「忍びない」の意味
「忍びない」の意味は「耐えられない」「我慢できない」「心苦しい」というもの。肉体的にというより、精神的に耐えられないという意味合いが強いです。
用法としては基本的に「~に忍びない」「~には忍びない」という形で使います。「忍ぶ」という言葉は「耐え忍ぶ」という言葉があるように「堪える」という意味があります。つまり「忍びない」は堪えることができないような深刻な事情がある時に使う言葉です。
「忍びない」でよくある誤用
「忍びない」を「申し訳ない」と同じニュアンスで考えている方が多いですが、基本的に「申し訳ない」が使われる場合は謝罪であり、「忍びない」の持っている「耐え難い心苦しさ」とは違います。本来、「悪いね」という意味で「忍びないね」という使い方はありません。
「申し訳ない」の意味で「大変忍びないのですが…」と使う場合には、これから起こることに関して使うのが正しい使い方です。謝罪する時に「大変申し訳ありませんでした」とする場合は、「既に相手に申し訳ないことが起こっている」という時系列上の違いもあるので気をつけてください。
また、「忍ぶ」という言葉には「隠れる」という意味もあります。この場合、否定形は「忍ばない」ですので、「忍びない」と混同しないように注意しましょう。なお、「忍ばない」には「心苦しい」「たえられない」ニュアンスはありません。
「忍びない」を使うシーンと例文
辞書的な意味や類義語から、「忍びない」を使うシーンというのは基本的に「悲しい」「辛い」出来事があった場合であり、それに対する自分の立場を述べるときであることがわかります。
「忍びない」の正しい使い方をよくある使用シーンや例文でも確認してみましょう。
心苦しいことがある時の「忍びない」の使い方
- 「これは捨てるには忍びない」
長年使っていたものには情が宿るもので、捨てる必要があるとしても中々気持ちが踏み切れないという心境を表しています。勿体ない、罪悪感があるという場合に使われます。
悲惨な出来事を耳にした時の「忍びない」の使い方
- 「この事件に関するニュースは遺族のことを思うと聞くに忍びない」
「聞くに忍びない」はあまりにも悲惨なニュースに対する反応として使われる表現で、「可哀想だ」「たえられない」「自分も心苦しくなる」といった様々なニュアンスが一言にまとめられます。こうしたニュアンスがあることから、「忍びない」は法事などでもよく使われる表現です。
言いにくいことを伝える時の「忍びない」の使い方
- 「語るに忍びないのですが、実はA君が今家庭で問題を抱えているようでして」
何か大変な事情や出来事があり、それを伝えないといけない場面でも「忍びない」が使われます。「口にするのも辛い」「自分の口から告げることをはばかられる」ような内容であることを示唆します。自分や自分の組織のことであれば、「非常に恥ずかしい」という内容の場合もあります。
依頼をするときの「忍びない」の使い方
- 「こんな形でのご依頼となり大変忍びないのですが、お願いできないでしょうか?」
目上の相手や取引先などに対し、何か依頼をする際にも使われます。ビジネスシーンで多い使われ方で、「申し訳ない」と同じようなニュアンスです。この場合の「申し訳ない」は「心苦しい」の意であり、謝罪ではないことに注意してください。「忍びない」は謝罪表現としては使えません。
断る・破棄するときの「忍びない」の使い方
- 「せっかく出してくれたアイデアを使わないのは忍びないものがあるが、予算制約上仕方ない」
頑張って何かを行ってもらった場合には、それを断ったり破棄するのは心苦しいものです。その心苦しさにたえて何かを決定しなくてはならない時にも「忍びない」が使われることがあります。
「忍びない」の英語表現・敬語表現
「忍びない」の敬語表現についても確認しておきましょう。また、「忍びない」は日本語らしい表現ではありますが、どのように英語では表現するのでしょうか。合わせてチェックしておきましょう。
「忍びない」の敬語表現
「忍びない」には敬語表現に該当するものはなく、「忍びない」という言葉自体がへりくだった表現に近いニュアンスとなりますので、そのまま使っても問題はありません。シーンによっては表現を変えた方が敬語として聞こえることも多いので、ケースバイケースで使い分けると良いでしょう。
「~していただくのは大変忍びないのですが」というように、 一般的には敬語表現と一緒に使われていることが多く、自然と敬語表現として受け入れられています。言い換えて「恐縮ですが」「恐れ入りますが」のようにするとより敬語らしく聞こえますが、シーンによっては別の形の言い換えが必要になることに注意してください。
「忍びない」の英語表現
「忍びない」に直接該当する英語表現はありません。「耐えられない」というような意味がしっかり伝わる表現であれば、ケースに合わせて用いれば問題ありません。
- "I could not bear to see it."
(見るに忍びない)
- "I don’t want to ask too much, but I would be grateful if you would consider my request."
(お願いするのは忍びないのですが、ご検討のほど宜しくお願いします)
二番目の例では「忍びない」が「(本当はあまり)気が進まないが」という形で表現されており、複雑な事情があることがうかがえます。
「忍びない」の類義語とニュアンス
「忍びない」と似たような意味を持つ言葉を確認し、ニュアンスの違いについても触れておきましょう。
目を覆う
悲しい事件などがあった際には「目を覆わずにはいられない」と言いますが、これは行動に焦点を当てた表現となり、これを心情面に焦点を当てたものが「忍びない」と言えます。つまり「見ることができないほどつらく悲しい」ということを意味します。「見るに忍びない」という形で心情面のつらさから、見ることができないというニュアンスになります。
耳を覆う
「目を覆う」と同様になりますが、その内容があまりにも悲しい場合にはそれ以上聞くのが辛くなって聞きたくないと思うものです。そういった場合に「耳を覆いたくなる」と言いますが、同様に「聞くに忍びない」という形で表現します。やはり心情的な部分を強調するニュアンスです。
目も当てられない
「目も当てられない」はとても残念なことがあったとき、とてもひどくて見ていられない状況で用いる表現です。「見るに忍びない」という言葉と似たニュアンスになります。
お気の毒に
「お気の毒に」は自分のことではなく、他人の残念なことに対して使う表現です。「忍びない」と直接意味が同じになるわけではありませんが、「お気の毒に」が相手の辛い心情を察していたわる表現であるのに対し、「忍びない」は相手の辛い状況に同情して自分も辛い思いを感じていることを示します。
「可哀想に」「不憫だ」「哀れだ」といった表現も、同様に相手の立場への同情を示すという点では、使い方次第では類義語となります。