「万障お繰り合わせの上で」というフレーズを使ったことがありますか
社会人のビジネスマナーでも、特に文書や手紙などの書き言葉については難しい感じる人が多いです。書き言葉とは言っても、スピーチなどの場面になれば話し言葉でも書き言葉のような言葉遣いをすることがありますので、人前に出て話す機会がある人ならしっかり身につけておきたいものです。
様々な式やイベントへの参列などを依頼する際に使う「万障お繰り合わせの上で」という言い回しもそういった種類の言葉ですが、最近は使ったことがなく、意味がよくわからないという人も少なくないようです。社会人の常識やマナーとして、「万障お繰り合わせ」は覚えておくにこしたことがありません。
「万障お繰り合わせ」ってそもそもどういう意味?
「万障お繰り合わせ」と言っても、目にしたことがない人や、目にはした気がするけど意味がわからないという人は、若い人を中心に少なくないと思われます。最近は様々なものがカジュアル化してきており、こうした文面を目にする機会が減ってきているからです。
「万障お繰り合わせ」は、「ばんしょうおくりあわせ」と読み、「万障お繰り合わせの上、ご参加をお願い申し上げます」などと使われることが多いのですが、簡単にその意味を説明するなら「都合をつける」という意味です。
「万障」は「万(よろず)の差し障り」という意味で、「都合がつかない様々な事情」を意味し、「お繰り合わせ」は「やりくりする、都合をつける」という意味を表します。これらを繋げることで、「どんな事情があろうと、可能な限り調整してください」という意味になるのです。
もちろん「万障お繰り合わせ」はかなり丁寧な敬語表現にあたりますので、気楽な雰囲気で使うというよりも、ここぞという大事な場面で使われることが多いです。結婚式などの式典への参加をお願いする場合や、また目上の方に大事な会議やイベントなどに参加してもらいたい時の依頼などで使われます。ちょっとした飲み会などへの参加で使うと大げさな印象を与えてしまいますので注意しましょう。
「万障お繰り合わせの上で」が使われるビジネスシーン
「万障お繰り合わせ」はどのようなシーンで使われることが多いのでしょうか。「万障お繰り合わせ」の使い方やシーンについて簡単に例で確認してみましょう。
「万障お繰り合わせ」は「の上で」とセットで使われる
「万障お繰り合わせ」は、「~の上で」とセットで使う言葉です。「万障お繰り合わせください」と使うことはまずありません。英語でいうイディオムのようなお決まりフレーズになりますので、確実に覚えておきましょう。
- 「来月の弊社新商品の発表会でございますが、万障お繰り合わせの上で、ぜひともご参加いただきますよう宜しくお願い申し上げます」
公的な文書で使われる
「万障お繰り合わせ」は、公的な文書において都合をつけることを依頼する文章の中で登場することが多いです。式典への参加や、イベントへの出席を呼びかける際などに用いられます。
- 「先日の取締役会での決定に従い、12月1日に臨時株主総会を開催することとなりました。株主の皆様におかれましては年末のご多忙の折、大変恐縮ではございますが、万障織り合わせの上、ご出席の程を何卒宜しくお願い申し上げます」
公的なスピーチなどで使われる
「万障お繰り合わせ」は、ほとんどの場合は文書で登場しますが、まれに公的な場でのスピーチなどでも使われる場合があります。
- 「本日は弊社の記者会見へのご参加、誠にありがとうございました。弊社では、来月に新商品の発表会を予定しており、本日の発表からまた一段進んだ内容やキャンペーンについてのご紹介をさせていただく予定です。万障お繰り合わせの上でご参加いただけましたら幸いです」
「万障お繰り合わせの上で」を使う際の注意
「万障お繰り合わせ」は大事な場面で使用するため、しっかり使い方を知っておきたいフレーズですが、注意しなければならないポイントがいくつかあります。
「万障お繰り合わせの上で」は人によっては不快に感じることがある
「万障お繰り合わせ」を使った言い回しは丁寧な言い方ではありますが、その本質は「都合をつけてほしい」という依頼や命令にあたります。そのため、それを受けることが不適切な場面においては慇懃無礼と感じさせてしまうかもしれません。
たとえば、DMなどで突然見ず知らずの企業から「万障お繰り合わせの上、弊社セミナーまでご参加くださいますようお願い申し上げます」と言われても、「何の義理があって都合をつけてまで参加しないといけないのだ!」と怒り出す人もいるかもしれないということです。
また、「万障」と書きますが、その「障害、差し障り」と呼んでいるものは立場を変えて考えてみると相手の「予定」ですから、自分の予定を障害呼ばわりされていい気にはなれない人もいます。
敬語表現なら失礼にあたらない、ということではありませんので、敬語表現を使うだけでなく、何を自分が言っているのかその意味をよく考えるようにしましょう。
「万障お繰り合わせの上で」はカジュアルな場には合わない
「万障お繰り合わせ」は社会人としてはしっかり覚えておきたいフレーズではありますが、あまりにもカジュアルな内容では使うべきではありません。逆にどうしても参加してほしい場合にユーモアとして使われる場合はありますが、基本的にはある程度の大事な場への参加を呼びかける場合に使う表現です。
- 「本日の昼のランチは、部長のおごりで裏手にあるラーメン屋さんに行くことになりました。営業部の皆様は万障お繰り合わせの上でご参加ください。大盛り、替え玉は自己負担となります」
同僚や後輩たちを誘うために「万障お繰り合わせ」を使う場合は圧力と取られないようにする
最近はパワハラという言葉が一般的に使われるようになっており、ちょっとしたことからでもパワハラだと騒がれてしまう可能性があります。
ちょっとした冗談のつもりで「万障お繰り合わせの上ご参加ください」と飲み会に誘ったとしても、強制力を持った言葉だと思われてしまう可能性があります。「万障お繰り合わせの上で」となると「何があっても都合をつけて」という強い依頼になってしまうのです。
そのため、同僚や後輩など、本来はそこまで気を遣う相手ではないにも関わらず、「万障お繰り合わせの上で」と丁寧な表現を使ってしまうと、何か裏があると思われたり、圧力を感じてパワハラと思われてしまうかもしれません。誰に何を伝えようとしているのか、身近な人にも細心の注意を払う必要があります。
シーン別「万障お繰り合わせの上で」を用いた例文
「万障お繰り合わせの上で」を誤解されないように使うために、「万障お繰り合わせ」を用いた例文をいくつか見てみましょう。
イベント・会への参加を依頼する場合の「万障お繰り合わせ」
- 「この度、長年営業部で活躍してくださったAさんが、本社の人事部に異動となり、新人教育を担当することになりました。長年の貢献に感謝し、支社営業部で盛大に送り出して差し上げたく存じます。つきましては、送別・壮行会を○月○日夜に行いますので、万障お繰り合わせの上ご出席をお願い申し上げます」
様々なイベントや会への参加依頼において、「万障お繰り合わせ」はよく使われています。上記の例文は正しい使い方をしていますが、ひとつだけ注意点があります。
「万障お繰り合わせの上で」という言い回しは、基本的に主賓に対しては使えない表現です。たとえば上記の文であれば、異動になったAさんに送る文面としては不適切です。Aさんが主賓なら、まずはAさんの予定を決めてから他の人に連絡するのがマナーであり、Aさんを含めて都合をつけるように言うのは失礼にあたります。面倒だからと、うっかり社内や部内の全体送信などでやってしまうケースは多いので注意してください。
イベントや式などの案内文などで使う「万障お繰り合わせ」
- 「今年度末のリリースを予定しておりました商品の新作発表会を下記要項で開催する運びとなりました。ご多忙の中かと存じますが、万障お繰り合わせの上、ご来場いただけますよう宜しくお願い申し上げます」
イベントや式などの案内文において、万障お繰り合わせは目にすることが多いです。ある程度の年齢になると、友人や知人からの結婚式の招待で見る機会が増えるという人もいます。
この例では、企業が主催する新作発表会となっていますが、企業主催の式典だけでなく、セミナーや記者会見などのちょっとしたイベントでも使えます。また、社内での運動会などのイベントでも使用可能です。
「万障お繰り合わせの上で」の類語表現を知っておこう
「万障お繰り合わせの上で」の使い方を間違えない、また意図するところを正しく伝えるためには、適切な言葉選びが欠かせません。「万障お繰り合わせ」の類語表現をいくつか紹介します。
「ぜひ」
「都合をつけて」とまでは言わないとしても、来て欲しいという気持ちを強く表現するなら「ぜひ」とシンプルに二文字つけるだけで十分です。「万障お繰り合わせの上ご参加ください」は大げさに感じるなら、「ぜひご参加ください」と言い換えてみると良いでしょう。
「奮って」
「万障お繰り合わせの上で」よりも「ぜひ」寄りのニュアンスになりますが、「奮ってご参加ください」というのもよく使われる言い回しです。「奮って」は「気持ちを盛り上げて、はりきって」というような意味になりますので、こちらの「来て欲しい」という部分は強調せず、相手の参加意欲を中心に表現する言い回しです。しかし、適切な立場や提案でないと、やはり「何でこっちが張り切らないといけないのだ」とかえって反感を買う恐れがありますので注意しましょう。
「よろしければ」
「万障お繰り合わせの上で」が相手に都合をつけることを強く薦める言い回しなら、「よろしければ」は弱めに都合をつけることを提案する言い回しになります。「万障お繰り合わせの上でご参加ください」が強すぎると思ったら、「よろしければご参加ください」としてみるのも良いでしょう。ただし、かなり弱めの表現になりますので、大事な場面で使うべきかはよく検討する必要があります。
「ご多忙の中恐縮ですが」
「万障お繰り合わせの上で」の意味するところは「都合をつけてほしい」ですが、「ご多忙の中恐縮ですが」という言い回しも、相手の忙しさを気遣いつつも結局は「都合をつけてほしい」という意味になります。そのため、相手に失礼がないようにしたい場合は「ご多忙の中恐縮ですが、ご出席をお願い申し上げます」などと使うのも良いでしょう。
また、「ご多忙の中恐縮ですが、万障お繰り合わせの上で」と続けて使うこともできます。「万障お繰り合わせの上で」だけで使うよりも、幾分丁寧な印象を与えることができますので覚えておくと良いでしょう。
「万障お繰り合わせの上で」と言われた場合の返事はどうしたらいい?
「万障お繰り合わせ」と丁寧な言い回しで都合をつけることを依頼された場合、その返事はどのようにしたら良いでしょうか。
都合をつけられる場合の返事
都合がつけられる場合は、特に返事について意識するべきことはありません。「お誘いいただき、誠にありがとうございます。参加させていただきます」など、普通に誘われた場合の対応で問題ありません。よほど適当な言い方をしない限りは、相手の意に沿った回答になりますので簡単な回答でも失礼にはあたりません。
都合をつけられない場合の返事
都合をつけることができない場合は、返答にも困ってしまうかもしれません。都合をつけるのが難しい場合は、「お誘いいただきまして、誠にありがとうございます。大変恐縮ではございますが、どうしても外せない用事がありまして、今回は欠席とさせていただきます」などと返事しましょう。
「都合をつけてほしい」と言われてはいますが、その理由を公表しないといけない理由はありません。ただし、全く何も説明なく「今回は欠席とさせていただきます」では相手に対して誠意がありませんので、誘ってもらったことに感謝したり、漠然とでも用事があって行けないことを残念に思う気持ちを伝えるようにしましょう。「万障お繰り合わせ」を使っていてもいなくても、社会人のマナーとしてこうした対応がスムーズにできるようになりたいものです。
「万障お繰り合わせの上で」は言葉のニュアンスに注意して使おう
「万障お繰り合わせの上で」という言い回しを使う場合は、その意図するところは単純ですが、その言葉が持つニュアンスには注意しておくべきです。特に今はちょっとしたことからパワハラや圧力を感じる人が多くなっていますので、くれぐれも定型的な言い回しだからと安心せず、そのニュアンスがシチュエーションや相手に適切なものか考えるようにしてください。意味を正しく理解し、適切な表現ができるように他の言い回しなども一緒に覚えておきましょう。