営業ではヒアリング力(聞く力)が大事
営業の世界では、話すことに対して注目が集まることが多いのですが、実際には営業の場面ではより大事なのは「聞く」ことです。
顧客が何を望んでいるのかを正確に知り、それをもとにして効果的な提案を出したり、情報を持ち帰って作戦を練り直すことが成約率を高めるためには必要不可欠です。営業でヒアリングを効果的に行うためのポイントを考えてみましょう。
営業でヒアリングが重要視される理由
営業でヒアリングが大事な理由は、物を売り込むだけの営業は嫌われるためです。
お腹が空いたときに食堂に行くように、本当に欲しい人なら自分で買いに来るものです。しかし、そうではなく営業を必要とするのは潜在的・顕在的なニーズを発掘し、それを満たすことができる自社製品やサービスを知らせて購入してもらうためです。
営業ではニーズを発掘するということが第一にあり、そこに提供している商品やサービスをあてはめていく必要があります。そのため、ニーズを聞き出すことができずにただ自社商品の説明をしても、成約につながることはほとんどありません。
営業におけるヒアリングを行う目的
営業ヒアリングで何を聞き出すかは非常にデリケートな問題ですので、何でも根ほり葉ほり聞けば良いということはありません。
ヒアリングの目的は、自社の商品やサービスに関する二―ズを把握することにありますが、素直に「うちの商品はいかがですか?」と聞いても成約に結びつくことは少ないものです。そのため、まずは相手の抱えている「課題」を発掘する必要があります。
例えば、会社で使っているパソコンのソフトを買い替えさせるためには理由がなければなりません。ソフトを交換するというのは費用もかかりますし、設定変更やデータの移し替えなど様々なコストが発生するものです。そういったコストをかけてでも買い替える理由がなければなりません。
「うちで使っているソフトは高い」「動作が遅い」など、明確に課題が見えているのであれば買い替える可能性は十分にありますが、そういった課題を認識しているとは限りません。こういった課題を引き出すための質問や情報提供を行っていくことがヒアリングのコツとなります。
業界におけるソフトの平均的な価格帯や評判などを知らせたり、自社の商品の性能を知らせるのはそういった課題をあぶりだすための方法のひとつです。売り込むためでなく、相手に課題を認識させるために質問をしたり情報提供をするということをまずは考えましょう。
営業マンがヒアリング力を高める方法
営業で使えるヒアリング力は残念ながら急に高まるものではありません。ただし、効率的なヒアリングや、ヒアリングの精度を高める研究をするために有用なフレームワークは多くあります。そのうちのひとつがSPIN法です。
SPIN法とは、4種類の質問を効果的に使うことで営業を効率的に進める方法です。4種類の質問には、それぞれ「状況質問」「問題質問」「示唆質問」「解決質問」と呼ばれるものがあります。
状況質問(Situation Questions)
状況質問は相手の状況に関する質問をします。ヒアリングのイメージに最も近いものですが、この状況質問が多いと答える側もうんざりしがちです。
できるだけ事前に調べられることは調べて、商談の際にはこうした状況質問は少なくすることが大切です。
問題質問(Problem Questions)
問題質問は相手の問題を明確にするための質問です。「何か困っていませんか?」といった漠然なものではなく、「御社においては、Webサイトの運営に関して十分な予算がないとお感じなのですか?」と、何が問題なのか具体的に認識させることが大切です。
状況質問の中で愚痴のようなネガティブな発言が出たのなら、そこを切り口として問題質問をぶつけることで、営業相手のニーズを明確にすることができます。
示唆質問(Implication Questions)
問題質問で出ている問題について、その問題から生じる別の問題などを指摘することによって相手に問題の深刻さを再認識させるのが示唆質問です。
「Webサイトの運営に予算が回らないということは、サイトのデザインなども陳腐化しますし、新卒採用などではけっこう響くんじゃないでしょうか?」などと質問の形を借りた指摘をします。示唆質問は質問をするとともに、知識・見識を表す機会にもなり、示唆質問が的確な営業マンは高く評価されます。
解決質問(Need-payoff Questions)
解決質問とは、「その問題をどのように解決したいですか?」と問うことによって、相手の問題解決に向けたビジョンや考えを聞き出す質問です。
その解決策に提案したい商品やサービスが合致するなら、効果的な提案となりますし、ハッキリしていないようなら一緒に考える中で提案を出していくこともできます。
ポイントは相手に「意志表示させる」ことです。自分で意思表示をすると、解決に向けて前向きに意識するようになり、こちらからも提案がしやすくなります。
ヒアリングは「過去」「現在」「未来」で考える
営業ヒアリングでは現在の課題を聞き出すことが大事ですが、現在の状況だけを聞けば良いのではありません。
現在に課題があると認識していても、解決のために動かないのは何か理由があるからです。過去や未来に目を向けさせることで、現在の課題の解決について考えさせることができるようになります。
法人用の携帯電話の営業であれば、それまでの社内における携帯電話の使用状況などを聞き出し、その上で現在の状況が望ましいものかを考える必要があるでしょう。また、「今後はどのようにしていきたいのか」ということを具体的に考えさせることで、効果的な提案ができるようになります。
質問という形を取りますが、現在の課題を認識させることを目的とすることが大事です。そのためには、周到なトークシナリオの準備が必要となります。ただでたらめに過去や未来についてのことを探るのではなく、自然な流れの中で聞き出すことが大事です。
過去、現在、未来、どこから質問がスタートしても良いですが、基本的には過去→現在→未来→現在という流れがスマートです。
「過去からどのように取り組んでこられましたか?」→「現在はどのような状況なのですか?」→「将来のビジョンとしてはどのようにお考えですか?」→「現在の状況は、ビジョンに向かって着実に進んでいるとお考えですか?」という流れで考えてみると良いでしょう。
営業におけるヒアリングではコミュニケーション能力が問われる
テレビを見ていると、マスコミが厳しい発言や指摘をすることで相手の失言を誘うようなシーンがありますが、営業でそのようにすると商談が一気にダメになってしまいます。
上手なヒアリングは、相手が気分良く課題やビジョンを話すことができるようにすることです。相手に気分良く話をしてもらうためには、コミュニケーション能力が必要となります。
1 相槌・リズム
営業でヒアリングをする際、特に大事になってくるのが相槌や話のリズムです。
人によって話しやすいスピードは違います。自分のペースではなく相手のペースに合わせて進める必要があります。
相槌は相手の話を促す効果があると共に、時には自分の考えを整理するための間を作るためにも使えます。上手に相槌を打つことで話が進みますが、相槌が上手くないと話が止まりがちで気まずくなりますので注意しましょう。
2 ミラーリング・ペーシング
コミュニケーション能力が高い人が行っている行動に、ミラーリングやペーシングと言われるものがあります。
ミラーリングというのは、相手に合わせて同調するというものです。相手が笑顔を見せたらこちらも笑顔を見せ、前に乗り出してきたら同じく前に乗り出します。それだけで相手に安心感を与えたり、親近感を持たせる効果があります。
ペーシングは、相手の話すスピードや声の大きさなどに合わせて話すことで、「相手のペースで」話を進めさせる手法です。相手が安心して話すことができるようになります。
3 ポジティブな言葉を使う
営業においては、ネガティブな言葉をなるべく使わないようにすることが大切です。当然、ネガティブな要素が無ければ商品やサービスの提案はできないのですが、商談をしている相手に話してもらうためには相手を褒めることが大切です。
「御社にはこのような課題がある中で、●●さんは本当に真剣に解決策を模索していらっしゃるのですね」と、課題はネガティブに捉えつつも、担当者を立てる表現をすることが大切です。
気分が良くなると人は饒舌になりますので、気分良く話ができるようにポジティブな言葉で接しましょう。
ヒアリングが営業の成功を左右する
ヒアリングによってどのような情報を得られるかによって、営業の成功は大きく変わってきます。どんなに優秀な営業マンだとしても、情報なしに商品やサービスを販売しようと思えば、押し売りのようにするしかないからです。強引な営業は、短期的には成功しても長期的には失敗に終わります。
ヒアリングのメリットは、営業に必要な情報を得つつ、顧客との信頼関係を作り、長期的な付き合いにつながりやすいことにあります。ヒアリングは営業効率を高め、営業の成功を左右する重要な要素です。営業マンはぜひヒアリングの能力を磨いてください。