インクルージョンはどんな人でも活躍できる社会をつくるという考え方

インクルージョンとは、ダイバーシティ化が進む中でより個人を尊重して活躍させるようにすることを言います。様々な人材の活用が求められる中で、個人としても組織としても意識をすることや工夫が必要になります。インクルージョンの基本的なことについてインタビュー形式で紹介しています。

インクルージョンはどんな人でも活躍できる社会をつくるという考え方

組織作りのキーワード「インクルージョン」を意識して仕事をする時代がやってきた

現在の日本のビジネス環境では、少子高齢化や労働世代の減少に伴って、人材不足が深刻になり始めています。その解決に向けて様々に取り組まれていますが、組織の中では「インクルージョン」がひとつのキーワードになっています。

「インクルージョン」は「ダイバーシティ」と共に取り上げられることが多いですが、まだまだ十分に浸透しているとは言えない段階です。大学生の酒井君は、知人の経営コンサルタントのK・エーイ氏にインクルージョンについて尋ねてみることにしました。

インクルージョンとはみんな仲良く活躍している状態のこと

エーイさん、おはようございます!今日は「インクルージョン」について教えていただきたく参りました。よろしくお願いします!

おはようございます。酒井君は勉強熱心ですね。インクルージョンは今後社会に出ていく学生たちには、特に重要なテーマですからしっかり理解しておいた方が良いですね。

サーカルの形にした折り紙のシャツ

え!そうなんですか?実はインクルージョンについて、あまりよくわかっていないんです。インクルージョンの意味と、どうして重要なのか教えていただけますか?

わかりました。そもそも「インクルージョン」というのは、辞書的には「包括、包含」という意味です。要するに、「一緒に抱える」ということですね。教育現場などでは障害児なども隔離したりせず皆と同じ学級の中で教育するというような意味合いで以前から使われていた言葉です。

なるほど。言葉自体は昔からあったんですね。

そのインクルージョンが今は社会やビジネス環境に進出してきて、「様々な人材が受け入れられ、その能力や特徴が認められ、活躍できている状態」を指すようになりました。人材開発や組織開発の面で理想的な状態とも言えるでしょうね。

インクルージョンというのはそういう意味だったんですね。ちょっと定義がややこしい気がしますけど。

まあ、ちゃんと言葉にするとややこしいですが、要は「みんな仲良く、活躍している状態」ですね。

空と雲

インクルージョンが示すものは何となくわかってきました。でも、それがどうして重要なんですか?

その理由は、日本において少子高齢化が進んだ結果、労働力が各地で不足し、様々な人が同じ職場で一緒に働く「ダイバーシティ化」が進んできているからなんです。この傾向はさらに強まると言われていて、その中でインクルージョンが大事になってくるんですね。

日本ではまだまだインクルージョンが足りない

WC案内の看板

ダイバーシティもよく耳にする言葉ですね。ダイバーシティとインクルージョンにはどんな関係があるんですか?

ちょっとした例を出しますが、アルバイトなんかでも「学生アルバイト」と「パートの主婦」の間には仕事内容に差があったことはありませんでしたか?時給も同じのはずなのに。

確かに。スーパーのアルバイトをしてた時、学生はひたすら品出しで、パートの主婦は時には発注の仕事もしている人がいました。

実はこういうのって、「学生には任せられない」一方で「主婦の感覚は大事にしたい」みたいな考えが無意識に働いている場合もあるんですね。でも、それっておかしいと思いませんか?責任感が強く誠実な学生もいっぱいいるし、発注のセンスのない主婦もいっぱいいるはずです。

そうですね!おかしいです!僕も発注してみたかった!

ダイバーシティ化が進む中では、こういう暗黙の差別や排斥といったものがどうしても出てくるんです。これを取り除き、互いが互いの個性や能力、特徴を認め合うインクルージョンが重要になってくる理由です。

確かに、今は外国人の労働者や高齢者がいろんなお店で働いている様子も見る機会が増えましたよね。学生スポーツでも外国籍の学生が活躍しているのもよく見かけます。偏見をもってしまったり、排斥したりしないで、特徴や能力をわかってうまくやらないといけないですね。

そうなんです。特に日本人は単一民族で、周囲を海に囲まれていた事情もあり、ダイバーシティ化が遅れている国でもあります。そのため、インクルージョンに関してもまだまだこれからで、今後しっかりと文化として根付かせていく必要がありますね。

同じに思えるけれどインクルージョンとダイバーシティはちょっと違う

協力して手で星の形を作るビジネスシーン

すみません、ちょっと話が戻ってしまうんですが、インクルージョンとダイバーシティってどういう違いがあるんですか?どちらも「いろんな人が一緒にいて活躍する」イメージなんですが。

これも混同しやすいですし、セットで使われる機会が多いですからね。簡単に説明するとダイバーシティは「様々な人材の多様性を認める」という意味であり、インクルージョンは「様々な人材を活かす」という意味になります。

つまり、ダイバーシティは「いろんな人がいて認められる」、インクルージョンは「いろんな人が活かされている」ということですね。

そういうことになります。ダイバーシティは比較的データからその推進度合いが確認しやすいのですが、インクルージョンはデータからは確認が難しい面があります。そのため、ダイバーシティが進む中でインクルージョンが進んでいないことが問題になっていました。ダイバーシティを進めてきた目的は多様な人材を抱えることによって競争力を高めることだったはずなのに、それができなかったんですね。

なるほど。それで「活躍」を尺度にするインクルージョンが注目されるようになったと。いろんな人がいることが、本当の意味で強みになるようにするのがインクルージョンってことですね!

インクルージョンの達成は相手を偏見なく受け入れることから始まる

自由に走るダイバース人材

でも、意味はわかりましたけど実際には簡単なことではないですよね。インクルージョンの達成のためには、私たちはどうしたらいいんでしょうか?

難しいことではあるんですが、個人をしっかり尊重するところがスタートになりますね。人種、年齢、性別、経験など、人には様々な違いがあるのが当然です。それを偏見なく受け入れることですね。

受け入れているつもりでも、そうでないことってたくさんありますもんね。

頑張って昇進した女性に対して「女性の管理職を増やすように圧力があるから昇進できた」というような目で見てるケースもありますし、外国人や高齢者の従業員が増えても「どうせ補助金目当てでしょ」みたいな目もあります。

それってひどい!

でも、その女性が管理職として力が発揮できていなかったり、外国人や高齢者のパフォーマンスが低ければそういった批判が出るのは免れないというのも事実です。

じゃあ、結局は実力主義ってことなんですかね?

いいえ。そういうことではありません。インクルージョンの考え方というのは、既存のポストや業務に個人を押し込めるのではなく、その人の特徴や能力、経験などを踏まえて活かされるように仕事や役職を与えるということでもあるんです。

なるほど~!

ただ、どうしても企業によってできる業務には制約がありますし、また評価の基準も様々になっていきます。評価される仕事もあれば、あまり評価されない仕事もありますから、組織としての舵取りが難しい面があるのは否めません。

うーん。個人レベルでは仲良くすることができればいいけど、企業という組織の中では評価も大切ですもんね。出世や給料とかにも関わるし。難しい問題ですね。

インクルージョンはまだまだ専門家の間でも答えが出ているテーマではなく、拡大するなら「差別のない社会」や「世界平和」にもつながる大きなテーマでもあります。今はそういう時代になっているということをまずは気持ちの上で受け入れ、試行錯誤を重ねていくしかないというところですね。

インクルージョン社会では自分をはっきり主張しよう

打ち合わせのシーン

お話を聞きながら少し気になったことがあります。個人の特徴や能力が尊重されるべきというのはわかるんですが、それってつまりうまくアピールしないといけないってことじゃないですか?

はい。確かにその通りです。インクルージョンの推進のためには、周囲が理解を示そうとする必要がありますが、自分でも自分の考えなどをしっかり発信していくことが求められます。たとえば、「仕事より家庭」という考えを持っていても、「企業の雰囲気的に言えない」となってしまうとインクルージョンが達成されないわけです。

でも、言いたいことをとにかく主張したらただのワガママだと思われてしまわないですか?「晩御飯に間に合わせたいから帰るね」なんて働いている同僚にはなかなか言えないのでは?

主張するだけならトラブルは避けられないでしょうね。主張することで悪い印象を持たれないように、意識的に周囲に貢献していこうというのも、インクルージョン社会における働き方と言えるでしょう。主張はする、しかし周囲にはしっかり貢献する。そういう中でお互いを認め合う組織風土が作られることが大切です。

なるほど。インクルージョンは受け入れることだけを意識すれば達成されるというものでもなく、個人も受け入れられるように努力することが大切なんですね。

インクルージョンは失敗を恐れずに進めていくことが大切

打ち合わせをする女性社員

また、自分の力が発揮できるような仕事がなければどうしようもないのではという気もします。インクルージョンと言っている中で、自分だけが失敗するんじゃないかという不安を抱える人もいるんじゃないかと思います。

そういう人も出てくるでしょうね。業務内容については組織側の仕事にはなりますが、インクルージョンを積極的に推進している企業なら、従業員との面談があったり、意見を受けつける窓口があることも多いのでそこで意見してみると良いでしょう。

意見してみてもあまり取り合ってもらえないイメージがあるんですが、大丈夫なんでしょうか。

もちろん内容にもよりますが、インクルージョンという考えの中で変わっていくだろう部分ですね。インクルージョンがうまくできない管理職や企業はきっと評価されなくなっていくだろうと言われていますし、耳を傾けてくれるようになっていくはずです。

実際にインクルージョンが進んでいる企業では意見や希望が通るんですか?

ある企業では、平社員やアルバイトが役員と一緒に経営会議に参加することが許可された例もあります。組織中心から個人を尊重した考え方は、今後の組織活動の基本になりますから、今のうちから勉強しておくと様々な場面で役立つと思いますよ。

インクルージョンは、個人としても組織としても意識をもって取り組んでいく必要がありそうですね。エーイさん、今回もありがとうございました!

試行錯誤をしながらみんなでインクルージョンを進めていこう

インクルージョンはダイバーシティと共に語られることが多いですが、多様な人材がいる中で、個を尊重し活かすことを意味します。インクルージョンの考え方をもって組織を運営したり、また組織の中で一人一人が努力することが必要です。まだまだ研究途上のテーマでもあるため、理想的な状態に向かって試行錯誤を続けることが大切です。