国の施策でも期待されているキャリアコンサルタントとは?
労働人口の変化やビジネス環境の変化によって、国内の競争力が低下してきていると言われる中、職業選択や能力開発などを目的に国が国家資格として定めたのがキャリアコンサルタントという国家資格です。「キャリアコンサルタント10万人計画」という計画が厚生労働省によって作られているほど国としても期待を寄せています。
就職サークルを運営しながら、キャリアコンサルタントの存在が気になっている大学生の酒井君は、キャリアコンサルタントについて知人の経営コンサルタントのK・エーイ氏に尋ねてみました。
キャリアコンサルタントとはキャリアを支援する専門家のこと
―エーイさんは経営コンサルタントをされていますよね?キャリアコンサルタントについてはご存知ないですか?
キャリアコンサルタントですか?知っていますよ。時々相談させてもらうこともありますからね。
―エーイさん、もしかしてキャリアに何か不満が?
いやいや、私のことじゃなくて、クライアントの問題解決に協力してもらうことがあるということですよ。必要に応じて、分野が違うコンサルタント同士は協力しあうものなんです。
―そうなんですね。知りませんでした。ところで、キャリアコンサルタントというのはどういう仕事なんですか?大学にもいるって聞いたんですけど。
キャリアコンサルタントというのは、簡単に言えばキャリア支援の専門家ですね。キャリア支援というのは、職業選択から就職、能力開発、その後の発展など個人のキャリア形成について相談を受け、助言をしたり手助けしたりすることを言います。
―なるほど。じゃあ、大学なら就職課にいるってことですね。
その通りです。大学の就職課であったり、また人材会社や企業の人事部、ハローワークのような再就職支援施設、フリーランスのコンサルタントなど、キャリアコンサルタントは様々なところで活躍しているんですよ。
キャリアコンサルタントは名称独占の国家資格である
―「キャリアコンサルタント」って、他にも似たような名前の仕事ありませんでしたか?「キャリアカウンセラー」でしたっけ?
お、よく知ってますね。昔はキャリアコンサルタントと名乗っているキャリアカウンセラーも多かったんですが、今はキャリアカウンセラーと名乗らないといけないですね。
―え?ちょっと意味がよくわからないんですが、そうなんですか?
はい。実は2016年からキャリアコンサルタントは職業能力開発促進法に規定された国家資格となって、「資格を持っていない者はキャリアコンサルタントや紛らわしい名前を用いてはならない」ことになっているんです。
―なるほど。それでキャリアカウンセラーはキャリアコンサルタントと名乗れないんですね。
ただし、仕事として紛らわしい名前を使うことはできないということであって、キャリアカウンセラーという民間資格はあります。一応、法律を知らずに、または意図的に紛らわしい名前で仕事をしている人もまだいる可能性があることは注意した方が良いでしょうね。
キャリアコンサルタントになるには特定の条件を満たす必要がある
―キャリアコンサルタントって就職支援をする仕事ってことですよね。僕も勉強して資格を取ったら、就職サークルで使えますかね?
いや、サークルで使うってレベルじゃなくて、独立して仕事として食べていける可能性も高いですよ。もっとも、資格を取れたらという話ではありますが。
―それはいい!でも、国家資格ですし、やはり難しいんですか?
難しいですね。筆記試験と、実技試験(論述・面接)で、年にもよりますが、合格率は40~50%くらいだったと思います。
―あれ?それって結構受かってるんじゃないですか?
そう思いますよね。しかし、キャリアコンサルタントの国家資格の受験資格は、「厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了」「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力開発及び向上のいずれかに関する相談に関し3年以上の経験を有する」「技能検定キャリアコンサルティング職種の学科試験又は実技試験に合格」などのどれかに該当する人、もしくは同等の技能を有する人となっているんです。
―つまり、キャリアの専門家になるための勉強をある程度してきた人や、仕事としてきた人しか受験できず、その人たちでも半分も受からないってことですか。
その通りです。率直に言って難しいですよね。ましてや講習なども受講料は高いですし、学生には二重にハードルが高いかもしれません。でも、学歴は関係ないので、絶対に取れないというわけではありませんから、チャレンジしてみても良いかもしれませんね。
でもキャリアコンサルティングは誰でも行うことはできる
―質問なんですが、キャリアコンサルタント以外は、キャリア相談をしてはいけないんですか?
いいえ。キャリアコンサルティング(キャリア相談)は誰でもできます。
―ええ?それじゃあ、あまりキャリアコンサルタントの資格って意味なくないですか?
ちょっとややこしく聞こえるかもしれませんけど、キャリアコンサルタントは「名称独占資格」ではありますが、「業務独占資格」ではないんです。
―あぁ…え~と…すみません、わかりません!ご説明をお願いします!
「名称独占資格」というのは、名刺などに「キャリアコンサルタント」と書いたりできるのはその国家資格を持っている人だけという意味です。紛らわしいのが、無資格なのに「キャリア相談コンサルタント」「職業能力開発コンサルタント」みたいな肩書を自分で作って名乗っている人で、法的にアウトになる可能性があります。
―なるほど。では、「業務独占資格」と言うのは?
「業務独占資格」と言うのは、その国家資格を持っていないとその仕事をしてはならないと法律で定められている資格です。医師や弁護士が代表的ですね。
―なるほど。誰でもやってしまうと大事件になりかねませんものね。
キャリアコンサルタントの仕事もとても重要なものではありますが、国家資格ができる前から多くの民間資格があったことや、キャリアの相談は以前から行われていることでもありましたから、業務独占までは規定されませんでしたね。よって、キャリア相談そのものは誰でも受けられます。
―じゃあ、やっぱりキャリアコンサルタントって資格取る必要は無いんじゃないですか?
いえいえ。やはり、ちゃんと学んできた人、経験のある人は全然違います。キャリアと一言で言っても、実に多様です。自分の同業者や身の周りの人は対応できても、様々な状況やキャリアを持った人に対応できる素人はまずいません。現代のキャリアを取り巻く環境が複雑化しているからこそ専門人材が求められていますし、資格はその実力の証明であり信頼の証なんです。
キャリアコンサルタントで重要なのは引き出しの多さ
―キャリアコンサルタントに向いている人ってどんな人なんでしょうか?
一概には言えませんが、まずはコミュニケーションが上手な人、そして専門家として学び続けることができる人でしょうね。
―コミュニケーションが必要というのは何となくわかります。相談しながら、その人に合ったキャリアを考えたり伝えたりする必要がありますものね。
そうですね。加えて、学び続ける必要があるというのは、コンサルタント業では「引き出しの多さ」が非常に重要となるからです。どんな相手が来て、どんな状況だとしても、状況を良くすることができないと価値を感じてもらうことができませんから。
―引き出しって、学ぶことで増えるんですか?
はい。ただし、座学をしていれば引き出しが増えるというものでもありません。実際に様々な人のキャリア相談を受けたり、キャリア関係のセミナーなどで事例や法規、トレンドなどの情報を収集したり、労務コンサルタントや人材エージェント、学校の教師や就職担当者、産業医や精神科医など、関連のある仕事の人と積極的に情報交換をすることなど、生の声や事例をたくさん知ることが大切です。
キャリアコンサルタントは前向きな相談にも後ろ向きな相談にものるのが仕事
―話を聞いていると、学ぶっていうのは、ただ勉強することだけじゃないんですね。
もうちょっと話しますが、キャリアコンサルタントが重要になってきたのは、単なる進路相談では片付かない問題が増えてきているということも背景にあるんですよね。
―キャリア相談って、単なる進路相談とは何か違いがあるんですか?
進路相談などは前向きなキャリア相談と言っても良いと思いますが、実際には後ろ向きなキャリア相談も多いんです。たとえば、理想と現実のギャップに悩んでいたり、自分のやりたい仕事がわからない人、適性が合わない職場で働き続けてメンタル的に鬱気味な人の相談とかも増えています。
―後ろ向きっていうのは、辛いからキャリアを何とかしたいってことなんですね。あ、だから先ほど産業医や精神科医とも情報交換する必要があると仰ったんですね。
そうです。他にも、心身の障害を抱えている人のケースや、高齢者、外国人のキャリア相談など、相談内容は非常に多様になってきています。前向きなものだけでなく、仕事やキャリアに深刻に悩んでいる人も増えていることを理解してキャリア相談を行うことが求められていますね。そのため、キャリアコンサルタントの中でもより専門分野を定めて特化していく動きが見られます。
―そう考えると、確かに素人では難しく、専門性が必要になるんでしょうね。僕も就活する前には、キャリアコンサルタントにお世話になっておいた方がいいのかなぁ。今日、お話が聞けて良かったです。本日はありがとうございました!
キャリアコンサルタントはキャリア支援のスペシャリストです
キャリアコンサルタントは、個人のキャリアの形成について相談を受け、助言を行い、キャリア支援を行う専門職です。現在は国家資格として名称独占資格となっています。昨今のキャリアを取り巻く環境は多様化・複雑化しており、その中で適切なキャリアを形成することに悩む人も増えています。キャリア支援を通して社会に貢献したいという人は、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。