ヒヤリハット対策は万全?安全に働くために気をつけたいこと
ヒヤリハットの対策にはどんなことが考えられるでしょうか。介護や製造の現場を中心にヒヤリハットを経験した人の体験談から、その事例と対策を紹介します。仕事に慣れていない新入社員の皆さんはヒヤリハットを起こしやすいですから、安全に働くためにはどうすれば良いのかを学びましょう。
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、大きな事故や災害にはならなかったものの、突然起きた出来事やミスにヒヤリとしたり、ハッとしたりすることを指します。
例えば、大量の書類を抱えて職場の階段を降りていたら、足元が見えずに階段を踏み外して転びそうになった・・・これもヒヤリハットの一例です。
アメリカの損害保険会社に勤めていたハーバード・ウィリアム・ハインリッヒ氏が提唱した『ハインリッヒの法則』によると、大きな事故1件の背景には小さな事件が29件、ヒヤリハットが300件起きていると考えられています。
対策を講じる前に、なぜヒヤリハットが起こったか原因を知ろう
今回は、もう少しで危ない目に遭うところだったというヒヤリハットを職場で経験した皆さんに、その事例と対策を聞きました。寄せられた体験談から、職場でヒヤリハットが起きた主な原因を見てみましょう。
- スタッフ間の連絡ミス
- 不注意・気づきの遅れ
- 人手不足
- 確認不足
- 機械・乗り物の誤操作・取扱いに不慣れ
- 相手のことを考えていない介助方法
- 設備が整っていない
- 安全策を講じていない・作業ルールが決められていない
ヒヤリハットの原因は様々なことが考えられますが、ヒヤリとしたことやハッとしたことが起こった原因をはっきりさせたうえで対策することが大切です。
ヒヤリハットを起こさないための対策:介護・医療・福祉編
今回寄せられたヒヤリハット体験談15件の中で一番多かったのが、医療・福祉・介護の現場で起きた事例です。ヒヤリハットを防ぐために、どんな対策をしたのか紹介します。
職員が付き添って外出し、気分転換をする
- 認知症の入居者さんが、スタッフが玄関から出入りする隙に勝手に施設の外へ出てしまった。
これは、高齢者向け介護施設でのヒヤリハット事例です。普段施設の出入り口には鍵がかけられているものの、施設にはスタッフはもちろん外部業者も出入りしますから、その隙に入居者さんが外へ出てしまうこともあります。認知症などを患っていると急に道路に飛び出してしまうかもしれないので、注意が必要です。自由に外出できないことに対する不満から、こういうヒヤリハットが起きてしまいます。
この場合は、入居者さんの不満を解消することがヒヤリハット対策につながります。施設スタッフが付き添って散歩や買い物に定期的に出かけることで、「外に出られない」という不満が解消され、ヒヤリハットが減りました。
入居者さんの食事形態や食べるスピードを把握する
- 食事の際に、入居者さんが誤嚥を起こしてしまった。
これは、特別養護老人ホームでのヒヤリハット事例です。日本気管食道科学会によると、誤嚥は食べ物が誤って咽頭と気管に入ってしまう状態のことで、誤嚥性肺炎の原因にもなると言われます。仕事にまだあまり慣れない新人スタッフは、誤った食事介助のせいで、ヒヤリハットが起きないよう注意しなければいけません。
食事内容や介助スピードなどを正しく把握すれば、ヒヤリハットを防ぐことができます。少しずつ食事介助に慣れてきたと思っても、こまめな確認作業を忘れないようにしたいものです。また、その日の体調や食欲の有無にも考慮しながら食事介助をし、食べ物を飲み込む力が弱い人に対しては、飲み込む力を鍛える体操なども取り入れると良いでしょう。
安全確認をしながら、ゆっくり扉を開ける
- 職員用階段の扉を開ける時、近くを通っている利用者さんに扉がぶつかりそうになった。
これは、老人介護施設でのヒヤリハット事例です。周囲の安全確認をせず勢いよく扉を開けてしまうことが、危険な状況を生みそうになる原因の1つと言えます。ですから、スタッフが扉周辺の安全確認をきちんとし、ゆっくり扉を開けることがヒヤリハット対策になります。
利用者の様子をこまめに確認する
- カテーテルが詰まっていることに気づかなかった、糖尿病を患う利用者への処置が遅れた。
これは、介護職のヒヤリハットの事例です。このように医療行為が必要な利用者に対するヒヤリハットは、命にかかわる重大な事故を招く危険性があります。
沢山の仕事を抱え忙しいと、ベテランスタッフでも利用者さんの異変に気づけない場合もあります。まだ任される仕事がそれほど多くない新人だからこそ、利用者さんに対する丁寧な様子確認ができるのではないでしょうか。小さな異変にも早めに気づければ、ヒヤリハット予防に役立ちます。
患者さんに渡す薬は複数のスタッフでチェックする
- 患者さんに違う薬を渡しそうになった。
これは、調剤薬局や病院でのヒヤリハット事例です。調剤事務スタッフや薬剤師の間で、よくあり得ることなので注意が必要です。他のスタッフも忙しく薬の確認を行う人が1人しかいないこと以外に、薬の名前が似ていたり、同じような箱に入っていたりするために間違えるケースもあります。
特に薬の名前を覚えきれていない新人さんは、ヒヤリハット対策として患者さんに薬を渡す前に上司や先輩などにも確認してもらいましょう。また、人手不足の職場では、上司に調剤事務スタッフや薬剤師募集の検討をお願いしてみるのも良いかもしれません。
看板を設置し、周囲に注意を促す
- 利用者さんが周りをよく見ずに、走って道路に飛び出してしまった。
これは、障害者作業所でのヒヤリハット事例です。交通量の多い道路に突然飛び出してしまうのは危険なので、止めるように何度注意しても聞き入れてもらえないと悩む新人スタッフもいるでしょう。
障害者作業所には障害の種類だけではなく、障害の程度も様々な利用者さんがいるので、障害の種類や程度に応じて注意のしかたも変えて、根気よく指導していきましょう。その他、作業所の近くを通る車にも注意を促すため、『飛び出し注意!』などの看板を設置する方法もあります。
今回の体験談にもあるように、他の利用者の作業指導などもあり、一部の利用者が外出するたびにスタッフが付き添うわけにはいきません。そこで、作業所の利用者が外出する際に付き添うスタッフの増員もヒヤリハット対策として考えられますが、障害者作業所の多くは、市町村からの補助金や市民からの寄付金などによって運営しているので、スタッフ増員は厳しいのが現状です。
ヒヤリハットを起こさないための対策:製造編
今回のヒヤリハット対策に関する調査で、介護や医療、福祉の現場に次いで多かったのが製造の現場です。製造の現場では、大型機械や専門機器を操作する場合もあり、常にヒヤリハットと背中合わせの状況になっていることも少なくないでしょう。ここでは、製造現場でのヒヤリハット事例と共に対策を紹介します。
機械の安全装置のスイッチを切らない
- 他の班の作業員が機械で指を切断してしまった。
これは、電気部品の製造現場での出来事です。ここまでくるとヒヤリハット事例ではなく、重大な事故と言えます。このような事故が起きた原因は、作業のしやすさを優先するために安全装置のスイッチを切ってしまったことにあります。
危険を防ぐための安全装置ですから、いくら作業をするのに邪魔と感じても安全装置はちゃんと作動させておきましょう。
仕事中にケガをしたり障害を負ったりした場合は、労災認定されます。労災は給付金の種類によって、手続き方法が違うので注意しましょう。
機械を操作する時は周囲の安全確認を忘れない
- フォークリフト使用時に、近くにいた人に接触しそうになった。
これは、製造業関連の工場内でのヒヤリハット事例です。フォークリフトのような大型重機を操作する際には、その近くに他の作業員などがいないか、充分に安全確認をする必要があります。作業員同士が事前に声がけし合うなどして、危険を回避するようにしましょう。
安全靴の着用を徹底する
- 作動中のハンドリフトに足を踏まれそうになった。
これは、食品製造現場でのヒヤリハット事例です。動いている機械のそばを通る時は、危険な目に遭わないように注意しなければなりません。また、機械の扱いに不慣れな新入社員が操作する場合も、充分に周囲の安全確認をしたうえで慎重に操作しましょう。
ヒヤリハットを起こさないためにも、安全靴などを着用することが大切です。安全に作業できるように、会社で着用を義務付けられているものはしっかり身につけましょう。
大型機械の周りに柵を設置し、階段に滑り止めをつける
- 大型機械のそばを通る時にチェーンなどの駆動部に接触し、巻き込まれそうになった。
- 階段の昇り降りで足を踏み外しそうになった。
これらは、食品原料メーカーの工場内でのヒヤリハット事例です。工場内では大型機械による巻き込みなどのヒヤリハットが多く見られます。さらに、工場内外にいくつか階段が設置されている場合があり、荷物を持ったまま昇り降りすると、足を踏み外す危険性があります。
大型機械に作業員が近づきすぎないよう柵を設置する、階段には滑り止めをつけるなどの対策が必要です。
作業時のルールを明確にする
- 高所での仕事中に、その場から落ちそうになった。
工場内でのヒヤリハット事例です。製造現場などでは、高所で作業することも少なくないでしょう。そんな時に気をつけたいのは落下です。命にかかわる事態にもなり得るので、安全ベルトなどの装着、周囲の安全確認などを徹底しなければなりません。
作業時のルールを明確にし、そのルールをちゃんと守ることで危険を避けられます。また、新入社員が危険な作業をする際は1人ではなく、ベテラン社員の指導を受けながら一緒に行うようにしましょう。
ヒヤリハットを起こさないための対策:その他編
ここからは『その他編』として、どんな現場にも共通するヒヤリハット対策を紹介します。ヒヤリハット対策に限らず、作業を円滑に進めるためにも大切なことなので習慣化するようにしましょう。
報告・連絡・相談を徹底する
どんな職場でも報告・連絡・相談をすることは、とても大切です。
今回の体験談でも、ヒヤリハット対策として報告・連絡・相談を徹底しているという保育士さんがいました。新人保育士さんは「先輩たちも忙しいから自分1人で頑張ろう」と自己判断することもあると思います。しかし、勝手な判断が子供たちを危険にさらしてしまうかもしれないので、もし分からないことがある場合は先輩や上司に聞きましょう。
保育士さんだけでなく、どんな職種の新入社員も分からないことが多いのは当たり前です。分からないことや疑問点は放置せず、周囲の人に聞くようにしましょう。
ヒヤリハットしたことをノートに書く
ヒヤリハット事例をノートに記録しておくことは、どの現場にも共通する有効な対策と言えます。
現場で起きたヒヤリハットをノートにまとめるのは、報告書の作成も兼ねることができますし、どんなヒヤリハットがあったのかを見返すことで、その後の事故防止にもつながります。
状況改善されない時は他のヒヤリハット対策を検討する
職種や現場によって起こるヒヤリハットの種類は様々なので、その1つひとつに応じた対策が必要になります。ところがせっかく実践した対策も効果が発揮されず、状況が改善されないこともあります。
そんな時は、他のヒヤリハット対策を検討してみましょう。ヒヤリハット対策を考える場合、1つだけではなく、複数の案を考えておくと良いです。また、仕事にすっかり慣れていない新入社員だからこそ、感じるヒヤリハットもあるはずです。
例えば、ベテラン社員が多い現場で作業に必要な道具が整理整頓させておらず、手に取りやすい所に置いたままになっていると、その道具につまずいて転びそうになる・・・というヒヤリハットが発生するかもしれません。
ベテラン社員から見ると些細なことでも、現場に不慣れな新入社員にとっては大きなヒヤリハットになり得ます。ですから、現場のヒヤリハットを減らすために気づいたことがあれば、新入社員の皆さんも積極的に意見を述べましょう。
ヒヤリハット対策体験談
先輩社員の皆さんのヒヤリハット対策に関する体験談を見てみましょう。事故なく安全に働くために、どんな対策をすれば良いのかを知る参考にしてください。
会議でヒヤリハット対策を考える
介護士さん(29歳)
働いている会社は、法人の特別養護老人ホームです。デイサービスと言う部署で働いています。
職場では利用者のちょっとした怪我に繋がるものから、命にかかわるヒヤリハットまで様々です。ヒヤリハットが起こる原因としては、スタッフへの指導がしっかり行き届いていない事や連絡ミス、ちょっとした不注意がほとんどです。
発生したヒヤリハットを報告書にまとめて、それを部署内に置いています。誰でも読めるようにしておいて、同じ事がないようにするのが狙いです。また、命の危険があった場合などの重大なヒヤリハットについては、月に1回の会議にて対策を考えていきます。報告書を作り誰でも閲覧できるようにしておく事よりも、会議で取り上げて、スタッフ全員で対策を考える事のほうがより効果的だと思います。
必ず人にチェックしてもらう
ミカ(25歳)
私は都内の金融機関で働いていますが、職場ではたまに電子メールやファックスの誤送信というヒヤリハットが起きそうになることがあります。毎日大量の顧客情報を事務的に取り扱う必要があるので、ついつい単純作業のようになってしまい、たまに紛れ込む違った情報に気付けないことが原因だと思います。
私の職場では、そんなヒヤリハット対策のために、電子メールやファックスを送る時に、必ず誰か別の人にチェックを頼むことをルールにしています。ファックスを流す時は近くにいる同僚に名簿と入力情報を確認してもらい、電子メールを送る時は隣の席の人に送信先・ccやbccも点検してもらいます。
何かするたびに確認が必要なので、とても非効率ですが、一度誤送信を起こしてしまうと取り返しがつかないので、皆ルールを守って無事故を維持できています。
試行錯誤中のヒヤリハット対策
dasi(34歳)
私は障害者の作業所で働いています。職場前の道路は、交通量も多く危険です。裏側は抜け道として利用する方も多いです。
利用者さんたちは、よく向かいにあるコンビニに行くのですが、周りを見ずに走って飛び出したり、車道を突っ切ろうとしようとしたりで事故に遭うのではと、いつもヒヤヒヤしています。毎回注意していることで、少しは気を付けるようになってくれたものの、急な飛び出しは未だに続いています。
本人への注意だけでは言うことを聞いてくれるまでにまだ時間がかかるので、ヒヤリハット対策のため、作業所前に飛び出し注意の看板を設置しました。しかし飛ばしてくる車も多く、あまり効果は発揮されていません。利用者が外に出るたびにスタッフが同行するわけにもいかず、本人が理解できるように伝えるために試行錯誤の日々です。
報連相こそが全て
y.mam(28歳)
わたしは保育士として働いているのですが、保育園には様々なヒヤリハットがあります。
第一に多いのは怪我です。些細な怪我から救急車を呼ばないといけない事案までたくさんあります。次に多いのが事故。お散歩中や体育指導中、遊具からの転落などこれも様々な要因があります。他にも誤飲・誤食、アレルギー、急激な体調の変化など、毎日様々なヒヤリハットと隣り合わせの環境で働いています。
そんなわたし達保育士が普段から心がけているヒヤリハット対策は、「報連相」です。報連相とは、報告、連絡、相談のことで、上司や部下、勤続年数、正社員やパートなどの立場は関係なく、職場内で気がついたことやアイデアを出し合い話し合って、みんなが共通の認識を持っておく。これだけでヒヤリハットは格段に減らす事が出来ますし、万が一の場合にも素早い対処をすることが出来ます。これは保育士だけの事ではなく、どの企業にも共通する有効な対策だと思います。
ヒヤリハットの対策ノートで情報共有
桜日和(37歳)
私の仕事は調剤事務です。普段は1人の薬剤師が薬を出し、もう1人の薬剤師が薬を確認して投薬するのですが、パートの薬剤師が帰ったあとの薬のチェックは残りの薬剤師1人でチェックすることになります。なので、他の調剤事務スタッフ達も薬名のチェックを手伝い、間違いや事故が起こらないようにしています。
しかし、薬の名前が似ていて同じ棚に入っているのを、急がしい時は薬剤師も事務スタッフも見落とすこともあります。一番怖いのがテオドールとテグレトール。作用が全く違う薬なのに箱まで似ていてかつ、鍵付き引き出しに入れてあるので厄介です。一度薬剤師が出し間違えて、チェックも抜けて危うく患者さんに渡しそうになりヒヤリとしました。
薬剤師会からも他の病院で事故が起きたと注意喚起があり、注意書きの紙を職場に貼ったり、薬剤師が出している時に事務が横で見るようにしたりして、ヒヤリハット対策をして事故を防いでいます。また、ヒヤリハットの対策ノートを作り、定期ミーティングで意見を出し合って間違えが無いようにしています。ノートに書くことで情報が共有出来てヒヤリとする事は無くなりました。
センサーを切らないようにする
岩本(40歳)
電気部品の製造に従事しています。機械がちょくちょく止まるとスムーズな作業ができなくなるため、安全装置を外したくなります。これは工場に勤めている人なら直面する事ではないでしょうか。
現在労災を防ぐために、センサーなどで機械が自動的に止まる仕組みが多く取り入れられていますが、機械の調子が悪かったりするとこの安全装置があるところ以外から手を突っ込む、あるいはこの装置を作動させないようにしたい場合が生じます。
自分の班ではありませんが、他の班で作業中に指を切断するヒヤリハットが起きてしまいました。特に水を使用するような機械では、部品が摩耗する事が多く、金属が微妙に錆びる事もあります。センサーがあるという事は、そうしたちょっとした事に反応し停止してしまうのが難点です。しかし、ヒヤリハット対策のためには、とにかくセンサーは切らないというのを遵守するしかありません。
入居者の気分転換がヒヤリハット対策になる
たかし(30歳)
私は介護士として介護施設で働いています。私の勤める施設は、認知症の高齢者が入居している施設です。
認知症の方が入居しているため、出入口のドアにはロックがかけられ、簡単には開かないようになっています。とはいえ、職員や外部の業者が出入りする際に隙を狙って利用者さんが外に出ることが出来てしまいます。原因としてはやはり、この鍵のかかったドアが原因だと思います。このドアによって自由に外に出られないことで「牢屋のようだ」と入居者さんたちは不満をもらし、外に自由に出ていきたいと職員の見ていない間のドアが開いた時に一緒に出てしまおうとする方が多いのです。
ヒヤリハット対策としては定期的に職員の付き添いで散歩に出掛けたり、買い物に出掛けたりと気分転換も兼ねて行っています。このヒヤリハット対策は時折、職員の付き添いで外へ出ることで気分転換出来ている方に対しては有効だと思います。
工場内でのヒヤリハットは声がけで防ぐ
のん(24歳)
私は製造業をしているので工場内には一歩間違えれば危険も多く、特にフォークリフト使用の際にはヒヤリとすることがあります。
操作を誤ればヒヤリハットが起こるのはもちろんですが、工場内には色んな部品が至る所にあるので注意も必要ですし、周りの人との接触にも気をつけなければいけません。フォークリフトはクレーンに比べると動いている時の音もそんなに大きくないため、ヒヤリハットの発生になかなか気付けないことも多いです。
ヒヤリハット対策として当たり前のことではありますが、操作する側の前方後方確認、歩行者側も職場内は走らず周りを見て行動すること、そしてなによりも声掛けをするのが大事だと思います。これらのことをきちんと行うのがヒヤリハット対策に繋がります。
嚥下体操とチェックリスト作成
たけちゃん(43歳)
私は特別養護老人ホームに勤務する介護福祉士です。介護の現場には様々なヒヤリハットがあります。
一番多いのは食事摂取の際の誤嚥です。利用者様に無理に食べさせるなどスタッフの食事介助のしかたが、誤嚥によるヒヤリハットが起こる原因だと思います。
対策としては、利用者様の食事形態や食事のスピード等をしっかりと把握する事が大事だと思います。実際に、私のユニットでは食事前の嚥下体操を必ず実行し、職員間でのチェックリストを作成しています。その結果、半年ほどの間、誤嚥を含む食事でのヒヤリハットは報告されていません。これは健常者にも当てはまりますが、食事をする際には正しい姿勢で食べることが大事です。
階段の扉には工夫が必要
ヨウ(45歳)
私が働く老人介護施設は、築年数がかなり古く、新設の施設のように、安全面に考慮した作りではありません。中でも一番ヒヤリハットが起きやすい場所は職員用の階段です。
その階段は廊下に面して設置されており、階段のところに付いている扉が廊下側に開くようになっています。そのため、時々お年寄りが扉付近を歩いている際に、職員が勢いよく扉を開けるとヒヤッとする場面が見られました。
職員が扉付近にお年寄りがいないかどうか確認しながら、ゆっくり扉を開け安全を確保するという対策をしています。今の所ヒヤリハット場面もなくなり、対策の効果をある程度感じていますが、予算が許すようであれば、扉付近にパーテションを設置する、階段側に扉が開くようにする、横にスライドする扉にする等の対策ができるとより良いです。そうできれば今よりもヒヤリハット場面が減り、さらなる事故防止につながると思います。
安全靴の着用が欠かせない
事務職マン(28歳)
私の働いている会社の業種は食品の製造職です。一日の何トンもの製品を作る現場ではいろんな場所でハンドリフトを使った運搬をしています。
ハンドリフトが原因の労災やヒヤリハットはたくさんのものがありますが、その中で一番可能性が高いヒヤリハットは、動いているハンドリフトのそばを通ろうとしてハンドリフトに足を踏まれるケースです。ハンドリフトの操作に免許などは必要ありませんが、慣れていない人が操作すると自由に動かすことが難しく、その結果自分だけでなく周りの方にもケガをさせてしまう危険もあります。
そんなハンドリフトを設置している現場では、少し厚底でつま先のほうに鉄板の入っている安全靴を着用しています。食品の製造現場なので基本的には衛生面が保たれる長靴を着用しているのですが、先にも述べたようにハンドリフトのある現場では鉄板の入っている靴を着用することで、万が一ハンドリフトが足に当たっても厚底であるがために足の上にも乗りづらく鉄板が入っているため、横からの衝撃にもある程度耐えられます。万が一ものを足に落とした際にも足を守ってくれるため、運搬を行う現場ではヒヤリハット対策として安全靴の着用がかなり有効です。
早めの気付きでヒヤリハットは防げる
morisia(39歳)
介護職なので、利用者さんたちに関するヒヤリハットが多いです。
バルーンカテーテルが詰まっていることに気付かない、糖尿病の利用者さんが低血糖にならないための処置が遅れたなど、ほんの少しの遅れが命にかかわるような場合もあります。これらのヒヤリハットの原因は、私たちスタッフの気付きの遅れです。
バルーンカテーテルが詰まった場合、介護スタッフの手に負えないので、看護師に連絡し、バルーン交換お願いする。また、低血糖の患者さんには低血糖用の飴を用意し様子をみるというようなヒヤリハット対策を行います。利用者さんの異変に早めに気付き、正しく対応することが重要です。
大型機械のまわりに柵を設置
こめじろう(34歳)
食品原料メーカーの研究職に就いています。大型の機械が多く、工場内のアップダウンもあり、階段が多くあります。また、屋内だけでなく、屋外にも階段がある場所があります。
大きな機械の側を通るときは、チェーンなどの駆動部や蒸気が出るような部分に巻き込まれることがないよう、怖いのでできるだけ避けるようにしています。さらに、階段の昇り降りの際に、両手にサンプルなどを持っていることもあるため、足の踏み外しに注意しています。チェーンがむき出しになっていること、どこまで機械に近づいていいのかエリア分けがされていないこと、階段の一部に柵や滑り止めが無いことなどがヒヤリハット発生の原因と言えます。
ヒヤリハット対策として、大型機械のまわりに柵を作り、常時触らなくていい機械であれば、人があまり出入りしないところにまとめて設置するようにしました。階段には、滑り止めがつけられました。また、階段を降りるときは横歩きをするように自分なりに工夫しています。
3段階チェックが重要
りん(30歳)
私は病院で働く薬剤師です。患者さんの内服薬の用意や注射薬の用意、患者さんへの服薬指導、安全に薬を使用するためのチェックなどを行います。
患者さんのお薬を準備する際に、薬剤の取り揃え間違いのヒヤリハットが起こることがあります。ヒヤリハットの対策として、まず薬剤師間でのダブルチェックを行います。実際に患者さんに投与される前にさらに看護師さんがチェックをします。この3段階のチェックを行うことで患者さんに誤った薬が投与されることは、ほぼなくなります。
起こったヒヤリハット情報をもれなく収集し、リスクに対する対策会議を定期的に開催し、システム変更(例えば処方箋の印字方式等)が有効であれば、都度変更します。対策会議を行うことで、ヒヤリハットを減らすことへの個人の意識向上につながります。
まずはルールを決めること
ピペン(37歳)
私は、製造業に10年以上勤めています。これまで、あらゆるヒヤリハットを経験しました。
中でも一番危険なのは墜落、落下ではないでしょうか。命にかかわる事故にもなり得ます。では、原因はどこにあるかと言えば、ルールを守っていなかったり、危険だとわかっているのに何もルールが決められていなかったりすることだと思います。
ヒヤリハット対策としては、まず作業をする際のルールを明確にすることです。そして、そのルールを全員で守り、守っていない人を見つけたら必ず声がけをするということを行っています。例えばヒヤリハット対策の1つに、必ず安全帯を着用することが挙げられます。「少しの間作業するだけだからいいか」と油断しているときに限って事故は起きるものと強く感じています。ルール決めをすることで、その作業の危険性を意識することができます。
ヒヤリハット対策にはヒヤリとする危険発生の原因を知ることが大事
毎日安全に仕事をするためには、ヒヤリハット対策が欠かせません。ヒヤリとするような危険を未然に防ぐ際に大事なのは、危険発生の原因を知ることです。
今回、ヒヤリハット対策に関する様々な体験談を紹介しましたが、職種や職場によって必要な対策は異なります。皆さん、安全に働くために色んな工夫をしていることが分かります。
職場によっては、十分なヒヤリハット対策がなされていないところもあるでしょう。そんな時は上司などに「いつも仕事をしている中で自分はこんな部分に危険を感じるのですが、こういう対策をしたらどうでしょう」というように、積極的にヒヤリハット対策案を提示してみるといいでしょう。