美化語とは?「お」「ご」で上品を身につけよう
美化語という日本語をご存知でしょうか。みなさんが何気なく使っている日常会話の中にも美化語は潜んでおり例示すれば理解してくれる方は多いです。しかし、美化語を間違って使っている方が多いことも事実です。恥をかかないために美化語についてまとめました。
美化語で上品を備えよう
日本語には様々な言い回しがあり、語彙に富んでいる言語です。敬語も使う相手や主体によって用法が異なりますし、日常的に使う丁寧語も広く浸透しています。マナーや敬語に注意を払うことで人間関係が良好になるというよりも、知的になり、文化的な営みを醸し出してくれます。
中でも美化語という敬語の一種に関しては、他の言語には見られないような日本語独特の雰囲気を感じさせるものがあります。事実、日本語学校に通う海外の方たちにとって理解しにくい表現ですし、日本人も美化語を誤って使うケースが多発しています。
敬語はもちろん、美化語は正しく使うことで自然な姿勢を保ちつつ、キレイな会話を行うことが可能となります。キレイな会話を行うことで、ネガティブな内容に対しても好感が持てることは多々あり、ポジティブな内容に関しては上品さを備えさせることができるものです。どのようにして美化語というものが成り立っているのかを今一度振り返り、自身の言葉を見直してみることにしましょう。
美化語の敬語としての立ち位置
辞書を引いてみると、美化語というのは元からあった敬語ではなく、謙譲語から派生して出てきた言葉であることが分かります。同じく、謙譲語から派生して出てきた言葉には丁重語という言葉もあります。
美化語とは何かと問われれば、話している本人が聞き手に対して上品かつ丁寧であるという印象を持たせる言葉を指します。上品かつ丁寧というのはどういうことかというと、名詞だけでは乱暴に聞こえる言葉に対して、敬意をもって扱い、柔らかい音をつけることに他なりません。
例えば、「茶」や「飯」という言葉を使う際に「茶を下さい」や「飯を下さい」では、聞き手としてはいくら身分が下であっても心地よいものではありませんし、乱暴に聞こえてしまいます。そこで、美化語を取り入れることで柔らかい印象にします。
「お茶を下さい」「ごはんを下さい」と言った言い回しであれば、素直に受け止めることができます。「ごはん」という言葉では、ひらがなで表記することでさらに柔らかい印象を与えることができます。
美化語には女房言葉、つまり女性の方が好んで使う表現から由来するものが数多く存在しています。ゆえに、男性があまり使いたがらない表現も美化語にはあります。
美化語のもう一つの謙譲語仲間「丁重語」
美化語と同じく謙譲語から派生された丁重語は、話の聞き手が話し手や話し手の身内に当たる人よりも目上であるように表現する敬語の一種です。丁重語の特徴としては必ず丁寧語「ます」を用いることにあります。
謙譲語との区別というのは丁寧語「ます」が伴うことだけでなく、動作の受け手が必ずしも存在しないという点にあります。丁寧語「ます」の代わりに「おる」を使うこともできるため、非常にバラエティに富んだ表現技巧です。
例えば「自宅にいます」というのは日常会話として用いますが、上司や先生に伝える場合は「自宅におります」と伝えるほうがキレイです。自分の動作に対して謙譲語を用いることはできませんが、丁重語であれば文体を綺麗にしながら丁寧に伝えることが可能です。
美化語の「お」や「ご」の付け方
美化語の多くは、「お」や「ご」をつけてきれいに表現しようとします。もともとは「お」も「ご」も同じ漢字であったものですが、読み方がそれぞれの場面で異なってきました。先述しましたが、美化語には女房言葉の影響を受けている言葉たくさんあります。しかし、男性が求める美しさというものも確かに存在しており、「お」や「ご」の読み方の違いは、男女の好みによって移り変わってきたのではないかという見方もあります。
しかし、読み方の正しさを男女の好みで判別しろと言われても正確性にかけてしまいますし、何より美しさの基準を男女で分けるということには違和感を覚えます。また、そのようなことを判別せずとも、美化語の「お」や「ご」の望ましい付け方は分かります。
「お」は柔、「ご」は堅固
「お」という言葉に柔らかさを求めたり、「ご」という言葉に堅さを求めるということではありません。美化語としての接頭辞をつけられる名詞にそもそもついており、「お」か「ご」はその名詞によって区別することができます。
後に来る語が、ひらがなあるいは漢字とひらがなで表すものであれば「お」を用います。厳密に言えば、送り仮名を要する漢字表記に対しては「お」をつけることが一般的です。例えば「お知らせ」「お見積り」「お参り」などがあります。
対して、送り仮名を要しない漢字表記に関しては「ご」を使うことが一般的です。例えば「ご謙遜」「ご来賓」「ご利用」などがあります。
つまり、送り仮名があって柔和なイメージにさせる場合は「お」、漢字のみで堅さを持つ場合は「ご」を用います。もちろん例外もありますが、ひとまずはこの基本的なルールをベースに考えておくとよいでしょう。
美化語の例文
美化語については、丁寧さを意識するあまり「おフランス」と言った過剰な敬語となって表れることが多いです。そのため、今回は例文を交えながら、どんな間違った美化語があるのかについてみておきたいと思います。
「そんな言い回しする奴なんてどこにもいない」と笑ってもらえれば、自分ではしなくなるものですので、できるだけ笑えるような例文を見ておきましょう。
公共物編
美化語で間違いの多いものには、公共物を持ちあげるケースが少なくありません。例えば、以下のような例文があります。
- 今日はお役所に行かなければなりません
- 御会議室はこちらですか
お役所という言葉は役所を面白おかしくした言い方に当たり、風刺の際によく用いられる言い方です。しかし、美化語としてはふさわしくありません。また、会議室に「ご」をつけるというのも変です。何が変なのかというと、公共物というのは皆のものであり上下関係はないはずです。そのため、平坦な言い方にしておくことが望ましいとされます。
動植物編
案外しっくりとくるものが多いのが動植物です。例えば、「お花」という言葉はよく耳にします。しかし、一般的に動植物に対しては美化語を用いないことになっています。「お花」に関しても元々は華道のことを指していたものが、美しい花の風景にまで拡張されたと言われています。
- お犬さまがお通りです。
- キレイなおバラですね。
基本的に動植物に関しては美化語として用いることはできず、聞き方によっては滑稽に聞こえるため、注意が必要です。
外来語編
- ちょっとおトイレをお借りしますね
なにが変なのかお判りでしょうか。トイレに「お」という言葉はふさわしくありません。通常は「お手洗い」、古風な言い方であれば「ご不浄」などがあります。外来語というのは固有名詞になっていますので、それ単体のものとして扱うために余計な語句はつけないことになっています。
美化語の種類
簡単な例文ばかりを見てきましたが、実は正しいと思っていた美化語が違ったなんて言うことは少なくありません。なぜなら、美化語には慣用的に広まってきた言葉が多くあるからです。そのうち「おトイレ」も美化語の仲間入りをするかもしれません。
美化語の種類というのは結構多いもので、すべて把握するのは難しいです。しかし、頻繁に使われる、特に慣用句として美化語になっている言葉に関しては、あらかじめ知っておかなければ理解できなくなってしまいます。
代表的な美化語
まず知っておいてほしい美化語は、元の言葉が原形をなくしているものです。ほとんど知っている方が多いとは思いますが、ここで確認しておきましょう。
- めし・・・ごはん
- 汁・・・おつゆ
- 水・・・おひや
- うまい・・・おいしい
- 腹・・・おなか
- 便所・・・お手洗い
美化語には、元々の意味は損なわないものの、表記がまるで異なるものもあることがご理解いただけたでしょうか。このような美化語は多くありませんのでご安心ください。知っておくことで格式がグッと上がる美化語もありますので、併せて紹介しておきます。
- 名前・・・ご尊名
- 母・・・ご尊母
- やり直し・・・ご破算
敬語の区別
美化語はあくまでも謙譲語から派生した言葉ですので、正しく使うためには元となった敬語についても理解を深めておく必要があります。ここでは簡単に、3つの敬語についておさらいしておくことにします。
尊敬語
尊敬語とは、相手の行為や動作に対して敬意を与えることで、相手の立ち位置を高める言葉です。すなわち尊敬語とは相手がしていることに用いる言葉であり、対象がはっきりとしていて主に動作について修飾する言葉です。簡単に言うと、相手の動きを上品に言い換えるということです。
謙譲語
謙譲語とは、自分の動作についてへりくだった言い方をすることです。自分の行為を低位のものとすることで、相対的に相手の立ち位置を高めることにつながります。重要なのは自分の行為に対しての言葉ですので、相手に使う言葉ではないことを覚えておいてください。
丁寧語
丁寧語は、敬語の中でも最も優しい言葉とされています。「です」「ます」「ございます」をつけることで丁寧に表現することを目的としています。丁寧語には相手を高める働きがありませんので、使う場面に気をつけましょう。
美化語のでき次第で与える印象が変わる
美化語というのは非常に魅力的な言葉です。言葉だけでも上品さというものが漂ってきて、話し手を高めるような働きがあります。高めるというのは地位ではなく、話し手自身の品格が高まるということです。総じて知的な人、聡明な人という印象を持ちやすくなります。
美化語だけで価値が決まるわけではありませんが、美化語を自然に使いこなせるということは与える印象を大きく変えることにもつながります。尊敬語、謙譲語、丁寧語だけでなく、美化語も取り入れて幅広い日本語に親しんでいきましょう。