「尽力」という言葉…正しく使えていますか?
ビジネス上のやり取りでよく出てくる言葉に「尽力」という言葉があります。
死語上のお客様や上司に対してなど、社会人であれば一度はこの言葉を使ったことがあるでしょう。ただ、なんとなく使い方は分かっていても、言葉としての本来の意味や正しい用法での使い方を理解できていないという方も多いのではないでしょうか。
尽力の意味と正しい使い方、よくある誤用表現やフレーズのほか、似た意味を持つ類語との使い分けのポイントまでご説明します。
「尽力」の意味は?
尽力は「じんりょく」と読み、「努力する」「あるひとつのことを成し遂げるため、力を尽くす」といった意味があります。
「尽」という言葉には「ことごとく」や「全て出し切る」という意味がありますので、本来の意味としては「全力を尽くす」というニュアンスで使われる言葉です。
ただ、実際に「尽力」という言葉が使われる際には、必ずしも「全力でやりきる」という意味で使われていないこともあります。特にビジネス上のやり取りでは、全力を尽くすというよりは「できる限り努力します」「継続して取り組みます」といった意図で用いられることの方が多くなります。
「尽力」の正しい使い方
「尽力」の使い方としては、大きく分けて自分に対して使う場合と、相手に対して使う場合があります。具体的な言い回しやフレーズは例文を参考にしてみてください。
自分に対して使う場合
自分に対して使う場合は「ご尽力」ではなく「尽力」になります。
相手に対して、「自分が力を出し切る、努力する」ということを伝えるために用いられます。例文を見ると、自らの決意表明を伝えるニュアンスが感じられます。
- 御社のますますの発展のため、これからも尽力させていただきます。
- 誠心誠意、尽力していく所存でございます。
相手に対して使う場合
「尽力」は、相手からしてもらったことに対する感謝の気持ちを表す時にも便利な言葉です。相手に対して使う場合は手の行為を高めるために用いるので「ご尽力」に直す必要があります。
- 今回の件、まさしく御社のご尽力の賜物でございます。
- この度は、○○の件について御社よりご尽力いただき感謝申し上げます。
取引先の会社とのやりとりの中で、物事がうまく運ぶように動いてくれたことに対する感謝の気持ちを伝えていることがわかります。
また、相手がこれまでにしてきた取り組みや成果を客観的に讃える意味で使われることもあります。以下のような言い回しを、セレモニーなどで出席者の功績を紹介する時に使われるのを聞いたことがある方も多いでしょう。
- ××様は、これまで営業部門の責任者としてご尽力され、数々の実績を残されました。
「尽力」は目上の人に使ってもいいの?
「尽力」には「一生懸命努力する」という意味がありますので、目上の人とのやりとりにおいて使っても失礼にはあたりません。むしろ、自分の決意を示すという意味では積極的に使うべき表現でしょう。社内の目上の人はもちろん、取引先の担当に対して使っても問題ありません。
- 今回の件、成約につながるよう尽力させていただきます。
- 1日も早く業務を覚え活躍できるよう尽力いたします。
特に新人のうちは、自分の努力や決意を相手に伝えるために上記のような表現を使うことも多いものです。自然に「尽力」という表現を使えるようにしておくと、相手に好意的な印象を持ってもらえるきっかけにもつながります。
「尽力」の類語
「尽力」に似た表現としては、「力添え」「支援」「助力」「協力」「手伝い」といった言葉があります。いずれも「尽力」のように努力するというニュアンスはなく、強い意志を表す表現ではないものの、相手を助けるということを表現する時に用いられる言葉です。
「力添え」「支援」「助力」は「尽力」と同じようにかしこまった印象がありますが、「協力」や「手伝い」はどちらかというと気軽な印象を与えます。普段の友達同士の会話でもよく出てくる言葉です。
ビジネスシーンで用いるのであれば、「力添え」や「支援」、「助力」の方がよりふさわしいですが、「協力」も「手伝い」もいずれも丁寧な表現ではありますので、目上の人に対して使っても問題はありません。
ただ、「尽力」や「力添え」、「支援」などと比べると、くだけた言い回しであることは否めませんので、使う相手や場面によって使い分けた方がベストです。
「尽力」と「力添え」の違いは?
「尽力」と「力添え」は同じ意味として使えるようにも感じますが、実際は含まれているニュアンスが異なります。
「力添え」は「助ける」の敬語表現として使われますが、「尽力」と違い「努力する」という意味は含まれていません。文字通り「力を添える」という意味があり、「力を尽くす」というよりは助力や手助けというイメージの方が強い言葉です。
「尽力」と同様、「力添え」は相手に対して感謝の気持ちを伝える時に用いられますが、相手に対してお願いをする時にも使える表現です。
- 今回の件、ひとえに皆様のお力添えの賜物でございます。
- ぜひ○○様のお力添えを頂きたいと思っております。
このように、「尽力」と「力添え」は意味としては似ているのですが、微妙にニュアンスが異なりますので使い分けに注意しましょう。
「尽力」の間違った表現に注意しよう
「尽力を尽くす」という表現をよく見かけますが、これは誤用です。「全力を尽くす」という表現から同じように使ってしまいがちですが、「尽力」という言葉自体に力を尽くすという意味が含まれていますので、「尽力を尽くす」では重複した表現になってしまいます。正しく使うのであれば、「尽力する」に直しましょう。
また、「尽力」と「ご尽力」の使い分けにも注意しましょう。使い分けを間違えると、相手に対する敬意を正しく伝えることができません。これは敬語表現そのものの問題ですが、間違えずに活用するためには、敬語表現として正確かどうかにも配慮するようにしましょう。
「尽力」には努力や感謝など、前向きな意味が込められた言葉です。ビジネスの場面でも積極的に使える言葉ですから、正しく使えるように表現の使い分けを理解しておくようにしましょう。
「尽力」を正しく使えると就職活動でも好印象に
「尽力」という言葉を自然に使って自己PRができると、就職活動の場面で出会う企業の人にも好印象を与えられます。学生の時は、日常生活で「尽力」という言葉が使われることは少ないので、さりげなくこういった表現が使えるのはポイントが高いです。
ただ、面接などの場で定型文のように使ってしまうと、逆に中身がないように思われてしまう可能性もあります。決意や努力を伝えるために使う表現ですから、それにふさわしい中身が必要です。
こうした耳障りのいい言葉だけを並べてしまうのは、逆に企業からマイナスの印象を持たれることもあるということを自覚しておきましょう。面接や説明会の調整など、メールでのやり取りをする時などにさりげなく使えるとベターです。
「尽力」は類語と正しく使い分けよう
「尽力」とその類語を正しく使い分けるには、それぞれの言葉の持つ意味やニュアンスをしっかり理解しておく必要があります。自分の伝えたいことが表現できているか、また、言葉のチョイスとして違和感はないか、失礼には当たらないかに注意しながら言葉を選ぶといいでしょう。
特に「尽力」はビジネスの中で使われる頻度が高い言葉であり、手紙やメールなど書き言葉を用いる場面で多く使われます。今までなんとなく言葉を選んでいた人は、この機会に正しい使い方を覚えると共に、しっかり類語の使い分けができるようになっておくといいでしょう。