時給の計算方法を知ることは働き方を考える良い機会にもなる
時給の計算方法を知ることは、自身を守ることだけでなく、自身の仕事について考えるためにも重要な意味を持ちます。改めて考える機会が無かった人も、基本的な算出方法を覚えて自分の時給について一度考えてみましょう。その他、時給計算でよくある疑問への回答も紹介しています。
時給の計算方法は意外と正しく知らないもの
今後は働き方改革が施行されていく中で、時給で自分の給与を考える人も多くなっていくと言います。時給は現在のところ、労働時間あたりの給与を計算するための最小の基準のひとつとなりますが、その計算方法について正しく知らないと思わぬところで損をしていることもあります。
また、時給は自分の仕事の効率性や市場価値を考える上でも意識しておくべき大事な数字です。時給の計算方法を知ることによって多くのメリットが見込めますので、正しい計算方法について確認してみましょう。
時給を計算する時の基礎になる給与についての考え方のポイント
まず、時給の計算方法を見ていく前に、知っておくべき給与についての考え方のポイントを紹介します。時給を考える上での基礎になりますので、よく理解しておきましょう。
「給与」は会社から受け取る報酬の全額で、「給料」は正規の勤務時間に対する報酬
「給与」と「給料」、区別して使っている人は実はけっこう少ないものです。ほとんど同じ意味で使われていることもありますが、厳密には違いがあります。「給与」は会社から受け取る報酬の全額を意味し、「給料」は正規の勤務時間に対する報酬を意味します。つまり、「給与」は「給料」に残業代や手当などを含めたものと考えることができ、時には現物支給も含まれるのです。
「時給」の場合は「給料」で考えようにする
時給を考える場合には、給与では考えるべきではありません。手当の多寡によって、本来の仕事の対価である時給がわからなくなってしまうからです。役職手当や交通費、家族手当など様々な手当は、契約で定められた一定期間働いた後に支給されると考えるのが妥当であり、1時間ごとに発生するわけではありません。そのため、手当などを一切省いた給料で時給は考えるようにします。
基礎賃金は労働時間から時間給を計算し算出された賃金のこと
給料を計算する際のもとになっているのが基礎賃金です。基礎賃金とは、年棒制や月給制、日給制などに関わらず、その労働時間から時間給を計算することによって算出される賃金で、様々な割増賃金の計算のもとになります。
時給・日給・月給・年俸など給料の計算方法は色々ある
給料の計算方法には時給や日給、月給、年俸など様々な方法があります。ここで、これらがどのように違うのかを確認してみることにしましょう。
時給は1時間ごとの賃金を計算する
時給は、1時間ごとに賃金を計算することで給料を決定する仕組みです。1時間ごとの基本的な賃金が定められており、それに基づいてその他の割増賃金や手当を計算して支給します。時給の仕事は1時間ごとに賃金は発生しますが、支給に関しては契約に基づいて日、週、月などで支給されることが多いです。
日給は1日あたりの賃金を計算する
日給は、1日あたりの賃金を計算することで給料を決定する仕組みです。1日ごとの賃金が決まっているため、割増賃金などは基本的にありません。ただし、労働基準法に違反するような労働時間になる場合には、請求をすることで時間分の割増賃金を受けられる可能性があります。日給の仕事の場合、給与は契約に基づいて契約終了時、もしくは週、月で計算されて支給されます。
週給は1週間ごとの賃金を計算して必要な手当などを加える
週給は、1週間ごとに賃金を計算し、必要な手当などを加えて給与を支給する形態です。1週間の基本になる賃金が定められているため、日給と同様に割増賃金などはありませんが、状況によっては請求が可能な場合もあります。週給でも長期契約になっていると、月単位の支給になる場合があります。
月給は月ごとの賃金を計算して割増賃金や手当を加える
最もオーソドックスな給与の支給形態です。月の基本となる労働日数や賃金が決まっており、それに基づいて割増賃金や手当を計算して給与を支給します。給与計算と支給の間隔が一致するため、最も事務的なコストが少ないため多くの企業で採用されています。
年俸は1年分の給与を予め設定しておく
年俸は、1年分の給与を予め設定しておく仕組みです。1年分の給与が予め定められてはいますが、結果的に著しい労働時間の法からの逸脱がある場合には、割増賃金などを請求することが可能です。年俸の中には賞与が含まれているため、計算の際には注意が必要です。また、年俸は給与額が年間の賃金として決定されますが、支給については月ごとになるのが普通です。
時給を計算する際に知っておくべきルール
時給を計算する上で、知っておくべきルールについて確認しておきましょう。このルールを知っていると、時給を正しく計算することができます。
法定時間外労働(残業代発生)の場合は時給の25%が上乗せされる
「法定時間外労働」とは、いわゆる「残業」と言われるものです。法定時間とは、「1日8時間、週40時間」と定められているもので、これを超えるような労働に関しては全て時給を25%上乗せすることになります。
また、1ヶ月に60時間を超える法定時間外労働の場合には、時給が50%上乗せされることになります。ただし、ある週に時間外労働が多くなり、その分の代替休暇を別の週に取った場合にはこの限りではなく、通常の法定時間外労働として処理されます。
- 例1:時給1,000円の人が月に22日働き、残業が10時間あった場合の給与計算
1,000(円)×8(時間)×22(日)+1,000(円)×10(時間)×1.25
=176,000(円)+12,500(円)
=188,500(円)(※手当除く)
- 例2:時給1,000円の人が月に22日働き、残業が80時間になった場合の給与計算
1,000(円)×8(時間)×22(日)+1,000(円)×60(時間)×1.25+1,000(円)×20(時間)×1.50
=176,000(円)+60,000(円)+25,000(円)
=261,000(円)(※手当除く)
深夜労働の場合は割増賃金が支給され、時給の25%が上乗せされる
深夜労働と言われるのは、午後10時から午前5時までの間で行われる労働を言います。深夜労働についても、割増賃金が支給され、時給の25%が上乗せされます。時間外労働も含まれる場合には、基本給にそれぞれの割増率を足して計算します(乗算ではありません)。
- 例1:時給1,000円で月に22日働き、うち1日あたり2時間が深夜労働になる場合の給与計算
1,000(円)×8(時間)×22(日)+1,000(円)×2(時間)×22(日)×0.25
=176,000(円)+11,000(円)
=187,000(円)(※手当除く)
- 例2:時給1,000円で月に22日働き、1日あたり2時間の残業が発生し、かつ残業時間が深夜労働になる場合の給与計算
1,000(円)×8(時間)×22(日)+1,000(円)×2(時間)×22(日)×1.5
=176,000(円)+66,000(円)
=242,000(円)
休日労働の場合は基礎賃金の35%が上乗せされる
休日労働は、労働基準法で定められた法定休日(週1日または4週を通じて4日、曜日は問わない)に労働させる(自発的に行う労働ではない)場合を言います。この場合は、基礎賃金の35%が上乗せされます。
休日労働では、深夜業となった場合はそれぞれ上乗せされて60%が上乗せされることになりますが、法定休日はそもそも法定労働時間が存在しないため何時間働いても法定時間外労働には該当しません。
時給の計算方法:日給、月給、年俸の場合
日給、月給、年俸の場合について、時給の計算方法例をもとに考えてみましょう。週給については例も少なく、他と同様の計算で算出できますのでここでは扱いません。
時給の計算方法:日給の場合
日給制の場合は、1日の基礎賃金の額を1日あたりの所定労働時間で割るという計算方法で時給の金額を求めます。
- 例:1日あたりの基礎賃金が10,000円と定められていて、実際の労働時間は5時間で終了した場合
10,000(円)÷5(時間)=2,000(円)
日々の労働時間が異なる場合は、期間中の平均から1日あたりの所定労働時間を計算し、1時間あたりの基礎賃金の金額(時給)を計算するようにします。
時給の計算方法:月給の場合
月給制の場合、就業規則などで定められている月あたりの所定労働時間をもとに計算します。月の基礎賃金の額を所定労働時間で割るという計算方法で時給の金額を求めます。月によって実際の労働日数は違いますので、1か月間の所定労働時間を1年間の平均から算出して時給に換算します。
- 例:月給25万円、1日8時間労働、年に245日が出勤日だった場合
労働時間=8(時間)×245(日)=1,960(時間)
1ヶ月あたり労働時間=1,960(時間)÷12(ヶ月)=163.33(時間)
1時間あたりの賃金(時給)=25(万円)÷163.33(時間)=(約)1,530円
時給の計算方法:年俸の場合
年俸制の場合は、1年間の基礎賃金の額を1年あたりの所定労働時間で割るという計算方法で時給の金額を求めます。
- 例:年俸490万円、1日8時間労働で1年間の勤務日数が245日の場合
労働時間=8(時間)×245(日)=1960(時間)
1時間あたりの賃金(時給)=4,900,000(円)÷1960(時間)=2,500(円)
時給を考える際によくある質問
時給の計算方法をお分かりいただけたでしょうか。ここからは、時給を考える上でよくある質問とそれに対する回答を紹介します。時給に関する疑問解消に役立てましょう。
休憩時間は時給計算に含まれますか?
当然ながら休憩時間は時給計算の対象外です。事実上の拘束時間であるため、気になる人もいるかと思いますが、賃金は発生しません。仕事を選ぶ際には、拘束時間なども考慮して妥当な時給か考えるようにしましょう。
15分切り捨てなどはアリなの?
時給計算の際に、「15分に満たない残業や労働時間は切り捨てて計算する」などのルールを持っている企業もありますが、これは違法にあたり、請求によって支払い義務が企業に生じる可能性があります。塵も積もれば山になりますし、本来は1分からでも賃金や割増賃金などは発生します。正しい計算を心がけましょう。
朝礼などで早い時間に出社した際の時給は?
朝礼や早朝会議などが行われることになり、普段より30分など早く出社することになる場合もあります。その場合は、時給が発生することになります。ただし、働き方として自分の都合で毎日余裕をもって30分早く出社して仕事を始める場合、時給は発生しません。「雇用主の指示・命令」によって早く出社しなくてはならない場合は賃金が発生しますが、自発的な出社に関して賃金は発生しません。休日出勤や深夜労働などの場合も同様です。
時給に手当は含まれないの?
基本的に時給は給料で考えるため、個人によって支給額や有無に差のある手当は含めないことになっています。ただし、事務作業の効率化などを名目に、状況に関わらず全ての社員に等しく支給されている手当(例:交通費を月2万円固定支給)などの場合は、給料に加えて時給算出に使います。
時給にボーナスは含まれる?
ボーナスは、その支給の性質によって時給計算に使うかが分かれます。支給の時期や金額が決定していない場合は計算に入れませんが、年棒制などで予め支給金額が確定している場合には、ボーナスも含めて時給計算をすることになります。
給与は上がったけど時給は下がった時はどうすればいい?
昇進などをキッカケに給与は上がったものの、仕事は増えて忙しくなり、時給は下がってしまうケースもあります。この場合、自分の仕事量やQOL(生活の質)などをよく考えて良しとするべきか良くないとするべきか判断する必要があります。
給与額は簡単には変えられませんが、時給そのものは働き方次第で上下しますので、より効率の良い働き方を身につければ時給も満足できるところに持っていける可能性はあります。
時給が合わないと思った場合はどうする?
時給について考えていくと、自分が考えている給与と給与明細の給与が合わない場合があります。その場合、どのような対応をすればいいのか見てみましょう。
その数字になった計算の根拠を人事部や経理部に確認する
時給や給与の数字が合わないと思った場合は、まずは給与明細などから会社がどのような計算をしているのか自分で確認しましょう。人事や経理で給与計算を行っていますので、気になる点があれば確認してみましょう。会社における計算の根拠が、常識的に考えられる範囲の計算から大きく逸脱していれば違いを指摘し、未払い分を請求することも可能です。
数字の違いがあれば、証拠に基づき正しい金額を請求する
会社の計算の根拠を確認しても数字に違いがある場合は、証拠に基づき正しい金額を提示して請求することは可能です。ただし、タイムカードの記録など日々の労働時間などを示す証拠となるものが必ず必要になります。また、請求の仕方によっては周囲からの印象を悪くすることもありますので、穏便に進めましょう。
どうしても納得できない場合は外部に相談する
どれだけ証拠に基づく正しい請求でも、全く受け入れてもらえない場合も残念ながらあります。そういった場合は、労働基準監督署や弁護士に相談してみましょう。必要な証拠がしっかり揃っていれば、依頼主の名前を出さずに是正を指示してくれます。対応しない場合、罰則が与えられますので、企業側も対応せざるを得ないはずです。
時給の正しい計算方法を知り、自分で確認できるようにしておこう
自分の時給の計算は、時給で給与が決定される派遣社員やアルバイトの人だけでなく、固定給の正社員の人だとしてもやっておくべきです。人事や経理に任せればいいと考えず、正しい計算方法を知って、ぜひ自分でも行ってみてください。
時給は給与計算の際に使われる最小の基準ですが、自分の時間あたりの給料と考えれば、それは自分の市場価値や労働の効率性を意味するものでもあります。正しく計算できると、自分の成長を感じることもできますし、もっと効率的に仕事をするにはどうしたらいいか考えるようになり、仕事にもハリが出てきます。