SNSで悪口を言うのは大人としていただけない
もはや個人の関係作りから企業のマーケティングまで欠かせないものとなっているSNSですが、このSNSを通しての悪口による問題も増えています。企業のアカウントが炎上する問題もありますが、職場内での嫌がらせやグループによる囲い込みなどに使われていることもあって問題と見る専門家も増えています。
大学生の酒井君は、知人の経営コンサルタントのK・エーイさんに職場におけるSNS使用の状況について聞いてみることにしました。二人のやり取りからSNSの使い方について再度考えてみましょう。
SNSを使って会社の人の悪口をいう事が問題になっている
―おはようございます。エーイさん。今日は職場でのSNSについてお伺いしたいんですがお時間大丈夫ですか?
はい、構いませんよ。しかし、職場でのSNSだなんて不思議なこと聞くんですね。
―不思議ですか?
ええ。職場だから、ということで特別なことってあまり無いと思うんですけどね。まあ、マナーというか大人のコミュニケーションの範囲じゃないかと思いますけど。
―そうなんですか?学生のイメージとしては、職場ではメールが主でSNSでコミュニケーションを取るってちょっと関係が近すぎるのかなと。使っちゃいけないんじゃないかと。
ああ、そういうことなんですね。はい、基本的にはメールがまだ主流ですね。ただ、社内や部署内ではSNSを活用してコミュニケーションしているところも多いですし、最近は会社で使うグループウェアもSNSのようなUI(ユーザーインターフェース。見た目)になっていますから、思っているよりも馴染んでいると思いますよ。使うことは社内や部署内の決定ですし、スタンプなどの利用は様々ですが、職場のSNSがアリなのは間違いないですね。
―へえ。そうなんですね。でも、SNSって悪口とかあったりしますよね。社会人になって、職場のSNSでもそういうことがあるんですか?
そうですね。これについてはいろんなパターンがあって、最近はSNSの使用に関する教育を専門家に依頼するケースも出てきているんです。悪口はマナーの問題として当然よく知らないといけないんですが、幅広い問題があるんですね。
公共のSNSと社内SNSは区別して考える
まず、SNSって言っても様々なものがあります。一般的に使われているTwitterやFacebook、LINE、Instagramなどはとても有名ですが、企業・ビジネス向けに作られたSNSなどもあります。こういったものを多少区別する必要がありますね。
―どういう区別なんですか?
ひとつは参加者に関して一定の制限があるかどうかです。招待制であったり、また匿名のアカウントが作れるか、関連ユーザーの紐づけ機能がどの程度あるか、グループの範囲などが違ってきます。これによって、悪口や誹謗中傷が発生するリスクもだいぶ違ってきますね。
―流石に実名が出ていたら、公然とは悪口言えませんものね。
もちろん実名が出てなくても公然と悪口を言うもんじゃないですけどね。まあ、そういった抑止力がありますし、また交換される情報の秘密性をどこまで守るかという面でも使うべきSNSはよく考えて選ぶ必要があるってことですね。範囲が狭すぎるとただのチャットツールになってしまいますけど。
―公共のSNSだと、悪口や誹謗中傷などで炎上することがよくありますよね。社内のSNSやビジネス用のSNSでもそういったことは起こるんですか?
派手に起こることはありませんが、ネット界隈で言う「包囲する」に近い状態は生まれることがありますね。ある特定の意見を持った層が、違う意見を持った人の意見に対して反対の立場を表明したり違う意見を持つ人が仕事をしにくくするよう働きかけるんです。「圧力をかける」みたいな感じですね。
―何だか陰湿ですね。
そう言われるのは仕方ないでしょうね。特にこれに関して、役職者や上司が絡んでいる場合とかは最悪ですね。公共のSNSでの批判とはまた違った、関係が近い人達のSNSだからこそ仕事上の影響が大きいのが職場のSNSでの悪口の問題です。
SNSでの悪口や非難にはどう対応したらいい?
―公共のSNSで悪口や非難が集まって炎上すると、やっぱり仕事にも影響が出たりするんでしょうか?
そうですね、ほとんどの人は出るでしょうね。まず、精神的にストレスが非常に大きくなります。それに、通知を設定している場合は通知がなりっぱなしになって他の作業に集中できないです。
―なるほど。これは想像できますね。
さらに困ったことには、その悪口の内容によっては本人や会社が特定され、会社にとっての大きな問題になる場合もあります。
―これってどういうことですか?
たとえば、少し前のニュースではよくアルバイトが悪ふざけをネタにした画像をSNSに投稿し、それが原因となって批判が殺到してお店を閉めざるを得なくなったという報道がありました。そういった問題は企業に勤める社会人のSNSだとしても起こり得ます。
―そういうリスクがあるって注意してSNSは使わないといけないというのは、よく耳にする話ですね。学校などでも良く注意がありましたし。
今の若い世代はSNSがあって当たり前の中で生活していますから、そういったマナーを守っている人も多いんですが、SNSに後発的に参加した年配の世代だとよくわからないまま使ってしまう人も多いんですよね。結果、本来は会っていることが知られてはいけない他社の方とツーショットで写っている写真を投稿しちゃったり、いてはならない場所にいることがバレてしまうんです。
―こういったSNSの失敗にはどう対応したらいいんでしょうか?
まず一番大事なのは対処の前に予防です。うかつな行動や悪口っぽい投稿はしないということですね。いつバラまかれ、拡散されるかリスクがあることを知るべきです。そして、対処としては自分の投稿であれば早めに削除したり、関係各所に謝罪することですね。下手に反撃や言い訳をするのはNGです。炎上がより大きく燃え上がってしまうことになります。また、同じ人が繰り返しそうした悪口っぽいコメントをしているなら、通報したりブロックしたりすることが有効です。
SNSで見られる「悪口」や「包囲」の裏には社内政治がある
―社内のSNSなどは、互いに顔などもわかりますし、問題は起こりにくそうな気がしますが、先程エーイさんはSNSには「包囲」があるとおっしゃいましたよね。詳しく教えてください。
そうですね、たとえば、会社の中で嫌がらせに使われることがあるんですよね。
―嫌がらせですか。
はい。もちろん、SNSで公然と悪口を言うわけではないですが、本人を除いたグループや個人間のやり取りの中で、特定の人の監視を行ったり、反対意見を深めていく、飲み会などの案内が行われるというようなことがあります。
―学校にもありそうな展開ですね。でも、企業のSNSだとそういった投稿メッセージなども残ってしまうんじゃないですか?後々調べられたらすぐに首謀者が特定されそう。
はい、普通はそうです。だから、企業SNSを踏み台にしてプライベートのSNSにそういった批判や悪口、包囲が移っていくこともあるんです。ターゲットになっている人の公共のSNSアカウントを知っている人が包囲グループ内にいる場合、急にそこに対しても批判的なコメントが増えたりする場合もあります。
―公私に影響が出るしかない事態になってしまうんですね。こうした嫌がらせをわざわざSNSで行う理由は何なんでしょうか?大人気ないとしか思えないんですが。
確かにSNSで悪口を言ったりする行為は大人気ないですが、ある意味大人だから行ってしまうのかもしれませんね。ひとつの理由は単純に「気に入らないから排除したい」というものです。辞めさせる、休ませることを目的にした複数人による圧力や批判です。また、多い理由としては「社内政治」ですね。
―社内政治って何ですか?
仕事上自分の立場を高めたり、スムーズに仕事ができるように、いかに多数派に回ったり、有力者に取り入るか、競争相手を蹴落とすか、そういったことです。SNSによって人を巻き込んでいき、社内政治の道具として活用するんです。特定の人の評価を落としたり、逆にある人の評価を高める方向で団結したり。
―社会怖い(笑)!
そんなこと言わないでください(笑)。SNSでもリアルでも、多かれ少なかれあることですから。ただ、SNSって証拠も残りますし、直接的なやり取りではない分、悪口や批判がエスカレートしてしまうと後々大きな問題になってしまうことがありますから、運用や管理は気をつける必要がありますね。
SNSの悪口から生じるトラブルの被害額は小さくない
―でも、SNSの悪口って昔からの掲示板の悪口みたいなものですから、あまり気にする必要はないんじゃないでしょうか?
そうとも言えますし、そう言えないところもあります。実はSNSに悪口を匿名で書き込んだことが発覚し、名誉毀損と言われて1000万円の訴訟になった例があります。
―1000万円?SNSの悪口で?
はい。そうです。内容にも当然よりますが、それだけの被害を被ったと客観的に認められるなら訴訟額に決まりはありません。弁護士も雇って相談し、最終的には裁判所の判断で調整されますが、訴訟段階では驚くような額になることもあるんですね。
―でも、SNSの悪口でそんなことになるんですか?
たとえば、店舗や会社の経営者などの社会的信頼などを失墜させるような内容だったり、収入の多い人をメンタル的に仕事ができない状態に追い込んだりしたなら、それだけの訴訟を起こされるリスクは十分にあると言えます。
―SNSは匿名だから悪口を言っても大丈夫ってことも無いんですか?
匿名だとしても、状況によってはSNSの運営会社にアカウントの停止を依頼したりアカウントの持ち主を確認させることもできます。また、投稿されたメッセージを、インターネット上の住所であるIPアドレスから追いかけて発信元を突きとめることもできます。自宅からの発信なら、ほぼ言い逃れはできないでしょうね。
―そうなんですか。普段のおしゃべりの延長線でSNSを考えていると、とても大変なことになってしまうんですね。やり取りがスムーズで盛り上がってくると、ついつい楽しくなっちゃって言うべきでないことも言ってしまいますから気をつけないといけないですね。
悪口によるトラブルを防ぐには「SNSは公の場」という意識を持つこと
とにもかくにも、SNSを使う場合はどんな種類のものでも「SNSは公の場」という意識を持つことが大切ですね。
―SNSって完全に商業用と割り切っている場合以外は、プライベートなものってイメージですけど「公の場」なんですか?
それはそうです。だって、SNSって見ようと思えば知らない人からも見えるようになっているんですから。だからこそシェアされたりコメントがついたり、「いいね」がついたりするわけです。
―言われてみるとそうですね。
自分の知っている人からしか反応が無いとしても、たとえ悪口を言っていないとしても、外に見られている、自分の発言が広がる可能性があるということをちゃんと理解しておく必要があります。そして、何かの際に自分の発してきたコメントや反応が、その人の人格や所属などを伝えてしまうことに注意が必要です。
―就活でもSNSが見られることがあるって言いますしね。
そうです。就活だけでなく、社会人として付き合う際にも見られるケースがありますから注意しなくてはならないんです。SNSはもうコミュニケーションの道具というだけでなく、セルフブランディングの場ですから、自分がどう見られるのかを決定づける大事な要素だという自覚が必要です。
―セクハラやモラハラにあたる投稿をする人は中年以降の男性が多いというニュースを見ましたが、セルフブランディングという観は無さそうですね。
はい。SNSに対する理解が浅いのが一因ですが、それ以前に社会人としてのマナーができていないですね。たとえ自分に害が無くとも、自由に人を傷つけるような言動が許されるはずはありません。もしも悪い考えが浮かんでも、ちゃんと自分で自分をコントロールするのが一人前の社会人です。
―SNSが公の場であるという自覚が無ければ、社会人でも学生とあまり変わらずに軽率な言動をしてしまうということですね。
はい、そういうことですね。礼儀、ビジネスマナーといったものがありますが、職場にいる時だけ守れば良いというものではありません。結局、各種の礼儀やビジネスマナーというのは社会生活を円滑にするためのものです。そこには自己中心的にならず、相手を気遣う心が無ければなりません。ちょっとお説教臭いかもしれませんが、リアルでもSNSでも、これが真理だと思います。
―SNSでの悪口も時には大きな事件になってしまいますし、そもそも悪口は他の人を尊重する気持ちに欠けた行為ですから当然すべきではないですね。いつの間にか巻き込まれないように注意しておきたいと思います。エーイさんと話せて色々わかってスッキリしました。ありがとうございました。
SNSで会社の人の悪口を言ってもバレないというのは誤解
SNSは便利なツールですが、悪用すると嫌がらせや誹謗中傷の道具になってしまいます。SNSでの悪口はバレないだろうと思っている人も少なくないですが、実際には追跡や個人の特定は十分に可能となっており、訴訟に発展するケースもあります。自分が加担してしまうことが無いよう、SNSの仕組みやルールを理解すると共に、根本的には個人を尊重する気持ちを持ち、自身の言動をコントロールすることが大切です。