「労をねぎらう」の意味や正しい使い方を知ろう
社員旅行や忘年会などの社内行事における挨拶では、「日頃の労をねぎらい」などといった表現の挨拶が行われることもあります。特に年末や年度末は一年の終わりになりますから、改めて社員の日頃の頑張りをねぎらうことが増えます。
この「労をねぎらう」という表現を何かの際に正しく使うことができると、周囲にもしっかりした人間だという印象を与えることができます。「労をねぎらう」の正しい意味や使い方、例文について理解し、いざというときスマートに使いこなせるようにしておきましょう。
「労をねぎらう」の意味
「労をねぎらう」というのはひとつの定型表現でもあり、「労」や「ねぎらう」が他の形で使われることはあまり多くありません。
「労をねぎらう」の意味は苦労や尽力、功績などをいたわることです。「労」は文字通り「苦労」「労働」の労で、心身を使って何かを行うことを意味します。そしてねぎらうは「感謝していたわる」という意味をもった言葉です。
「労をねぎらう」はその「仕事や功績、努力などに感謝していたわる」という意味になりますが、ただ感謝するというよりは、いたわりの気持ちが強く出る表現です。少し表現は軽くなりますが、口語で言うなら「頑張ったね」「よくやったね」というようなニュアンスです。
「労をねぎらう」は重複表現?
労をねぎらうの「ねぎらう」は、漢字では「労う」と書くことができます。そのため労をねぎらうは「頭痛が痛い」のような重複表現ではないかと考える方もいます。
しかし、正確にはこの「労」と「労う」は持っている意味が違っているため、問題のない表現とされています。重複表現というのは同じ意味を持つ言葉を重ねることを言いますから、「労をねぎらう」は「歌を歌う」のようなものだという認識を持つとよいでしょう。
「労をねぎらう」のは相手によっては失礼にあたることも
「労をねぎらう」という言葉を使う際に注意したいポイントがあります。それは、「ねぎらう」という表現は、基本的に同等の立場もしくは自分より下の人に向けて使う表現であるということです。
上司などの目上の立場の方に対し「労をねぎらう」という表現を用いるのは、多くの人が陳列する場でのスピーチを除けばふさわしくありません。「課長の労を我々部下がねぎらってあげよう」と言うのは冗談としては良いですが、面と向かって言うと失礼となる可能性があるため注意が必要です。
目上の人の労をねぎらうなら「お疲れ様です」が無難
もしも上司にねぎらいの言葉をかけたい場合は、他の表現に言い換えた方が安心です。
少しねぎらいの気持ちが弱く聞こえるため抵抗がある方も多いでしょうが、最も無難な表現を挙げるならば「お疲れ様です(でした)」が適当です。「ご苦労様です」は、目上の方に使うと失礼にあたる表現ですので避けましょう。
また、ねぎらいの言葉には「お世話様です」というものもありますが、これは挨拶やお礼と共にねぎらいをかける言葉で、少しフランクに聞こえる表現です。頻繁に顔を合わせていて関係が近しい相手でなければ避けるのがベストでしょう。
「労をねぎらう」を使うシーン・例文
それでは、「労をねぎらう」を使った例文を、「文章にした時」、「挨拶をした時」の二つのシーンで見てみましょう。
文章で
- 「社内の運動会で一位となったメンバーの労をねぎらうことにした」
- 「日々の部下たちの労をねぎらい、食事に誘うことにする」
- 「父の労をねぎらって、久しぶりに晩酌を出してあげた」
「労をねぎらう」という表現は固めの表現になるため、話し言葉よりは書き言葉で使われることが多いです。小説などの平文でもよく使われています。「労をねぎらう」という表現を選ぶところに、対象の努力へのいたわりを感じることができます。
挨拶で
- 「今日から社員旅行です。日々の諸君の労をねぎらうには不十分とは思いますが、ぜひ楽しんでください」
- 「新商品の開発に従事してくれたメンバーの労をねぎらいまして、この場を設けさせていただきました」
- 「今年も順風満帆とはいかなかったものの、皆さんのおかげで新しい年を迎えられることになりました。今日は一年の労をねぎらう忘年会としましょう」
「労をねぎらう」は公的な場での表現としても適しています。感謝の思いと共にその努力をいたわり、称賛することを周囲に伝えることができます。この場合は目上の人に対しても使って構いません。
実際のねぎらいは他の表現を使うことが多い
話し言葉として「労をねぎらう」という表現を使うことはあまりありませんが、「労をねぎらう」場面はたくさんあるもの。どのような表現がふさわしいのかは相手によって異なります。シーン別に「労をねぎらう」に代わる言い換え表現を確認してみましょう。
感謝の表現
- 「毎日のお掃除、いつもありがとうございます」
- 「Aさんが必要なデータを送ってくれるので、とても助かっています」
- 「足元の悪い中、ご足労いただき感謝します」
「ありがとうございます」と同じような意味の言葉であれば、労をねぎらうことになります。ただし、ただ感謝の表現をするというよりも、その感謝の対象となる「労」の部分をしっかり表現することでただの感謝ではなくねぎらいの気持ちを表すことができます。
努力をねぎらう
- 「毎日遅くまでお疲れ様です」
- 「本当に今回のプロジェクトでは頑張ったな」
- 「君がいなかったらどうなっていたか」
- 「もう少しだったが惜しかった」
努力や労苦をねぎらう表現は様々ですが、その「労」に対する称賛や認める表現であればねぎらいの気持ちも含まれているのでOKです。失敗した部下に対し「残念だったけど、次につながったはず」と声をかけるのも労をねぎらうことになります。
驚く
- 「あの資料は本当に素晴らしかった」
- 「さすが社長が太鼓判を押しただけのことはある」
- 「感動した!」
- 「すごい!」
仕事の労をねぎらう表現としては、その成果に対して驚きの表現をすることが労をねぎらうことにつながることも多いです。より丁寧に表現したい場合は、それに加えて感謝やいたわりの表現を追加するようにするとよいでしょう。
退職者などの労をねぎらう
- 「長い間のお勤め、本当にお疲れ様でした。健康にお気をつけて、これからは仕事に縛られずお過ごしください」
- 「長い間お疲れ様でした。本当にいろいろとお世話になりました」
会社に貢献した人や退職者などの労をねぎらうシーンもありますが、そういった場合も「あなたの労をねぎらいます」とは言いません。通常は他の表現を使ってその働きに感謝やねぎらいの気持ちを表現します。
「労をねぎらう」の英語表現は?
「労をねぎらう」を英語で表現するとどのような形となるのでしょうか。
「労」や「ねぎらう」に相当する単語を選ぶのは難しいですが、労については努力や仕事というような意味になりますので「work」「service」などが良いでしょう。「ねぎらう」は感謝を示す「thank」や報酬や報いることを意味する「reward」などが近い意味を持ちます。
- "Let’s reward her for great work"
(彼女の偉大な功績をねぎらおう)
- “I want to reward him for his services”
(彼の仕事をねぎらいたい)
日本語らしい奥ゆかしい表現ですので英語にするのは難しいですが、シーンによっては単純に「Great!」などと言っても構いません。
「労をねぎらう」は表現そのものよりも気持ちが大事
「労をねぎらう」という表現は少々固めの表現となりますので、現代では敬遠されることも少なくありませんが、ビジネスの中では様々な形で労をねぎらう場面が出てきます。「労をねぎらってあげよう」というような表現をしないとしても、いつも頑張った人や貢献した人にはねぎらいの気持ちをもって接したいものです。
様々な表現によって労をねぎらう気持ちは表現することができますから、あまり表現には縛られず、その気持ちをストレートに表現するのが一番です。失敗を恐れて何も言わないのは、ねぎらいの気持ちが伝わらず、誰かのモチベーションを下げることにもなりかねません。表現の上手い下手ではなくまず気持ちを伝えることを何より大事にしましょう。