広がり続けるアルハラ被害
アルハラ(アルコール・ハラスメント)とはハラスメント(嫌がらせ・迷惑行為)の一種です。アルコール飲料に関わる嫌がらせは全てアルハラと見なされます。
こうした被害に遭わないためにどう対処すべきなのかを、職場でアルハラを経験したことのある社会人15人のエピソードから考えてみましょう。
アルハラとは?
特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)では、以下の5つの行為を主要なアルハラ行為としています(注1)。
- 飲酒の強要
- イッキ飲ませ
- 意図的な酔いつぶし
- 飲めない人への配慮を欠くこと
- 酔ったうえでの迷惑行為
飲酒を強要したり一気飲みをさせることはもちろん、飲み会を実施して意図的に酔わせようとする行為や、体質的に飲めない人やお酒が好きではない人に飲酒をすすめたり、アルコール飲料以外の飲み物を用意しないこと、また飲酒しないことについて侮辱するなどの行為もアルコールハラスメントです。
また、酔った人間が周囲の人間に絡んだり、セクハラ行為や暴言、暴力をふるうことも悪質なアルハラとして見なされます。
アルハラの被害者はどれくらい?
2003年に実施された全国調査のデータでは、アルハラを受けたことがあるという成人の人数は3,000万人という結果が出ており、さらにその中の1,400万人は「アルハラ被害によってその後の人生や考え方に影響を及ぼした」という回答を寄せています(注2)。
これだけの人数が被害を受けているという実態からも、アルハラは決して他人事ではない、誰にとっても身近な問題であることがわかります。
職場でのアルハラ被害を受けやすい新人時代
毎年、新入生歓迎会の時期になると大学サークル内での飲み会での事故も度々ニュースで話題となりますが、上司と部下、先輩社員と後輩社員といった上下関係がある会社組織内においてもアルハラは横行しやすい傾向にあります。
自分よりも立場が上の人間に飲酒を強要されると、どうしても断りにくさを感じてしまうものです。今回の体験談の中でも、新入社員として入社したばかりの頃や20~30代の新人時代にアルハラを受けたという声が多数寄せられています。
アルハラ被害を受けた15人の体験談
「過去に職場関係の人間からアルハラを受けたことがある」という社会人15名から、当時のエピソードを語ってもらいました。
アルハラ被害に遭った社会人男性の話
忘年会でのアルハラ体験
とし(43歳 医療職)
私が職場でアルハラを受けたのは27歳の時です。その時にアルハラをしてきた人は職場の上司でした。
職場の忘年会では毎年恒例なのですが、ひとり一言ずつその年にあった出来事や仕事の振り返りを述べる機会があります。その忘年会で自分がスピーチする番になりました。特に普通のことを言ったつもりなのですが、かなりアルコールが回ったその上司に突然「おまえの話はつまらない」「一気飲みをしろ」と言われました。
自分はそんなにお酒に強い方ではなかったので、やんわりと断ったのですが、その上司が怒りだしてしまいました。仕方なく一気飲みしましたが、その後で急に酔いが回ってしまい、気持ち悪くなり吐いてしまいました。
その後、上司は特に悪びれる様子もなかったので、とても頭にきた記憶が残っています。
深夜に民家の庭で…
ター坊(47歳 デザイナー)
私が35歳の時、仕事がとても忙しく泊まりもざらにありました。当時会社では仕事場と別にマンションを事務所として借りており終電を諦めたときはそこに泊まらせてもらっていました。
当時、会社には60代の会長がいて私たちの仕事を検査してもらっていたのですが、ある日とてつもなく忙しく、通常会長は必ず帰るのですが、初めて私と後輩と会長の三人で事務所へ泊まることになりました。
会長は泊まるのが初めてでテンションが上がったのかコンビニで買ってきた焼酎の瓶を目の前に「これを開けるまで寝かせねえぞ」と私と後輩に言いました。
後輩は水でかなり薄めてごまかしていたそうですが、私は真に受けてしまい、ハイペースで付き合って飲んでしまいました。
その後、酔ったまま寝たのもつかの間、気持ち悪くなって目が覚めました。深夜に外に出てなんとか酔いを醒まそうとさまよって気が付いたら泥酔したまま近くの民家の庭で寝てしまっていました。
100%二日酔い状態のまま会社には行きましたが、ほとんど仕事にはなりませんでした。会長は昼過ぎまで大いびきで寝ていたそうです。その経緯を聞いた当時の50代の社長に会長はこっぴどく叱られたのは言うまでもありません。
飲むのも仕事
いくら(44歳 小売業)
私が職場でアルハラを受けたのは、新入社員として社会人デビューをした22歳の時です。
元々酒は弱くてたいした量は飲めず、その事は配属された場所の上司や先輩に話してはいました。それでも当時配属されたのは営業部でしたので、体育会系の気風が強く、「酒を飲めないのは男のくせにだらしない」という空気は流れていました。
それでも無理矢理飲まされるなどのことはありませんでしたが、当時の関連部署の課長が飲めない事をけなす発言が多く、周りの女子社員を無理矢理巻き込んで馬鹿にされる事が何度かありました。
また、「飲めないなら何か芸をしろ」と強要されることもありました。それに対しては、ある程度覚悟していたので、笑ってごまかしたりしてタイミングを見て席を移るなどして、その人の近くならないようにしたりしていました。
しかし、また別の部署の課長が飲めない人で、その人が飲めない奴らでまとまろうと声を掛けてくれるようになったので、途中からはアルハラを回避できるようになりました。
アルハラの限度を超えてました
キョウ(54歳)
30代に人事異動で直属の上司になった男性が、社内では有名なアルハラ人物でした。ほぼ新人だった私はそんなことを知るよしもなく歓送迎会に出かけました。
宴会が進むにつれて人がだんだん少なくなっていることに気がつきましたが、歓迎されている身としては消えるわけにもいかず、会場で残った人に酌をしていました。
そうしていると最後は私と上司二人だけになっていました。時間もだいぶ経っていたので会場の支配人が伝票を持って来た途端上司の顔色が変わって、「人が気持ちよく飲んでいるのに金の話はないだろ!」といきなり支配人に殴りかかりました。
何とか謝った上、後日請求書を職場に送ってもらうことで何とかその場を回避しましたが、一つ間違うと警察のお世話に(上司は既に何度かなっていたらしいですが)なっていたので、次回からは皆と同じように途中で消えるようになりました。
酒を飲む練習をさせられ配置転換
築地(35歳 建築会社勤務)
大学卒業後、今勤めている建設会社に就職しました。会社の理念も実績も申し分なく、私は、夢と希望を抱いて仕事を始めました。
ところが、入社して一週間で壁にぶつかりました。「建設会社=酒」というイメージは入社前からありました。しかし、リクルーターからも面接のときの面接官からも、そういうイメージは前時代的なものなので気にしなくていいと言われました。
しかし、いざ入社してみると、そんなに甘いものではないことが分かりました。現場で働く人とは、酒が飲めないと実質的に本当のコミュニケーションがとれないことが分かりました。
直属の上司が大酒飲みで、私がお酒が飲めない下戸だと知ると散々罵倒し、まるで「男ではない」「使えないやつ」みたいなレッテルを張ってくるのです。その上で、酒に強くなる練習を強要され、洗面器のような器に入った日本酒を飲まされました。
たまりかねてその上の上司に相談したところ、私の邦画配置転換となりました。望んだ部署ではないのですが、当時はあのアルハラから解放されるならそれでもいいと思いました。
アルハラとは気づかずに
あき(31歳)
私が新卒社員で会社に入社した時だったので22歳の頃、初めての職場で上司、先輩らと私含めた新卒社員の歓迎会を開いてくださった時の話です。
私はその当時先輩らの席に囲まれて宴会を楽しんでいました。その先輩らはみんな酒豪でどんどん瓶ビールを開けていきました。私はそれほどお酒が強くないので、ちびちびグラスを口をつける程度でしたが、その時の先輩らに勧められ、私のグラスが空いていないのにどんどんお酒をつがれてかなり飲まされました。
また宴会の途中で、私に対して、「おい、〇〇、歌舞伎やれ」と一発芸をさせられる始末…。私は新卒社員だったのでこれが当たり前と思い、先輩からのお酒もどんどん飲み、歌舞伎もやり全て応じました。最終的には終電もなくなってしまい、自費でタクシーに乗り帰宅しました。
赤白ワイン飲みゲーム
ラッテ(33歳 金融業)
私が30歳の時の話です。私は金融業界に勤めており、基本的に上司の言うことは絶対です。毎月配属支社で会議があった後は飲み会がありかなりハードで深夜まであります。付き合いなので最後まで付き合わないといけません。
ある会議のあと支社長が『面白い飲み方を考えた』と飲み会の席で言い出し私を名指ししてワインのボトルを注文しました。赤と白のボトルをそれぞれ持たされ始まったのは『赤白開けゲーム』です。支社長の掛け声のもと言われた方のワインを飲むというゲームで、支社長が楽しそうに『赤飲んで、白飲んで、赤開けないで白飲んで』と陽気にしゃべり、私を赤ワインと白ワインをちゃんぽんしながら飲むという、地獄のようなアルハラです。
ワインを交互にボトル一気させられ、さすがにダウンしてしまいました。その日は家に帰った記憶がありません。さすがにそのあと、大先輩に相談し同じようなことをしないよう支社長に言付けてもらい一回切りでしたが毎回されていたら、会社を辞めていたと思います。
支社長は一年で転勤され、今ではあの日のような地獄の宴会はなくなり、今は楽しくお酒が飲めるようになっています。
新人だからという理由で飲まされた!
kohji45(45歳 福祉関係事業)
私が23歳で新入社員として働き始めた時の話です。
仕事終わりに直属の上司をはじめとして、同じ部署の人達と親睦を兼ねた飲み会がありました。そこまでは、自分を知ってもらうことも必要ですので良かったですし、飲み会の席でも何の問題もありませんでした。
しかし、その後の二次会でひどい目に合いました。新人ということもあり上司の誘いを断り切れなかったのですが、5人ほどのメンバーでフィリピンバーに連れていかれました。
直属の上司はどんどん酒を勧めてきましたが、飲み慣れてない私は気持ちが悪くなりトイレで吐いてしまいました。その後、調子の悪さを伝えたのですが、「若い新人がどうして飲めない」とか「吐いて強くなるものだ」など言われ半強制的に飲まされました。
結局、外に出て倒れてしまい自宅まで送ってもらったのですが、直属の上司ということもあり社内での特別な対処法はできず、飲み会の時には稀にウソの用事を作って逃げていました。
アルハラ被害を受けたときの話
イランゾナ(58歳)
新入社員の頃、先輩社員と飲みに行ったときのことです。「営業は飲むのが仕事だ」「酒の量は、受注の量に匹敵するんだ」とばかりにグイグイ飲まされて、苦しい思いをしたことがあります。
それが一次会で、そのあと、「もう一軒いくぞ。来い。お前ら」といわれてしぶしぶというか、フラフラの状態でついていきます。そこではお酒に加えてカラオケ地獄が待っています。
酔いがまわって、先輩方が指定した曲のアタマ出しを間違えてしまうことがありました。そうしたら、いきなりバシッとおしぼりを丸めてボール状にしたものが顔にぶつかったのです。先輩方の怒りの剛速球です。「いてぇー」と悲鳴をあげましたが、「バカヤロー、顧客が指定したカラオケの曲を間違えたらどうするんだ。絶対に間違えるな」と返されました。これが当時の現実です。
アルハラ被害に遭った社会人女性の話
日頃は良い先輩なだけにがっかりです。
みっく(28歳 接客業)
社会人としてはまだ経験の浅かった21歳の時、職場の食事会にてアルコールを飲む機会がありました。その際、日頃はしっかりしていておまけに美人な憧れの同性の先輩よりアルコールハラスメントを受けました。
当時はあまり外で飲むことを好まなかったため、ソフトドリンクで乗り越える予定だったのですが酒豪な先輩に強引にお酒をすすめられ、やんわり断ると終いには「飲まないとぶっかけるよ!」とまで言われました。
飲めない訳ではなかったのでその場は仕方なく誤魔化す程度に軽く飲んでやり過ごし、次の日からも何事もなかったかの様に一緒に仕事をしていますが、やはり私の心の中ではいつまでも引っかかりが有ります。普段は素敵な人なのでイメージが壊れてしまいとても残念な体験でした。
職場の飲み会での出来事
桃李(21歳 公務員)
私がアルハラを受けたのは入社1年目の21歳の頃です。アルハラをしてきたのは同期入社の年上の方です。
その日は職場の飲み会でお酒に弱い私はちょっとずつしか飲んでいなかったのですが、飲み会が始まってしばらくたった頃に「桃李さん全然飲んでないじゃん!」と言われて今まで飲んでいたお酒よりも度数の高いお酒の一気飲みを強要されました。強要されたのは1杯、2杯ではなく5~6杯以上も相手のペースで飲まされてしまいました。
せめて間にお茶を挟ませてほしいと言っても聞き入れてもらえず、飲み会が終わるころには足元がおぼつかないほどでした。それ以降、その同期との間に溝ができてしまいできるだけ遠くの席に着いたり私と仲良くしてくださっている先輩の近くに座ったりするなどして自衛を取るようになりました。
相手には何度も「やめてほしい」と言ってはいるのですが聞いてもらえず、説教されながら苦手なお酒を何杯も飲まされてしまいます。
嫌な思い出です
なな(26歳 事務職)
22歳の社会人一年目からアルハラを受けてきました。
月に2~3回は必ず飲み会のある部署だったので、入社当社から半強制的に仕事終わりに飲み会へ参加。酔っ払ったおじさんたちの相手をするだけならまだしても、私はお酒自体弱く苦手だったので先輩方からの『飲めない奴は敵だ』と言わんばかりの圧に、毎回潰れて帰っていました。
中でも、直属の上司からのアルハラがひどく過呼吸を起こしてしまうことも多々ありました。その度に同期が面倒を見てくれていましたが、これが社会なのだとその上司には特に何も言うこともできず…。
仕事においてはとてもできる上司だったので、時間が経ち環境が変わるのを待ち、それから数年後、互いに異動になり地獄ともおさらばしました。
終電まで付き合わされる仕事外の飲み会
みずき(29歳 デザイナー)
個人のデザイン事務所だったので少人数の職場でした。とにかく事務所の人たちはみんなお酒が好きで、「夜遅くまで作業をしていてもそこから飲みに行って帰るといった流れが当たり前」と押し付けてくる風潮がありました。
27歳の頃、事務所に入りたてだった私は飲み会に付き合わないといけない空気に負けて、週に3回は終電まで飲みに付き合わされる状態でした。事務所長は、お酒を飲むと人はなんでも話し合えて打ち解けられる、と考えている人でとにかくお酒の場を作りたがります。
私はそこまでアルコールに強くなく、一杯をゆっくり飲んで楽しめればいいのですが、それは通用せずたくさん飲んでたくさん話してほしい、といった半ば強制的な飲み会にうんざりしていました。事務所長は終電がある限りは必ず残って飲むように言ってきました。「終電で帰すなんて昔はなかった」「そんなんだと付き合いが悪いと仕事がもらえなくなるぞ」と口癖のように言われ苦しい日々でした。
お酒がたくさん飲めないことを訴えて断れるようにしましたが、空気が悪くなり、結局そこの事務所を退職する選択をしました。
飲めないなら飲めないなりに
はむ(30歳 研究職)
就職してすぐ、20代前半の頃です。職場の上司と提携先の方々との懇親会の席に出席しました。
元々お酒には弱く、次の日も早朝から予定があったため、乾杯の1杯目の次からはソフトドリンクを注文しました。すると上司に『つまらない』『空気が読めない』といった言葉を浴びせられました。
その頃は、まだお酒の席に慣れていないのもあって、私は上司に謝ることしかできず、上司もため息をついた後は、私を会話の外において、ただただ時間が過ぎていきました。
今考えると、お酒は飲めなくとも明るく振る舞い、素直に明日の予定があることを告げ、素面でもその場の雰囲気を盛り上げるスキルさえあれば、あのようなことにはならなかったのではないかと思っています。お酒を飲めないなら、飲めないなりの他でのスキルを身に着けることが、アルハラを受けないための対処法ではないでしょうか。
お酒がとり持つ関係ならいらない
あい(26歳 医療技術職)
私の職場はまさに体育会系であり、新人が毎年数人入る環境です。お酒が大好きな体育会系の職場には、いわゆるアルハラが結構あります。
私の上司は私のお酒好きを知ってか知らずか、新入社員や勤続年数の少ない方と仲を深めたいとかで、飲み会のセッティングを何度か私に依頼してきました。それは24~26歳まで続きました。
上司自身、円滑に仕事を進めようとする、例えるならば太陽のような方なのですが、飲み会のセッティングを依頼される度に「昔からの風習の名残があるんだな」と少し残念に思いました。
新人歓迎会はまだしも、そんな時はみんなが予定合わない、忙しい、誰々の子供のお迎えがあるなどと適当に理由をつけて受け流していました。
普段から仲を取り持つために飲み会を開くのには疑問があり、仕事として仕事中にコミュニケーションを取るのが妥当だと思います。仕事仲間とお友達になりたい訳ではないのです。
会社規模でアルハラの危険性を認識することが大事
アルハラや、飲酒による事故に巻き込まれないためには、「私は飲みません」とキッパリ断る勇気を持つことが最も大切です。とはいえ、「その場の雰囲気を壊したくないから」「断ったらどうなるかわからないから」と、勧められたお酒を断ることに抵抗がある方はやはり少なくありません。特に立場の弱い新人時代であれば、本音を隠して嫌々ながらも先輩社員や上司の言うことに従わざるを得ないという方もいるでしょう。
新入社員がアルハラを受けやすいという背景がある中でこうした被害を防ぐには、会社全体がアルハラ防止に努める姿勢を持つことが非常に重要となります。もし飲み会の幹事を担当した際には、飲まない人同士で席をセッティングするなどして、「ノンアルコールでも構わない」という雰囲気作りに徹するのも効果的です。お酒が好きな人もお酒が飲めない人も、皆が平等に楽しめる飲み会を心掛けてください。
参考文献