消防団の退職金有無とその計算方法
消防団の退職金があるかどうかについて、その仕組みを含めてご説明します。また、その支給日や時期についてご紹介し、計算に必要な要素を詳しく解説していきます。その上で、消防団員になるメリットとデメリットについて述べます。
消防団の退職金制度
消防団の名前は聞いた事があっても、具体的にどのような組織なのかをイメージする機会はなかなかありません。消防団という組織には、一般の会社のように退職金というシステムが存在するのでしょうか。今回は、消防団と退職金という制度についてご紹介します。
消防団とは
消防団は、消防本部や消防署と同じく、消防組織法に基づいてそれぞれの市町村に設置されている機関です。火災が発生したら自宅や職場から現場に駆けつけて消火や救助活動を行うだけでなく、火災の予防や防災活動も行います。
全国の消防団数は2,200団、全消防団員数は約86万人。消防団は、常勤の消防職員が勤務する消防署とは違って、非常勤特別職の地方公務員です(注1)。
消防団に退職金はあるの?
消防団員には、退職報償金が支払われます。これが、いわゆる退職金と呼ばれるものにあたります。退職報償金は、退職した消防団員の長年にわたる労働をねぎらうために、市町村が支給する退職金の事です。これは、昭和39年度に消防団員の待遇を上げる措置の一環として創られました。(注2)
もしも、団員が死亡退職した場合にも支給される事が定められています。そのため、消防団に入っても退職時に金銭が発生しないという事はありません。
退職金は市町村が決める
退職報償金は、各市町村が定めます。消防団員として5年以上勤務してから退職した人に、その人の階級と勤続年数に応じて支給される事になっています。
退職金の支給額
階級は上から団長、副団長、分団長、副分団長、部長及び班長、団員となっています。勤務年数は、5年以上10年未満、10年以上15年未満、15年以上20年未満、20年以上25年未満、25年以上30年未満、30年以上といったように、5年ごとに区分されており、それぞれ金額が変わります。
退職金が支払われない時もある
消防団員が一定期間勤務しなかった事が明白である場合には、その期間は勤務年数に含みません。禁固以上の刑に処せられた人や、懲戒免職など、これに準ずる処分を受けて退職した人、停職処分を受けた事によって退職した人、勤務成績が特に不良であった人などには、退職報償金は支給されない事となっているため、注意が必要です。
また、消防団員を故意に死亡させた人や、死亡前に消防団員の死亡によって退職報償金の支給を受ける事ができる優先順位が高い人を故意に死亡させた人に関しても、同様に退職報償金の支給はされません。
退職金を受け取れる人
消防団員が死亡退職した場合に退職報償金を受け取る事ができる遺族の範囲は、配偶者(団員の死亡時に事実上婚姻関係に等しい関係にあった人も含む)と、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で、消防団員の死亡時にその収入によって生計を立てていた人や、それに該当しない子や父母とされています。
また、父母については養父母を先に、実父母を後にします。同順位の者が複数人いる場合は、等しく分けて支給されます。
消防団の退職金の支給日と時期
退職金の支給日は、消防団員が退職したときに支給されます。退職金の支給日に関しては、消防団の場合は労働基準法よりも自治体の既定の方が優先順位が高くなっています。これは消防団員に対する退職金が法律によって支給されると決められているものではなく、それぞれの自治体の規定に基づいて決められているものであるからです。
退職金の正確な支給日を知りたい時は、自治体の退職金の支払い期日に関する規定を確認すると良いでしょう。ちなみに前述の通り消防団は地方公務員ですが、公務員が3月31日で退職した場合には、通常翌月末日(4月30日)頃に支給されるケースが多いです。この場合においても個人差があるので、はっきりと知りたい時はやはり問い合わせるのが一番確実です。
消防団員の退職金の計算方法
消防団員に支給される退職金の支給額を決定する時には、退職者の階級とその時点での勤続年数が反映されます。まず、退職者の階級の決め方からご説明します。
退職者の階級の決め方
支給額の基礎となる支給基礎階級は、退職した日に退職者が属していた階級です。その階級とそれよりも上位の階級に属していた期間が1年に満たない時は、その階級の直近の下位の階級とします。退職した日に退職者が属していた階級より上位の階級に属していた期間が1年以上ある時は、その上位の階級が適用されます。
階級を定める時に使う「1年」という尺度は、階級期間が連続している時は暦通り、連続していない時はそれぞれの期間を合わせた日数を計算して365日として計算します。
- 退職時の階級が最も上位で、かつ、その期間が1年以上あった時は退職時の階級とします。
- 階級履歴の中で最も上位の階級で退職したが、その期間が1年未満である場合は、経験があるかどうかは問わず、その直近下位の階級とします。
- 退職時の階級よりも上位の階級に属した期間があっても、退職時の階級とそれよりも上位の階級に属した期間が1年未満であった場合には、退職時の階級の直近下位の階級とします。
- 退職時の階級期間と同じ階級期間を合わせて計算する事で365日以上となる時には、退職時の階級とします。
- 階級履歴の中で退職時の階級より上位の階級に属した期間があり、かつ最上位の階級位に属した期間が1年以上あった場合には、最上位の階級を適用します。
- 最上位の階級に属した期間が1年未満で、その他いくつかの上位階級があった場合には、最上位の階級期間から順に合算していき、その期間が1年以上となった時に属していた階級とします。
独自の階級を設けている市町村もある
市町村によっては、独自の階級を設けている場合があります。これを「独自階級」と呼びます。通常、条例や規則などによって定められていますが、独自階級を設けている時は、どのように既存の階級制度に当てはめるかが問題となります。
独自階級が、基準となる階級の年報酬額よりも高い年報酬額である場合は、階級はそれにふさわしいものとされます。この時に判断材料とされるのは、階級を定める条例、あるいは規則における該当部分の写しと、階級に応じた報酬あるいは手当の支給に関する条例、規則における該当部分の写しです。
独自階級が、基準階級の年報酬額よりも低い年報酬額である場合は、年報酬だけで階級を判断しません。退職者の権限や職務、勤務年数や経験、消防団における役割などを鑑みて、階級を判断します。この時に判断材料とされるのは、以下の4点などです。これらを加味した上で、階級が判断されます。なお、当てはめるのは「職名」ではなく「階級」である事に注意が必要です。
- 合併協議会における独自階級の取り扱いに関する協議事項における該当部分の写し
- 消防団員服制に関する条例あるいは規則の該当部分の写し
- 独自階級を基準階級に当てはめた理由や独自階級の職務内容についての市町村長による証明書
- 独自階級と基準階級の関係がわかる組織図
消防団員の勤務年数の計算方法
退職金の計算に必要なもう一つの要素である、勤務年数(勤続年数)の計算方法についてご説明します。
勤務年数は勤務した期間
勤務年数は、退職者が消防団員として勤務した期間を合算して求めます。既に退職金の支給を受けていた場合には、その基礎となった期間は合算する事はできません。一度退職したのちにもう一度復帰した日の属する月から、退職した日の属する月までの期間が1年に満たない場合にも、その期間を合わせて計算する事はできないと定められています。
- 勤務期間が複数あった場合は、それぞれ前後の期間を合わせ、勤務年数を求めます。
- 一度退団したのちに復帰した後、1年未満で退団した場合、その期間は勤務期間に合算できません。
再入団した時の勤務年数の数え方
退職した日の属する月と再入団した日の属する月が同じ月である場合は、その月は再入団にかかる勤務年数には数えません。この時、1年とは12ケ月の事であり、暦または365日の事ではありません。
- 1日でも勤めていれば、その月は1ケ月と計算します。
- 同じ年の同じ月に退職と復帰がなされた場合には、その月は前の期間にかかる勤務年数に加えて求める事と定められています。
一定期間勤務していなかった場合の勤務年数の数え方
消防団員が明らかに一定期間勤務していなかった場合は、その期間は勤務年数に参入しません。
- 住んでいる場所を離れており不在だったために消防団員として活動できなかった期間は、勤務年数には含まれません。
- 住んでいる場所を離れており不在だったために消防団員として活動できずに退職していった退職者の勤務年数は、実際に活動できていた最終日までで計算します。
消防団員の退職金額
求められた階級と勤務年数から、およそいくらぐらいの退職金が支給されるのかが判明します。(注2)
団長の場合
団長だと5年以上10年未満の勤続年数で23万9千円、10年以上15年未満なら34万4千円、15年以上20年未満なら45万9千円、20年以上25年未満なら59万4千円、25年以上30年未満なら77万9千円、30年以上なら97万9千円です。
団員の場合
階級が一番下の団員だと、勤務年数が5年以上10年未満で20万円、10年以上15年未満で26万4千円、15年以上20年未満で33万4千円、20年以上25年未満で40万9千円、25年以上30年未満で51万9千円、30年以上で68万9千円です。
消防団員の報酬と公務災害補償
市町村は条例に基づいて報酬と出動手当を支給しています。ただし、支給額や支給方法は地域により異なっています。
公務災害補償
ほとんどの市町村において、年額報酬や、災害活動、訓練に出動した際には出動手当が支給されます。また、活動で死傷した際には公務災害補償金の対象となります。
報酬
平成27年度における団長の年額報酬は82,500円、団員は36,500円、出動手当は1回あたり7,000円、公務災害補償負担金は人口1人あたり3.5円、団員1人あたり1,900円、退職報酬金負担額は団員1人当たり19,200円でした(注3)。
消防団員になるメリットとデメリット
消防団員には退職金が支給されることがわかりました。続いて、消防団員になる事によって得る、メリットとデメリットをご紹介します。
消防団員になるメリット
- 地域における人脈をかなり広げる事ができます。人間関係の幅が広がる事で、信頼を得られた理、人との繋がりが強くなると言えるでしょう。その事によって、人間として成長できると感じている人も多いです。
- また、火事や災害から町や人々を守るという責任を負う事によって、住民や地域に貢献しており、自分が人助けをしているのだという実感が得られる事は間違いありません。わずかながら金銭面での補助や退職金を得る事もできます。
消防団員になるデメリット
- なんといっても、身の危険が自分自身に直接迫ってくる可能性が高いという事です。災害の現場に向かうわけですから、これは当然の事とはいえ、家族や親しい人には心配をかけてしまうでしょう。
- 会社に勤めながらの活動なので、勤務中に出動しなければならず、仕事を中断しなければならない場合があります。
- 強制的に参加しなければいけないイベントがあるために、プライベートに影響が及ぶ事を避けたいとする人や、訓練を体力的に厳しいと感じる人も多いです。
わずかだけど消防団には退職金がある
今日、消防団は人手不足である自治体が多いです。退職金はわずかですが支給されますし、やりがいのある仕事です。もしも入団を迷っている方は、これを機に現在入団している先輩方にお話を聞いてみるなど、そのやりがいを語っていただいてはどうでしょうか。きっと金銭面以上の価値を見出せる事かと思います。
参考資料
- 注1:総務省消防庁「消防団の活動って?」
- 注2:消防基金「業務紹介」「退職報奨金」
- 注3:総務省消防庁「報酬・出動手当について」