「考える」は何が正しい敬語表現かわからないことが多い
敬語は自然に使っている場合もありますし、意識しないとなかなか出てこないという場合もあります。普段自然に使っている敬語の方が、いざしっかり考えてみると正しいのか正しくないのかわからなくなることもあります。
「考える」という行為はビジネスシーンでは毎日生じていますが、「考える」という単語を敬語にしようとした場合、どんな言い方が正しいのかわからなくなることが多いです。ここでは「考える」の敬語表現について確認し、間違った認識があれば改めましょう。
「考える」の敬語には尊敬語・謙譲語・丁寧語がある
敬語表現には尊敬語・謙譲語・丁寧語があります。状況や相手に応じて使い分けることが重要になりますが、「考える」の場合はどのような敬語表現があるのか見てみましょう。
「考える」の尊敬語は「お考えになる」「考えていらっしゃる」
尊敬語は、動作の主体に対して敬意を表すものになります。「考える」の尊敬語は、「お考えになる」が一般的に使われています。ちなみに、相手に何かの行動を促す時には命令の表現もありますが、尊敬語は目上の人に対して使うものであり、目上の人に命令をすることはないため命令表現はありません。
また、「考えていらっしゃる」という表現もできます。この場合は、「考える」という動作よりも「考えている」という状態に近いニュアンスになりますので注意しましょう。
「考える」の謙譲語は「考えます」
謙譲語は、自分がへりくだることによって相手に敬意を表すものです。一般的に「考える」の謙譲語は、「考えます」が使われています。ただし、相手に対して強く敬意を持っている場合には「拝察する」が使われることがありますし、自分の考えを述べるのが分不相応であるという意識がある場合には「愚考する」というような表現もあります。
現代ではこうした敬語表現をあまり使う機会がなく、もし使った場合には大げさに受け取られる可能性があることを覚えておきましょう。
「考える」の丁寧語は「考えます」
「考える」の丁寧語は、「考えます」がよく使われています。この敬語表現のレベルで、ほとんどのケースは通りますので難しく考えることはありません。「考える」の丁寧な言い回しや謙譲語では、「考えます」を使うべきだと覚えておくと良いでしょう。
「考える」の敬語表現でよくある失敗例
「考える」の敬語を使う時、よくやってしまう失敗パターンがあります。例文を挙げながら紹介していくので、自分の「考える」の使い方が間違っていないかを見直してみましょう。
「お考えになられる」という二重敬語を使っている
「考える」の尊敬語には「お考えになる」という表現がありますが、よく「お考えになられる」という言い方をしている人がいます。「お考えになられる」は非常な丁寧な言い方に感じるものの、これは二重敬語という誤った用法です。
基本的にビジネスシーンでは「れる」「られる」を使って敬語化する用法は避けた方が無難です。これは相手に与える印象の問題よりも、しっかりと意図が伝わらずにコミュニケーションが難しくなるからです。「れる」「られる」を使った敬語が多い人ほど、コミュニケーションのロスが多くなる傾向がありますので注意しましょう。
○:「社長は本日、今後の事業計画についてお考えになっているためお取次ぎできません」
×:「社長は本日、今後の事業計画についてお考えになられているためお取次ぎできません」
謙譲語と尊敬語が混同している
「考える」の敬語では、謙譲語と尊敬語が混同されて使われているパターンも多いので注意が必要です。「考える(考えている)」の主語は部長になりますので、以下の例文のように謙譲語である「考えておる」を使うのは、間違いになります。
×:「部長、今日の午後のレビューは何時頃と考えておられますか?」
正しくは、尊敬語を使います。「~しておる」を「~していらっしゃる」の部分に使ってしまう間違いは若い人によく見られる間違いですので、自分がつい使っているようなら気をつけて直しましょう。
「考える」の尊敬語を使った例文は、次の通りです。
△:「部長、今日の午後のレビューは何時頃のご予定でしょうか?」
○:「部長、今日の午後のレビューは何時頃と考えていらっしゃいますか?」
そもそも「考える」の敬語を使うべきシーンを間違っている
次の例文のように、そもそも「考える」の敬語を使うシーンを間違っているために、失敗してしまうこともあります。良い例文を参考に、正しい言い方をできるようにしましょう。
×:「その件につきましては、弊社の社長が明日中にお考えになります」
○:「その件につきましては、弊社の社長が明日中に考えます」
○:「その件につきましては、弊社の社長が明日中に決定いたします」
1つ目の例文の「考える」は間違った使い方で、外部の取引先や顧客などに向けて自社の人について話す場合は、常に謙譲語や丁寧語を用い、尊敬語は使いません。対話において尊敬語を使う場合、敬意を表すべき相手は目の前の相手になり、どんなに役職の高い人であっても自分の側には尊敬語は使いません。
×:「社長、少しはお考えになってください」
○:「社長、少しお考えになるのがよろしいかと存じます」
こちらは「考える」の尊敬語の使い方としては間違っていないものの、敬意を表すべき相手に対して指示や命令を行うことは原則的にNGです。この場合は、命令の形ではなく自分の意思として伝えるのがベターです。
「考える」の敬語を使った例文
「考える」の敬語を使った例文を見ながら細かい点を確認しましょう。ビジネスでも頻繁に使う言葉だからこそ、間違った敬語表現をしないよう十分に気をつけたいものです。
「考える」の敬語を使った例文1:メール編
「考える」の敬語を使った例文1:メール編
お世話になっております。○○株式会社のAです。
先日はご来社いただき、非常に有用なご提案をありがとうございました。
あれから社内で様々に考えてみて、上司にも判断を伺ったところ、
非常にメリットがある提案だという結論になりました。
導入を検討している前提で、再度弊社の技術担当を含めて、
システムの詳細についてお伺いしたいのですがいかがでしょうか?
その際には、お見積りについてのお話もできれば伺いたく、
可能であれば導入例やグレードごとのお見積りをいただけたらと存じます。
何卒、よろしくお願い申し上げます。
ビジネスメールでも「考える」がよく使われていますが、この例文でもいくつか「考える」にあたる敬語表現が使われています。「社内で様々に考えてみて」の主体になるのは話し手になりますので、自身の「考える(考えてみる)」については「考えてみます」で良いので、この表現で大丈夫です。もしくは内容上から「検討してみましたところ」といった表現で代用可能です。
また「導入を検討している」は「導入を考えている」意になりますが、よりしっかり考えている様子が伝わるのは「検討している」です。表現があまり多く重ならないように調整しながら言葉を選びましょう。
「~お見積りをいただけたらと存じます」の「存じます」も「思います」「考えます」の意になりますので、これを謙譲語表現として「存じます」とするのは正しいです。
「考える」の敬語を使った例文2:スピーチ・挨拶編
「考える」の敬語を使った例文2:スピーチ・挨拶編
本日は保護者の皆様にお集まりいただき、誠にありがとうございます。
当園に子供たちが登園されるようになって3ヶ月、皆たくましく成長し、本日を迎えるようになりました。子供たちにとってもはじめての音楽発表会、子供たちはもちろん、保護者の皆様も大変な楽しみと緊張の中でお迎えになられたかと拝察いたします。
本日は是非とも子供たちの融資を近くでご覧になっていただき、お家に帰ってからはその努力をご家族の皆様からも讃えて頂きたく存じます。
会場の雰囲気作りにもご協力いただきながら、本日はどうぞお楽しみいただければと存じます。それでは、○○幼稚園、音楽発表会を開演いたします。
スピーチや挨拶などでも「考える」という敬語表現はよく使われます。イベント事では予定・計画があり、考えに沿って進行が行われますから、その挨拶で「考える」に該当する単語が登場するのは不可避です。しかし、そのたびに「考えます」という敬語ばかり使うと単調になりますので、都度適切な言葉に言い換えましょう。
この例文には「保護者の皆様も大変な楽しみと緊張の中でお迎えになられたかと拝察いたします」という一文がありますが、最後の「拝察いたします」は「考える」の意ですので正しい使い方です。しかし、その直前の「お迎えになられた」については二重敬語になります。「お迎えになったかと拝察いたします」がここでの正しい表現です。
最後の「本日はどうぞお楽しみいただければと存じます」は「思います」「考えます」を敬語にする常套句ですので、このような場面で必ず使えるようにしておきましょう。
「拝察する」は「考える」ではなく「察する」の謙譲語表現
「考える」の謙譲語表現にあたるものは厳密にはありません。基本的には「考えます」が最も近い表現となりますが、場合によっては「拝察する」言葉を「考える」の敬語として使うこともあります。
しかし、これは「拝察する」という文字からもわかる通り、元来は「察する」という言葉の謙譲語表現です。そのため、「(相手の状況や心情などについて)考える、推し量る」場合に限られますので注意してください。
「本日ご来場くださいました皆さまにおかれましては、今日という日を心待ちにしてくださったことと拝察いたします」というように、スピーチなどのかしこまった場面でしか使われることはありませんが、意味を知っておいた方が何かと良い言葉ではあります。「拝」がついた言葉は基本的に謙譲語の敬語表現であることを覚えておけば、多くの場面で役立ちます。
「考える」を敬語にするのが難しいなら、他の部分で敬意を示すことが重要
「考える」を敬語に変換する場合、「お考えになる」や「拝察する」など他の表現を使わないといけないと考えがちですが、実際には「考える」を使えば十分ということは多いものです。ただし、その場合はただ「考える」と表現するのではなく、文脈から敬意を示していくことが重要です。
例:「私が考えたところでは、部長の出した案が最も先方のニーズに合っていると思う」
△:「私が拝察するに、部長の出した案が最も先方のニーズに合っていると思います」
○:「私が考えたところでは、部長が提案された案が最も先方のニーズに合っているかと存じます」
△の例文では、「拝察」という言葉を使っているので敬意のある表現に見えますが、実際に聞き手が受ける印象としては最後の「思います」が強く残るために丁寧語として感じられる可能性が高いです。一方、○の文では「私が考えたところでは」と普通の文になっていますが、部長に対する敬意や最後の謙譲語「存じます」が見えることで全体としてより敬語表現として適切に聞こえます。
「考える」を敬語にするのが難しいと思える状況では無理をせず、「考える」以外の部分を敬語にしても大きな問題はありませんので覚えておくと良いでしょう。
「考える」を類語表現して敬語に変換しよう
「考える」は機能的な言葉で、多くの意味を持っています。状況に応じて類語をうまく使い分けることで、敬語らしい表現にすることができます。ここで、「考える」の類語を紹介します。
「存じます」
「考える」に「思う」という意味が含まれている場合、以下の例文のように類語として「存じます」という敬語を使うことも可能です。
例:「私も部長の意見が正しいと考えます」
○:「私も部長の意見が正しいかと存じます」
例:「本日中に資料を先方にお送りしたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」
○:「本日中に資料を先方にお送りしたく存じますが、よろしいでしょうか?」
「判断いたします」「検討いたします」
「考える」が「判断する」「検討する」などの意味を持つ場合には、次のように状況に適した表現にすることで明確な敬語に変換することができます。
例:「この問題への対応をAにするかBにするか早めに考えます」
○:「この問題への対応をAにするかBにするか、早めに判断いたします」
○:「この問題への対応をAにするかBにするか、早めに検討いたします」
例:「この提案を先方にするかどうか、本日中に考えてもらえますか?」
○:「この提案を先方にするかどうか、本日中にご検討いただけますか?」
○:「この提案を先方にするかどうか、本日中にご判断願えますか?」
「配慮する」「気遣う」
「考える」には「気遣う」という意味が含まれていることもあります。その場合に使える類語としては、「配慮する」や「気遣う」などが挙げられます。
例:「もう少し次工程のことも考えて作業を進めるようにします」
○:「もう少し次工程にも配慮して作業を進めるようにいたします」
例:「他のメンバーのことも考えて発言してください」
○:「他のメンバーのことも気遣われた発言をお願いいたします」
「考える」の敬語は状況に応じた表現を身につけよう
「考える」の敬語表現は、それほど難しい表現はないのですが、使うべきシーンで使えていなかったり、敬語の基本が抜け落ちたりしがちなので注意しましょう。
「考える」は別の単語にすることで敬語らしい表現にも出来ますが、あまり無理に変化させる必要はありません。状況に応じて敬語に変換させたり、そのまま表現したりと臨機応変に使いましょう。考えすぎず、相手への敬意を文意全体から伝えるようにすることが最も大切です。