コンプライアンスの意味は?強化するにはどうすればいい?
コンプライアンスは企業がルールを守って活動していることを示す概念です。様々な不祥事や、グローバルな法令への対応が求められる中でますます重要になっています。基本的な考え方や、コンプライアンスの重要性について学びましょう。
報道でよく聞く「コンプライアンス」、正しく理解できていますか?
連日の報道で耳にすることの多い「コンプライアンス」という言葉があります。日本語では「法令遵守」などと訳されることがありますが、その言葉の意味を正しく理解できている人は実はそれほど多くありません。
就活サークルを運営する大学生の酒井君は、企業の相次ぐ不祥事の報道の中でコンプライアンスは就活生にとって重要キーワードだと感じます。コンプライアンスについて詳しく知るために、経営コンサルタントのK・エーイ氏を訪ねるのでした。
コンプライアンスの重要性がますます高まってきた
―エーイさん、おはようございます!
おはようございます。酒井君。朝から来るってことは、また何か聞きたいことが?
―はい、その通りです!ニュースなどを見ていたら、再三のように「コンプライアンス」という言葉が出てくるのですが、今ひとつよくわかりません。ネットで調べても難しい言葉ばかりで。エーイさんなら正しく、かつわかりやすく教えていただけるのではないかと思い、教えてもらいに来ました!
うわー、ハードル上がっちゃいましたね。朝だと嫌だなぁ。
―でも、エーイさんなら大丈夫でしょう?だって経営コンサルタントだし。
まあ、普通の人よりは知っているとは思いますけどね。あくまで私が知っている範囲で、ということで聞いてくださいね。
―はい、では、お願いします!
「コンプライアンス」というのは日本語では「法令遵守」と訳されている概念です。訳から何となく想像できるかと思いますが、要するに「ルールをちゃんと守りましょう」ということですね。
―はい、そこまでは僕も行き着きました。でも、それって当たり前じゃないんですか?
そうですね。当たり前です。でも、酒井君。たとえばですが、どうして一方通行の道路を逆走してしまう人がいるんでしょう?
―標識を見ていなかったとか、一通だと知らなかったからじゃないんですか?
はい、そういうことですね。「法令遵守」とは言いますが、その「法令」って必ずしもみんなが完全に理解しているわけではないんです。だから、どんなにマジメにやっていても違反する可能性はあります。大規模なトラブルがあった時に、企業のトップ層が頭を下げて「コンプライアンスを徹底して」とか色々言うんですけど、故意に違反するのではない場合も多いんですね。
―そう考えると、複雑なルールの方が悪いんじゃないかと思ってしまいます。
そう思うかもしれませんけど、世界中にはもう80億人近い人が生きていて、環境も文化も違う所で何十億もの人がビジネスをしています。日本では1億人程度がビジネスに参加していると考えられますが、それでも世界規模で見れば小さな規模です。今の法令、特にビジネスに関するルールはどんどん世界的に標準化されています。世界中で支障なくビジネスをするためには、各地のルールや国際的なルールにも対応していくことが求められるんですね。
―なるほど。非常に多くのルールができるしかない状況だから、コンプライアンスが難しいんですね。
はい。それに、コンプライアンスができていない企業は利益が出ていても株主からは「信用ならないリスク企業」です。そのため、出資をしてもらえないなど、企業経営や企業価値の点でもマイナスです。株主の影響力がどんどん強くなる現代だからこそ、コンプライアンスはますます重要なんですね。
コンプライアンスができていない企業の状態とは?
―でも、それだけ重要なコンプライアンスなのに、どうして頑張って良くしないんですか?
そう、そこが問題ですよね。酒井君、企業が存在する目的って一般的には何だと思いますか?
―え?一般的にですか?ちょっと表現は良くないけど、「儲けるため」じゃないでしょうか。
はい、そうです。儲けるためです。しかも、どうせ儲けるなら楽な方がいいですよね。みんな大好きな「効率化」です。でも、法令って効率よく儲けるためには邪魔なものでしかないんですよね。
―あ!つまり、コンプライアンスよりも儲けを優先するから違反が起きる、と。
そうなんです。企業の経営層、役員や株主の立場では「頼むからコンプライアンスしっかりしてくれよ」って思うものですが、現場の社員に言わせれば「こんなルール誰も守ってないし、守ってたら数字が上がらない」という感じになってしまいやすいんです。
―コンプライアンスよりも数字が優先されてしまうんですね。
はい。また、現場だけでなく、経営層でもコンプライアンス違反は当然あります。数字に責任を持つ立場である経営層においての違反は、より重大な事態を引き起こしやすいです。粉飾決算だったり、また然るべき意思決定の過程を飛ばしていたり、色々ですね。
―加えて、法令が複雑で皆が理解できてない状態もあるんですよね。
基本的に自社が関係するルールって頑張って覚えるものですが、慣習と混同してしまって法令上どうなってるのかわからなかったり、過去に覚えた法令が改正されて変わっていたり、状況は様々です。いずれにしても、コンプライアンス違反なのは変わらないですけどね。
―こういう状態がコンプライアンスができていない状態なんですね。
はい。もちろんそれではいけないので企業は研修を通して少しでも改善したいと思っています。しかし、状況は企業によって様々で、研修するべき内容も多いために大変ですね。根本的にはコンプライアンスの重要性をいかに従業員一人一人が理解するかにかかっています。
コンプライアンスの違反例
―エーイさん、コンプライアンスに違反するというのはどういうことを言うんですか?先日、粉飾決算で某社の経営者や役員が逮捕されていましたが。
これは色々ありますよね。粉飾決算などの「不正会計」だったり、商品やサービスの性能を意図的に「偽装」していたり、また何かの助成金の「不正受給」、「ブラック労働」と言われるような労働、「衛生管理」など。最近なら「個人情報の流出」などが多いですね。
―うーん、いかにも大変なことばかりで、どうしてそんな危ないことをするのかわからない。
コンプライアンス違反って、すぐにはバレないからでしょうね。だから大丈夫だろうと味をしめて、続けてやってしまい、問題が大きくなって発覚して大変なことになるんです。
―何だか病気みたいですね。大丈夫大丈夫って言ってるうちに悪化して入院みたいな。
お、うまいこと言いましたね。まさにその通りです。小さな違反を犯しているうちに、それが積もり積もって大きくなってしまうんです。だから、コンプライアンス違反は早期発見早期治療がとても大切なんですね。
―確かに、ニュースになる案件って何年も続けて行われていることが多いですものね。
そう。ああいうものって、嘘を隠すための嘘などがどんどん積もって数字が大きくなっていくんですよ。だから、最初からルールをしっかり守る意識、そして間違いはしっかり正す意識が大切なんですね。
コンプライアンスを強化するためにはどうすればいい?
―コンプライアンスをしっかりするにはどうしたらいいんでしょうか?研修などもしているんですよね?
はい。コンプライアンスをしっかりさせるためには、まずは従業員全員の理解が大重要です。これは法律を知るというだけでなく、コンプライアンスを守ることが企業の運営上いかに大事なことかを知ることが含まれます。
―全員でルールを守りましょうって、何だか学校みたいですね。
学校も企業もひとつの社会ですから、社会が変わるたびにルールは覚え直す必要があります。そして、ルールも時々は変わるので、そのたびにしっかり覚えないといけませんね。
―コンプライアンスを守るって、けっこう大変なんですね。
そうです。でも、それだけでは不十分なことも多いので、コンプライアンスを守るための組織的な整備が必要になってきます。常に社内でコンプライアンスに目を光らせる役割だったり、またコンプライアンス上の問題がないか相談を受け付ける窓口なども必要です。
―ルールを守るのが基本だけど、困ったことがあれば警察に行くような感じですね。
はい、そうです。企業においては、これがしっかり守られている必要がありますし、そのためにコンプライアンスを推進する役割の人に強い権限を与える必要があります。役員がこうした役割を担う場合も多いですね。
―でも、そうなった場合には企業のトップが違反したら権限で抑え込めないんじゃないですか?
そういう面もあるんですが、本来なら株式会社などの法人形態では、企業のトップだろうと絶対的な権限を持てないようになっているんです。取締役会で退任を求めることもできますし、監査役などは不正があれば正さないといけない立場です。その仕組みが上手く回っていない企業では、なかなかコンプライアンス強化って難しいんですよね。コンプライアンスを強化したい企業では、そのフレームワーク作りのために、コンサルタントを依頼するケースも多いです。
企業のコンプライアンスの状況って知ることはできる?
―これは就活を控えた学生としての意見ですが、コンプライアンスって会社に入ってみないとわからないんじゃないですか?
はい。究極的にはその通りです。
―「究極的には」ってことは、多少はわかるってことですか?
よく気づきましたね。はい、ちょっとくらいなら知ることはできます。企業の中には、コンプライアンスに関する取り組みや考え方を企業のWebサイトなどの企業情報、IR情報、CSRレポートなどで発信している企業もあります。
―CSRって何ですか?
詳しいことは省略しますが、「企業の社会的責任」という言葉の略です。まあ、単純には「企業の社会貢献」だと思ってください。IR情報は投資家向けの情報です。どちらも、企業が社会に対して自社の取り組みや成果をアピールするものですが、その中でも「法を守って頑張ってます」というのは企業のイメージアップに重要視されています。
―なるほど。じゃあ、そのあたりに注意を払っておけばコンプライアンスの状況をある程度知ることができるんですね。
はい。そういうことですね。でも、やっぱり入ってみなければわからないこともありますし、取り組みが妥当であっても実際にその企業にコンプライアンス意識が浸透しているかは企業の風土にも大きく関わっています。
―じゃあ、コンプライアンスについて知るっていうのは、結構難しい問題なんですね。
はい。でも、ひとつヒントになるものを教えておくと、「割れ窓理論」を意識しておくと良いでしょう。
―何ですか?「割れ窓理論」って。
これは、心理学の実験で、「車のガラスが割れている車の方が車上荒らしなどに遭いやすい」という結果から出た理論です。つまり、小さな不正や綻びがあると、それに乗じてどんどん増えて大きくなっていくということですね。
―就活生は小さな不正なんて気づきませんよ。
でも、たとえば部屋やトイレが汚れていても誰も気にしない、言葉遣いが乱暴でも、清潔でない身なりで出社しても誰も何も言わない、そういう企業の中でルールがきちんと守られるか?ってことです。結局、企業のモラルっていろんな所に出るんですよ。
―なるほど。それなら就活生でも気づけるかもしれません。
企業のコンプライアンスは、組織としての仕組みづくりと教育、そして従業員のモラルがとても重要な要素となります。ですから、知りうる限りのコンプライアンスへの取り組みに加え、従業員や会社の様子に注意を払っておけば、何となくの様子は見えてくるのではないでしょうか。
コンプライアンスを意識できるビジネスパーソンになろう
―コンプライアンスを意識することが大切だということはわかってきました。でも、実際にコンプライアンスを守るって大変そうで自信がないです。
そうですよね。でも、それくらいがちょうどいいんだと思います。「自分は完全に法を守っている」という思い込みが一番危険です。
―そうなんですか?
はい、そうです。弁護士だとしても法について全部覚えることはできません。なのに、民間で普通に働いている人が全ての法を理解して守っていたらおかしいです。不安に感じ、都度確認するくらいがちょうどいいんですよ。
―なるほど。それなら僕でもできそうです。
でも、法を知らなくとも、不安にも感じず、確認もしない人が実際には多いんです。これは結局、コンプライアンスへの関心が薄いからに他なりません。自分の「常識」と「法令」で求められているものは全然違うことを意識する必要があります。
―そうなんですか?
そうですよ。たとえば「個人情報保護法」ひとつ取っても、個人情報をどう管理するか厳格に決まっていますよ。管理だけでなく、その処分方法にまで言及があります。
―削除するだけじゃダメなんですか?
ダメです。データを復旧される可能性があります。また、紙媒体などもシュレッダーにかけたり、最終的には信頼できる業者と秘密保持契約などを締結した上で処分させるなど色々なルールがあります。
―僕の常識は甘かったってことですね。
まあ、ここまでするのが常識って珍しいですよ。あくまで常識は生活をするためのもの、法令はその常識的な生活を支えるものですから、より緻密で厳格です。だからこそ、社会を支える企業にはしっかりコンプライアンスを意識したコンプライアンス経営が求められますし、ビジネスパーソン一人一人にもしっかりしたコンプライアンス意識が求められるんですよ。
―なるほど。コンプライアンスは意識しておくのが良いのは間違いないですね。コンプライアンスでは大きな問題ばかりが目につきますが、社会人にもなれば誰もが向き合う問題なんですね。就活の際の参考にしたいと思います。ありがとうございました!
コンプライアンスは企業でも個人でも重要な概念
グローバルなビジネスが増え、国際的なルールへの対応の重要性が日々増している中でコンプライアンスはますます重要な概念となっています。報道では大きな不正事件がある度に企業のコンプライアンスへの姿勢が問われますが、普段の小さな仕事からコンプライアンスは始まっています。企業でも個人でも、コンプライアンスを意識するようにしましょう。