敬語のようで敬語でない?「目を通す」の正しい言い方とは
職場で資料を読む際などに使われる「目を通す」という表現を、敬語だと思い込んで使っていませんか?「目を通す」という表現は、実は敬語のようで敬語ではありません。このように、自分では「使えてる!」と思っていても、全く敬語になっていない場合が多々あります。
ビジネスマンにとって欠かせないスキルともいえる敬語は、そんな間違いをそのまま放置していると、大事な場面で相手の方に失礼な言動をしてしまって、大恥をかく可能性もあります。
ここでは、そんな敬語っぽくて間違えやすい「目を通す」の正しい意味や使い方を、ビジネスシーンに合わせた例文を交えてご紹介。すでに、上司に向かって「この書類に目を通してもらえますか?!」と連発しちゃっているあなた、気づかないうちにタメ口を使ってしまっているかもしれません。
敬語じゃなかったの?勘違いしやすい「目を通す」の本当の意味
敬語のように使われがちな「目を通す」という言葉は、一見するとちゃんとした敬語みたいな感じなので、改まった場で使ってしまっている人は少なくありませんが、実際の意味を掘り下げていくと、敬語として使うには少々適さないことが分かってきます。
「目を通す」はかなりライトな表現
「目を通す」とは、「ざっと見る」「一通りサクサクっと見る」というように、どちらかと言うとざっくりとした軽めの表現だということを分かります。上司や目上の人に「目を通してください」とお願いするということは、「ササッと書類に目を通してください」という意味に当たるのです。
受け取る側からしたら、「早いとこ書類を早く見てくださいな」と言われているようにも感じてしまう人もいるので、自分では丁寧に言っているつもりでも、相手には乱暴な表現に受け取られて不快な思いをさせてしまうかもしれません。
「目を通す」がライトな表現なのは同義語を見れば分かること
「目を通す」は何となく丁寧な表現に違いないと勘違いされがちなのですが、同義語である「一覧する」「通覧する」等の見ると、敬語じゃないかも…と察しがつくはず…。どちらも「全体をさっと見る」という意味なので、やはり敬語として使うにはサッパリし過ぎていますよね。
また、これらの同義語に共通しているのが「見る」という動作。内容を理解するために読み込むのではなく、ただじーっと見るだけという意味なので、「目を通して」とお願いするということは、すなわち、中見は分からなくてもいいからとりあえず見てくれればいいという意味になってしまうのです。
これはNG!やりがちな「目を通す」の間違った使い方
「目を通す」という表現を使いたいがために、わざわざ敬語っぽくなるようにオプションをくっつけているという人も多いのではないでしょうか。ここで紹介するNG例ように、手の込んだ装飾をしてしまうと、かなり痛い敬語もどきになってしまうのでご注意ください。
NG例1「部長、こちらの書類に目を通して頂けますか?!」
確かに「頂けますか」によって、何となく敬語っぽくなってはいます。もちろん言われた側も「敬語を使っているんだな」と理解してくれるケースもありますが、「目を通す」を使っている以上パーフェクトな敬語表現にはならないのです。
特に、ビジネス敬語に声をかけてしまうと、聞き流されずに注意をされてしまうか、「敬語もろくに使えない」と悪い印象を持たれてしまうかもしれません。
NG例2「ただ今、お配りした資料にお目通しください」
会議の席などで取引先の方たちに資料を配る際、「お目通しください」と言いながら手渡す人も中にはいらっしゃいます。この場合、「目を通す」の前に「お」がついているので、とても丁寧な響きを放っていますが、やはりこちらもちゃんとした敬語ではありません。
あくまでも、「お目通しください」「目を通しておいてね」というような会話は、部下や後輩に使うのが適していると言えるでしょう。
NG例3「先日送って頂いた資料に、目を通させて頂きました」
こちらの例では「目を通す」を謙譲語として使っているつもりが、かなり失礼な言い回しになっている危険性が高い表現です。この場合、「もらった資料ザックリ見たよー」という表現をただ丁寧に言っているだけなので「なんだ、ちゃんと読んでないのか」と思われてしまうかもしれませんね。
自分を下げて相手を敬うはずが、偉そうな発言をしてしまっている一例なので、上司や取引先の方に使うのは絶対に避けたいものです。
知っておくべき「目を通す」の正しい敬語表現
意外と知らない「目を通す」の正しい敬語表現は、「目を通す」の原型を残したままでは敬語として成立しないことが分かりましたね。それでは、どのような表現を用いると、意味を変えずに丁寧な敬語表現にすることができるのでしょう?
次のような言葉を使った、敬語に変換した表現を参考にしてください。
敬語表現1「ご覧ください」
・「こちらの資料を一度ご覧くださいませ」
・「先日お送りしました書類は、ご覧いただけましたでしょうか」
・「では、先ほど配布しました資料をもう一度ご覧ください」
敬語表現2「ご一読ください」
・「まずはこちらの資料をご一読願います」
・「添付致しました資料をご一読頂けますと幸いです。よろしくお願い致します」
・「(※手紙やメールなどの文面で)ご一読くださいますようお願い申し上げます」
敬語表現3「お読みください」
・「本題に入ります前に、まずは資料の5ページ目をお読みください」
・「部長、明日の資料をこちらに置いておきますので、お手隙の際にお読み頂けますか」
その他の敬語表現
・「ご高覧頂けますと幸いです」
・「ご高覧頂きまして、ありがとうございます」
・「一度ご覧頂きたくメールを致しました」
ご高覧頂くという表現は、「ご覧いただく」よりも丁寧な敬語な言い回しで、上司や取引先の方などに資料や書類に目を通して欲しい際に使われる表現です。
ビジネス英会話で使える!「目を通す」の英語表現と会話例
日本語で「目を通す」の敬語変換を身に付けたら、次はグローバルなビジネスシーンで活かせる英語表現を覚えていきましょう。「目を通す」と表現する場合、すぐに「Look」という単語を思い浮かべることはできても、実際に外国の方を前にして「資料に目を通してください」と完璧に伝えることはできるでしょうか。ここでは、「目を通す」の英語変換とビジネスシーンで使われる会話例をご紹介します。
look through
「隅々まで見渡す」と直訳されるlook throughは、「~を一通り見る」「十分に詳しく調べる」という意味として使われます。
それでは、look throughの使い方について会話例で確認していきましょう。
「look through」を使ったビジネス会話例
A:Hi Tom, it’s been a long time!
やあ、トム!久しぶりだね!
B:Hey Terry, you look great! I’m sorry I haven’t replied to your e-mail yet!
やあ、たかし。元気そうだね。君のメールに返事を返してなかったね、申し訳無い。
A:Oh, don’t worry about it. If you like after this meeting, how about going out for a drink?
ああ、気にしないでよ。もし良ければミーティングの後に一杯どうだい?
B:Yes, I’d like to. But for now let’s look through these papers.
いいね!では、そろそろ資料に目を通しておこうか。
A:Oops, I almost forgot to tell you! Also have a look at the site explaining more about the project.
おっと、言い忘れるところだった。僕らのプロジェクトについて説明いているうちのホームページも見ておいてね。
run through
「~を走り抜ける」と直訳されるrun throughは、「ざっと読む」「急いで読む」という意味として使われます。
それでは、run throughの使い方について会話例でみていきましょう。
「run through」を使ったビジネス会話例
A:Hi Tim, How are things going here?
やあ、たかし。どんな調子だい?
B:Good morning Dave, everything is going good so far
ホワイトさん、おはようございます。今のところ順調にことが進んでいると思います。
A:Great! Have you already spoken to members of the ABC Company?
いいね。すでにABCカンパニーの面々をお迎えしたのかい?
B:I’m not sure, but I think that one of their members passed by the entrance
確かではないんですが…彼らの1人がこの入り口を通過したような。
A:Don’t be lazy. Run through the invitation list and let me know about Bill
君は本当に怠け者だな。招待客リストをすぐにチェックして、ABC社のBillさんがどちらにいらっしゃるか知らせてくれ。
「目を通す」の正しい敬語を使ってスマートなビジネス会話を目指そう
誰にでも、敬語ではないとは知らずに勘違いして使ってしまう言葉はありますが、社会人になると、自分とは立場の違う人たちと頻繁に会話する機会が増えるため、個人的に恥ずかしい思いをするだけでなく、会社の信用や評判にもかかわることから、特に注意していきたいものです。
目を通す」のような、敬語のようで敬語ではない表現があることを知って、正しく使うことができるようになるために、普段から敬語について学び、生きたビジネス会話を触れておく必要があります。