制度/手続き

身元保証書の意味や書き方は?入社に際し知っておきたい書類のこと

身元保証書は就職に際して企業側から提出を求められることのある書類ですが、その目的や法的効力について十分に理解していないことも多いです。身元保証人についても、どういった責任やリスクがあるのかをよく考えて選定し、書類も正しい形で記入するようにしましょう。

身元保証書は入社の際に必要になることが多いもの

就活を終えて就職が決まっても、入社の前に各種の書類の提出が必要になります。その書類の中には馴染みの少ない「身元保証書」という書類が含まれていることがあります。この身元保証書についてちゃんと知らずに適当に対応してしまうと、思わぬトラブルの原因になる場合もあります。身元保証書に関する決まりや、その書き方など基本的なことを確認し、未然にトラブルを防ぎましょう。

身元保証書とはどういう書類?

身元保証書とは、保証人(保証をする人)が被保証人(就職の場合は就職する人)について、その身元などを保証する書類です。金融や証券、不動産会社などお金や財産を扱う会社に就職する場合、身元保証書の提出を求められることが多くなっています。

保証内容は「人物保証」と「損害賠償」

保証内容は主に、被保証人が「社会人としてふさわしい人物であること(人物保証)」と「会社に損失を与えた場合、その賠償責任を本人とともに負うこと(損害賠償)」です。

損害賠償に関する部分はほとんど形式的なもので、実際に賠償請求があるケースはほとんどありません。業務上のトラブルによって会社に損失があったとしても、従業員の監督責任はその保証人ではなく使用者(会社)にあるからです。

個人にその責任を求めるのが正当である場合でも、多くの場合は企業側で負担することが多く、賠償請求があっても全額賠償となることはありません。そのため、身元保証書は事実上、人物保証のための書類と考えて良いでしょう。

身元保証書の書式は企業によって異なる

身元保証書は、労働基準法によって定められている書類ではないため、その書式は企業によって異なり、また法的な拘束力もそれほど強くはありません。入社時に身元保証書の提出が法律で定められていないので、身元保証書が必要かどうか基本的には企業側の一存で自由に決められるのが特徴です。

身元保証人になれるのはどんな人?

身元保証書では、被保証人を保証してくれる身元保証人に署名・捺印してもらう形を取るのが一般的です。企業によって身元保証人は1人ではなく2人求めるケースもあり、同じ世帯からは身元保証人は1人までしか立てられないなど細かくルールが作られている場合もあります。

身元保証人になる人の条件としては、最低限でも「成人している人(責任能力がある人)」であることが必要です。加えて、望ましい条件としては、「独立しており、一定の収入がある人」で「親等の近い親族」となります。

身元保証人になるのは両親や近親者が一般的

身元保証人は、一般的には両親や近親者となることが多いです。企業によっては、身元保証人を2人以上求め、かつ両親のどちらかと、その他の人から身元保証人を選定するように指示するところもあります。これは人物保証により客観性を持たせ、損害発生時の負担能力を高める狙いがあります。

身元保証人は近親者以外もOK

身元保証人は一般的には両親や親族などの近親者ですが、条件的に適当な人がいない場合には血縁者以外でも可能となっています。友人や知人、前職の雇用主など様々なケースが考えられますが、身元保証人としてOKかどうかは最終的には会社側で判断しますので、近親者以外の候補については事前に確認しておいた方が無難です。

また、身元保証人になると損害賠償などのリスクやトラブル対応の手間がわずかだとしても発生しますので、人間関係に支障をきたさないためにも不必要に近親者以外にお願いするのは避けた方が良いでしょう。

身元保証人がいない場合は会社に相談しよう

身元保証人を検討したくても、家庭の事情で保証人になれる人がいなかったり、両親は健在でも高齢や障害を持っているなどのためにトラブル時に解決できない、また破産しているなどの事由によって責任能力などが不十分であると思われるケースもあります。こうした場合は、まずは会社に相談するようにしてください。

身元保証人が確認できない、被保証人が身元保証書を提出できないという理由で就職を取り消すのは解雇にあたりますので、不当解雇となる可能性もあります。逆に企業の採用の自由が尊重され、採用を取り消すことが認められる場合もあります。しかし企業側も入社させたいから採用しているはずですので、極力何とかなるように対応してくれるはずです。

また、身元保証人になってくれる人がすぐに連絡がつかない、外国や遠方に住んでいて書類のやり取りに時間がかかるなど、身元保証書の提出が遅れてしまう場合についても企業の担当者に確認してください。

身元保証人の役割

身元保証人は損害賠償だけでなく、人物保証も行っています。仮に被保証人がトラブルを起こした場合、金銭的な損害が発生していない場合だとしても、素行不良や、精神疾患などによる無断欠勤などが続くようであれば、対応が求められます。身元保証人には企業側とやり取りをしながら、常識的な範囲でトラブルの解決に向けて協力を行う責任があります。

身元保証書の法的な効力について

身元保証書の法的効力はさほど強くありませんが、全くないというわけでもありません。法の根拠や目的を理解していると、法的効力の範囲もおおよそわかってきます。

身元保証書の保証期間は3~5年

身元保証書の保証期間は特に記載がなければ3年と考えるのが一般的です。それ以上の場合には、最長5年までとし、身元保証書の中にその期間についての明記が必要となります。これは、身元保証書の主たる目的は従業員の身元や人間性についての保証であり、3年程度も経過すれば十分に信頼関係ができていると考えるのが妥当だからです。

身元保証人に有利な法的仕組みになっている

身元保証人の責任範囲については「身元保証に関する法律」   によって定められています。もしも企業側が従業員(被保証人)を身元保証人が管理することが難しい状況を作ってしまう場合には、その旨を身元保証人に通知する必要がありますし、また身元保証人にも賠償責任が発生しそうな問題が生じた場合には必ず通知しなくてはならない義務があります。

何らかの通知があった場合、身元保証人は身元保証契約を解除することも可能となっています。さらに損害賠償額の決定に際しても、企業の監督責任上の過失割合や身元保証人が身元保証をするにいたった経緯などを総合的に考えて裁判所が判断することになっており、保証人の立場だからと無条件に損害賠償を求められるのではありません。そのため、損害賠償が求められたケースでも大幅に減額されます。

これは、賃貸契約時などの「連帯保証」なら賠償するべき金額におおよその目処が立つものの、身元保証では賠償が発生した場合の金額の目処がない状態で契約しなくてはならず、保証人のリスクが大きくなってしまうためです。

身元保証書の提出義務は就業規則次第

身元保証書は労働基準法上の必要書類ではありませんので、就業規則にその旨の記載がない限り、入社時に会社へ提出する義務はありません。身元保証書の提出を会社から求められて拒否した場合、就業規則に採用条件として身元保証書の提出が必須である旨の記載があるかどうかが問題となります。

もし身元保証書の提出が必要との記載があれば、提出を拒んだことで採用の取り消しをされても不当解雇とはなりません。逆に身元保証書の提出は必須という記載が就業規則にないにも関わらず採用が取り消されるようであれば、弁護士などに相談してみましょう。

身元保証書の書式と項目・書き方

ここで身元保証書の書式や項目、書き方などについて整理してみましょう。身元保証書にある項目ごとにきちんと書き込んで、記入漏れがないようにしてください。

身元保証書の書式は企業ごとに定められている

身元保証書の書式は、各企業で定めていますので、自分で勝手に作ってはいけません。企業側から書類がもらえない場合、書式について必ず確認しましょう。もしも「自分で適当に作って」と言われた場合にも、最低限どんな項目と内容が必要かは確認しておきましょう。

身元保証書の主な項目と書き方

身元保証書に記載されている主な項目は、次の通りです。各項目の書き方を確認しながら、間違いがないように記入するようにしましょう。

契約内容は「人物保証」「損害賠償」について書かれている

身元保証書には、身元保証契約に関する内容が書かれています。主に「被保証人が法令や就業規則を遵守して勤務すること」や、「損害の発生時には保証人が被保証人と共に賠償する」旨について記載があります。

一般的に企業から「記入して提出してください」と渡される身元保証書の書類には、契約内容は印刷されているので、自分で書く必要はありません。「自分で身元保証書を作って」と言われた場合は、インターネット上でダウンロードできるテンプレートを利用すれば、テンプレートにも見本の契約内容が記載されています。

日付は入社日を書く

日付の記入が求められますが、身元保証書では日付は入社日を記入します。雇用契約が有効なのは入社後であり、事前に身元保証書を作成するとしてもその効力が必要となるのは入社日からとなるためです。歴については、書類内で違いが出ないように西暦もしくは和暦で揃えましょう。

住所は身元保証書に記載する時点の現住所を書く

住所については、身元保証書に記載する時点の現住所を記載します。住所は都道府県からしっかり記載しましょう。被保証人の住所は卒業や就職にあたって移動する予定があったとしても、新住所や本籍地を記載する必要はありません。身元保証人についても同様です。

電話番号は連絡が取れる番号を書く

身元保証書で電話番号の記載が求められている場合は、固定電話でも携帯電話でも構いません。連絡が取れる電話番号を記載しましょう。

氏名は戸籍上の名前を書く、印鑑は認印でOK

氏名は当然、戸籍上の名前を記載します。ペンネームやビジネスネームなどは使いません。印鑑については、実印でなくとも認印で十分です。ただし、シャチハタなどインク式のものではなく、朱印を使うもので捺印しましょう。

姓が同じだとしても同じ印鑑を押してはいけません。被保証人と身元保証人がそれぞれ自分の印鑑で捺印する必要があります。薄くなったり、欠けたりしないよう注意してください。もしも会社側が実印の使用や印鑑証明書などを求めてくる場合は、指示に従いましょう。

生年月日は西暦か和暦に揃えて書く

生年月日の記載では、被保証人本人の生年月日を記載することはもちろん、日付と同じように、西暦または和暦のどちらかに揃えて書きましょう。

本人との関係は被保証人を基準にして書く

身元保証書には、本人との関係についても記入欄があるのが普通です。父、母、兄、友人など、本人との関係がわかる書き方をしましょう。「本人との関係」ですので被保証人本人を基準にして書くようにしてください。たとえば、父と兄(次男)に身元保証人になってもらう場合、本人との関係欄には「父」「兄」と記載します。

身元保証人欄は保証人本人に直筆で書いてもらう

身元保証書はもちろん、基本的に契約書類は本人の直筆でなければいけません。もちろん署名も直筆の必要があります。署名は鉛筆など書き変えることができるものではなく、ボールペンや万年筆などを用い、楷書で丁寧に記入します。代筆を他の人にお願いする場合、トラブルになってしまうこともありますので必ず本人の自署を求めましょう。

もしも記載の際に間違ってしまった場合は、二重線で消し、その上から自分の印鑑で訂正印を押し、自分で修正したことを証明します。ただし、企業によってはこうした修正を認めない場合もありますので、事前に人事に確認しましょう。

身元保証書と混同されやすい書類

身元保証書と混同されやすい書類がいくつかあります。身元保証書とは、それぞれどのような違いがあるのか、勘違いがないように確認しておきましょう。

本人を特定するための身分証明書

一般的に「身分証明書」とは、社会生活上、本人確認が必要な場合に使われる運転免許証やパスポート、健康保険証など、個人を特定するための書類です。身分証明書は原則本人が所有するものですので、企業から提出を求められる場合は「身分証明書のコピー」という表現がされているはずです。

本籍のある役所などで発行される身元証明書(身分証明書)

「身元証明書」は「身分証明書」と言われることもありますが、本籍のある役所などで発行することができる書類です。「禁治産又は準禁治産の宣告の通知」「後見の登記の通知」「破産宣告の通知」といった通知を受けていない、つまり法律上の行為能力を具備して(十分に備えて)いることを証明するのが身元証明書になります。一般的には「身元証明書を発行してもらってください」などという言い方をします。

短期滞在で入国するための外国人向け身元保証書

入社の際に企業から提出を求められる身元保証書ではなく、外国人が短期滞在ビザで入国する際に当該外国人の身元を保証する人物は誰かを明らかにするための身元保証書というものがあります。この書類は原本を外務省のWebサイトからダウンロードでき、記入して大使館や総領事館に提出します。

身元保証書は書き方の決まりを守り、常識の範囲内で記入すれば問題ない

身元保証書はあまり馴染みのない書類で、なおかつ「損害賠償」という言葉が入っているために、記入や保証人探しに困ってしまう人もいます。しかし実際、身元保証書は法的効力が強い契約ではないので、保証人にもリスクは少ないです。基本的には近親者が署名してくれますので、心配する必要はありません。

身元保証書の目的は、あくまで社会人としてふさわしい人間性を有していることを確認することです。あまり気構えず、常識的に記入・対応していれば問題ありません。