イメージすることが難しい貿易事務を正しく知ろう
「貿易事務」という単語が求人で見かけられることがありますが、貿易に関する事務なんだなとはわかるものの、その具体的な仕事などはなかなかイメージがわかないものです。
貿易では多くの国々とやり取りをすることになりますし、国によって商習慣も様々です。そのため、普通の商品取引とはまた違った様々なルールがあり、当然ながら外国語でのやり取りが発生します。その中で行う事務作業となりますので、一般的な事務職よりも専門性が高く、条件面も良いのが貿易事務の特徴です。
貿易事務への就職を考えている人や、貿易関係の仕事に興味を持っている人は、貿易事務について正しく理解しておきましょう。
一般的な事務職とは違う貿易事務の仕事の特徴
貿易事務は事務職と言われる仕事の中でも特殊な部分を多く持つ専門的な職種です。一般的な事務職と違って、どのような特徴があるのか確認しておきましょう。
外国語を使って事務のやり取りをする
貿易は2国間以上の国の間で行われる取引の事を言いますが、当然ながら主な取引相手は外国の企業となります。貿易の場では英語が公用語であり、また取引先の国と様々なやり取りを行うことになりますので英語をはじめとする外国語を利用することが多くなります。基本的には書類やメールのやり取りのため、文字上のやり取りが多くなりますが、中には直接電話でやり取りをする場合もあり、読み書きだけでなく、リスニングやスピーキングも求められます。
日本とは違う外国の環境・風習に理解が必要
国によって取引のためのルールが異なっていたり、その他にも時差の問題や言葉のニュアンスなど様々な環境・風習の違いに対応できなければ、円滑なコミュニケーションは難しくなります。天気予報ひとつも取引先の地域について詳しく確認が必要な場面もありますし、仕事をきっちり片付けたつもりでも、夜間(取引先は昼)に取引先からの連絡が殺到し、翌朝にはメールがいっぱい入っていることもあります。郵送物の発送などもルールに従って送る必要があります。そのため、常に外国に対しても関心を払っておく必要があります。
貿易・物流の流れが見えている必要がある
貿易事務は書類のやり取りが主な仕事になりますが、貿易のための環境は常にイレギュラーが伴います。天候不良によって船舶が欠便になったり、輸送用のトラックなどが事故などの影響で遅れるようなことがあれば次善策を早急に手配し、関係各所に必要な連絡をしなくてはなりません。ただ書類の作成をするだけでなく、常に貿易や物流の流れを考えて仕事をすることが大切となります。
特別な書類が多いため難易度が高い
貿易の中で取り扱う書類を一般的に「貿易書類」と呼びます。貿易書類の中には、「インボイス(Invoice・商業送り状)」、「パッキングリスト(Packing list・梱包明細書)、「船荷証券(B/L・Bill of Lading)」、「信用状(L/C・Letter of Credit)」、「為替手形(Bill of Exchange)」など様々なものが存在します。
通常の営業事務などと比較しても、作成・確認が必要な書類数が増え、また外国語で書かれているものがほとんどになりますので事務処理能力と語学力が必要となります。一般的に輸入では届いた書類の確認・チェックが多く、輸出では書類の作成が必要となりますので、輸出を担当する貿易事務のほうが難易度が高くなっています。
貿易事務の仕事に求められる能力
一般的な事務職とは異なる貿易事務にはどのような能力が求められるかも知っておくと、キャリア形成に役立ちます。
英語を軸とした書いたり話したりする外国語の能力
貿易事務では、外国語に触れることが多くなりますので、外国語の知識は必須となります。企業によってどの外国語が必要になるかは異なりますので、求人を良く確認しておくと良いでしょう。基本的には英語ができることが求められますが、最近はアジア諸国との貿易取引も増えているため、中国語や韓国語などをはじめとして、現地の言語ができる人は重宝されます。
多忙でもやっていける心身の健康
貿易事務というのは心身ともに一般的な事務職よりも大変です。貿易では一件あたりの取り扱い量や価格が大きくなるため気を遣うことが多くなりますし、また外国語でのやり取りも余程慣れている人以外にはストレスとなります。また、トラブル発生時には時差のある国の人とリアルタイムでやり取りをする必要が生じることもあり残業がかなり遅くまで発生することもあります。精神的には多少図太いくらいが良いとも言われており、心身が健康な人が求められます。
正確に早くこなせる事務能力・パソコンスキル
貿易事務では、書類の作成はもちろんのこと、書類のファイリングや各種のデータや伝票の整理など、多くの事務仕事が発生します。時には営業担当と一緒に提案書類を作成したりと様々な形でパソコンスキルが必要になる場合もあります。正確かつスピーディーに仕事をこなすことができれば、社内での評価も高まりますので基本的なビジネススキルはしっかり押さえておきたいところです。
相手の国の風習や話し方を理解したビジネスマナーと国際感覚
事務職として多くの取引先と書類のやり取りをすることも多く、ビジネスマナーは必須と言えます。しかし、そのビジネスマナーにも国際感覚が必要で、相手の国の風習や話し方などを理解した対応が求められます。外国のマナーや常識に関心を払い、常に学べる人が求められます。
貿易事務の仕事を通してのキャリア形成について
貿易事務というのは専門性の高い仕事であることから、一般的な事務職と比較してキャリアを作っていくことでより良い就労環境を得ることも可能です。
初心者でも貿易事務の仕事は可能なのか?
貿易事務は特定の資格を必要としませんので、求人さえ出ていれば初心者でも就職することは可能です。初心者の場合は、外国語ができることや、営業事務経験などが求められるケースもありますが、新入社員としてまったくのゼロから育成する場合もあります。
貿易事務は有能であれば正社員として雇用されることもある
最近は貿易事務を担当する社員を、契約社員や派遣社員の形で雇用することも多いですが、有能な人であれば正社員として登用してくれる場合もあります。事務職とはいえ、企業の生産性に大きく影響を与えるのが貿易事務という仕事でもありますので、優秀な人材を確保するために動く企業も多いです。事務職ながらに500万円以上の年収を得ている人がいるのも貿易事務の特殊なところです。
貿易事務の仕事で取得しておくと良い資格は?
貿易事務をする上で取得しておくと良い資格としては、まずは外国語に関する様々な資格があります。TOEICや英検などの資格を持っていれば、語学力のアピールにつながります。また、簿記やMOS、ビジネスマナー検定などの資格も事務職としての能力を示すものになりますので良いアピールとなるでしょう。
貿易事務として、より上のステップを目指す上で取得しておきたい資格としては、通関士や貿易実務検定などの資格があると貿易業務に関する専門的な知識があると評価されます。
貿易事務の仕事はどのようなキャリアが考えられる?
貿易事務から始まって、その企業内で正社員として通関関係の業務を任されることもありますし、中には書類作成やチェックなどを請け負うコンサルタントとして独立する人もいます。また、貿易事務に関する翻訳や通訳を担当するスペシャリストになる人もいますし、貿易事務などについて教えるビジネス専門学校などで講師になる人もいます。語学力と専門的な業務知識を活かし、「換えの利かない存在」として仕事をしていくことが可能です。
貿易事務の仕事の満足度は高い
事務職の中でも特に専門性が高い仕事ということもあり、その待遇が比較的しっかりしていることから貿易事務に従事している人の仕事への満足度は高めです。
語学を活かしたいと思っている人には、普段から外国語を使うことで語学を錆びさせることなく様々なところに応用できるようになりますし、また貿易そのものが専門性の高いスキルであるために再就職なども比較的難しくありません。副業で個人輸入などをする上でも知識が活用できます。
仕事としても大きな仕事に携われることが多く、何より普段は見えない外国の様々な商品に書類上とは言え触れる機会が多くなりますから、海外に対して好奇心が旺盛な人はそれだけでも満足できます。
貿易事務の仕事をしていました体験談
ここでは、実際に貿易事務の仕事をしていた4人の体験談を紹介していきます。貿易事務の仕事は、自分にとって得ることがたくさんある仕事であることが分かります。
忙しい時は忙しい、暇な時は暇
はむ(33歳)
私が貿易事務をしていた会社は、社長夫婦が個人で経営していて、取引先ももともと知り合いだという数件しかないものすごく小さな企業でした。
事務員は私一人しかいませんでした。勤務時間は9時から6時までで、土日祝と年末年始やお盆はお休みでした。
主な仕事内容は、輸出する商品に関する送り状を作成することです。わかりやすく言うと、宅配便で荷物を送りたい場合、送る相手の名前や自分の住所、電話番号などを記入する用紙があると思いますが、あれのもう少し細かく詳しく記入したものを作成するのが仕事です。
商品を輸出するにあたり、官庁に必要な書類を揃えて申請し、承諾を得なくてはなりませんが、その揃えなければならない書類がものすごく多く、面倒なのがこの仕事の大変な点です。
貿易事務をしていて良かった事は、輸出する商品が無い時は、仕事もないので、一日中遊んでいられます。それが良かった点です。
地味だけど刺激の多い貿易事務
とまとん(30歳)
東京の支社を含め50人程度の商社で働いていました。営業一人一人が個人商店のようなもので雑貨の輸入やコスメの輸出等、営業によって取り扱う商品は異なっていました。勤務時間は9:00-18:00でカレンダー通りの休日でした。
私は主に輸出の業務をしていたのですが、バイヤーとの価格連絡から船の手配、輸出書類の作成まですべて対応させていただいていました。
仕事で大変だったことは、バイヤーが開設したL/C(Letter of Credit)に対し、忠実に書類を用意しなければいけないことです。L/Cはすべて英語で書かれていて、書かれている通りに書類を用意しないとお金が支払われません。一語一句タイプミスがないように書類を作成するのは緊張しました。
バイヤーとも会わせてくれる営業についていたので、バイヤーからたくさんのお土産やサンプルを頂け仲良くお食事もできたので楽しかったです。
貿易の仕組みが覚えられていい経験になった
HOKUTO(31歳)
大手光学機器メーカー・精密機械部門で国際物流の貿易事務をしました。企業全体の規模としては従業員2万人以上となります。フルタイムで、月~金の出勤・土日祝日は休みでした。
主な業務は、精密機械を海外機器メーカーの工場へ輸出、また、故障の際に機器の部品や修理のための工具を輸出入していました。精密機器の大きさや種類により、航空便と船便の2種類を使い分けていました。
具体的な業務としては、自社工場から輸出する物品の出荷指示を出し、輸出入に必要な各種書類を揃え、希望の到着日時に間に合うように先方/自社に届くまでのスケジュールを管理するというものです。
精密機械のため、本体を輸送する場合には空調や振動のデリケートな管理が必要であり、また部品や工具を輸出入する際には内容を証明する書類をメーカーから取り寄せる作業が必要となってきます。
納品先の工場での生産作業がストップしてしまうため、故障対応は緊急案件が多く、朝出社してから夕方まで息つく暇もなく対応に追われることも多くありました。輸出入のしくみや貿易条件を取り決めたインコタームズなどの知識を実務で得られた事は、自分にとって良い経験になったと感じます。
色々な国の人とのコミュニケーションが楽しい
いもこ(46歳)
私が貿易事務をしていたのは、自動車部品メーカーの工場で従業員が約250名の規模でした。勤務時間は9-6時で、休日は土日と工場カレンダー(通常大手自動車メーカーの工場カレンダーに準ずる)と同じでした。
業務としては、主に、材料の輸入と部品の輸出です。北米の自動車メーカーでは指定メーカー、ブランドの材料を輸入して使用することが多く、欧州メーカーからも承認塗料を輸入していました。
貿易事務の仕事をしていて大変だったことは、まず、海外メーカーとの時差があることです。次に、取り扱い危険物になると混載が難しく、リードタイムが長くかかるため、工場とお客様の間に入っての日程調整が大変なことです。
仕事をしていてよかったことは、いろんな国の人と、英語を使ってコミュニケーションできたこと、朝は北米、夕方は欧州と仕事をしていたことで、時間が経つのがあっと言うまであったことです。また、輸出入の知識を得られたことは自分で個人輸入するときにも役立ちました。
貿易事務の仕事ならスペシャリストを目指せる
貿易事務は一般的な事務職と比較すると専門的な知識やスキルが必要となる仕事です。そのため、何かの分野でスペシャリストを目指したいと考えている人にとっても良い選択肢になります。再就職や副業にも使いやすいスキルが身に付きますので、就業して働き続ける上でも様々な可能性を考えることができるようになります。
一般的には海外に興味のある人が好む職種とされていますが、専門的なキャリアを形成していきたいと考えている人にとっても、貿易事務は非常に魅力的な仕事と言えるのです。