「引き受ける」の本来の意味とは
まずは、「引き受ける」の敬語を解説する前に、「引き受ける」とは本来どのような意味を持つ言葉であるかを説明します。大きく分けると、「引き受ける」には三種類の意味があります。
負担する・担当する
「引き受ける」の意味の一つ目は、受けて自分の責任とする、つまり担当するということです。たとえば、誰かから依頼を受けて、ある作業を担当する際に、「私が引き受けます」と答える場面に日常でしばしば遭遇するでしょう。
ビジネスの場において耳にする「引き受ける」という言葉のほとんどが、この意味で使用されていると言えます。
応対する
「引き受ける」の意味の二つ目は、相手となって処置する、つまり応対するということです。「お客さんの相手を引き受ける」といった使い方をします。日常会話において、使用頻度はあまり多くないかもしれません。
保証する
「引き受ける」には、保証する、保証人になるという意味もあります。誰しも一度は「身元引受人」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
老人ホームや医療機関に入居・入院する際に、書類に身元引受人の署名が必要とされたり、また会社に入社する際も身元引受人をつけたりします。つまり、ここでの「引き受ける」は、誰かの身元を保証すること、または保証人になるという意味で使用されています。
「引き受ける」の敬語表現とは
依頼された案件を引き受ける際に、メールや電話、また面と向かって出会っても「わかりました。引き受けます」と述べるだけでは敬語が使用できておらず、社会人としてマナーが不足している印象を与えかねません。
それでは、「引き受ける」を敬語で表現すると、どのような言葉になるのでしょうか。答えは大変シンプルですが、「お引き受けいたします」が「引き受ける」の正しい敬語表現となります。このようにちょっとした敬語に変更するだけで、依頼主である相手に丁寧かつ礼儀がしっかりした印象を与えることができます。
主に目上の人に対してもう少しへりくだって答えたいときは、謙譲語の「お引き受けさせていただきます」を使用してもよいでしょう。ただ、「~させていただく」という謙譲語を必要以上に使用するのは、くどく感じてよい印象を持たない人もいるので、へりくだるべき場面であるかはよく検討したうえで使用した方がいいです。
「引き受ける」を他の敬語で言い換えるなら
「お引き受けいたします」は、「引き取る」を敬語で表現したシンプルかつ直接的な答え方になります。他にも、「引き受ける」の敬語表現と言い換え可能な言葉があります。
たとえば、定期的に仕事を依頼される関係で、何度も同じ人とやり取りがある場合は、毎回少しずつ変化をつけた敬語表現で返答することで、コミュニケーションのバリエーションが大きく広がるようになります。
ビジネスにおいて、正しい敬語の知識と豊富な語彙力を持っている人は、コミュニケーション能力が高い人であると言っても過言ではありません。
お受けいたします
「引き受ける」の敬語表現と同意義で、よりシンプルな答え方が「お受けいたします」です。しっかりと敬語も用いられているので、「お引き受けいたします」を使用したときと、相手に与える印象は全く変わらないでしょう。
承知いたしました・承ります
「承知いたしました」「承ります」は「引き受ける」の敬語表現の代わりとしてだけではなく、ビジネスにおける受け答えで最も汎用性の高い言い回しです。上司に対しても、部下に対しても、また取引先企業や仕事の依頼先に対しても、全方向に使用できる敬語です。
電話で伝言を頼まれた際や、注文を受けた際にも、「〇〇〇〇(相手に言われたことを復唱)とのこと、確かに承りました」と敬語で答えると、念のための確認になり、相手にも安心感を与えることができます。
かしこまりました
「かしこまりました」という答え方は、クライアントや目上の人との電話や会話、またはサービス業においてお客さん相手に使用されることが多い敬語です。大変丁寧で、礼節を重んじた敬語ですが、ややかしこまった表現であり、堅い印象を与えがちです。
会社によっては、上司や先輩社員はお客さんではないので、「かしこまりました」という堅い印象のある敬語で答えるのは違和感があるので推奨しないとするところもあります。そのような会社では、社内では「承知いたしました」と答えるのが妥当でしょう。
「引き受ける」の敬語で印象アップするなら
「引き受ける」の敬語表現を理解したところで覚えたいのが、敬語を用いたもうワンランク上のコミュニケーションのテクニックです。ただ引き受ける意志を伝えるのではなく、「またこの人に依頼したい」「この人は期待に沿う仕事をきっとしてくれる」と思ってもらえるような、気遣いのある敬語を用いた答え方をお伝えします。
謹んでお受けします
「謹んでお受けします」という敬語は、「謹んで」という言葉を添えるだけで、真摯な思いをもって仕事を受けた様子が伝わります。依頼した仕事に対して真剣に取り組んでくれる人とは、今後も仕事をしたいと思ってもらえるはずです。
微力ながらぜひお引き受けしたく存じます
「微力ながらぜひお引き受けしたく存じます」という敬語では、「微力ながら」というへりくだった敬語表現を入れています。丁寧で礼儀正しい人物であるという印象を与えることができます。
お力になれれば幸いに存じます
「お力になれれば幸いに存じます」は、「微力ながら」に似てへりくだった敬語表現ではありますが、もっと柔らかなニュアンスが感じられ、使いやすい敬語です。ポジティブな印象も与えられます。
ご期待に沿えるよう、精一杯努めさせていただきます
「ご期待に沿えるよう、精一杯つとめさせていただきます」は、引き受ける仕事に対する積極性が感じられる敬語表現です。自分が依頼主で、このような答えが依頼相手から帰ってきたと想像すると、うれしい気持ちになるのではないでしょうか。
「引き受ける」ことができない場合の敬語表現
仕事内容や条件によっては、「お引き受けいたします」と答えられない場合もあるでしょう。仕事を引き受ける際の敬語表現に加えて、やむを得ず引き受けることができない場合に、できるかぎり角を立てずに、なおかつはっきりと断る敬語表現も覚えておきましょう。
またの機会にお声がけいただけますと幸いに存じます
やむをえず依頼を完全に断る際は、事情を説明したうえで「誠に恐れ入りますが、お引き受けすることができません」と答えましょう。「できない」と言い切ることに抵抗がある場合は、「お引き受けすることが難しい状況です」とぼかしてしまっても真意は伝わるでしょう。
ここで大切なのは、断るだけではなく、「またの機会にお声がけいただけましたら幸いに存じます」という敬語表現を使った言葉を添えることです。「今回はやむを得ずお引き受けできないが、これに懲りずにまた仕事の依頼をしてほしい」という気持ちが伝わるはずです。
今回限りとさせていただけますと幸いに存じます
たとえば、定期的に発生する案件で、予算や納期が割に合わずに断りたい場合があります。「今回は引き受けるが、次回からは辞退したい」という思いをこめて、「本案件につきましては、●●の理由により、誠に勝手ながら今回限りとさせていただけますと幸いに存じます」と伝えましょう。
依頼主のはっきりとした意思表示で、受け取り方に不安を覚えるかもしれませんが、定期的に引き受けていた案件を急に断ってしまうのではなく、「次回は引き受けない」という予告になるので、気遣いのある断り方であると言えます。言うまでもなく、しっかりと正しい敬語を用いています。
「引き受ける」の敬語の使用例
ビジネスの場面において見られる、最も典型的な「引き受ける」の敬語表現を用いる例をご紹介します。フリーランスのカメラマンが、取引先企業から仕事の依頼を受けて、メールで返信するという設定です。
ただ依頼された仕事を引き受ける旨を連絡するのではなく、依頼に対しての感謝の気持ちを、敬語を用いて盛り込むことがポイントです。仕事を依頼する側、依頼される側の双方がきれいな敬語表現を用いつつ、相手を思いやる一言を添えることで、コミュニケーションが円滑になり、仕事も進めやすくなります。
×月×日 創業100周年記念パーティ撮影につきまして
〇〇株式会社
総務部 △△様
平素より大変お世話になっております。
この度は、貴社創業100周年記念パーティの写真撮影をご依頼いただき、
誠にありがとうございます。
喜んでお引き受けいたします。
大変おめでたい式典にカメラマンとして参加させていただけますこと、
光栄の至りに存じます。
詳細につきましては、後日打ち合わせのお時間をお取りいただけますと幸いに存じます。
何卒よろしくお願い申し上げます。
●●●●(署名)
「引き受ける」は責任の重い言葉
「引き受ける」という言葉について、誤って使用している人はそれほど多くはありません。ビジネスから日常会話まで、幅広い場面で使いやすい言葉ではありますが、「責任を持って引き受ける・担当する」という本来の意味をしっかりとかみしめたうえで使用すべきであると言えます。
何かを引き受けるからには、与えられた役割を完遂するという行動が伴わなければなりません。社会人は学生と違いすべての行動に責任が伴います。「引き受ける」は、責任の重い言葉であることを自覚しておきましょう。
「引き受ける」の敬語には多様な表現がある
「引き受ける」の敬語には、さまざまな表現方法があります。「引き受ける」の正しい敬語表現、もしくは「引き受ける」と同義語の敬語表現を使用することで、気持ちを的確に伝えることができます。
「引き受ける」は使用頻度の高い言葉である以上、マンネリ化しやすいのは否めません。気持ちよく仕事をするためにも、毎回同じ言い方をするのではなく、「引き受ける」の言葉自体を変えたり、異なる敬語で「引き受ける」を表現したり、状況に応じた一言を添えたりするなどして気遣いを見せることのできる社会人を目指しましょう。