「今しがた」の意味と用法・柔らかい印象を与える言葉
「今しがた」の意味は「先程」や「先刻」といった言葉とほぼ変わりませんが、「先程」よりも音が柔らかいため、堅苦しくなりがちなビジネス会話では重宝する表現です。また、意図するタイミングを明確に示す言葉でもあり、公私や文語口語での使い分けもない為、使い勝手の良い言葉なのです。
「今しがた」という言葉を使ったことはありますか?
私達は生活の中で日本語を聞いて話していますが、言葉としては知っていても実際に使ったことのない言葉も多いものです。その中の1つである「今しがた」は、ビジネス会話の中で時折耳にする言葉ですが、使い方を明確に理解して使っている人は多くありません。
「今しがた」という言葉は日本固有の言語である「大和言葉」に分類され、丁寧な表現でありつつも柔らかい印象を相手に与えます。堅苦しくなりがちなビジネスの場で使うと、相手に柔らかな印象を与えつつも品や知性を感じさせます。ちょっとした言葉の違いで個人の印象も変わりますので、ぜひ「今しがた」の正しい使い方をマスターして会話の中に取り入れてみましょう。
「今しがた」の辞書的な意味は?
辞書を引くと、「今しがた」の意味は「たった今」「ついさっき」など、現在よりも少し前の時間を指す言葉として使われています。同様の言葉は「先ほど」など様々にありますが、時間の経過の上では、現在により近い時間を指します。
「今しがた」が分類される大和言葉とは和歌や古い日本の物語で使われる言葉で、漢語や外来語ではなく日本特有の言語です。古風でありながらも品を感じさせるのは、長い歴史がある言葉だからこそです。歴史ある大和言葉を使いこなすことで、聞き手にも知性や品格を感じさせられるので、口語でも文語でも使える便利な「今しがた」という言葉は覚えておきたいところです。
「今しがた」はいつのこと?
「今しがた」の意味はわかっても「さっき」「先程」などと何が違うかがわからないと、使い分けが難しいです。
丁寧さの度合いでいえば「さっき」が一番カジュアルで、「先程」がビジネスシーンでの言葉としては適切でしょう。「先刻」という言葉も使うことがありますが、口語というよりは文語表現なのでビジネスメールや手紙においてのみ使いましょう。「今しがた」は丁寧な表現ですので、「先ほど」の代わりとして使っても問題ありません。
「今しがた」は漢字では「今し方」と書き、このときの「し」は強調の意味を持つ副助詞であり、「方」は方向や位置を示す言葉で「夕方」などの「方」と同じです。つまり「今ではないが限りなく今に近い」時間を示す言葉なのです。そのため「先ほど」よりも、時間の経過が短い時に使うのがニュアンスとしては正しいです。間違った使い方で時系列を混乱させないようにしてください。
「今しがた」を使った例文
それでは、「今しがた」を使った例文を、「上司や社内」「訪問先」「普通の会話」のシチュエーション別に分けていくつか紹介します。
上司や社内の人との対話での「今しがた」
- 「部長は今しがた、お帰りになりました」
- 「今しがた、総務部のAさんより内線が入っていました」
- 「今しがた、皆でランチに出てしまいました」
「先ほど」という言葉は口語でも使えますが、多少硬く聞こえます。親しい関係の人であれば「さっき」でも構いませんが、目上の方に使うには憚られるでしょう。このような場合には「今しがた」がちょうどよい雰囲気にしてくれます。
また、こういった連絡事項の場合では「先程」だと「そうか」で終わってしまいがちですが、「今しがた」と伝えると相手とまだ連絡が取れるかもしれないと考え、電話をかけるなどのアクションに繋がる場合もあります。時間の伝え方ひとつで行動が変わってきますので、より正しいニュアンスで伝えるようにしましょう。
訪問先とのやり取りでの「今しがた」
- 「今しがた、メーカーから連絡がありまして、商品の生産は可能ということでした」
- 「つい今しがた、お電話を頂戴しました件につきまして確認が出来ましたので、メールで大変恐縮ですが取り急ぎのご連絡をさせていただきます」
- 「今しがた、ご覧いただいた商品には、実はすごい秘密がありまして」
硬い調子の言葉でのやり取りになりがちですが、相手に対する礼を崩さずにやわらかく伝えることができるので、「今しがた」は便利です。また、ビジネスをする中で臨場感を感じさせる表現としても使えます。大事な連絡が時間を空けて入れる際、あえて「今しがた」を使うことで、GOサインを受けてからすぐに連絡を回したという印象を相手側に与えられます。
普段の会話の中での「今しがた」
- 「今しがた、ニュースで見たんだけど、近くの川が増水して大変なことになってるね」
- 「今しがた、帰っちゃったんですよね。もう少しで久しぶりに会えたのに」
- 「今しがた、久しぶりにお隣さんに会ったよ」
硬くしっかりした表現が求められる場面だけでなくカジュアルな場面でも使っても違和感のない表現ですので、普段から会話の中に交えて練習しておくとビジネスシーンでも自然に出てくるようになります。
「今しがた」の敬語表現
「今しがた」という言葉はカジュアルな場面でも使える表現ではありますが、だからと言って敬語表現が別に存在するわけではありません。敬語表現は基本的に名詞や動詞に使われるもので、「今しがた」のような副詞にはありません。
そのため「今しがた」を使いつつ敬語を使っていることを示すためには、前後の表現を敬語表現にする必要があります。せっかく「今しがた」をカッコよく使ったとしても、前後の敬語が間違っていた場合には残念なことになりますので注意しましょう。
使用例文
- 今しがた、部長の奥様がお見えになられていました。
- 今しがた、部長が今朝部署内に送られていたメールを拝見しました。
- 左様でございましたか。今しがた、新しい商品が届いておりましたのでお取替えいたします。
残念な使用例文
- 今しがた、社長が来て部長を探していました。
→今しがた、社長がいらっしゃって部長をお探ししていました。
「今しがた」は敬語になりませんが、周囲の言葉が敬語になっていれば敬語表現として感じることができます。ビジネスメールの場合は特に間違いのないように、しっかりとした敬語表現を使いましょう。
「今しがた」の類語表現
「今しがた」の類語には「さっき」「先刻」「先程」「今さっき」などいろいろなものがあります。ニュアンスは多少違いますが、すべて現在に近い過去を表す言葉です。
「今しがた」の語感が好きで同じ言葉ばかりを使ってしまうと、時系列が整理しにくくなってしまいます。ニュアンスは多少個人差がありますが、先に挙げた類語を現在に近い方から並べ直すと「今しがた」→「今さっき(ついさっき)」→「さっき」→「先程」→「先刻」という時系列となります。
示す時系列に多少の違いがあるため、類語に言い換えるのがふさわしいのかはよく考えた上で言葉を選ぶ必要があります。多くの場合は気にする必要はありませんが、「本当につい今のタイミングだった」ことに意味がある場合は、「今しがた」を使った方が無難です。表現によって受ける印象は変わってくるので、ビジネススキルのひとつとして語彙力をつけておくと良いでしょう。
「今しがた」の英語表現は?
「今しがた」は大和言葉、つまり純粋な日本語の表現となりますが、英語ではどのように表現できるかというと、「今に近い過去」を表現する言葉が適切となります。
「Just now」や「Right now」などがイメージは近いですが、丁寧に言うなら「a very short time ago」や「at the present time」なども類語として使えます。ちなみに「Just now」よりも「Right now」、「a very short time ago」よりも「at the present time」の方が今に近いタイミングとなります。
英語例文
- My father should be back any time soon
父はすぐに戻ると思います。
- I just sent off that letter
ちょうど今あの手紙は出してしまいました。
その他にも「a little while ago」などの表現でも言い換えることができます。
「今しがた」を上手に使って語彙力アップ
「今しがた」はビジネスシーンでも比較的使いやすく、また印象を良くしてくれる言葉なのでぜひ覚えておきたいところです。他の言葉との時系列上の分類が難しく感じるかもしれませんが、かえってビジネスシーンだと「ついさっき」という表現はカジュアルすぎてちょっと恥ずかしいという場合に使うと良いでしょう。
こうした大和言葉は「いたく」「おおむね」など他にも様々あります。語彙力を磨いて状況や感情が様々に表現できるようになると、言葉の端々から知性や品性を感じさせることができますので、ぜひ普段から練習してみましょう。