厚生年金と企業年金の違いを知って将来に備えよう
年金と聞くと「誰でも老後に毎月お金をもらえるもの」と簡単に解釈している人が大半ですが、この解釈は正しい解釈ではありません。年金には多くの種類がありますし、年金をもらうための条件や納付する保険料の金額、実際にもらえる金額や要件には様々な決まりがあります。
年金は制度を一言で簡単に説明出来るほどシンプルな仕組みではないため、厳密に説明しようとすればするほど長文で難しい書き方になってしまい、混乱してしまいがちです。ここでは、あえて簡単な言葉で厚生年金と企業年金について、違いやリスクの対応策についてご説明します。
厚生年金と企業年金の違いを知る前に「年金」について理解しておこう
厚生年金や企業年金について理解する前に、まずは年金を知る上で大事な考え方がありますのでここでご紹介します。なお、分かりやすく例も掲載しておりますが、実際は複数の加入要件は受給要件があるため、あくまでも年金を知る前に理解しておくべきことの考え方の説明として理解してください。
年金の説明は「階層」で表現される
年金の仕組みを知るためには、まずは年金の「階層」について理解しておく必要があります。まず、年金は原則として1階部分、2階部分、3階部分というように「階層」が分かれています。なぜ年金が「階層」で表現されるかというと「階層」で表現することが一番シンプルで分かりやすいからです。
とはいえ、日常生活で「○○年金は○階部分」というような理解や解釈をしながら年金保険料を払ったり受け取ったりしている人は多くないため、まずはこの「階層」という考え方があるということを頭に入れておいてください。
年金の「階層」は何を意味している?
年金の「階層」は、年金の保険料を払う金額や、実際に受け取る金額について表現しています。分かりやすくシンプルに説明するために、以下のようなケースがあったと仮定してご説明します。
- 「1階部分の年金」に加入している人は、老後に年金を毎月5万円受け取れる
- 「2階部分の年金」に加入している人は、「1階部分の年金」に加えて、更に老後に年金を毎月5万円受け取れる
- 「3階部分の年金」に加入している人は、「1階部分の年金」と「2階部分の年金」に加えて、更に老後に年金を毎月5万円受け取れる
このようなケースの場合、1の「1階部分の年金」にしか加入していなければ老後にもらえる年金の金額は毎月5万円のみですが、3の「3階部分の年金」にも加入していれば、1と2の分も合わせて毎月合計で15万円もらえるということになります。
このように、加入している年金が多ければその分もらえる年金の種類が増えるというようなことを説明するために「階層」で表現されます。
年金は誰でも必ず受け取れるわけではない
年金は、ある一定の年齢になれば必ず受け取れるものであると勘違いしてしまいがちですが、誰でも必ず受け取れるというものでは決してありません。
例えば、「1階部分」の年金に該当する国民年金であれば、原則として25年以上の納付期間があることが必要です。そのため、自営業をしており国民年金の保険料を納めたことが全くないという人であれば、ある一定の年齢になっても年金は支給されません。
年金には支給されるための条件があるため、例えば国民年金の中でも老齢基礎年金と呼ばれている年金であれば、65歳以上でなければ受け取ることが出来ません。その他にも、日本に住んでいなければ日本の年金制度は適用されないため、原則として保険料を払う義務もない代わりに日本の年金は支給されないというような決まりもあります(注1)。
「年金は老後になったらもらえるもの」と思ってしまいがちな理由は、一般的に社会人となる20歳前後から60歳頃まで会社員として働く人が多いからです。20歳前後から60歳頃まで会社員として働いていれば、毎月の給与から会社側が年金の保険料を天引きして国に納めており、年金の支給要件を満たすことによって原則として年金を受け取れます。
厚生年金とは?
厚生年金とは、民間の企業で働く会社員を対象としている公的年金制度のことであり、年金の考え方の「階層」で表現すると「2階部分」に該当するものです。
民間の企業で働いていると厚生年金を納めているという意識はあまりありませんが、これは会社側が手続きを行ってくれているためです。厚生年金の保険料は労使折半と言って、会社側と従業員である被保険者の折半で保険料を払うことが出来ます。
ちなみに、年金の階層の考え方の「1階部分」は国民年金に該当しておりますが、厚生年金には「1階部分」の国民年金も含まれているという考え方になります。そのため、民間の企業で働いていれば、自動的に「1階部分」の国民年金と「2階部分」の厚生年金に加入しているということになります。
なお、国民年金は収入に関わらず保険料は定められた一定の金額を納付する決まりとなっておりますが、厚生年金は原則として収入に応じて納付する保険料が高くなっていく仕組みです。そのため、収入が少ない人よりも多い人のほうがたくさんの保険料を納付する必要がありますが、反対に、実際に年金を受け取る時には、たくさん保険料を納付した人のほうが多くの年金を受給出来る仕組みです。
企業年金とは?
企業年金は、企業が運営する年金制度のことで、分かりやすく言えば「退職金を退職後に毎月分割して受け取る」というような制度です。年金の「階層」の考え方で言えば「3階部分」に該当するものになります。企業が運営する年金制度ということは、言い換えれば、国が運営している厚生年金や国民年金のような公的年金制度ではないということです。
国民年金や厚生年金の場合は公的年金制度のため、納付の要件や受給の要件が細かく厳密に定められています。例えば「Aという企業で働いて、○○円の保険料を○○年間納付した」ということが分かれば、年金を受給出来る年齢になるというように、受給要件を満たした際に「△△円の年金が毎月もらえる」というように計算することが可能です。そして、ここで言う「Aという企業」が仮に「Bという企業」であっても「Cという企業」であっても、計算方法は変わりません。
一方、企業年金は、企業が運営する年金制度ですので、企業ごとに制度が異なります。また、企業年金制度自体が無い会社のほうが多いため、制度の無い会社で働いている場合は企業年金もありません。
企業年金の種類と特徴
企業年金がある会社で働いている人は、企業年金にはいくつかの種類があることを覚えておいてください。その中でも代表的なものをご紹介します。
確定給付
「確定給付」は名前の通り、給付の額が確定されているものです。例えば、毎月5万円ずつ退職金を確定給付として毎月積み立てておくと、退職した後に年金と同じように毎月一定の金額がもらえるというような仕組みです。確定給付の場合は、老後に毎月もらえる金額がいくらであるかが明確に分かるため、老後の計画を立てやすいと言えます。
共済
大手の有名企業であれば自社で企業年金制度を運用していることがよくありますが、中小企業であれば、退職金も企業年金制度も全くないという会社も珍しくありません。中小企業で企業年金制度を設けていない会社が多いのは、自社で運用するほどの余力が無いということが理由の一つとしてあげられます。
こういった場合に使われることがあるのが共済という制度です。共済は、自社以外の外部である企業に企業年金制度を運用してもらうような仕組みです。この場合も確定給付と同じく、原則として毎月一定の金額を納めておけば老後に毎月一定の金額がもらえます。
確定拠出
確定給付や共済の場合は、積立てる金額やもらう金額のパターンが決められているという制度でしたが、確定拠出の場合は、企業や個人で毎月一定の金額を掛け金として出した上で、その金額を自ら運用するという制度です。確定給付や共済との違いは、運用方法によって将来受け取る金額が増える場合も減る場合もあるということです。
厚生年金と企業年金を受け取る資格があってももらえるとは限らない
厚生年金や企業年金に入っていれば安心であると考えてしまいがちですが、実際は安心することは出来ません。
年金の受給要件を満たしていなければ年金を受け取ることは出来ませんし、仮に受給要件を満たしていたとしても、老後に生活費が年金の受給額を上回ってしまって、毎月貯金を切り崩さなければならないということも十分にあり得ます。
また「3階部分」である企業年金に加入していた場合でも、会社が倒産してしまえばもらえる金額が減少することも十分にあり得ます。どんな大企業でも、30年後や40年後に必ず会社が存続しており、企業年金制度によって受け取る年金の金額が必ず保証されるということはありません。
更に、現時点では65歳から年金が受給出来るという要件だったとしても、数十年後には仕組みが変わって年金を受け取れる年齢や金額が変更になっている可能性もあります。
対応策としては、年金に頼りすぎないということです。つまり、自分で資産を形成したり、貯金をしておいたりするというように、老後のためのお金をきちんと確保しておくということが重要です。
年金手帳は大切に
国民年金、厚生年金に加入した際に交付されるのが年金手帳であり、基礎年金番号等が記載されたものです。加入制度の変更や、年金請求などの手続きに必要なものです。1997年から発行されたものについては青色の表紙に統一されましたが、それ以前に発行されたものにはオレンジ色や黄土色のものがあります。以前は厚生年金番号と国民年金番号の2種類がありましたが、現在は国民1人にひとつが割り当てられる基礎年金番号に代わり、共済組合を含めて、加入している年金制度に変更があっても基礎年金番号は変わりません。
厚生年金・企業年金ともに安心は禁物
厚生年金も企業年金も、加入していれば老後は安心というわけでは決してありません。受給要件を満たしていなければ年金がもらえない可能性もありますし、年金の保険料を納付した期間や金額が少なければ少ないほど、老後に生活出来るほどの年金がもらえない可能性も十分にあり得ます。
これは、厚生年金でも企業年金でも同様です。年金に加入しているからといって老後が必ず安泰であるわけではないため、リスクを見極めた上でライフプランを立てるようにしましょう。
参考文献