ずっと平社員のままでいいという考え方が増えていることをどう思いますか
昔は出世といえば大変な名誉で、誰もが尊敬し憧れるものでしたが、最近はそういうわけでもないようです。万年「平社員のままでいい」と考える人が若い世代を中心に増えてきており、管理職に対して魅力を感じない人が多くなってきています。
就活サークルを運営する大学生の酒井君は、こうした傾向を不思議に思う一人。どうしてこのようなずっと「平社員のままでいい」意識の人が増えているのか、経営コンサルタントのK・エーイ氏に尋ねてみました。
平社員の良さが見直されているのは時代の変化が背景にある
―エーイさん、ちょっと質問なんですが、最近は平社員が見直されているんですかね?「就職してもずっと平社員がいい」って人が周りに増えているんですけど。
酒井君の周りでもそうなんですか?実は、私の友人の中でもそういうボヤキが多くなっていましてね。若い人でも多いとは言うのですが、「ずっと平社員のままでいい」は全年代的な傾向なのかもしれませんね。
―エーイさんの周囲でもなんですか?でもまたどうして?
学生が考えるのとは違うのかもしれませんけど、私の年代になると何かしら役職を担っていることが多いんですね。みんな口をそろえて「管理職よりも平社員の方が楽しかった」と言うんです。
―そうなんですか。でも、待遇は管理職の方がずっといいんじゃないんですか?
そうだと思いたいんですが、実際にはみなし管理職や、管理職には残業代などが付かなくなるなどの状況があって、仕事量に見合った待遇ではないと感じる人が多いようなんです。
―それじゃあ、出世しなきゃよかったって思うのかもしれませんね。
ただ、平社員の気楽さが見直されている気もするんですよね。管理職が特権的な待遇を持たなくなった分、相対的に平社員の待遇が改善されている感じも受けますし、また純粋に職務のスキルを高める事に集中できるのも利点です。平社員だと転職などを考えた時に、しがらみがないと感じる人も多いんですよ。
―なるほど。そういう考え方もあるんですね。僕の周りは「管理職大変そう」とか「平社員が楽」とかその程度の認識の人が多いんですけど、やはり実際の社会では平社員の評価が見直されてきてるんですね。
これも時代の変化なのかもしれませんね。まあ、企業の人の使い方がどこか間違っているんじゃないかという気もしますけど。とにかく、平社員の良さと管理職の良さを天秤にかけた時に、必ずしも皆が出世を望むということはなくなっているんでしょうね。
平社員のメリットには何があるの?
―それにしても、平社員ってそんなに魅力的なんですかね?感覚として僕はわからないんですけど。
そうですね。私も賛同しかねる部分はあるのですが、周囲の声をまとめてみると、平社員の良さは、何よりも「気楽である」ことが大きいようですよ。
―平社員は気楽なんですか?
まあ、責任が軽いというのはそうですよね。今は何かと管理職が責任を追求されますし、また扱いにくい人も多いですから、人を管理したくないんですよね。
―人を管理したくない人が管理職になったりするのが問題なんじゃ。
いいところに気づきましたね。今までの人事システムって、ある程度の職能がある人は後輩や部下を育成して管理できるという考えに基づいていたんです。でも、最近はマネジメントの能力そのものが専門的な能力や個人の特性によるもので、向き不向きがあることがわかってきたんです。そのため、年功序列でない組織体制も増えてきています。
―すると、待遇ってどうなるんですか?能力のある人が給料は多くもらうべきですよね?
はい。だから、平社員が管理職よりも給料をもらえることもあります。そういうことがあるから、平社員の方が良い、職人的な立場を目指したいという人が多くなったんでしょうね。新卒か中途かに関係なく。
―なるほど。無理に管理職にならないという選択肢もあるんですね。
平社員が気楽という点はこのくらいにして、他にも給与の格差が減ったというのはありますよね。特に、管理職に残業代がつきにくくなってからはこの傾向が顕著です。そのため、せっかく出世したのに給料が下がるという人まで出てきてしまっています。階級制度とまで言われた差がなくなってきましたね。
―あ、それなら僕も出世したくないな。
あはは。そうですよね。管理職って向いている人はマネジメントして部署が高い業績を上げるようになるんですけど、不向きな人がやると利益は下がるわ仕事は多いわで大変なことになりかねないんです。だから、全体のことを考えると適性を考えることは悪くないと思います。
―他にも平社員ってメリットがあるんですか?
まあ、会議が減るとか、退職や転職を希望するときに割と気楽にできるとかそういう声はありますよね。会社や仕事に対して忠誠心が下がっているとも言えるんですが、個人が中心になると確かにメリットになりますね。
―確かに個人目線では平社員にメリットありますね。会社目線では微妙ですけど。
加えて、平社員は管理や経営などの大きな話に関わる必要がなく、自分の仕事とスキルアップに没頭できるというのもメリットですよね。特に今後は個人のスキルが転職や副業などでも大事になりますから、尖った人材になりたいと思うなら、万年「平社員のままでいい」は十分考えられる選択肢になっていると思います。
「平社員のままでいい」は上り詰めたいと考える人が少なくなっているから
―しかし、「ずっと平社員でいたい」なんて言ったら僕の家じゃ親にどやされますよ。
まあ、上の世代になるほどそうでしょうね。企業戦士と呼ばれていた時代のサラリーマンたちには万年「平社員のままでいい」なんて考えられない事態でしょうね。
―それに、平社員ってモテなさそうじゃないですか?
うーん、そうでしょうね。でも、女性は平社員の方がモテそうじゃないですか?
―あ、男女差別!その考えが女性の社会進出を妨げるんだー!
イヤイヤイヤ、客観的な話をしているだけですよ。自分より役職が上の女性とは付き合ったり結婚したくないって男性はたくさんいますよ。逆に女性は、自分は出世はあまりしたくないけど、彼氏や旦那にはそれなりの役職でいてほしいって人が多いと感じます。
―うーん、女性の心理ってそんな感じなんですかね。最近は女性の社長や政治家も多いからみんな男女平等だと思っていました。
そういう向上心のある人は男性でも女性でもごく一部になってきてるんですよ、多分。多くの人はいわゆるサラリーマン根性というか、平社員などの位置で、仕事と給料のバランスを考えながら立ち位置を決めているだけで、上り詰めていこうとはあまり考えていないんじゃないでしょうか。
―自分にもそういうところがありますので、耳が痛いです。
ただ、最近は過労死などの問題やみなし残業代などの問題もありますし、自分のパートナーが過剰に働くことで体を壊したり、家庭の運営に支障が出るくらいなら平社員でいいっていう人も出てきているみたいですけどね。
―あ、そういう考え方もあるんですね。互いを大事にしたいということで相手に多くは求めないというのであれば、ちょっと応援したい気持ちになりますね。
「平社員がいい」のか「管理職がイヤ」なのか
この問題って、「平社員がいい」と思っているのか、「管理職がイヤ」なのかはちゃんと区別しないといけないと思うんですよね。
―え?同じことじゃないんですか?「管理職より平社員がいい」ってことですよね。
いえいえ、全然違いますよ。何が違うって問題の捉え方が違ってきます。「平社員のままがいい」というのはポジティブに平社員を考えているから、積極的に平社員を選ぶということです。「管理職がイヤ」というのは、管理職がイヤだから、不満はあるけど平社員を選ぶということです。どちらが精神的に苦しいかわかりますよね?
―なるほど。確かに消去法で平社員を選んでいると、楽しくなさそうですね。
そうです。だから、ある個人がそういう平社員か管理職かを選択をする際に、どのような考えでそう判断したのかを、よく確認していく必要があります。
―平社員を積極的に選択したのか、それとも仕方なく平社員を選んだのかですね。
はい、その通りです。個人によっても違ってきますが、その傾向によって企業の人事制度や労働環境の持つ問題が浮かび上がってきますから、とても大事なことです。また、個人の考える理想的な仕事のあり方という点でも大事な検討事項だと思います。
―そうか、万年「平社員のままがいい」というのは逃げではなく、個人の仕事のあり方のひとつとして認めてあげるという考えもあるんですね。
はい。働き方や、労働観というのは人それぞれです。今まではある程度のレールがあって、その上を行くしかありませんでした。しかし、多様な考えを認める社会になって、平社員のままという形が理想ならそれを認めて、より管理職に向いている人材を登用することも大切になってきましたね。
「平社員のままがいい」は労働に対する価値観が変わってきているということ
―「平社員のままがいい」という労働に対する価値観の変化っていうのは、どこから来ているんですかね?
まず、ひとつに旧来の日本の雇用システムが時代に合わなくなってきたことですね。年功序列や終身雇用では、企業が成り立たなくなってきて、今までのような労働観を持てなくなってしまった。すなわち、「長く働いてきた人は能力があり、たくさんの報酬をもらうべき」というものですね。
―確かに、今はそういう風に考える若い人は少ない気がします。
そうでしょうね。個人的にはインターネットってそういう意味でも破壊的な影響力があったと思います。仕事の仕方が大きく変わり、IT機器を上手に扱うことができたり、ネット上にある情報をいかに集め加工し、利用するかという所が重要になってきました。これが経験や知識による、年長者の優位性をかなり失わせたんですよね。
―そうですね。確かに、何か問題があったら高齢者に聞くっていうのはもう昔話で、インターネットで検索するのが普通ですね。
そうでしょう?その中では昔のような労働観は作れないんです。また、同じような出世のレールではなく、労働のロールモデルが多様になっていろんな働き方ができるとわかってきた。最近の働き方改革はさらにこの傾向を推し進めていると思います。
―様々な立場の人が労働に参加したり、いろんな働き方を認める社会にするってことでしたもんね。
そうですね。社会の考え方が変わって来ている中で、万年「平社員のままがいい」という人が出てくるのも必然なんでしょうね。一方で管理職が不遇になってしまっているのが個人的にはちょっと残念ですけど。
―労働についての考え方って、思ったよりも短期間で簡単に変わっていくものなんですね。思っていたよりも早いテンポで重大な変化が起こっている気がしました。また10年後20年後には働くことに対する意識や考えも、常識が変わっているかもしれませんね。
「平社員のままでいい」は将来への不安の表れ
―万年「平社員のままでいい」というのは、エーイさんは賛成なんですか?反対なんですか?
私は基本的には反対の立場ですね。やっぱり、大部分はポジティブというよりはネガティブな考えに基づくものだと思いますから。
―そうなんですね。でもどうして「平社員のままでいい」という考え方はネガティブが強いと感じるんですか?
それは、理由の多くが将来への不安や労働環境への不満から来ているからです。管理職の良さや面白さ、可能性などについては言及が足りないんですよね。確かに辛いみなし管理職などはありますが、回避するのではなく適正な待遇を作るために努力する方がずっと大事なんだと思います。
―ごもっともではありますが、それってかなりのパワーと時間が必要じゃないですか?あまりそういう人っていなんじゃないでしょうか。仕事って人生左右しますし、企業に逆らっているようでちょっと怖いですよね。
はい。パワーが必要なことです。この問題には、全てにおいて「将来への不安がある」と思います。そんな生意気なことを言ったらどう思われるだろうかとか思いますよね。それに、平社員のままがいいというのも、結局は自分の心身をそこそこ守りつつ最後まで勤め上げたいという気持ちからだと思います。このマインドを変えないといけないですね。
―なるほど。将来に対して不安は確かにいつもありますから、それで「平社員のままがいい」と守りに入っちゃう部分はあるんでしょうね。ポジティブに平社員を選べるようならいいんですが、そのためにはもう少し役職や働き方についてデメリットよりもメリットを見ないといけないのかもしれません。やっぱり社会人に聞いてみると違いますね。エーイさん、ありがとうございました!
ずっと「平社員のままでいい」のはどうしてなのか考えてみよう
万年「平社員のままでいい」という考えの人が少しずつ増えているようですが、それを働き方のひとつと認めるには、ポジティブな考えの下で選択されているかどうかが大切です。ネガティブな考えによる平社員の選択は、人事制度の問題があったり、モチベーションの低い企業風土を示します。将来への不安の有無や、どのような考えで出世を考えるべきか一度検討してみましょう。