公務員がもらえる退職金はどれくらい?
詳しい事はわからないけれど、「公務員は退職金が高い」という漠然としたイメージがあります。しかし、実際のところはどうなのでしょうか。どうせ就職するなら退職金はたくさんもらえるところにしたい。公務員を選ぶべきか民間企業にすべきか迷っている人のために、今回は、公務員の退職金についてご紹介していきます。
国家公務員と地方公務員の平均退職金
公務員は、国家公務員と地方公務員の二つの区分に分かれます。平成28年度の公務員全体の人数は約332万人、国家公務員は58万人、地方公務員は274万人と、公務員のうち約80%が地方公務員です。(注1)また、地方公務員の職種は、一般行政が約30%、教育部門が約37%、警察部門が約10%などに分かれています(注2)。ここでは、国家公務員と地方公務員の平均退職金を見ていきます。
国家公務員の平均退職金
国家公務員の退職金制度の対象者は、一般職・特別職を含め、現業・非現業を問わず、常時勤務している事を要する国家公務員です。これは、国家公務員退職手当法によって定められています。国が発表した平成26年度と平成27年度の平均退職金を理由別に比べました(注3・注4)。
平成26年度 | 平成27年度 | |||
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退職人数 | 平均退職金(千円) | 退職人数 | 平均退職金(千円) | |
自己都合 | 10,277 | 2,823 | 5,853 | 3,513 |
定年 | 12,947 | 21,672 | 12,701 | 21,813 |
全理由平均 | 37,011 | 10,037 | 31,500 | 11,499 |
平成26年度よりも平成27年度の平均退職金額が増えていることが分かります。国家公務員の退職金水準は、おおむね5年ごとに民間企業との均衡を図るため、見直しされています。平成27年4月1日に施行された「国家公務員退職手当法の一部を改正する法律」では、職員の公務への貢献度をより的確に反映させるために、職責に応じた調整額が増額されました(注5)。もしかしたら、このことが平均退職金額を押し上げる要因の一つになったのかも知れません。
地方公務員定年の平均退職金
地方公務員の定年退職金の平均額は、市区町村>都道府県>指定都市>国家公務員の順に低くなっていきます。指定都市とは、国が定めた「政令で指定する人口50万人以上の市」のことです。「政令指定都市」と呼ばれる事もあります。ここでは、国がまとめた平成28年の地方公務員が定年退職した時の平均退職金額をご紹介します(注6)。
平成28年地方公務員給与実態調査「退職手当の支給状況」
職種 | 定年による平均退職金(千円) |
---|---|
一般職 | 22,405 |
警察 | 22,459 |
教育 | 23,331 |
全職種 | 22,958 |
東京都の全職種定年による平均退職金額は22,527千円、大阪府の全職種定年による平均退職金額は23,493千円、愛知県の全職種定年による平均退職金額は23,629千円、福岡県の全職種定年による平均退職金額は23,211千円と、大都市において大きな開きはありません。
一方、市区町村別においては、東京都羽村市の26,154千円、長野県御代田町の25,372千円を始め、大分県九重町の25,093千円など、小さな団体でありながら都道府県の定年による平均退職金額を大きく上回って支給しているケースが見受けられます。
公務員の定年による退職金額は年功序列制になっている場合が多いため、定年退職でもらえば必然的に退職金は高くなると言えます。また、平均支給額は、都道府県の公務員よりも市区長村の公務員の方が高いという統計が取れています。
国家公務員の退職金の計算方法
国家公務員の退職手当の算定は、基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給率×調整率)+調整額です。基本額は、退職日の月給の事を言います。一般職の職員の場合は、一般職給与法における「俸給表の額」と「俸給の調整額」との合計です。ここでは、基本的な退職金の計算方法と特別措置を見ていきます(注7・8)。
自己都合による退職金の計算方法
自己都合で退職した場合は、勤続年数によって決定されます。勤続年数が5年の場合は、1ケ月分の給与×2.61、10年の場合は1ケ月分の給与×5.22が退職金として支払われます。
定年前に早期退職をする場合の退職金の計算方法
定年前15年以内に勤続期間20年以上の職員が早期退職に応募し認定を受けた場合と、公務上の死亡、傷病などによって退職した場合は、定年前の残年数1年につき退職日の月給を3%~45%割り増しして基本額を計算します。
定年前早期退職特例措置の対象者は、「特例減額前俸給月額」と「退職日俸給月額額」の両方が割り増しとなります。国家公務員の退職手当制度の適用対象は、国家公務員退職手当法によって、司法・立法・行政のうち、常時勤務に服する職員であり、行政法人の役員や国会議員、国会議員の秘書などは対象外です。
給料が減額されたことがある場合の退職金の計算方法
月給が減額された事がある場合の人に対しても特例があります。基礎在職期間中(退職手当の支給の基礎とするべき採用から退職までの期間の事)に、月給の減額改定以外の理由により、その人の月給が減額された事がある場合につき、減額前の月給(当該理由による減額がない場合の月給よりも多い時)は、以下のような特別な基本額(退職した者の退職時の俸給月額)の計算方法が適用されます。
給料が減額されたことがある場合の退職金基本額の計算方法
退職金手当の基本額 = 特定額前俸給月額 × 減額日前日までの勤続期間に応じた支給率 × 調整率
+ 退職日俸給月額 × (退職日までの勤続期間に応じた支給率
― 減額日前日までの勤続期間に応じた支給率) × 調整率
地方公務員の退職金の計算方法
地方公務員の退職金は、地方自治法により国家公務員の制度等に準じることと定められています。その計算方法は、退職日の月給に退職理由別、勤続年数別の支給率を乗じ、調整額を加えることで求められます(注9・10)。
自己都合退職ならいくらもらえる?
地方公務員を自己都合で退職した場合、例えば、給料が300,000円で勤続5年なら300,000×3.0=900,000円、勤続10年なら300,000×6.0=1,800,000円に調整額を加えた退職金がもらえます。
定年退職ならいくらもらえる?
地方公務員を定年退職したなら、例えば、給料が400,000円で勤続30年なら400,000×50.7=20,280,000円、勤続45年なら400,000円×59.28=23,712,000円に調整額を加えた退職金がもらえます。
休職期間があった場合の退職金はどうなる?
定年退職で、在職中に休職期間がある場合は、まず退職日の給与を計算し、在職期間を確認します。次に、採用年月日と昇格年月日、退職年月日を詳細に明らかにします。その後、除算対象期間となる、私事傷病による休職期間を計算します。
休職期間は、調整額の算定の基礎時間に影響を及ぼさないものとします。勤続年数から退職年月日を引き、そこから除算期間を半分に割ったものを引いた数字は、端数を切り捨てます。
公務員の退職金の調整額
退職金の調整額とは、平成18年4月に施行された制度です。在職期間中の貢献度を的確に反映し、民間企業の「ポイント制度」の考え方を、国家公公務員の人事管理、人事運用などに合わせた形で取り入れ、「職責ポイント」という形であてはめたものです(注11)。
職責ポイントとは
「職責ポイント」とは、一般企業で業務を遂行する際に権限や責任、処遇などの根拠となる制度の事であり、組織に必要な人材を導き出すための制度です。「職責ポイント」制度によって、会社が必要としている人材を従業員が知る事ができるようになります。
「職責ポイント」制度には、「能力」「職務」「役割」という3つのモデルがあります。それぞれを使い分ける場合と、組み合わせて使う場合があります。
調整額の計算方法
調整額の計算方法は、基礎在職期間の初日の属する月から、末日の属する月までの各月ごとに、その人が属していた職責の区分に応じて定める「調整月額」というもののうち、その額が多いものから60ケ月分の調整月額を合計して求められます。
勤続4年以下の自己都合退職者以外の退職者と、勤続10年以上24年以下の自己都合退職者は調整額が半額となります。
調整額が支給されないケースもある
以下に当てはまる職員と、非常勤などを含む退職者は調整額が支給されません。勤続において貢献度が低い事や、懲戒免職以外の懲戒処分を受けて、それを理由に退職した場合などにおいて、在職期間すべての公務への貢献を否定する事はないものの、公務への貢献を減らすべきであると考えられるからです。
- 勤続9年以下の自己都合退職者
- 退職金の基本額が0である人(自己都合などの理由によって勤続期間が6ケ月未満で退職した人)
- 法令違反により退職した人で、退職した日から3月までにその行為を原因として停職、減給、戒告などの懲戒処分を受けた人
調整額は職員区分に応じて決まっている
調整額は、その人が在籍していた職員区分に応じて決まっています。一定の特別職幹部職員などの調整額は基本額の6/100となります。また、勤続4年以下(自己都合以外)、勤続10年以上から勤続24年以下の自己都合退職者は、調整額が基本額の50%に減額されます。
公務員も退職金をもらったら税金を納めなければならない
退職金は、基本的には他の所得とは分けて所得税を計算する事になっています。退職金をもらう時は、「退職所得の受給に関する申告書」を退職金の支払い先に提出してください(注13)。
課税対象額の計算の仕方
課税対象額の計算の仕方は、(退職手当額―退職所得控除額)×1/2=課税対象額です。ただし、「退職所得控除額」の計算の仕方は、勤続年数によって異なります。
- 勤続年数が20年以下⇒勤続年数×40万円(退職所得控除額が80万円未満の場合には80万円)
- 勤続年数が20年を超える場合⇒(勤続年数―20)×70万円+800万円
所得税の計算の仕方
上記で求めた「課税対象額」に、所得税が課税されます。所得税は、所得税額=(課税対象額×税率-控除額)×1.021で求めます。税率は、695万円を超えて900万円以下なら23%、900万円を超えて1,800万円以下なら、33%、1,800万円を超えれば40%です。
住民税の計算の仕方
退職金をもらったら、住民税も納めなければなりません。退職所得にかかる住民税の税率10%は市町村民税(特別区民税)6%、道府県民税(都民税)4%です。退職金の場合と同じく、退職所得控除後の金額を求めて計算します。
公務員の退職金の減額が検討されている
平成29年4月、人事院は政府に対し、国家公務員の給与水準を引き下げることが適切であるとの見解を示しました。これは、国家公務員の退職金制度を管轄している総務大臣と財務大臣から、国家公務員の退職金のあり方を、民間企業の動向から考える必要があると要請を受けて調査を行った結果に基づくものです(注12)。
調査の方法
無作為に選んだ7,355社から、退職金及び企業年金の有無とその内容に関し調査を行い、有効回答を得た4,493社の意見をまとめました。
調査の結果
- 退職給付額を官民で比較したところ、民間企業が24,596千円、公務員25,377千円で、公務員が781千円と3.08%上回っていたことが分かった。
- 上記の事から、官民の釣り合いを考え、国家公務員の給付水準の見直しを検討する。
公務員の退職金はどうなる?
国家公務員と民間企業の退職給付額の差は以前から比べると縮まってきたものの、まだまだ開きがあることから、政府は国家公務員の退職給付額が民間企業にさらに近づくように退職給付額を引き下げると考えられます。また、地方公務員の退職給付額が国家公務員に準ずるものであるため、地方公務員の退職給付額も同様に引き下げられることになるでしょう。
公務員の退職金は一般企業より少し高い
現在の公務員の退職金は、民間企業よりも平均的に少し高いという統計が出ています。しかし、近い将来、民間企業の金額に肉薄することは間違いないでしょう。
退職金の金額は人それぞれですが、金額に関わらず老後の生活を支えるためにとても重要なものである事に変わりはありません。就職先を選択する一つの要素として、ぜひ参考にしてください。
参考資料
- 注1:人事院「国家公務員の数と種類」
- 注2:総務省「地方公務員数の状況」
- 注3:内閣官房「退職手当の支給状況」「平成27年度」
- 注4:内閣官房「退職手当の支給状況」「平成26年度」
- 注5:内閣官房「国家公務員退職手当法の一部を改正する法律」
- 注6:総務省「退職手当の支給状況」「都道府県」「市区町村」
- 注7:内閣官房「国家公務員退職手当支給率早見表(平成26年7月1日以降の退職)」
- 注8:内閣官房「給与・退職手当」
- 注9:人事院「地方公務員の退職手当制度について」
- 注10:人事院「退職手当手取額計算書」
- 注11:総務省「退職手当の調整額について」
- 注12:人事院「定年後の収入と支出」
- 注13:人事院「民間の退職金及び企業年金の調査結果並びに国家公務員の退職給付に係る本院の見解の概要」