「恐れ入ります」は万能で便利なビジネス敬語
「恐れ入ります」は、相手に対して敬意を払った上で謙遜し、かつ、配慮を伝えることができることから、万能な言い回しです。
ビジネスの現場では、どのような場合でも常に正しい敬語が求められます。じっくり考えながら作ることができるメールの文章と違って、即判断が求められる会話では、「恐れ入りますが」と「申し訳ございませんが」の使い分けの間違いには十分に気を付けておきましょう。
電話やメールで使える「恐れ入ります」の基本的な使い方
実際に会話や文章で使える「恐れ入ります」の使い方の例文をご紹介。
相手に何かをしてもらう際の使い方
・「恐れ入りますが、○○をしていただけますでしょうか?」
・「恐れ入りますが、ご出席いただきますようお願い申し上げます」
・「恐れ入りますが、こちらの書類を確認していただけますか?」
相手に何かを尋ねる際の使い方
・「恐れ入りますが、お名前をうかがってもろしいでしょうか?」
・「恐れ入りますが、○○様はいらっしゃいますか?」
・「恐れ入りますが、○○様はお戻りになられたでしょうか?」
感謝の意を伝える際の使い方
・「ご足労いただき誠に恐れ入ります」
・「ご尽力下さいまして、誠に恐れ入ります」
・「わざわざご連絡していただきまして、恐れ入ります」
このような使い方をすることで、「ありがとうございます」や「すみませんが…」と言うよりも丁寧で柔らかく、相手に良いイメージで受け取ってもらえる言い回しになります。
また、「恐れ入ります」には、謙遜を表すために使われる場合があります。例えば、上司から「よく頑張ったな」と褒められた際に「恐れ入ります」と答えることで、「自分にはもったいないほどの評価をしていただいた」という謙遜と感謝の気持ちの両方を伝えることができます。
「恐れ入ります」の便利な類語4選
相手に対する感謝や遠慮の気持ちを表す際、「恐れ入ります」の他にも使える便利な言葉があります。同じ言葉ばかり使っているのも芸がないので、いくつかバリエーションを知っておくと、デキる大人に一歩近づくことができるはずです。ここでは、類語とその使い方を例文を交えて紹介します。
1-恐縮です
「恐れ入ります」は口語では問題なく使うことができる表現ですが、メールなどにおける硬い文では「恐縮です」という言葉を使う方が良いでしょう。「恐縮ですが、今後とも宜しくお願いいたします」のような使い方をすることで、先方に対する敬意を強調することができます。
さらに恐縮度がアップした表現に「恐縮至極」「至極恐縮」があり、これは大変今恐縮しているという様を強調するための言葉です。次のような、かなり硬め言い回しをする際に使うことができます。
- 「ご配慮を賜り、恐悦至極に存じます」
- 「至極、恐縮です」
2-お手数をお掛けします
「お手数をお掛けします」は「恐れ入ります」と同じように、相手に何かをしてもらう際に、手間をかけてしまったことに対して感謝や敬意を表す場合に使われます。
主な使い方としては次のようなものがあります。
- 「お手数をお掛けしますが、何卒宜しくお願いいたします」
- 「お手数をお掛けいたしまして大変恐縮です」
- 「この度は大変お手数をお掛けいたしました」
さらに、「お手数をお掛けして誠に申し訳ございません」のように、謝罪の場面でも使うことが言葉でもあります。
3-あいにくですが
「ああ憎らしい」が語源の「あいにく(生憎)」とは、相手の期待に添えない場合などに使われる言葉で、似た表現には「残念ながら」があります。主に「あいにくでございますが」のように口語で使われるのが特徴です。
主な使い方としては次のようなものがあります。
- 「あいにく○○は席を外しております」
- 「あいにくのお天気ですが~」
- 「あいにく本日は先約がございます」
- 「あいにくただいまは持ち合わせがございません」
また、例えばお客様が購入した商品が品切れだった場合、わざわざ店まで足を運んでもらったにもかかわらず、残念な思いをさせてしまったことに対して、残念な気持ちを表すような場面で使えることから、「あいにく品切れでございます」のように、接客の場面で多く使える言葉で、覚えておくと便利です。
4-痛み入ります
「恐れ入ります」とほぼ同じ用法でよく使われるのが「痛み入ります」という言葉です。「心が痛むほど感謝をしている」という場合に使われる言い方で、「恐れ入ります」と同じように謙遜ゆえの恐縮を意味しているため、相手への非礼や迷惑をかけたことへの謝罪の意味では使われません。
あくまでも感謝を伝える場合に使われることから、立場が上の人に対して使うことができるため、言い回しのバリエーションとして覚えておきたいところです。また、「恐れ入ります」よりもかしこまった言い回しのため、次のような改まった使い方に向いています。
- 「ご丁寧に対応していただき痛み入ります」
- 「お心遣い痛み入ります。」
- 「過分な評価をいただき誠に痛み入ります」
- 「ご迷惑をお掛けいたしました事誠に痛み入ります」
- 「ご忠告痛み入ります」
接客でありがちな「恐れ入ります」の間違いやすい言い回し
「恐れ入ります」は、相手への敬意と配慮を表しながらこちらからの依頼を提示できるため、一見するとビジネスメールなどで使える万能な言い回しに感じられますが、同じような場面で使われる「恐れ入ります」と「申し訳ございませんが」の二つの言葉の使い方を混同してしまうと、相手に失礼にあたることから注意が必要です。
「恐れ入りますが」は相手の行動に対して使われる言葉のため、自分の行動に非がある場合には使われません。そのため、自分の行動に非がある場合は、「恐れ入ります」ではなく「申し訳ございませんが」を使う必要があるのです。
それに対して、「申し訳ございませんが」は文字通り、相手に対して謝罪の気持ちを伝える際に使われる言葉のため、いくらへりくだった言い方をしたいからといって、自分の行動に非がない場合は、「申し訳ございませんが」はできるだけ使わない方がいいといえます。
次のような、「恐れ入ります」の使い方は間違っているので注意しましょう。
間違いやすい「恐れ入ります」の使い方
・「恐れ入りますが、もう少々お待ちください。」
・「恐れ入りますが、折り返しのご連絡でも宜しいでしょうか?」
・「恐れ入りますが、本日は予約を承ることができません」
これらの3つの使い方は、こちらの都合で相手に迷惑をかけてしまっていることから、「恐れ入りますが、」ではなく「申し訳ございませんが」という言葉を使いましょう。
また、お礼を述べる際に「恐れ入ります」を使う場合もありますが、感謝の意を伝えたい時には率直に「ありがとうございます」と言う方が好印象を持たれることも。丁寧にしようとするあまりに「恐れ入ります」を使う事で、返ってまどろっこしく取られてしまうなら、ストレートな気持ちを伝えた方が分かりやすい場合もあります。
「恐れ入ります」を英語で表現するとどうなる?
「恐れ入ります」を英語で表現したい場合は、どのような表現を使えばいいのでしょうか。そのような場合、基本的に「Sorry」や「I’m sorry」などを使いますが、時と場合によっては言い換えることもできます。以下にいくつか例文をご紹介します。
・「恐れ入りますが、彼女は家におりません」
・「I’m sorry, but she isn’t home right now」
・「お忙しいところ恐れ入ります」
・「I’m sorry for troubling you when you are busy」
・「恐れ入りますが、彼は他の電話に出ています」
・「I’m sorry, but he is on another line」
・「恐れ入りますが、ドアを開けていただけますか?」
・「Would you open the door please?」
また、次のような表現は相手への感謝の意を表すことから、「恐れ入ります」と同義になります。
・「お時間を取ってくださりありがとうございます」
・「Thank you for your time」
「恐れ入ります」の意味とは?
「恐れ入ります」という言葉にはどのような意味があるのでしょう。
元々は、相手に対して「自分は到底あなたには敵いません」という相手への敬意が含まれている言葉で、「恐れ入りますが、○○していただけませんでしょうか」のように、一般的に相手の行動に対して使われます。何かをしてもらうことによって、相手に面倒をかけることに対する感謝やへりくだった気持ちを表現しているのです。
ただし、「恐れ入ります」は、相手に何か頼みごとをする際に使われる言葉とはいえ、とりたてて謝る必要がない場合に使われるのが特徴です。自分の落ち度に対する非を表しているのではなく、こちらから依頼する時に、相手を不快にさせずに聞いてもらうために使う言葉なので、過度にへりくだる必要はないという事を覚えておきたいところです。
このような、相手にお願い事などをする際にビジネスシーンで使われる言葉のことを「クッション言葉」といいます。クッション言葉は、言葉の初めに添えることでコミュニケーションを円滑にするための言葉で、クッション言葉を取り入れることにより、会話全体が柔らかい印象になり、話しやすい雰囲気を作ることができるのです。