職業/働き方

テクノ失業に備えよう!強い職種と弱い職種そして対策

テクノ失業という言葉が近年急速に広がっています。人工知能やロボットといった最新のテクノロジーが人間の労働を奪いはじめてテクノ失業が現実化した今、テクノ失業に強い職種・弱い職種を知ったうえで対策をとる必要性が出てきています。

テクノ失業とは?

テクノ失業とは、インターネットや人工知能(AI)、ロボットといったテクノロジーが、人間の知的および肉体的な労働に取って代わることにより引き起こされる失業を指します。

2015年12月に発表された野村総合研究所の推計によると、日本国内の601種類の職業について、それぞれ人工知能やロボットなどのテクノロジーで代替される確率を試算したところ、今後10~20年の間に、日本の労働人口のうち約49%が従事している職業が、テクノロジーによって代替可能になるとの結果が出ています(注1)。

テクノ失業に対する懸念を持つ人も多い今、テクノ失業に強い職業・弱い職業をまとめたうえで、どのような対策が考えられるのかを解説します。

人工知能にできること

人工知能(Artificial Intelligence:AI)とは、人間が行う知的な作業をコンピュータで模倣したソフトウェアやシステムを指します。人工的につくられた「脳」といっても過言ではありません。混同しがちなロボットとの決定的な違いは、人工知能は自ら思考することができるということです。私たちのテクノ失業を現実にする人工知能にできることを、具体的にみていきましょう。

画像を解析する

画像を解析し、目の前に現れる物体を認識したうえで自ら判断して動くことができます。この人工知能を使用しているのが、自動車の自動運転機能です。

音声を解析する

マイクを通して聞いた音声情報を解析し、自ら判断することができます。また、まだ発展途上ではありますが、わずかな機械音の違いを聞き分けるという能力においては、人間の音声認識能力を超えているかもしれません。人間が自然としているように、さまざまな音の中から特定の音を聞き分けて判断するという能力が、人工知能において完成する日も遠くないといえるでしょう。

言葉を操る

「言葉を操る人工知能」といえば、多くの人が真っ先に思いつくのが「Pepper君」でしょう。Pepper君は人工知能搭載ロボットであり、感情認識機能があり、状況に応じて自ら判断して言葉を操ったり動いたりすることができます。Pepper君の能力はいまだ完成されておらず日々アップデートされつづけており、全世界から常に注目されている存在です。

芸術作品を創造する

絵画や楽曲を学習し、そこで得た情報をもとに、新たな芸術作品を創造することができます。たとえば、レンブラントの絵画作品をデータ化し、人工知能に分析させることにより、レンブラントの「新作絵画」を創造した事例があります。

多くの映画作品のトレーラーを人工知能に分析させて、映画本編からどのようなシーンを抜き出すべきかの判断を可能にし、映画のトレーラーを制作させることにも成功しました。人間にのみ可能と考えられてきた、クリエイティブな分野にも人工知能が到達しはじめたといえるでしょう。

テクノ失業しやすい職種

日々、めまぐるしいスピードで発達しつづける人工知能やロボットといったテクノロジーですが、これらのテクノロジーが人間による知的・肉体的労働と置き換わる可能性の高い職種、テクノ失業しやすいと思われる職種について解説します。

窓口・受付業務

すでに米国においては、人工知能が搭載された産業用ロボットの導入がはじまっている職種の一つが、銀行の窓口業務です。レストランやホテルの受付業務も、人工知能による代替がはじまりつつあります。空港のチェックインカウンター業務も、オンラインチェックインや機械での自動チェックインの普及により、人員削減が進められています。これらの人工知能による分析、識別によって対応可能な職種は、テクノ失業が避けられないことが予測されています。

スーパーマーケットのレジ係

日本を含め世界中で、すでに「セルフレジ」の導入が進み、テクノ失業が起こり始めています。フランスにおいては、セルフレジの増加によって仕事が奪われるとして、2017年に大手スーパーマーケットの労働者たちがセルフレジに反対するデモを決行し、話題を呼びました。しかし、会計の待ち時間の短縮や、買い物内容のプライベートが守られるといった利点があり、レジの無人化は避けられない状況といえます。

公共交通機関やタクシーのドライバー

2017年に、乗客が一人で操縦する「ドローンタクシー」の試験がドバイで始まり、注目を集めました。自動車の自動運転機能が身近なものになった現代、公共交通機関やタクシーのドライバーが人工知能に置き換わるのは、もはや自然な成り行きといえるでしょう。私たちにとって、テクノ失業をもっとも身近に感じやすい分野かも知れません。

介護分野

現在、圧倒的な人手不足が慢性的につづく介護業界において、人工知能搭載ロボットは大きな期待を背負っています。肉体的負担の重い、介護業務をロボットが対応するようになるのは、とても喜ばしいテクノロジーの発展です。介護される側にとってもより心地よく、肉体的・精神的負担の少ない介護を実現することが、人工知能にはきっと可能でしょう。テクノ失業の心配をよそに、一家に一台、人工知能搭載ロボットが存在し、介護や家事全般を担う未来はもうすぐそこまで来ています。

テクノ失業に強い職種

テクノ失業が危惧される職種がたくさんある一方、いまだテクノロジーでは代替することが難しいと思われる、いわばテクノ失業に強い職種もあります。どのような職種がテクノ失業に強いのか、確認していきましょう。

クリエイティブ関連の職種

画家や作曲家といった芸術家、またアートディレクター、コピーライター、舞台演出家といった正解のないものを創造するというクリエイティブな職種は、まだ人工知能には取って代わることができません。ただ、最新のテクノロジーと人間が組み合わさってともに力を発揮することで、いままでにはなかった新たなものを生み出す可能性は十分にあります。

函館にある、はこだて未来大学の松原仁教授が手掛けるAIに小説を書かせるプロジェクトで、AIに書かせた小説が星新一賞の一次審査を通過しました。まだまだ途上ですが、AIが自ら創造する能力は確実に進化しています。クリエイティブ関連の職種も、人間だけができる分野でなくなる日はそう遠くはないようです。

編集者・記者・ディレクター

クリエイティブ関連の職種と同じく、正解が存在しない仕事内容です。編集やディレクション、取材などは、前例のデータの集積では判断がつかない、その場その場での臨機応変な対応が求められる、人間にしかできない作業であるといえるでしょう。

カウンセラー・児童厚生員・社会福祉施設指導員

カウンセラーや児童厚生員、社会福祉施設指導員といった、人の心の機微をとらえて柔軟にやりとりをする必要のある仕事は、人工知能では対応が不可能な領域です。

各種インストラクター

アウトドアやスポーツなどの各種インストラクターは、経験をもとに指導を行いながら、目の前で起きている事態に対して臨機応変に対応する必要があるので、人工知能では対応が追い付かない職種といえます。

テクノ失業に対応するには?

テクノ失業に戦々恐々としているだけでは、日本の社会と産業の未来は明るいものになりません。「人工知能やロボットといったテクノロジーに仕事を奪われる」という事実を、マイナス方向にばかりとらえるのではなく、前向きにとらえて対応していくことが必要とされています。

積極的にジョブチェンジを進める

自身の就いている職業が、近い将来テクノ失業の可能性が高い場合は、自ら率先してテクノ失業の恐れが少ない職業へシフトチェンジすべく、資格の取得や勉強を始めるもよいでしょう。会社に見切りをつけることは、今の社会を客観的に見つめ自分の将来を先読みした人ができる行動です。状況に応じて変化をいとわない積極的な姿勢は、生きていくうえで大きな財産となります。

会社に見切りをつけるタイミングは?注意すべき11の兆候

企業や国がジョブチェンジをサポートする

テクノ失業が予測される職業に従事している人に対して職業訓練を実施することにより、テクノ失業した人が他の業界や職種に転職し、新たな力が発揮されうるという予測も出ています。労働力が不足している職種はたくさんあるため、テクノ失業は人手不足の緩和に貢献しうるかもしれません。

テクノ失業者が新たなスキルを身に着けるには、企業や国からのサポートが不可欠です。テクノロジーによる代替が予測される職種を中心に、早い時期から制度の整備やマッチングといった対策をとっていく必要があるといえるでしょう。

テクノ失業は怖くない

人工知能やロボットといったテクノロジーが全世界を席巻し、人間の知的・肉体的機能や労働力が役目を失い、追いやられてしまうという危機感を持たずにはいられない時代に突入しています。しかしテクノ失業が現実になっていく一方で、協調性や調整能力が必要とされる分野においては、いまだ人間の細やかな知能でしか対応できないことも事実です。

人工知能による芸術作品の創造が可能になったとはいえ、データの学習・解析ありきの作業結果であり、一からの創造ではありません。本来の意味での「クリエイティブ」な作業は、人間にのみ許された特権であり、まだまだ私たちのテクノ失業は遠いといえるでしょう。

このような、人間にしかできない分野において、人工知能などの最新のテクノロジーと人間が協働し、補い合って新たなものごとを生み出すことができれば、それは地球全体にとってかけがえのない財産になりうるはずです。

参考文献