「くれる」の知っておくべき敬語への変換方法
「くれる」という言葉は、明らかに敬語ではないと分かるはずです。でも、それでは目上の人に対して「くれる」を使う必要がある場合は、どのように表現したらいいのでしょう?実は、「くれる」と似た意味の言葉に「あげる」や「もらう」があることから、自分では正しい敬語を使っているつもりでも、敬語に変換した時にぐちゃぐちゃになってしまう恐れがあるのです。
そのため、ここで紹介する「くれる」の例文を参考にして、どのような場合に敬語が使われるのかをしっかり知っておく必要があります。慣れてしまえば、「くれる」の敬語を上手に使いこなすことができるようになるはずです。
「くれる」を敬語で表現してみよう
「くれる」の敬語の使い方を知るためには、まずは「くれる」という動詞のことをきちんと理解する必要があることから、まずは、敬語の種類や「くれる」の正しい意味について知ることが大切です。
そもそも敬語とは?
敬語とは文字通り、相手に敬意を示すための言葉のことですが、その敬意の示し方として次のような3つの種類があります。「くれる」のようなちょっと難しい敬語表現を学ぶ前に、敬語の種類についてあらためて確認しておきましょう。
敬語の3つの種類
・尊敬語:相手に敬意を払うための動作や存在を高める言い方
・謙譲語:相手に敬意を払うための動作や存在を低める言い方
・丁寧語:相手に敬意を払うための上品な言い方
基本的に、尊敬語では「召し上がる」や「おっしゃる」のように、相手の動作や存在を高めるのに対して、謙譲語では「いただく」や「申し上げる」のように、自分の動作や存在を低めるために使われます。また、丁寧語には、「食べます」や「言います」のように、使う対象が限定されないという特徴があります。
「くれる」に謙譲語がない?知っておくべき授受動詞の敬語一覧
「くれる」のほかに「あげる」や「もらう」のように、物の受け渡しを行うことで所有権が変わることを表す動詞のことを授受動詞といいます。授受動詞は使い方を理解していないと、誤った敬語を使ってしまうことから注意が必要です。
それでは、まずは「くれる」「あげる」「もらう」の敬語の一覧を見ていきましょう。
授受動詞 | 尊敬語 | 謙譲語 | 丁寧語 |
---|---|---|---|
くれる | くださる | – | くれます |
あげる | 与えられる お与えになる |
さしあげる あげる |
与えます あげます |
もらう | もらわれる おもらいになる |
いただく 頂戴する |
もらいます |
この一覧を見ると、「あげる」と「もらう」には、尊敬語・謙譲語・丁寧語がそれぞれあるのに、「くれる」には尊敬語と丁寧語しかありません。なぜ、「くれる」には謙譲語がないのでしょう?
実は、次の例文にあるように、「くれる」は他人の動作を表す動詞のため、自分の動作を低める言い方をする謙譲語がないのです。それでは、私・A子・B男の三人の間でペンの受け渡しがあった場合の、それぞれの例文を見ていきましょう。
「くれる」の使い方の例文
1.A子が、私にペンをくれました(○)
2.私が、B男にペンをくれました(×)
3.A子が、B男にペンをくれました(×)
一つめの例文のように、「くれる」は相手が自分に対して与えた場合にのみ使われる動詞であることから、二つめの例文のように自分が与える場合や、三つめの例文のよう自分が関与しない場合は誤りとなるのです。
二つめの例文は「私が、B男にペンをあげた」、三つめの例文は「A子が、B男にペンをあげた」と表す必要があるため、正しくは次のように敬語で表します。
1.A子が、私にペンをくださった。
2.私が、B男にペンを差し上げた。
3.A子が、B男にペンをお与えになった。
「お与えになった」が不自然な場合は、「おもらいなる」や「もらわれた」を使うといいでしょう。
注意が必要な「くれる」の使い方
「くれる」には、物の受け渡しを行う場合の「くれる」のほかに、実は「犬にエサをくれる」や「目にもの見せてくれる」のように、相手を低めて卑しめるような使い方をする場合があります。このような言い方をする際は、もちろん相手に敬意を示す必要はないため、敬語では表現しないということを覚えておきましょう。
シチュエーション別の「くれる」の敬語を使った例文
「くれる」には謙譲語がないということが分かったところで、ここからは、「くれる」の尊敬語「くださる」を使った例文をいくつか見ていきましょう。「くれる」は相手の自分に対する行為に使われるため、一般的に次のような2つのシチュエーションで使われます。
相手が自分に物を与える「くれる」の例文
「主任が新しい資料をくれるそうです」の敬語表現
「主任が新しい資料をくださるそうです」
「A社の山田さんがFAXをくれました」の敬語表現
「A社の山田さんがFAXをくださりました」
「くれる」の尊敬語「くださる」の丁寧な表現として「ます」や「ました」が付く場合、文法的には「くださります」「くださりました」と変化しますが、最近は「くださいます」や「くださいました」という表現の方が一般的になりつつあるようです。
相手が自分に対して何らかの行為をする「くれる」の例文
自分に対して相手が何らかの行為をする場合、「相手が自分に○○してくれる」という表現のほかに「自分が相手に○○してもらう」と表すことができる場合は、次の例文にあるように2つの敬語で表現することが可能です。
「その本を取ってくれませんか」の敬語表現
・「その本を取ってくださいませんか」
・「その本を取っていただけませんか」
「いつも利用してくれて、ありがとうございます」の敬語表現
・「いつもご利用くださり、ありがとうございます」
・「いつもご利用いただき、ありがとうございます」
間違いやすい「くれる」「もらう」の敬語の使い方
「くれる」は「相手が自分に物や行為を与える」という意味なので、主となるのは相手側なのに対して、「もらう」は「自分が相手に物や行為を与えられる」という意味になることから、主となるのは自分側になります。
これらの動詞は何となく似ているので、誤った使い方をしてしまう恐れがあるため、次のような文章には注意が必要です。
- A:「庭の掃除をしてくださり、ありがとうございました」
- B:「庭の掃除をしていただき、ありがとうございました」
AとBの例文を普通の言い方で表すと次のようになります。
A:庭の掃除をしてくれた(頼んでもいないのに相手が厚意でしたこと)
B:庭の掃除をしてもらった(自分が相手に頼むことによってしたこと)
このように、「くださる」と「いただく」は状況によって使い方が異なるため、どのような場面なのかを理解した上で使い分ける必要があります。
そのため、例えば相手が厚意でサンプルを送ってくれた場合は、次のように判断されます。
○「先日はサンプルを送ってくださり、ありがとうございます」
×「先日はサンプルを送っていただき、ありがとうございます」
また、商品に不備があり交換のためにわざわざ来店してもらった場合、「ご来店いただき」と言うべきところを「ご来店くださり」と言ってしまうと失礼にあたるため、使い方にはくれぐれも注意が必要です。
「くれる」の敬語の表現に注意しよう
「くれる」を敬語で表現する場合、「もらう」や「あげる」のようなほかの授受動詞と何となく似ているので、混同しがちです。さらに、「くれる」には謙譲語がないことから、丁寧に言おうとして、何となくへりくだった言い方をしてしまっているかもしれません。
このように、「くれる」の敬語表現は一見すると簡単そうですが、細かなルールをしっかと理解して、正しく使うことを心がけましょう。