「ご自愛ください」をビジネスシーンで正しく使おう
ビジネスシーンでは、相手を気遣うための言葉選びはとても重要です。挨拶文やメールの締めくくりでは、次につなげるための挨拶や、用件をまとめた文章など様々なものが考えられます。
ビジネス上のお付き合いがある方や、目上の方の体調を気遣う結び言葉としてよく使われるものに「ご自愛ください」がありますが、この言葉を適切に使うことはできているでしょうか。上手に使いこなせると、優しく、気の利く人だという印象を与えることができます。ここでは「ご自愛ください」を上手く使うために覚えておくべきことを紹介します。
「ご自愛ください」の辞書的な意味とは?
「ご自愛ください」は「ごじあいください」と読みますが、尊敬語を作る接頭語「ご」がついているため、尊敬表現のひとつです。それでは「自愛ください」とはどういう意味でしょうか。
「自愛」を辞書で見てみると、「自分を愛すること」という意味があることがわかり、そこから転じて「自分を大切にすること」「自分の心身の健康に気を遣うこと」というような意味があることがわかります。つまり、「ご自愛ください」とは、目上の人などに対して「健康に気をつけてください」と体調を気遣う意味を持っています。ビジネスシーンでは目上か否かにあまり関係なく使われています。
「ご自愛ください」は目上の方にも使える文語表現
「~ください」は基本的に命令になるのですが、「ご自愛ください」はさほど強い印象を与える言葉ではありません。そのため、目上の方に対して使うことも失礼にはあたりません。
ただし、「ご自愛ください」は基本的に文語表現であり、普段の会話で登場することはありません。普段の会話で同様の気持ちを伝えたい場合は、「お大事にしてください」などが適切です。
「ご自愛ください」の正しい使い方のポイントと例文
「ご自愛ください」の使い方には、大きく分けて「挨拶などの結び」と「目上の方への気遣い」があります。それぞれどのような使い方をするのか、例文を見ながら確認しましょう。
挨拶などの結びとして使う場合
「ご自愛ください」は年賀状や手紙での挨拶でも、結びの言葉としてよく使われます。「健康に気をつけて頑張ってください」よりも上品な感じがありますので、その言葉を受け取った側も嬉しく感じるものです。
「ご自愛ください」は時候の挨拶と一緒に使われることが多いので、様々な挨拶表現を覚えておくと良いでしょう。どんな季節の表現と組み合わせても大丈夫な便利表現です。
- 「厳寒の折、くれぐれもご自愛くださいませ」
- 「寒さひとしお厳しき折、何卒ご自愛くださいませ」
- 「時節柄、くれぐれもご自愛くださいませ」
- 「浅春の折、何卒ご自愛くださいませ」
- 「花冷えの折、くれぐれもご自愛くださいませ」
- 「陽春のみぎり、どうかご自愛くださいませ」
- 「長雨の折、くれぐれもご自愛くださいませ」
- 「酷暑の折でございますが、何卒ご自愛くださいませ」
- 「季節の変わり目、くれぐれもご自愛くださいませ」
- 「ご多忙の中かと存じますが、くれぐれも風邪など召されぬようご自愛くださいませ」
目上の方への気遣いとして使う場合
ビジネスシーンでは目上の方とのやり取りも多いですが、特に自然に相手を気遣う表現ができるのは良い印象を与えることに繋がります。何かの折に、積極的に使ってみましょう。また、「ご自愛ください」は目上の人だけでなく、同僚や後輩を含む不特定多数の人への広報文などでも使われます。目上の人に使うことが多いものの、一般的に誰にでも使える便利な表現です。
- 「今年も一年、大変お世話になりました。○○部長におかれましても、ご自愛くださり良い新年をお迎えください。来年も引き続き宜しくお願い申し上げます」
- 「今年も新型のインフルエンザウイルスが流行しており、弊社でも現在2人の感染が確認されております。社員の皆様はくれぐれもご自愛くださり、もし症状らしいものが現れた場合は速やかに病院で受診するようご協力をお願いいたします」
「ご自愛ください」の間違った使い方・失敗例
「ご自愛ください」は実は間違った使い方をしてしまうことも多い表現です。よくある失敗例を紹介しますので、この言葉を使う時には気をつけてください。
誤変換で「ご慈愛ください」になってしまう
手書きではまず失敗することはありませんが、タイピングを行って変換した結果、同音意義語の「ご慈愛ください」になってしまうことがあります。「慈愛」は「いつくしむこと」を意味しますが、「ご慈愛ください」は「私に愛情を注いでください」というような意味になってしまいます。相手を気遣うつもりが、わがままな人だと思わせてしまいますので、変換した文字が合っているか必ず確認しましょう。
病気の人に対して「ご自愛ください」はNG
「体に気をつけて頑張ってください」というつもりで「ご自愛ください」を使うとしても、病気や入院中の方に対して使用するのはNGです。「ご自愛ください」は「自愛できる能力がある程度ある」状態の人に向かって使う表現であり、「(変わらず)体に気をつけて頑張ってください」という意味なのです。
既に体調を崩してしまった人に対しての「ご自愛ください」は、「そのままの状態をキープしてください」と受け取られてしまい、気分を害することもあるので注意しましょう。この場合は「早いご回復をお祈り申し上げます」「この機会にじっくりご静養ください」などが適切です。
「お体にご自愛ください」という使い方は間違い
「自愛」にはもともと「(自分の体を)大切にする」という意味がありますので、「お体にご自愛ください」は「お体にお体を大切にしてください」という意味になってしまいますので注意しましょう。使い方としては、「ご自愛ください」だけで十分です。
「お体」という言葉から始める場合は、「お体にお気をつけください」または「お体を大事になさってください」などの表現にすると良いでしょう。
「ご自愛ください」につく「どうぞ」と「どうか」のニュアンスの違いに注意
「ご自愛ください」を使う際に、その前に「どうぞ」や「どうか」をつけることで丁寧になりますが、「どうぞ」は相手の意志を尊重し、「どうか」は自分の意志が強く出る表現です。そのため、「どうぞ」よりも「どうか」は強制力のある表現になるので、相手によっては不快に感じさせてしまうリスクがあります。
判断に困るような場合は、「何卒」にしておけば相手を気遣いつつも、やや押しの強い表現にできますのでこちらも覚えておくと良いでしょう。各例文を挙げておきますので、参考にしてください。
- 「風邪など召されぬよう、どうぞご自愛くださいませ」
- 「風邪など召されぬよう、どうかご自愛くださいませ」
- 「風邪など召されぬよう、何卒ご自愛くださいませ」
「ご自愛ください」の例文をビジネスシーン別にチェック
ここからは「ご自愛ください」を使ったビジネスシーン別の例文を紹介します。細かいポイントをチェックし、正しい書き方・使い方を覚えましょう。
「ご自愛ください」の例文1
一緒のプロジェクトを行った社外の方へのお礼メールの例文
お世話になっております。
先日は○○社の新商品開発プロジェクトへのご協力誠にありがとうございました。Aさんの御尽力なしには、納期内にこれだけのクオリティのものを作りあげることはできなかったと思います。
今後もこうした案件の折には、お声がけさせていただければと存じますので、その際にはぜひご協力をいただけましたら幸いです。
寒くなってまいりましたが、Aさんもくれぐれもご自愛くださいませ。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。
この例文では、文章の結びに「ご自愛くださいませ」と相手を気遣う表現を入れています。必ずしも入れないといけないわけではないものの、一言あるだけで気遣いが伝わるようになります。
このメールのようにしばらく直接会う機会がなくなるようなケースで「ご自愛ください」を使うと丁寧で今後の交流にもつながりやすいので、積極的に使っていきたいものです。
「ご自愛ください」の例文2
同窓会のお知らせの例文
○○高校18期生の皆様
拝啓 陽春のみぎり、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
この度、下記要項で○○高校18期性の同窓会を行いたく存じます。ご出席いただける方は、このメールに返信いただくか、幹事の田中までご連絡をお願いいたします。
ご多忙の折かと存じますが、万障お繰り合わせの上、ぜひともご参加いただけたら幸いです。
まだまだ寒い日が続いておりますが、皆様くれぐれもご自愛くださいませ。
敬具
<○○高校18期生 同窓会>
日時:2019年5月13日(月) PM7:00~
場所:洋風居酒屋△△ パーティールーム
会費:5,000円
幹事・問い合わせ:田中一郎(090-○○○―××××)
案内文や広告文でも「ご自愛ください」はよく使われています。同窓会のお知らせなど、普段なかなか接する機会が無くとも、相手のことを気にかけていることが伝わると反応も良くなります。
手紙では、季節の挨拶と合わせて使うのが定番となっていますが、あまり難しく考える必要はありません。季節ごとに感じることと、ご自愛くださいを組み合わせれば自然と意味が通るようになります。他の多くの言葉と違い、「ご自愛ください」は年間を通して使える便利な表現でもあるのです。
「ご自愛ください」と言われたら返事はどうしたらいい?
メールなどのやり取りの中で、相手から「ご自愛ください」と言われた場合にはどのように返事したら良いものでしょうか。
基本的にはお礼を言えば大丈夫ですが、相手から気遣いをいただいていますから、下記の例文のようにこちら側からも相手の健康に関して気遣いを見せるのがマナーと言えるでしょう。
- 「寒さも厳しい中ですが、○○さんもどうぞご自愛ください」
- 「温かいお気遣い、誠にありがとうございます。××さんにおかれましても、体調を崩されませんようお元気でお過ごしください」
- 「ご多忙の折かと存じますが、くれぐれもご自愛ください」
- 「ありがとうございます。△△さんもお体を労ってお過ごしください」
「ご自愛ください」の類語の例文とニュアンス
「ご自愛ください」の他にも、周囲の人を気遣う表現はたくさんあります。類語を覚えて適宜使い分けることができると、スマートな印象を与えることができます。それぞれのニュアンスを確認しながら、類語の例文を見てみましょう。
「お大事にしてください」は誰に対しても失礼のない口語表現
「お大事にしてください」も、「ご自愛ください」と同様に使うことができます。ご自愛くださいと比較すると、口語でよく使われる表現である分だけカジュアルな印象になります。最も使いやすく、また誰に対しても失礼のない表現ですから覚えておくと良いでしょう。
- 「寒くなってきましたが、お大事になさってください」
- 「病気明けですから、無理はせずお大事にしてください」
「お労りください」は「無理をしないように」というニュアンス
「お労りください」は「おいたわりください」と読みますが、「ご自愛ください」と同様に自身をいたわるようにお願いする、つまり相手を気遣う表現です。この場合、「ご自愛ください」よりも仕事や勉強などで根をつめがちな人に節制を促す、無理をしないようにお願いするニュアンスになります。「無理しないようにね」というようなニュアンスだと思えば良いでしょう。
- 「○○さんもご多忙の中かとは存じますが、どうぞお労りください」
- 「今日は早めに帰宅し、お労りください」
「ご健勝をお祈り申し上げます」は文書や公的スピーチで使われる
「ご健勝をお祈り申し上げます」は、健康を願う気持ちをこめたひとつの定型文で、文章の結びに使われます。「健康をお祈りする」の文語表現ですので、基本的には文書や公的なスピーチなどでしか登場しません。固い、かしこまった言い方になります。
また、「健勝」には個人の健康を願うという意味がありますので、団体や企業を相手に使うことはなく、「皆様のご健勝をお祈り申し上げます」と一人ひとりに向けて使われます。
「おいといください」は「煩わしいことを避け静養してください」というニュアンス
「おいといください」は「お厭いください」と書き、「お体をいたわり、大事にしてください」の意味になります。「お労りください」に近いニュアンスになりますが、こちらは「煩わしいことを避けて静養してください」というニュアンスです。
「厭う」は「嫌う、避ける」というネガティブな意味がありますので、あまり漢字表記にしない方が無難です。しかし、ひらがなで入力すると自動変換や入力補助で「おいといてください」になってしまう場合がありますので、使用の際はチェックを忘れないようにしてください。
「ご自愛ください」は目上の方や同僚などに幅広く使える
「ご自愛ください」はビジネス文書でよく見られる表現ではありますが、使える機会に意識して使うようにしていかないとなかなか使えないものです。目上の方から同僚、部下など幅広い相手に対しても使え、季節も問わない便利な表現ですのでぜひ身につけておきたいものです。
誰でも気遣いを受けたり、心身の健康を気にかけてもらえたりするのは嬉しいものです。普段のやり取りでも「ご自愛ください」が自然に出てくるような気配り名人を目指して頑張ってみましょう。