退職

退職金にかかる税金の計算方法

退職金に税金がかかるのかどうかご説明します。まず退職金とは何か、もらえる場合について詳しくご紹介します。その後退職金にかかる所得税の計算方法について解説します。また、住民税についても触れ、確定申告をすべきかどうかについてもご説明します。

退職金には税金がかかる

会社を退職した時にもらう退職金。その時に気になるのが、税金との関係です。退職金をもらった場合には税金を払わなくてはいけないのか、どれくらい払わなくてはいけないのか、払うべき税金の種類は何なのか……?

どうやら退職金と税金には色々な関係があるようです。そこで今回は、退職金と税金にはどんな関係があるのかについてご説明します。

退職金とは

退職金とは、退職手当とも呼ばれており、退職した労働者に対して支払われる給付の事を言います。退職金は、退職時に自然に支払われるものではなく、労働契約において支給額や支給される条件などがはっきりと定められているものです。それらが該当する場合にのみ、請求する事ができるものとされています。

ただし、労働契約の上ではっきりとした提示がない場合にも、一定の退職金を支払う事が慣行になっていると認められる場合ならば、退職金請求が認められる可能性があります。また、最近は退職金制度を採用していない企業も増えています。

特別なものとして、中小企業で働く労働者の退職金を保障するための組織として、中小企業退職金共済が挙げられます。退職金は一括で支払われる事が多いですが、年金として支払われる事もあり、分割払いも認められています。

中小企業退職金共済制度とは?仕組みはどうなっている?

退職金は労働契約や就業規則の中で支払われるという明記がない限りは、企業に対してその支払いを請求する事はできないという事になっています。退職金は、法律で労働の対価として必ず発生するものだと定められているわけではないのです。

労働契約や就業規則の中に、退職金を支給する規定がある場合でも、その支給額や詳しい支給条件が明文化されていない場合には、必ずしも退職金を請求できるとは限りません。これは、雇用主が退職金を支払う事を約束しているとは言えないからです。

労働基準法では、退職金について就業規則に記載する場合は、適用される労働者の範囲や退職手当について、また計算や支払いの方法とその時期について詳しく定める必要があるとしています。これらがきちんと定められていれば、退職金を請求するための要素が揃い、雇用主に対して支払いを請求する事ができます。

退職金が契約上に定められていなくても支払われる場合を、「労働慣行」の状態と言います。「労働慣行」とは、規定がなくても退職者に対して退職金を支払うのが慣例になっているという状態を言います。なお、退職金の請求権は支給日から5年で時効によって消滅します。

退職金は労働者の退職した後の生活を支えるための重要な役割を果たすものであるため、自分が勤めている企業の就業規則はきちんと確認しておく事をおすすめします。

退職金にかかる税金とは?

退職金を受け取る時に、税金がかかるのかかからないのかという疑問がわいてくるかもしれません。

退職金は所得税と住民税がかかる

退職金は、所得税と住民税の課税対象となります。退職金にかかる税金の計算は、給与所得とは違い、勤続年数などの要素によって、控除額が異なります。

退職金は、企業から支払われるお金という認識が一般的かもしれませんが、税務上では「退職所得」として、給与とは違う取り扱い方をします。退職所得には、退職金だけでなく、社会保険制度や退職金共済制度に基づく一時金なども該当します。

本来であれば勤務期間ごとに課税するべきもの

退職所得は、退職に至るまでの、長きにわたる勤務に対しての慰労金、あるいは給与の後払いであると考えられ、退職後の生活資金にあてられるという特性をもっています。本来であれば勤務期間ごとに課税するべきものであると言えます。

しかし、そうできなかった事をうけて、受け取った年に一括して課税する事になっています。その代わりに、退職所得控除を設けて一定の金額を引いたり、他の所得と分離して税額の計算をするなど、税の負担を軽くするための配慮がなされています。

退職金にかかるのは所得税と住民税であり、退職金の総額からこれら2つの税金が差し引かれた金額を受け取る事になります。

退職金は「退職所得控除」と「2分の1課税」を受け取れる

退職金には退職所得控除だけでなく、「2分の1課税」も計算に含まれています。「退職所得控除」と「2分の1課税」を受けるためには、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなければなりません。

そうしないと、退職金の総額に20%の所得税がかかってしまい、支払わなくてもいい税金を支払ってしまう事になります。

控除申告を忘れたら確定申告をする

もしこの申告書を提出し忘れて20%の税率で所得税を支払いすぎてしまった場合には、確定申告をする際に退職金についても申告すれば払いすぎた所得税を還付してもらう事ができます。

小規模企業共済を利用すると節税になる

退職所得を利用した節税対策のひとつとして、小規模企業共済を利用して節税する方法が挙げられます。小規模企業共済は、個人事業主や会社役員が退職する時のために自分で退職金を貯めるものです。

掛け金月額は1,000円から7万円までの範囲で500円刻みで選ぶ事ができます。掛け金は、全額を「小規模企業共済等掛金控除」として所得から控除する事ができます。これを「所得控除」と言います。

これにより、支出した金額を全額控除できるという事になります。小規模企業共済に加入した場合は、支払った金額すべてを所得控除する事ができるため、その分税金を減らす事ができます(注1)。

退職金にかかる所得税の計算方法

退職金に課税される所得税は、「分離課税」として課税されます。分離課税とは、給与所得や一時所得など、他の所得と区分して課税される税の事です。

給与所得や不動産所得、一時所得などは合算して税金がかかる金額を求めます。こうすると高い税率がかかってしまいます。しかし、退職所得だけを分離して課税する事で、低い税率で済むのです。

退職金の金額は、以下の計算によって求められます(注2)。

退職金の求め方

{収入金額(源泉徴収前の金額)-退職所得控除額}×1/2

勤続年数が5年以下の法人役員は、2分の1を乗じないため注意が必要です。その場合、役員として勤務したと考えられる年数は、退職金などに係る勤続期間のうち、役員などとして勤務した期間の年数とされます。なお、1年未満の端数がある場合は、その端数を1年に切り上げたものとします。

ここでいう役員とは、「法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している一定の者」と、「国会議員及び地方公務員及び地方公共団体の議会の議員」、「国家公務員及び地方公務員」を指します。

退職所得控除額は、以下の式で求められます(注3)。

退職所得控除額の求め方

  • 勤続年数が20年以下の場合は40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
  • 勤続年数が20年を超えている場合は70万円×(勤続年数―20年)+800万円

勤続年数に端数がある場合は、数日でも1年として計算します。控除額が80万円に満たない場合には最低80万円の控除が受けられます。また、障害退職の場合は更に100万円を上乗せした控除が受けられます。

所得税は、次の式で求められます。

退職金に課税される所得税の求め方

退職所得金額×税率―控除額

また、課税される金額と税率、控除額の関係は以下の通りです。

1,000円~195万円⇒税率5% 控除額なし
195万円~330万円⇒税率10% 控除額97,500円
330万円~695万円⇒税率20% 控除額427,500円
695万円~900万円⇒税率23% 控除額636,000円
900万円~1,800万円⇒税率33% 控除額1,536,000円
1,800万円以上⇒税率40% 控除額2,796,000円

死亡退職の場合には退職金に所得税はかかりません。ただし、この場合退職金は遺産として扱われるため、相続税がかかる事になります。死亡退職金を受け取る場合は、法定相続人ひとりあたり500万円の控除を受ける事ができます。

退職金をもらった時に払う住民税の計算方法

住民税とは、居住地の都道府県と市区町村に納める、2つの地方税を合計したものを言います。前年の所得金額に応じて課税される「所得割」と、所得金額に関係がなく定額で課税される「均等割」を合計して求められています。

通常は全員に支払いの義務がありますが、所得割を支払わなくてもいい人もいます。控除対象の配偶者や扶養親族がなく、前年の所得が35万円以下の人などがそれにあたります。所得金額とは住民税の控除を差し引いた金額となるため、給与所得控除65万円を差し引いた金額が35万円以内である必要があります。

住民税は、都民税(県民税)4%と区市町村民税(市民税)6%を合わせて10%として計算します。退職所得金額に、この10%の税率をかけた金額が住民税の金額となります(注4)。

退職金に1,000円未満の端数がある場合は1,000円未満の金額は切り捨てます。また、計算で求められた住民税に100円未満の端数がある場合は、100円未満の金額は切り捨てます。

計算方法は、退職金×10%で控除前の住民税の額を求めた後、そこから控除前の住民税の額×10%で求められる住民税の控除額を差し引く事で成立します。

退職金をもらった時の確定申告の仕方

退職金の確定申告についてご説明します。

退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出済みの場合には、退職金に関して確定申告をする必要はありません

しかし、退職の際に「退職所得の受給に関する申告書」を会社へ提出しなかった場合や、所得税を納めすぎている可能性がある場合などには、確定申告をする事で税金の還付を受けられる事があります。

会社は退職者に退職金を支払う際に、所得税を源泉徴収して納税します。源泉徴収額は、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかによって変わります。

提出していない場合には、20.42%の所得税と復興特別所得税が源泉徴収される事になるので、退職者本人が確定申告する必要があります

年の途中で退職したまま再就職しなかった場合は、源泉徴収された税額が多すぎる事があります。これは、退職年の収入が少ない場合は、社会保険料控除や生活保険料控除などの控除を給与所得から差し引く事ができていない事があるからです。この場合は、確定申告をする事で源泉徴収税の還付を受ける事ができます。

また、退職者が他に事業を行っており、その所得が赤字になった場合には、確定申告で退職所得と損益通算する事ができます。

退職後に配偶者の扶養に入った場合の税金はどうなる

ここでは、退職後に配偶者の扶養に入った場合に、もしも「扶養控除」を受けるとしたら税金はどのように関係するのかについてご説明します。

扶養控除とは、納税者一人が親族を養っている場合に、その納税者の税金が安くなる税制上の仕組みの事を言います。扶養控除においては、税率をかける前の所得の金額から「扶養控除額」を引く事で税金が安くなります。

同じ所得でも、扶養控除がある人は扶養控除がない人に比べると税金が安くなります

扶養控除には、所得税と住民税における2つの控除が適用されます。住民税の扶養控除額は、所得税の扶養控除額よりも少なく設定されているため、所得税が発生しなかった場合でも、住民税は支払わなくてはいけない可能性があります。

所得税はその年の扶養の状況によって判断されますが、住民税はその年の前年の扶養の状況によって判断されます。

扶養控除の対象となるのは、納税者と生計を共にする16歳以上の親族であり、前年の合計所得金額が38万円以下である人です。また、給与所得者の場合は年収103万円以下であるため、退職後にパートなどをしようと考えている人は、扶養に入りたいのであれば、この金額をオーバーしないように給料を調節する必要があります(注5)。

また、別居の親族であっても、親族に仕送りをしているのであれば、その親族は扶養控除の対象となります。同居の親族であっても、その人が自分で生活費をまかない、自立した生活を送っている場合には、扶養控除の対象とはなりません。

退職金にかかる税金は前もって確認しておこう

退職金は退職後の生活の基盤となる重要なものです。そこに関わる税金は決して安いものではありません。少しでも損をする事がないように、しっかりと仕組みを確認しておきたいところです。

いざ退職金を手にした時、税金の問題で混乱しないように、あらかじめ予備知識を蓄えておくと良いでしょう。