多様化する退職金制度をきちんと理解しておきましょう
退職金を意識した事がある方でも、漠然としたイメージを持っているだけ、という場合も多いのではないでしょうか。退職金は定年後から、年金で生活していかなくてはならなる老後の生活を支えるための大切な資金です。
今のうちにしっかりと理解を深め、いざその時が来た場合に焦らないようにしておきたいところです。今回は、今から考えておかなければ今後に大きく影響を及ぼす退職金制度について、解説していきます。
そもそも退職金制度とは?
退職金制度と聞くと、多くの人が「退職する時に貰える大きな金額のお金」といった漠然としたイメージを持っているでしょう。退職金がいくら貰えるのかは、当然人それぞれです。学歴や勤続年数、会社の規模、退職理由など、そこに考慮されるものはその時の状況によって様々だと言えます。
退職金は必ず貰えるものではない
退職金制度は、法律などで義務付けられているものではありません。なので、必ず貰えるわけではありませんし、金額も給付の有無も企業に委ねられています。企業側も退職金制度について見直す事が多くなってきているため、給付される側として行動する場合は、その点も心に留めておかなければなりません。
では、企業として退職金制度を定める場合はどうでしょうか。ここで大切なのは、退職金制度は一度始めたら勝手に減らしたり廃止したりできないという事です。もちろんこれは企業が勝手に変動させる事はできないという意味であり、従業員の合意の上であれば問題なく変更する事が可能です。
しかし、従業員として退職金を給付されないという事は大変大きな問題ですので、合意を得る事はかなり難しいと考えられます。書面でのやり取りやお互いの意見の擦り合わせ等が長引く事が予想されるため、専門家に間に立ってもらうのが得策でしょう。
退職金制度の仕組み
退職金制度には様々な種類があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。それらがどのような仕組みから構成されているのかをご紹介していきます。
基本給(賃金)連動型退職金制度
基本給と勤続年数、退職理由を考慮して計算される制度です。従業員がひとつの企業に長く勤めれば務める程貰える金額が多くなるという理由から、企業側としては優秀な人材が会社を離れるリスクを減らすことができます。
しかし、従業員が高齢化すると、払わなければならない退職金が膨らんでしまうというデメリットを抱える事になります。団塊の世代の一斉退職など、社会の動きに大きく影響される可能性が高い制度です。
また、従業員側としては、企業にどれだけ利益をもたらしたかという努力を考慮されないというデメリットと、実際に給付される金額の予想をつけやすいというメリットの両方を持つ事になります。
定額方式退職金制度
勤続年数のみを考慮して支払われる、比較的シンプルな制度です。勤続年数に基づいて作成される支給額表によって従業員に支払われます。従業員にとっても企業にとってもわかりやすいメリットがありますが、こちらも企業への貢献度が考慮されないという従業員側のデメリットが残されています。
選択型退職金制度
退職金を前払いするか、後払いするかを選ぶ事ができる制度です。前払いの場合、月額の給与に加えて支払われたり、賞与として支払われたりと、現金での給付が行われます。
後払いの場合は、企業からの退職金を一括で受け取る退職一時金、企業年金を選択できる場合があります。この時、確定拠出年金という選択をする事もできます。(確定拠出年金については後述させて頂きますので、そちらも併せてご覧下さい。)
ポイント制退職金制度
毎年付与するポイントの合計に、あらかじめ定めておいたポイントを乗じて退職金を決める制度です。他の制度よりも企業への貢献度が反映されやすいというメリットがあります。シンプルな制度であり、従業員にとってわかりやすく、また、企業年金と併せて運用する事が可能です。
例として、職能資格制度がこれに分類されます。職能資格制度では、従業員を能力によって格付けし、それを退職金決定の際のポイントに反映します。これにより、有能であり、企業に貢献した分だけ退職金が増加されます。
別テーブル方式退職金制度
テーブルに、退職金を算定するための基本給とは異なる基礎になる金額を定めておき、そこに勤続年数を乗じる制度です。比較的わかりやすい制度ですが、こちらも企業への貢献度が考慮されないので、金額の公平さに不満を感じる人がいるでしょう。
退職金制度と退職金共済の違いは
退職金制度をいくつかご紹介致しました。続いて考えたいのは、退職金制度と退職金共済との違いです。これは、端的に言ってしまえば、退職金を支払ってくれるところが違う、というところが相違点です。
退職金制度は企業独自の規定に基づくものです。ですから、会社が倒産してしまえば減額される事もあり得ますし、全く支払われなくなってしまう事もあり得ます。
一方、退職金共済の場合は、会社が倒産しても確実に退職金が支払われます。これは、会社自体が毎月共済に掛け金を支払い、退職金のために積み立てをしているからです。退職金共済は、会社が従業員に対して確実に退職金を支払えるようにするための仕組みです。共済から退職者に支払われるため、その時点での会社の経営状態に影響を受けないというメリットがあります。退職金制度と退職金共済を併用している企業も多くあります。
共催の中でも、多くの中小企業が加入しているのが「中小企業退職金共済制度」です。これはその名の通り中小企業だけのためのもので、大企業は加入する事ができません。給与の一部を積み立てにあてることによって、社会保険料と所得税の負担が減り、結果的に手取りが増える事になります。
退職金制度と確定拠出年金の違いは
では、ここ最近注目されている確定拠出年金と退職金制度はどう違うのでしょうか。どちらも定年である60歳から年金が支払われる65歳までの間の生活資金にするためにとても大切なお金です。ですが、この二つの制度には相違点があります。
確定拠出年金は、企業型DCと呼ばれる、企業がしていた事を自分自身がするようになるという制度です。
具体的には、まず積立金の運用方針や商品を自分で決める事ができます。そして、転職した場合でも、転職先に自分の資産をそのまま引き継ぐ事ができます。更に、将来の受給金額を社内規定に関係なく決める事ができ、掛け金が金額所得控除の対象になります。
企業が従業員を確定拠出年金の加入者にするためには、4つの条件があります。
- 対象者が一定の職種(営業職、事務職など)に属している。
- 対象者が加入者の限定のために規定された勤続年数を満たしている。
- 対象者が「50歳未満」である。
- 対象者には加入するかどうかを選ぶ権利がある。
これらの4つの条件は、組み合わせたり使用しない事もできます。なお、対象者を50歳未満に限定するのは、50歳以上には長期的な資産運用が望めないからです。
確定拠出年金を取り入れる事で、企業は退職金を給付するための債務を負わなくても済みます。また、加入者にとっては、会社の掛け金がそのまま自分の資産となるため、退職金の減額リスクがなくなるというメリットがあります。
一見すると良い事が多いように思えますが、加入者は運用リスクを負わなくてはならないというデメリットを負う事になります。冷静な自己判断が求められ、自己責任で動かなくてはいけません。
海外における退職金制度は
それでは、目を海外に向けてみましょう。海外での退職金制度は、日本と大きく異なっています。そもそも退職金制度そのものが存在しない国も多くあります。退職金制度が取り入れられている国でも、そのほとんどが、労働者の都合による退職と企業の都合による退職によって支払われる金額が大きく異なっています。自己都合による退職では、全く退職金が支払われないという国もあります。
また、退職者から不服申し立てがあった場合は、企業はそれに応えて退職金を再度計算する事もあり得る、という国もあります。有給休暇が使われていなかった場合には、それに対する賃金を上乗せして退職金を支払うという場合もあります。
退職金制度を廃止する企業も増えている
経営悪化や不況などが原因で、退職金制度そのものを廃止する企業も増えています。本当に退職金制度が必要かどうかを見直す向きがあるため、これから就職や転職を考えている方は、入社前にその会社に自分が求めている退職金制度が取り入れられているかどうかをもう一度確認しておきましょう。どうしても退職金制度がないと将来が不安である、という場合は入社を考え直す必要があるかもしれません。
また、退職金制度が取り入れられている場合、退職してからどれくらいの時間が経てば自分の手元に振り込まれるのかも確認しておきたいところです。企業によって支払われるまでの期間はまちまちです。これは就業規則を確認するか、どうしてもわからないという場合は会社の担当部署に問い合わせてみましょう。
退職金制度の理解を深めておきましょう
昨今、退職金制度が多様化し、また、確定拠出年金など新しい形の退職金の受け取り方が現れてきました。今後も退職金制度はその形を変えていくものと考えられます。その時に柔軟に対応できるかどうかが私達に求められる課題です。
そのためにもまずは、現状の退職金制度について理解を深めておくべきだと言えるでしょう。自分の勤める会社の退職金制度はどのように定められているものなのかを知り、それをこれからどのように運用していくかを、一度立ち止まって考えてみる必要があります。