「おざなり」と「なおざり」の違い
普段の会話の中ではあまり使う機会のない言葉であっても、ビジネスにおける会話では使う必要があったり、書類や日報で使ったりする言葉があります。しかしそういった少々堅苦しいイメージのある言葉は普段使わないだけに使い方を誤りやすく、ちゃんと理解しないまま使うとふとした拍子にボロが出てしまう事もあり得ます。
日常的な会話にそうそう使われない言葉の1つに「おざなり」と「なおざり」があります。この2つの言葉は響きも意味も似ているため、混同して使っている方が少なくありません。「おざなり」と「なおざり」の意味の違いや正しい使い方を知り、語彙力のあるビジネスマンを目指しましょう。
「おざなり」の意味と使い方
「おざなり」という言葉を正しく使うには、意味をしっかり押さえなくてはいけません。言葉の意味を覚える際は語源から知ると、使い間違いをしにくくなります。この項では「おざなり」の意味、語源、使い方の例文を紹介します。
「おざなり」の意味と語源
おざなりは「その場限りの間に合わせ」や、そこから派生して「いい加減」という意味があります。漢字で書くと「御座成り」で、元々は芸者などのお客様の前で芸を披露することを生業にしていた人たちの間で使われていた隠語という一説があり、江戸時代に出来た言葉といわれいます。
江戸時代において、行商のような羽振りの良いお金持ちは料亭や茶屋といった飲食をする場で宴を開く際に、芸者や太鼓持ちといった職業の者を呼んで華やかに場を盛り上げてもらうことが一般的でした。その際、呼ばれた芸者たちがお客の金払いの良さや好き嫌いの程度によって、仕事への力の入れ具合や接客の態度に差をつけていました。
お座敷お座敷によって、金払いの良い客には次にまた呼んでもらえるよう力を入れたり、気に入らないお客の場合には力を抜いて適当に仕事したりしていました。つまり「お座敷なり」という言葉がつづまって「おざなり」という隠語となり、そのまま今日に残ったというわけです。
「おざなり」の例文
「おざなり」は行動がいい加減なものであったとしても、とりあえずは問題・仕事に取りかかったという事実がありますので、初めから何も活動していない訳ではなく「何かしらの理由があったため、適当な処理となってしまった」というケースで使います。
- 会社の上司から資料提出を命じられたが、言い方があまりにも横柄で腹立たしかったため、おざなりな資料を作成し提出した。
→資料は作成しているが、雑にまとめられたものを提出している。
- 非のある相手からおざなりな謝罪をされて、かえって気分が悪くなった。
→相手は謝罪しているが、誠意ある態度が見られない。
- 部下に仕事のレクチャーをしなければならなかったが、部下に緊張感がなく真面目に受ける態度ではなかったため、おざなりになってしまった。
→レクチャーはしているが、いい加減なレクチャーを不真面目な部下にしている。
「なおざり」の意味と使い方
「おざなり」と言葉の響きや意味が似ている「なおざり」ですが、言葉が誕生した時代も背景も違うため、2つの言葉には明確な違いがあります。
「なおざり」の意味と語源
なおざりの意味は「注意を払わない」「おろそか」です。「いい加減」という意味もあるので、おざなりと近い意味を持つ言葉ではありますが、なおざりのほうは手を付けずに放っておく意味合いが強くなります。その点が、行動を起こしている「おざなり」とは違います。
なおざりは平安時代に使われていた「特に何もしない、以前のままの状態が続く」という意味を持つ「なお(直、猶)」に、「その場を離れる」という意味がある「去り」という言葉が合わさってできた言葉といわれています。つまり「特に何にも手を付けずにその場を離れる」というのが、なおざりという言葉の概要なのです。
現在「等閑(なおざり)」という感じが使われているのは、似た意味のあった漢字を充てているだけです。
「なおざり」の例文
なおざりはおざなりとは違い、ほとんど何も行動に移さずそのままほっておくことを意味します。つまり、問題や仕事に対するアクションもなく、物事は何もなされません。紹介する例文から微妙なニュアンスが分かるでしょう。
- 勉強をなおざりにして遊び惚けた。
→ほとんど勉強をしないで遊んでいた。
- 非のある相手からなおざりな対応をされて、気分が悪くなった。
→相手から謝罪がないため、気分が悪くなっている。
- 部下に頼んだ仕事がなおざりにされていた。
→部下は頼まれた仕事をしていなかった。
「おざなり」と「なおざり」の使い分け方とは
「おざなり」と「なおざり」は意味も響きも良く似ているため、1度意味を知ったからといってそう簡単に使い分けられる言葉ではありません。しかし語源を思い出せれば、あまり悩まずにスムーズに使い分けられますし、言い間違えてもすぐに訂正出来ます。
おざなりは「お座敷で披露する芸を手抜きする」ことが語源となっている言葉ですので、何かしらの行動・仕事はしている訳です。「おざなり」は元々「お座敷なり」だったということと併せて覚えておけば、「やるにはやったが、その場限りの間に合わせだった」という意味が頭に浮かぶでしょう。
なおざりは「何もせずにそのまま放っておく」という意味ですので、ポイントは「ざり」つまり去る・スルーするという部分にあります。なおざりの「ざり」が去ることだと思い出せれば、何もせずその場を去ったという意味が分かるため、とっさに使おうと思った時も正しく使えるでしょう。
「おざなり・なおざり」それぞれの同義語
「おざなり」と「なおざり」は違う意味があるので、それぞれに同義語や類義語が違ってきます。細かな違いが分かるビジネスマンになるためにも、おざなりとなおざりの同義語・類義語についてご紹介します。
おざなりの意味は「仕事はするが、いい加減でその場限りのものであること」であることを踏まえ、同義語をあげると「その場しのぎ」「適当」「いい加減」「不誠実」「雑」「ずさん」「ぞんざいな」「形だけ」などがあります。
なおざりは「基本的には何の行動もせず、やり過ごすこと」という意味となりますので、同義語は「ないがしろ」「受け流す」「無視する」「ないがしろにする」などがあげられます。
「おざなり」と「なおざり」はちゃんと分けて使いましょう
普段、家族や友人との会話には出てこない言葉であっても、ビジネスの場や文章の中では使われる言葉があります。もちろん、小難しい言葉を使わなかったからといって、ビジネス上の会話や情報交換が出来ない訳ではありません。しかし、目上の方と話す際の語彙力の差はビジネスマンとしての信用の差に繋がってきます。
正しく使うと一目置かれる言葉は多く存在しますが、「おざなり」「なおざり」の使い分けがキッチリ出来るか否かも語彙力の差を示す言葉の1つです。この2つの言葉は響きも似ていますし、意味合い的にも似たような意味があるため、混同してしまっている人も少なくありません。
逆にビジネスの場において「おざなり」と「なおざり」の違いを知っていて、しっかり使い分けができるという事、よく勉強をしているビジネスマンとして信用を得るきっかけとなることもあります。「おざなり」と「なおざり」の違いや使い分けを習得し、一段上のビジネスマンを目指しましょう。