、その日にどうしても休暇を取りたい理由がある場合は、その旨を伝えた方が会社側も理解しやすいでしょう。
法律上の権利と人の心証は違うものです。たとえ事実を伝えることがはばかられるような私的な理由であっても、何も言わずに取得日の変更を断るようであれば、周囲から「冷たい人」「無責任な人」だと見られることは覚悟しておくべきでしょう。
有給休暇を取得するときに理由で嘘をつくとどうなる?
有給休暇は原則として理由の如何に拘わらず取得が可能です。私用であったり、その理由を言いたくない場合には嘘を申告しても問題はありません。
ただし、あくまで法律上は問題がないということであって、嘘がバレた場合には社会人としての信頼に傷がつくことは避けられません。特に大事な日に私的な理由で休暇を取得したならなおさらです。また、何度もそうしたことが繰り返されている場合には、最悪の場合、懲戒処分を科されるケースもあります。
有給の取得については法律上の問題がなくとも、労働者としての忠実義務に反し、企業に不利益を与えているとみなされる場合もあるのです。
休みが取りやすい有給休暇の理由は?
有休を取るのは職場の環境によっては簡単であったり難しかったりするものです。法律では認められている権利ですが、権利だからと何でも簡単に行使できるものでもありません。周囲も納得の上で有給休暇がスムーズに取りやすい理由について、具体例を紹介していきます。
1 健康上の理由
健康上の理由というのは、最も有給休暇が取りやすい口実でしょう。一般的な病欠はもちろん、人間ドック(任意の健康診断)の受診や、具合が悪いために安静にするなどの理由です。
2 役所・銀行手続き
役所や銀行は一般の人が働いている時間に空いていて、一般の人の休みには閉まっているものです。そのため、役所で書類の取得や手続きが必要になる場合には休暇を取らざるを得ないこともあります。
役所や銀行における手続きは有給の利用目的として納得感があります。
3 家族の事情による理由
家族の病気や事故などの世話のために休む、また子供の入学式や卒業式、授業参観といった学校行事のために休みを取得するというのも、周りから受け入れられやすい理由のひとつです。
4 運転免許証の更新
運転免許証の更新は期限も決まっており、違反の点数によっては講習が一日がかりとなったり、休日ではなく平日に呼びだされる場合もあります。そのため、運転免許証の更新のために有給休暇を取る人は少なくありません。
5 パスポートの取得・更新
パスポートの取得や更新のための手続きも、必要となる時間が読めないものですので、休みを取っていく方がベターです。仕事の中で海外出張に行くことがあるなら、会社も認めざるをえません。
6 冠婚葬祭への参加
基本的に冠婚葬祭への参加については有給休暇を使うことにためらいが無い人も多いです。お祝い事なら事前に日程が決まっているため相談しやすいですし、法事に関しては突発ではありますが、時間が限られるものですので認めざるを得ないでしょう。
7 家・財産に関する問題対応
家の工事や点検、また引っ越しなどがあれば、誰かが必ず業者の対応をしなければなりません。そのためには休みを取るのは仕方ないでしょう。日程が決まっているものですから、事前に相談さえしておけばまず問題はありません。
また、財布やカードなどの紛失、空き巣に入られたなどの対応でも休まざるを得ない場合があります。
8 旅行・レジャー
有給休暇を使いたい場面ですが、あまりに頻繁にこの理由で取得すると、タイミングや日頃の働きぶりによっては問題視されることもありますので注意が必要です。しかし、普段から周囲とうまくコミュニケーションができている人なら、むしろ喜んで送り出されるでしょう。
有給休暇の当日申請はいけないこと?
有給休暇がどうしても当日に必要となることがあります。しかし、有給休暇については、病欠や法事などの緊急の事情を除き、事前申請と承認を必要と定めている会社もあります。
会社には時季変更権があるということは、当日の朝に急に申請されることはあまり想定されていないということになります。
当日申請を行うのであれば、会社が時季変更を命じるべきでないと判断できるように、その理由をきちんと伝えた方が良いでしょう。しかし場合によっては、丸一日ではなく半日休や時間休への変更を要求される可能性も考えられるため、その点は覚悟しておいてください。
もちろん、有給休暇は当日に申請してはいけないということではないのですが、緊急の事情を除いては当日の申請は避けた方が会社に迷惑をかけずに済みます。
評価を落とさない有給休暇の取り方のポイント
法律上の権利ばかりを主張していては、スムーズに進むものが却って揉めることになりかねません。周囲の評価を落とさずに有給休暇を取るには、次の点に注意しましょう。
1 事前に申請できるものは事前に申請する
有給休暇の取得予定が立っているのであれば、その日に取得する旨を事前に伝えておきましょう。理由については問われなければ伝える必要はありません。問われた場合には、真偽はともかく納得できるような理由を伝えておくと良いでしょう。
2 理由はできるだけ伝える
有給休暇取得の理由は伝える義務はありませんが、上司や親しい人だけでも、できるだけ伝えるようにした方がベターです。あまりにもひた隠しにしていると後ろめたくなってしまうものですし、また伝えることで理由を問わず、自分のことを信頼できる人だと思ってもらえます。
3 業務態度は普段からちゃんとする
自分の仕事の責任を普段からしっかり果たし、周囲と協力的に働いている人であれば、有給休暇を取得することに関して誰も嫌な気はしないものです。自己中心的な働き方や休暇の取得の仕方をしている人ほど、有給休暇を取得した際に悪いウワサが流れるため注意しましょう。
4 有給休暇中にやってもらう業務の引き継ぎはしっかり行う
やむを得ない事情で急に有給休暇の取得が必要となった場合には、必ずその日にするべきだった仕事についてフォローの連絡を入れたり、引き継ぎをお願いするようにしましょう。そして、後日出社した際には、対応してくれた方々への感謝の言葉も忘れないようにしてください。
有給休暇を取得しやすくするには理由の内容よりも普段からの信頼関係が大切
有給休暇は労働者の権利であり、それを会社側が断ることは原則できません。そして、その休暇取得の理由を問うことも、理由によって休暇を承諾しないということもできないことになっています。そのため、法律上は理由の説明は一切不要で有給休暇は取得可能です。
しかし、それはあくまで法律上の話。社会人として周囲と連携して働いている以上、そういった周囲との信頼関係は大事にしたいものです。プライベートだからと言ってあまりにも理由を隠すのも良いことではありません。全てをあらわにする必要はありませんが、話せる範囲であれば理由を話した方が、有給休暇の取得も職場での人間関係もスムーズになるでしょう。
参考文献