「嬉しいです」という敬語の表現は間違っている
普段は何気なく使っている言葉でも、ビジネスシーンで使うと実は良くない言葉があります。「コーヒーのほうお持ちしました」などのバイト敬語もそうですし、先輩後輩の間などでよく使われている「嬉しいです」も実は敬語としては間違った表現になります。
感情を表す上で間違いということはないですが、文法上の間違いがあると、それだけで雑な人だという印象を持つ人もいますので、言葉の間違いは避けたいものです。「嬉しいです」ではなく、正しい敬語表現にするならどうするべきか考えてみましょう。
「嬉しいです」という敬語は文法的に間違いなので注意しよう
「嬉しいです」が敬語として間違っている理由は、文法的に誤りがあるからです。「嬉しい」は形容詞になりますので、「です」がその後に続くのは間違った用法ということになります。「嬉しいです」だとわかりにくいですが、「赤い」で考えてみると、「この花は赤いです」ではなく「この花は赤い」が正しい形容詞の使い方だとわかるはずです。
また、「です」は「だ」の丁寧語になりますので、本来は体言(名詞や代名詞)の後に続きます。そのため、文法的に考えると「嬉しいです」は間違った使い方なのです。
「嬉しいです」にあたる丁寧語の表現になると、「うれしゅうございます」または「嬉しく思います」などが妥当ですが、ビジネスの場で使うにはちょっと違和感のある敬語表現になります。「嬉しい」の主語は自分になると思いますので、目上の人に使うなら謙譲語を使うべきですが、「嬉しい」など状態を表す形容詞は謙譲語にすることができません。ですから、別の言葉を用意する必要があるのです。
「嬉しいです」を正しい敬語にしてビジネスシーンで使おう
「嬉しい」は形容詞になりますので、「嬉しいと思う」「嬉しく思う」と表現するのが敬語表現を考える上での基本になります。そのため「嬉しいです」にあたる気持ちを丁寧語で表現するなら、「嬉しく思います」が妥当な敬語表現でしょう。
謙譲語として表現するなら、「嬉しく存じます」と、「嬉しい」を敬語に変換するのではなく、「思う」の部分を「存じます」などに変換するのがポイントです。「存じます」は使用頻度の高い敬語ですので、使う機会も多いですから是非覚えておきましょう。ここで、「嬉しいです」をビジネスシーンで使う時の正しい敬語表現を紹介します。
「大変嬉しく存じます」
何かをしてもらったり自分にとって嬉しいことがあったりした場合、ビジネスシーンでは「嬉しいです」の正しい敬語として「大変嬉しく存じます」と表現するのが基本です。
「大変」はあってもなくても良いのですが、ビジネストークのトーンだとあまりうれしさが伝わらず淡々としがちなので、「大変」はつけておいた方が何かと良いでしょう。
- 「本日から営業部に配属されたこと、大変嬉しく存じます」
- 「お心遣いいただきまして、大変嬉しく存じます」
「嬉しい限りです」
「とても嬉しいです」という気持ちを表したい時は、「大変嬉しく存じます」だけでなく、「嬉しい限りです」という表現も覚えておくと良いでしょう。これは「嬉しいという気持ちしか湧いてこない」という意味になり、とても嬉しいことが伝わる敬語表現です。
- 「本日はこのような場に招待いただき、誠に嬉しい限りです」
- 「お役に立つことができたようで、嬉しい限りです」
「お目にかかれて嬉しく存じます」
ビジネスシーンで初めて会う人に対しては、「お目にかかれて嬉しく存じます」と言うのが挨拶の基本です。もしくは後日メールなどで、「○○様にお会いできましたこと、大変嬉しく存じます」というように表現します。こうした挨拶は、直接会話する時やメールを送る時などビジネスでも使う機会が多いので定型文として覚えておくと便利です。
- 「はじめまして。弊社の社長が大絶賛している○○さんにお目にかかれて嬉しい限りです」
- 「先日はありがとうございました。○○様にお会いできましたこと、大変嬉しく存じます」
「嬉しいです」を正しい敬語表現にした例文
「嬉しいです」正しい敬語表現がいくつか分かったところで、ビジネスシーンにふさわしい例文で見ていきましょう。ここでは「嬉しいです」を使った例文を4つ紹介します。
例1:「今回の企画が通って嬉しいです」
- 「今回の企画が通って、嬉しく思います」
- 「今回の企画が通って、喜ばしく存じます」
- 「今回の企画が通って幸いです」
実際に「今回の企画が通って嬉しいです」と表現がされることは多いと思いますが、本来は、「~嬉しく思います」が正しい敬語の使い方です。ただ、ビジネスシーンで使うにはやや子供っぽい印象になりますので、「~喜ばしく存じます」または「~幸いです」などの敬語表現がより良いでしょう。「幸いです」は「嬉しいです」というより「よかった」という表現ですので、ほっとした、安心したというニュアンスがやや強くなります。
例2:「社内コンテストで金賞をもらえて、とても嬉しいです」
- 「社内コンテストで金賞をいただけて、大変嬉しく存じます」
- 「社内コンテストで金賞をいただけて、非常に嬉しく存じます」
「とても嬉しい」状態をどのように表現するのかが、この場合はポイントになります。オーソドックスな形で敬語表現にしていくと、この例文のようになるでしょう。ただし、敬語表現になっているだけで、多少子供っぽい印象は避けられません。新入社員や若手のうちは良いですが、ある程度のキャリアになってこれでは、残念な印象を与えかねません。
- 「社内コンテストで金賞をいただけて、この上なく嬉しい気持ちです」
- 「社内コンテストで金賞をいただけて、誠に喜ばしい限りです」
- 「社内コンテストで金賞をいただけて、光栄の極みです」
こうした言い方なら、より社会人らしい表現に聞こえるのではないでしょうか。「とても」にこだわらず、嬉しい気持ちをどのように表すか色々研究してみましょう。
例3:「本当ですか?とても嬉しいです」
「今回の営業成績は君がトップだったよ」などと、上司や目上の方から嬉しい報告を聞いた時、「本当ですか?とても嬉しいです」などと答えてしまうことがあります。嬉しい気持ちをできるだけ正しい敬語で表現できるように普段から意識しておきましょう。
- 「本当ですか?非常に嬉しく存じます」
- 「本当ですか?誠に嬉しく存じます」
- 「本当ですか?大変恐縮です」
例4:「気遣ってもらえて嬉しいです」
気遣いされた時や何かのプレゼントなどをもらった時は、その気持ちを嬉しく思ったことを表現したり、お礼をしたりするのがマナーです。その場合には「気遣ってもらえて嬉しいです」などと答えず、正しく美しい敬語表現で感謝や喜びを伝えましょう。
- 「お気遣いいただきまして、誠にありがとうございます」
- 「お気遣いいただきまして、嬉しい限りです」
- 「お気遣い、誠に感謝申し上げます」
- 「お気遣いをいただきまして、恐縮至極にございます」
ただし、この場合はメールでなく口語で「嬉しい」という気持ちを表現するなら、あまり難しく考える必要はありません。嬉しい気持ちが相手に伝わることが大事ですので、何かしてもらった際に「嬉しい!」とだけ言って反応したとしても不快に思われることはありません。むしろ、してあげた側も素直な反応があると甲斐を感じると思いますので、敬語表現ばかりを気にして無反応にならないようにしましょう。
「嬉しいです」の様々な類語表現
「嬉しいです」には、シーンを選べば様々な類語表現があります。類語表現とそのニュアンスを知っていると、嬉しい気持ちを伝える時の感情表現も豊かになります。
「光栄です」
「嬉しいです」の類語にあたる「光栄です」という表現は、自分にとって非常に喜ばしいことがあった時に使う敬語表現です。目上の方などに褒めてもらった場合に使うと、相手を立てることになります。「○○さんにお褒めに預かれるなんてとても光栄です」というように使います。
「恐縮です」「恐れ入ります」
「嬉しいです」の類語には、「恐縮です」や「恐れ入ります」という敬語表現もあります。字面は少し怖い感じがしますが、「怖さを覚えるほどに相手を尊く思っている」表現で、自分がへりくだることで相手を立てる謙譲語です。
「このような素晴らしい場に私のような若輩者がお招きいただけるとは、大変恐縮です」
「いつもながら、核心をついた助言恐れ入ります」
「おかげです」
「おかげです」は、相手から何か協力をしてもらった際に使う言葉で、「嬉しいです」の代わりに使うことができます。「助けてもらって嬉しい」でも良いのですが、「おかげです」を使うことによって、助力してくれた人を立て、ねぎらうことができます。
「今回のプロジェクトに成功できたのは、他でもない○○さんのおかげです」
「今回の成功は、ひとえに皆様のお力添えのおかげです」
「ありがとうございます」「感謝いたします」
「嬉しいです」と言うと、自分の気持ちだけを話しているようで幼く思えることもあります。ビジネスシーンでは、嬉しい気持ちを表す際に感謝の言葉を使うことも少なくありません。周囲の人を巻き込みながら、上手に自分の気持ちを表現できるようにしましょう。
「いつもお気遣いいただき誠にありがとうございます」
「○○先輩がご協力くださったおかげで上手くいきました。ありがとうございます」
形容詞の「嬉しい」の言い換え方
ここで、状態を表す形容詞「嬉しい」を使った時、どのような言い換え方があるのか見てみましょう。場合によっては少し幼い印象を与えてしまうことがある「嬉しい」という言葉ですが、適切な表現に言い換えると、ビジネスシーンでも便利に使うことができるのでぜひ覚えてください。
「喜ばしい」は公的な挨拶や文書でよく使われる
「嬉しい」をビジネスシーンで使う場合に、敬語への言い換えとしてよく使われるのが「喜ばしい」という表現です。ちょっと固く聞こえる表現ですので、公的な挨拶や文書で主に使われます。
- 「本日は、この喜ばしい日を迎えることができましたことを関係者の皆様にまず感謝申し上げます」
- 「従業員も新しい機械に慣れて、工場も安定して稼働するようになり喜ばしい限りです」
「嬉々たる」は躍動感が感じられる文語表現
「嬉しい」状態を表す言葉には、「嬉々たる(嬉々として)」という表現もあります。「嬉しい」という字が重なる表現で、嬉しい様子がよく伝わります。文語向きでやや大袈裟なため使い所はそれほど多くないかもしれませんが、それだけにインパクトがある躍動感を感じさせる表現です。
- 「今回の営業部への辞令を、嬉々たる思いでお待ちしておりました」
- 「新しい環境ではありますが、周囲の方々にも恵まれ、嬉々として毎日を過ごしております」
「愉(たの)しい」は文語的に美しい表現
「嬉しい」と少しニュアンスが違いますが、「愉しい」という表現もあります。「楽しい」とした時よりも、愉快で気分が良い雰囲気が出ますので、「嬉しい」に近い心の状態を表すことができます。基本的には文書で使う表現で、こうした言葉が使えるようになると文章が美しく感じられます。
- 「先日は愉しい時間をありがとうございました」
- 「○○先生のお話はいつもユーモアと含蓄があり、愉しく聞かせていただいております」
何について「嬉しい」のかを明らかにすることが大事
嬉しい気持ちを表すためには、敬語を使うだけでは十分だとは言えません。どんなに丁寧な敬語で気持ちを表現したとしても、何に対して嬉しく思っているのか、その対象が見えないと単なるお世辞や挨拶程度に思われてしまいます。
感謝の気持ちや嬉しい気持ちを表したい時は、何について喜んでいるのか、感謝しているのかが明らかになる具体的な内容を添えて相手に伝えるのがマナーです。できるだけ「あれ」「これ」などと言わず、具体的にして表現しましょう。
- △「先日のあの件、とても嬉しく思いました」
- ○「先日、書類の提出期限を伸ばしていただいた件、非常に助かりました。ありがとうございます」
これは嬉しい気持ちを伝える相手が目上の人でも、部下や後輩でも同じですので、社会人の基本としてしっかり意識しておきましょう。「きっと以心伝心でわかるはず」と思って甘えてはいけない部分です。
「嬉しいです」に代わる敬語を身につけよう
敬語が苦手で表現に気を遣わない人ほど「嬉しいです」と口にしてしまいがちですが、文法的に間違っているだけでなく、幼稚な印象を与えてしまいます。信頼できるビジネスパーソンを目指すなら、「嬉しいです」に代わる正しい敬語表現を状況に合わせて選べるように普段から練習しましょう。
正しい敬語は聞こえも美しく、結果的に良い印象を相手に与えてくれます。「嬉しいです」の正しい敬語表現を身につけて、周囲の人と差をつけましょう。