「もらう」の敬語で正しい表現は?ビジネスに相応しい使い方・例文
「もらう」の敬語表現を正しく知らないと、ビジネスシーンでも相手に失礼になってしまうことがあります。「もらう」の敬語にあたる表現はたくさんありますので、ニュアンスや使い方をわかって、表現のバリエーションを増やしましょう。
「もらう」の敬語は間違った使い方をしていることも多い
社会人になれば、仕事の中で様々なものを受け渡すことが多くなりますが、その時には「もらう」とは言いませんよね。ビジネスマナーが求められる場面では、正しく敬語で表現しないと相手への敬意や感謝に疑問を持たれてしまいます。
「もらう」の敬語表現は頻繁に使いますが、実は間違って使われていることも多く、特に若いビジネスパーソンや新入社員、就活生は注意が必要です。言葉の種類も多いので、様々なバリエーションの言葉を知っていると、間違いも少なく、また聞き手も理解しやすくなります。ここでは、「もらう」の正しい敬語表現について学んでみましょう。
「もらう」の敬語表現には種類がある
「もらう」の敬語表現については、国語の授業などで習ったことがあると思いますが、実際に使い分けるのは簡単ではありません。普段から意識して使うことが大切です。「もらう」の敬語表現を紹介します。
「もらう」の尊敬語は「お受け取りになる」「お納めになる」
「もらう」の尊敬語は「お受け取りになる」「お納めになる」が正しいです。一般的には「お受け取りになる」で良いですが、お金などの大事なものは「受け取って所定の場所にしまう」意の「お納めになる」が使われることがあります。
「明日の会議の資料を部長がお受け取りになられた」
「今年度の会費をお納めになられた」
「もらう」の敬語について、「もらわれる」と尊敬の助動詞「れる」を使って表現する人もいますが、これは受け身表現だと誤解を招くこともあるのであまり良い使い方ではありません。ここに、良い例文とNG例文を挙げておきます。
×「部長が養子としてもらわれました」
○「部長が養子となられました」
○「部長が養子として引き受けました」
また、尊敬語を作る表現手法である「お~になる」を用いて「おもらいになる」という表現もできなくはないですが、いたずらに丁寧になると以下の例文のように文意が伝わりにくくなるため、あまり使われることはありません。
△「おもらいになる予定だった品々を断られました」
「もらう」の謙譲語は「いただく」「頂戴する」
「もらう」の謙譲語は「いただく」「頂戴する」になります。謙譲語は、自分がへりくだることによって相手を高める敬語表現ですので、自分や自分の属する組織が主語のときのみ使えます。「もらう」の謙譲語は「受け取る」という意味で使う場合だけでなく、いろいろな場面で使えます。
「お話になっていた商品のサンプルをいただきました」
「準備不足がたたり、営業先から宿題を頂戴することになってしまいました」
「いただく」は「頂く」「戴く」とどちらの漢字を使っても構いませんが、次の例文のように同じ文章の中では漢字を統一するようにしましょう。「戴く」の方が丁寧な印象を与えますが、身近な人に使うには大げさな印象を与えることがありますので注意してください。
×「先日頂きました書類ですが、少々修正して戴けませんか?」
○「先日頂きました書類ですが、少々修正して頂けませんか?」
○「先日戴きました書類ですが、少々修正して戴けませんか?」
「賜る(たまわる)」という言葉も「もらう」の謙譲語として使うことができますが、文語的な表現で、また非常に高貴な方からもらう時に使う強い尊敬を示す言葉です。そのため、日常的に使うのは少々大げさと考えられます。「平素たくさんのご愛顧を賜りまして、厚く御礼申し上げます」のように挨拶文など、定型文的な表現の中で使われることが多い表現です。
「もらう」の丁寧語は「もらいます」
尊敬語や謙譲語ほど固くない表現が望ましい場合は、「そのアイデア、私がもらいます!」というように「もらいます」と「ます」をつけることで「もらう」を丁寧な表現にすることができます。ただし、相手によってはぞんざいな扱いを受けていると感じることがありますので、ビジネスシーンにおいては基本的には尊敬語や謙譲語を使いましょう。
「~してもらう」の場合は「~していただく」
「もらう」は受け取る意外にも、「~してもらう」などの使い方をする場合があります。この場合、敬語表現としては次の例文のように「~していただく」という形で使います。
「先方の工場の見学を手配していただきました」
「今回、プロジェクトに協力いただけることになった○○大学のA教授です」
「いただく」は謙譲語表現になりますが、同じ謙譲語表現の「頂戴する」は使うことができません。「~して頂戴」という言い方はありますが、丁寧な言葉でも命令になりますので、目上の方やビジネスシーンで使うはあまりふさわしくありません。
○「お手数ですが、あそこの窓を閉めていただけますか?」
△「お手数ですが、あそこの窓を閉めて頂戴」
「もらう」の敬語表現「いただく」の使い方
「もらう」の敬語表現でよく使われる「いただく」ですが、本来は謙譲語ですので自分が主語になる場合でないと使うことはできません。しかし、「ご利用いただきまして、誠にありがとうございます」や「お菓子をお送りいただきましてありがとうございます」という使い方がされていることがあります。
これらは本来、「利用してくれてありがとう」「お菓子を送ってくれてありがとう」という意味になりますので、「もらう」の敬語表現である「いただく」ではなく、「くれる」の敬語表現にあたる「くださる」を使って次のように使うべきです。
「ご利用くださいまして、誠にありがとうございます」
「お菓子を送ってくださいまして、ありがとうございます」
しかし、現在はどちらの使い方でも良いという認識になっています。特に違和感なく受け取る人が多いことや、自分からの観点で話していると考えられるということで使われているようです。
「いただく」は「食べる」という意味が基本になる謙譲語
食事の際には「いただきます」という挨拶をしますが、「お食事をいただく」という表現もあります。この時は「食事をもらう」ではなく「食事をとる、食事を食べる」という意味になります。
「営業中にA社の●●さんに偶然会い、近くの喫茶店でコーヒーをいただいた」という内容なら、「コーヒーをご馳走になった」という意味にもなります。
食事が関係する「いただく」は、「食べる」という意味が基本になる謙譲語として使います。そのため、例えば「首相がコーヒーをいただいた」という使い方をする場合は、主語が「首相」という自分ではない人になりますので、「首相がコーヒーをもらった」という意味だと解釈します。実際に「課長、もうお昼はいただきましたか?」という間違った使い方をする人も多いので注意してください。
「もらう」の敬語を使った文例
いろいろな形で、「もらう」の敬語を使ってみて、自然な形で言葉が出てくるようにしましょう。いくつかの文例を確認しながら、ビジネスシーンに合った使い方を覚えましょう。
「もらう」の敬語:「受け取る」という意味の場合の文例
「受け取る」の意で使うケースは非常に多く、様々な表現が可能です。主語が誰なのかを意識しながら、尊敬語や謙譲語をうまく使い分けましょう。
- 「先日、弊社を訪問されたAさんから、御社の10週年記念の記念品をいただきました。ありがとうございます。」
- 「先日お願いしておりました提案書のフォーマット、いただくことができました。ありがとうございます」
- 「3日以内に商品をいただくことができれば、店舗のオープンまでには陳列が可能です」
- 「社長が先日、社を代表して市長から感謝状を受け取られた」
- 「A部長はクレームが発生した現場に行き、状況報告書をお受け取りになった後、顧客と面談して謝罪を行われた」
- 「皆様がお受け取りになられた資料の中には、弊社の沿革や特徴についてのDVDが同梱されています」
- 「こちらが先月の売上報告書になります。どうぞお納めください」
- 「先日ご確認をいただきました報告書の完成版を添付いたします。ご査収ください」
- 「私事で大変恐縮ですが、身内の介護のため、半年間の介護休暇をいただくことになりました」
- 「来週のどこかで、プレゼンについて相談する時間をいただけませんか?」
- 「定年退職されるAさんへ記念のアルバムをお渡ししたく、部内の皆様のお写真を頂戴できればと存じます」
- 「先程はご連絡ありがとうございました。次回の商談のお時間について拝受いたしました」
- 「資料を受け取りました。早速読ませていただきます」
- 「ご予約を賜りまして、誠にありがとうございました」
- 「日頃からご厚情を賜りまして、社員一同大変感謝しております」
- 「今度のA社の案件で、プロジェクトリーダーの役割を賜りました」
「もらう」の敬語:「~してもらう」という使い方の場合の文例
「~してもらう」という使い方では、主語は自分になることはありませんので注意してください。以下の文例のように、基本的には「いただく」を使います。
- 「社長にお昼ごはんをご馳走していただいた」
- 「A先輩にパソコンのウィルスを駆除していただきました」
- 「交通費を支給していただけませんか」
- 「お世話になっております。商品Aの納期についてですが、弊社工場でトラブルがあり、納期内の対応が難しそうです。大変恐縮ですが、一週間伸ばしていただくことはできないでしょうか?」
「もらう」の敬語:長文の場合の使い分け例
知っている「もらう」の敬語表現のバリエーションが少ないと、長文になるほど理解しにくい内容になってしまいます。ここで、長文で敬語「もらう」の使い分けのNG例と良い例を紹介します。
お礼と依頼をするメール例文(NG例)
いつもお世話になっております。○○社の山田です。
先日は弊社の商品説明会にご来場いただきまして、誠にありがとうございました。
たくさんの方々にご出席をいただいたことで、イベントも大変盛り上がり、関係者一同胸を撫で下ろしているところです。A様からは大変嬉しいお言葉もいただけましたので、次回以降もさらに頑張っていきたい所存です。
ところで、説明会の後の個別相談でいただきました、弊社のソリューションの適用の可否についてですが、技術の方から添付のヒアリングシートにご記入をいただかないと判断できないと言われてしまいました。
こちらの準備不足でお手数をおかけしてしまい大変申し訳ございませんが、ヒアリングシートのご記入をいただけますでしょうか?
何卒、宜しくお願い申し上げます。
この例文では、都合6回も「いただく」が使われており、様々な意味で使われています。ミスリードを促すようなものは無いとしても、同じ表現が増えると理解しにくく、文章のリズムも悪くなりますので、できるだけピッタリくる表現を選びましょう。
お礼と依頼をするメール例文(良い例)
いつもお世話になっております。○○社の山田です。
先日は弊社の商品説明会にご来場くださいまして、誠にありがとうございました。
たくさんの方々にご出席を賜ったことによりイベントも大変盛り上がり、関係者一同胸を撫で下ろしているところです。A様からは大変嬉しいお言葉も頂戴しましたので、次回以降もさらに頑張っていきたい所存です。
ところで、説明会の後の個別相談で承りました、弊社のソリューションの適用の可否についてですが、技術の方から添付のヒアリングシートにご記入いただかないと判断できないと言われてしまいました。
こちらの準備不足でお手数をおかけしてしまい大変申し訳ございませんが、ヒアリングシートのご記入をお願いできますでしょうか?
何卒、宜しくお願い申し上げます。
「もらう」の敬語の類似表現
「もらう」という言葉はビジネスシーンではあまりにも砕けた言葉ですので、それほど使うシーンは多くありません。類似の表現をたくさん知っていると、シーンに合わせて様々な表現ができます。
査収
「ご査収ください」のフレーズでお馴染みの「査収」も「受け取る」の意があります。ここでの「受け取る」は、ただ受け取るというよりも「受け取って確認する、目を通す」というニュアンスになります。そのため「エクセルのファイルを添付します。ご査収ください」のように、資料やデータなどを扱う時に使います。
受領、拝受
「受け取る」という意味で「もらう」を自分が使う場合には、「受領いたしました」「拝受いたしました」というような名詞的な表現にすると良いでしょう。丁寧でビジネスライクな雰囲気になり、口語でもメールでも使えます。
- 「受領いたしました。返金がある場合は、後日改めてご連絡させていただきます」
- 「先日会議で配布されていた資料を拝受いたしました。手配いただきありがとうございます」
「もらう」の敬語は「いただく」を中心に様々な表現がある
「もらう」の敬語表現は、自分がもらう場合に使う「いただく」が最も使用頻度が高いですが、その他にも様々な表現があります。語彙が少ないと、ビジネスシーンなどで使う際に「いただく」ばかりの内容になってしまう場合がありますので、ここで紹介したことを参考に、バリエーション豊富な敬語表現を身につけておきましょう。
また、「いただく」は「もらう」という意味の使い方だけでなく、様々な使い方がありますので、間違った使い方をしていないかよく確認して、正しく使えるようにしてください。