人と接するのが好きなら通訳案内士の仕事はいかが
海外から日本へ旅行目的に来る方のことをインバウンドと表現することがあります。ビジネス、旅行にかかわらず日本を訪れた外国人は、2016年の時点で約2,400万人を超えました(注1)。
ところで、オーストラリアの人口が大体どれくらいかご存知でしょうか?答えは約2,413万人です(注2)。現在、オーストラリアの人口とあまり大きく変わらないほどの外国人が日本を訪れています。2015年に訪れた訪日外国人の数と比べても21.8%も伸びているので、今後も日本を訪れる人は絶えないでしょう。
訪日外国人が増えているなかで注目されている職業が「通訳案内士」です。お客様の為に通訳だけでなく観光案内、日本の地理・歴史を紹介する仕事で、日本経済にとってありがたい存在となっています。
通訳案内士の仕事内容とは
通訳案内士の仕事とは、海外からいらっしゃるクライアントが希望する言語で日本の文化や伝統を伝えることです。単に英語だけではなく中国語、ドイツ語、フランス語、スペイン語など、様々な言語に対応出来なくてはいけませんが、基本的に自分が出来ない言葉を勉強しろと命じられることはありませんし、活躍できないという訳ではありませんのでご安心ください。
しかし、需要と供給の問題から特定の言語に対して通訳士が不足しています。これが原因で訪日外国人の数が減ることはありませんが、サービスを提供する人が少ない市場は売り手にとってチャンスだと言えるでしょう。
通訳案内士の活躍の場はたくさんある
通訳案内士は観光ツアーだけではなくビジネスの視察や研修、国際会議や各種イベントなどで、お客さまをサポートするコンシェルジュ的な業務もすることがあります。母国語が日本語同士の人間ですら言葉1つで相手の機嫌を損ねることがあるのですから、国際的なイベントや会議があるところに通訳士という職業が不可欠なのは納得できるでしょう。その分、コミュニケーションにおける責任も負わなくてはならない重要な仕事です。
通訳案内士の収入と待遇
通訳案内士として活躍されている方のほとんどは旅行会社勤務かフリーランスで働いています。その収入と待遇をみてみましょう。
旅行会社に通訳案内士として勤める場合の収入
旅行会社に勤めている通訳案内士の給与というのは初任給で20万円というのが一般的です。もちろん勤める先によって違いがあるでしょうが、20万円が相場と考えておいて間違いはないでしょう。
自身のスキルアップ、経験の有無によって給与も変わってきます。例えば日本語以外は英語しか話せない人に比べれば、英語にプラスして中国語やイタリア語など多言語が使えるようになればその分だけ活躍の場は増えるので、給与の増額も期待ができます。年収400万円以上という給与も可能ですが、通訳案内士を正社員として雇うところは少ないため、収入が安定しにくいです。
フリーランスの通訳案内士の場合の収入
フリーランスとして働く場合はエージェント(派遣会社)やツアー内容によって収入が異なります。1日のガイドとしての平均日当は10,000~30,000円となっています。これがフリーランスとしての通訳案内士の収入相場として見て良いでしょう。収入にプラスして食事や時間外の手当てなどがつくかどうかも派遣会社によって異なり、やはり観光客の数には波があるため安定していないという悩みが残ります。
通訳案内士には「斡旋業」という収入口もある
通訳士の仕事には単にツアーガイドを務めるだけでなく、空港やホテルへの送迎や宿泊先の手配などの「斡旋業」が入ることもあります。あっせん業には通訳士としてのスキル以外にも求められる部分があるため専門の方に依頼することもありますが、報酬は一日数千円から20,000円程度です。
通訳案内士になるには資格が必要
通訳案内士は通常、ツアーなどに同行し観光客に文化や歴史を案内したり、日本の魅力や知りたがっていることを正確に伝えたりすることが期待されています。しかし通訳案内士の質や知識の幅によって、観光客が日本に対するイメージも大きく変わるため、日本では外国人を案内する代わりに報酬を受け取る場合は「通訳案内士の資格」が必要になります。
通訳案内士の資格として2006年4月以前までは通訳ガイドという資格がありましたが、名称を改めて通訳案内士という国家試験ができました。通訳案内士の試験には受験資格が特に設けられておらず、過去には14歳で取得したという例もあります。
通訳案内士の試験は難易度が高く、筆記試験のほかに口述試験もあるので自分が得意とする外国語を極めている必要があります。試験では英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語のいずれか1か国の試験のほかに日本に関する歴史、地理、一般常識の3つの科目を、すべて60点以上取らなければならないため合格率は平成27年時点で19.3%となっています。
通訳案内士の主な試験内容
自分が選択した外国語についての筆記試験は2時間かけて行われます。言語によって試験の方式が異なり、それぞれ次のようにマークシート方式と記述式と混合に分かれています。
各言語における試験の方式
- 【マークシート方式】
英語 - 【マークシート方式+記述式】
中国語、韓国語 - 【記述式】
フランス語、スペイン語、ドイツ語、タイ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語
外国語の試験に加えて、日本の「地理」「歴史」「産業、経済、政治および文化に関する一般常識」を問う3種類の試験が課されます。それぞれ40分、マークシート方式で行われ特に難しい試験となっています。一次試験は、TOEICなど該当する資格の指定された点数・級以上取得していると一部免除されることがあります。
一次の筆記試験を合格した方は約10分程度の二次試験に移ります。二次は口述試験となっており、選択した言語での実践的なコミュニケーションが取れるかを見ます。英語・中国語・韓国語の3言語は東京、大阪、福岡の3都市圏で行われますが、その他の言語は東京近郊でのみ試験を実施します。
合格後は日本観光通訳協会や旅行代理店などに通訳案内士として登録することによって、仕事を紹介してもらえます。
通訳案内士は国からも支援されている職業
通訳案内士の試験には平成27年だけでも1万人以上の応募者がいるものの、9割が英語を希望しており他の言語との偏りが激しく、合格率がきわめて低いことから合格者が少ないというのが現状です。
平成29年時点で通訳案内士として登録されている人数は2052名しかおらず、通訳案内士として働ける場所がなかなか広まらないことも理由となり、必要とされている人数には達するのが難しいことになっています。
現状を鑑みて、日本政府は無資格の通訳案内士の登用や有資格者の通訳案内士の優遇策を検討しています。特に地域限定での通訳案内士の登用に関しては積極的に行われており、遠隔地のため通訳案内士の受験を控えようとしている方への配慮をしたものが目立ちます。
通訳案内士は多くの人達を繋ぐ仕事をしている
通訳案内士の仕事は多言語を使って多くの方に文化的、歴史的な興味を現地国に持ってもらうことになります。日本では特に日本の文化や歴史を伝える、とりわけその土地で暮らしている方に案内してもらうことを積極的に進めようとしています。その結果として通訳案内士は日本の経済効果にプラス要素を与えてくれる他にさまざまな人との繋がりを作ってくれる仕事と考えられます。
さまざまな人とつながりを持つことで日本の魅力を新たに知ったり、外国の考え方を取り入れて新しいビジネスを展開していったりすることも考えられます。すなわち通訳案内士は自分自身だけでなく多様な人々をつなげる仕事なのです。
通訳案内士になって活躍してみよう
インバウンドが増える中、通訳案内士は深刻な人材不足になっています。外国語に対して苦手意識を持つ日本人は多いものですが、国際交流をすることはそれだけ自分の見聞を広げるものです。
しかし、外国語に対する苦手意識を打ち破る教育も少ないのが現状です。現在の状況に対して企業や政府が積極的になることで通訳案内士という職業に対する壁、ひいては海外との距離が低く近くなるでしょう。