多用する「見てください」から敬語を学ぶ
ビジネスの場では敬語が必要不可欠ですが、誰でも失敗はするものと言ってよいほど、完璧に敬語を扱うのは誰にとっても難しいものです。
その失敗を効率よく減らすには、多用する言葉について完全にマスターするのが一番です。ビジネスシーンでは資料やメールなど、多くのものを関係者に「見てください」と依頼する場面がありますが、今回はこの「見てください」の敬語表現について詳しくまとめました。ぜひ表現だけでなく考え方にも注目してください。
知っておきたい敬語の種類
本題に入る前に、簡単に敬語表現について復習します。
敬語には「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の三つの表現があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
尊敬語
相手を高めることで尊敬の意を示す表現です。
例:「見てください」→「ご覧ください」
謙譲語
自分を低めることで尊敬の意を示す表現です。自分の行動に対して使います。
例:「見ます」→「拝見します」
丁寧語
「です」「ます」などの丁寧な表現。
例:「見る」→「見ます」
ビジネスシーンでは、よほどのことがない限りは最低ラインが丁寧語で、状況に応じて尊敬語や謙譲語を利用します。
丁寧語はいわばマナーであり、自分や相手を高めたり低めたりという意味合いはほとんどありません。ビジネスマナーとして、同僚や後輩との会話だとしても意識するべきです。
そして、上司や取引先などに対しては積極的に尊敬語や謙譲語を使い、丁寧語ばかりにならないように気をつける必要があります。
「見てください」は敬語にどう変換される?
「見てください」という言葉は状況によって意味が様々に変化します。そのため、臨機応変にその場に合わせた敬語表現に変換する必要があります。いくつか例文を見てみましょう。
「見る」=「見る」の意味の場合
例:「皆さん、あれを見てください」
→ 「皆さま、あちらをご覧ください」
この例では「見る」は文字通りの「見る」ですので、尊敬語の「ご覧になる」を使っています。尊敬語表現では、「あれ」「これ」などの指示語は「あちら」「こちら」などの婉曲表現になることが多いことも押さえておきます。
「見る」=「読む」の意味の場合
例:「詳細についてはこの資料を見てください」
→ 「詳細につきましては、こちらの資料をご参照ください」
この例では「見る」は文字通りの「見る」ではなく、「読む」の意になっています。
この場合は、「ご覧ください」「ご覧になってください」でも良いですが、「ご参照ください」「お読みください」などいろいろなパターンが利用可能です。資料を読んでもらって参考にしてほしいという意を表現するために、ここでは「参照する」を丁寧語表現にしています。
「見る」=「確認する」の意味の場合
例:「部長、この資料に間違いがないか見てください」
→ 「部長、こちらの資料に間違いがないかご確認いただけますか?」
この例では「見る」は「確認する」の意になっています。
この場合は、「この資料に間違いがないかご覧ください」ではおかしくなりますので、はっきりと確認を依頼する旨がわかるように表現します。「~いただく」という表現は頻繁に使いますので覚えておくと便利です。
上司に対する「見てください」の敬語
上司とのやり取りは、社会人として非常に大事であり、そして頻度も多いものです。このやり取りがスムーズにできることは社会人として大事なことですが、敬語表現もさることながら、注意したいのが「何を求めているのか明確にすること」です。
特に直接の上司が相手の場合は、仕事における報告・連絡・相談が増えます。上司は部下よりも作業量や処理するべき事務仕事が多いため、余計な時間を取らないように気遣うべきです。敬語表現にこだわりすぎて、要件がわかりにくくならないように気を付けましょう。
良くない例
先ほど訪問して参りました●●社でございますが、先日先方がおっしゃられていたように私の見積りに不備がございまして、再度提案することとなりました。つきましては新しく見積書を作成いたしましたので、ご覧いただけますでしょうか?
こちらの例では、敬語表現をできるだけ盛り込んだ丁寧な依頼となっていますが、敬語が過ぎると冗長となり、肝心の内容がぼやけてしまうことがあります。これでは、見積書を見るだけで良いのか、チェックやアドバイスが必要なのかわかりません。
良い例
先ほど訪問した●●社ですが、先日先方がおっしゃられていたように私の見積りに不備があり、再度提案することとなりました。そこで新しい見積書を作りましたので、ご確認をお願いいただけますか?
後者は丁寧語で済ませても失礼のない部分は丁寧語で済ませ、要件についても「ご確認を」と確認を明確に要求しています。文字数も多少減り、上司の時間の節約にもなります。
上司と取引先が同席している際の「見てください」の敬語
もうひとつ注意が必要なのが、上司と同行して取引先など外部の人に会うケースです。
良くない例
これより、●●部長より本件についてご説明をいただきます。
こういった上司と取引先の両方がいるケースでの敬語表現は、新人の頃にありがちな失敗です。緊張するとつい出てしまいますから、イメージトレーニングをしっかりしておくと有効です。
良い例
これより、部長の●●より本件につきましてご説明をさせていただきます。
この場合、上司と言えども「身内」ですので尊敬語は使いません。相手を立てるための謙譲語や丁寧語の表現にとどめます。
メールや手紙などの文章における「見てください」の敬語変換
メールや手紙などにおける「見てください」も、基本的には上記と同じです。ただ、上司や取引先などに資料を送ったりする際には、次のような表現もよく使われます。
例:「ファイルを添付したので見てください」
→「ファイルを添付いたしましたので、ご査収ください」
「査収する」は「受け取る」というような意味で使われる言葉です。何か読んでほしい資料などの場合は「ご一読ください」という表現も使えます。
また、文章においては、敬語表現において「頂く」「下さい」「致します」などの漢字変換は基本的にしません。漢字変換をしても意味は通るのですが、文面が固く、強い印象の表現になってしまいますので使う場面や相手には気を付けてください。
「見てください」の英語変換はパターンを覚えておくと便利
グローバルな企業であれば、社内外で英語を使ったやり取りも多く行われます。英語には尊敬語にあたる表現はありませんが、丁寧な表現はありますので、そういった表現をいくつか覚えておくと便利です。
例:「チェックをお願いします」
→1. Could you check this please?
→2. Do you mind checking this?
→3. I would be grateful if you could check this
最初の例は、丁寧に伺う「Could you~」の文型です。pleaseはついているとより丁寧です。婉曲表現(過去形を使用する)を使うことで丁寧な表現になります。
二つ目の例では、「Do you mind ~ing?」の定型文です。単語からも察することができますが、相手を気遣いながら訪ねる内容となりますので、ビジネスマナー上も失礼がなく使いやすい表現です。
三つめは仮定法を使った婉曲表現で非常に丁寧な言い方になります。日本語のニュアンスとしては「もしよろしければチェックしていただけないでしょうか」というような表現です。
「見てください」の敬語で注意したい助動詞「れる」「られる」の使い方
今回は「見てください」という言葉について説明していますが、注意してほしいのが「れる」「られる」という助動詞を使った敬語表現です。
助動詞の「れる」「られる」をつけるだけで簡単に敬語表現になるため、非常に便利に思える言葉ですが、間違った使い方もよく見られ、時にはコミュニケーションミスの原因になりますので注意してください。
「社長、こちらの資料を見られましたか?」というような表現は、完全な間違いではありません。「れる」「られる」には他にも「可能」「受身」などの使い方があるため、この場合なら「見ることができたのかを問う」内容にも受け取ることもできます。不適切な敬語の使い方は誤解を招く恐れもありますので、避けられる範囲ではなるべく「れる」「られる」に頼らないよう注意した方が確実です。
他にも「言う」を「言われる」と表現したり「来る」を「来られる」と表現するのも同様です。それぞれ「おっしゃる」「いらっしゃる」などの表現が適当で誤解がありません。
「見てください」の敬語はシーンに合わせて使おう
「見てください」はビジネスシーンで頻出する言葉ですが、これをシーンに合わせて上手に敬語表現に変換することができれば、社会人として言葉のミスも少なくなります。
ビジネスの場では、取引先や目上の人を立てるのがマナーです。状況や人間関係を正しく判断して敬語表現を使い分けることが大事です。ただし、敬語にすることを意識しすぎて、肝心のコミュニケーションに食い違いが起こったり、相手の時間を奪わないように気遣う必要があることを忘れないでください。
「見てください」という言葉ひとつを掘り下げてみても、敬語の根底に流れる考えや法則を知ることができます。単純な表現を暗記するだけでなく、考え方や法則についてもぜひ考えてみてください。そうした積み重ねが敬語の応用力につながります。