職業訓練校について知ろう
ハローワークなどを利用して就職や再就職を考える際に、ひとつの選択肢として考えに入れておいてほしいのが職業訓練校に通うことです。
職業訓練自体は民間の専門学校や通信教育などでも受けることが可能ですが、職業訓練校は公的な援助であり、失業保険をもらいながら教育・訓練を受けることができるなど多くのメリットがあります。これらの恩恵を受けるためにも、まずは職業訓練校とは何かについて理解した上で、今後の利用を検討してみるとよいでしょう。
職業訓練校とはどんなところ?
職業訓練校とは、求職中の人々が希望する就職先で必要とされる知識や技能を習得することで、就職しやすい状況を作るための職業訓練を行っている学校を言います。現在の正式な表現は「職業能力開発校」となっています。
職業能力開発校は国の法律によって制定されているもので、設置義務が国や都道府県にあります(注1)。また、厚生労働省が定めた基準に合致すると都道府県が認定した事業主は、認定職業訓練による職業能力開発校を設置することができるため、民間企業が運営していることも少なくありません。
基本的に受講料はテキスト代を除いて無料、もしくは破格と言って良いほどの低価格で職業訓練を受けることが可能です。学校とは言いますが求職者が通う施設となるため、入校後は老若男女問わず様々な年代の方と共に職業訓練を受けることになります。
職業訓練は雇用と労働のミスマッチを解消し、就職を促すようにとスキルの習得を促すことを目的とした国の取り組みです。そのため、就職を希望する求職者にとっては強い味方となってくれます。
職業訓練受講者や訓練後の就職率はどれくらい?
職業訓練校では主に離職者、在職者、学卒者を対象とした公共職業訓練が行われています。
平成27年度の公共職業訓練実施状況では、離職者訓練は127,807名(うち37,829名が施設内、委託89,978名が委託)、在職者訓練は107,604名、学卒者訓練は17,877名、全体で253,288名もの受講者数がいるという結果が出ています(注2)。就職率についてもそれぞれ70~90%と、比較的高い数値です。
職業訓練校の種類はさまざま
一般的な職業訓練校には国や都道府県が設置するものと、都道府県から認定された事業者が運営するものとがあります。
現在、職業能力開発校という名称を出しているところはそれほど多くなく、「専門校」「技術専門校」「テクノカレッジ」「能力開発センター」「キャリアアップセンター」「ポリテクセンター」など、地域によって様々な名称で運営されています。認定事業者がいわゆる専門学校で、その中の一部カリキュラムを職業訓練として開放していることもあります。
コースごとに一定のカリキュラムが組まれており、学べる内容については事業者によって違いがあり、提供される訓練内容も時期や地域によって異なります。
特殊な状況下の求職者を対象とした職業訓練校もある
一部、以下のように特殊な状況下にある方々のための職業訓練校も設置されています(注3)。こうした対象の職業訓練校では、一般的な職業に必要なスキルの修得だけではなく、コミュニケーション方法やメンタル管理などの特殊な状況や希望に合わせた知識・技能の教育、キャリア相談も行われています。
例えば?
- ものづくり分野の中堅技術者を対象にした職業訓練施設(高度職業能力開発促進センター)
- 高年齢者向けの職業訓練施設
- 障害者のための職業訓練施設(障害者職業能力開発校)
職業訓練校で学べる内容やコースの種類
職業訓練校では多くのコースが提供されています。コースによって受講期間や受講に必要となる金額には違いがあり、また地域によって提供されているコースもあります。カリキュラムの内容やコースの名称も運営主体によって異なりますので、自分が興味のあるコースの詳細は各運営先にて確認してください。
職業訓練校で学べる内容やコースの種類の一例として、以下のようなものがあります。
機械関係
- 機械加工:工作機械の知識や技術の習得
- 設計技術:図面作成やCAD、3Dプリンタに関する知識や技術の習得
- メカロトロニクス:プログラミング、電子回路、機械に関する知識や技術の習得
- 自動車整備:自動車に関する知識や整備技術の習得
- 金型加工:金型の設計や製作に関する知識・技術の習得
建築・造園
- 木工技術:木材を用いた家具や什器の設計や製作に関する技術の習得
- 内装技術:建物などの内装施工に関する知識や技術の習得
- 広告美術:看板やディスプレイの製作など広告美術に関する知識や技能の習得
- 測量:測量の知識や測量機器の扱いに関する技能の習得
- 環境空調:エアコンなどの空調設備の設置や保守・修理に関する知識や技術の習得
電気関係
- 電気工事:電気工事士資格取得に必要な技術や知識の習得
- コンピュータ制御:電子回路や組み込みソフトウェアに関するプログラミングに関する知識・スキルの習得
- 組み込み技術:マイコンのプログラミングやハードウェアに関する知識・技術の習得
情報処理関係
- コンピュータグラフィック:CGに関する知識や技術の習得
- OAシステム:Javaなどの言語やサーバーなどに関する知識や技術の習得
- ネットワーク:LANやインターネットなどのネットワークに関する知識・技術の習得
- WEB技術:HTMLやCSS、JavascriptなどのWebで使われる知識やデザイン技術の習得
事務関係
- MOS技術:企業で使われるWordやExcel、PowerPointなどのソフトについての知識や技術の習得
- 経理:簿記資格取得に向けた経理に関する知識や技術の修得
職業訓練校に入校するための受講条件・手続き方法
職業訓練校に入校するには、ハローワークに求職申込みを行っていることが最低限必要となります。その上で、求職活動を定期的に行ったり職業相談を受けながら、職業訓練の募集があれば窓口で案内をもらい、受講申込書などの必要書類を記入して手続きを行います。その後、訓練を実施する職業訓練校での筆記試験や面接といった入校選考が行われます。
職業訓練校では合否を検討する際にはハローワークでの求職活動の状況などが見られることもありますので、ある程度は求職活動をしてからの方が良いでしょう。
求職中でも一定の所得や世帯収入がある場合や、まだ学生である場合などにはそもそも職業訓練が受けられない場合がありますので注意してください。
雇用保険を受給できない、受給が終了した立場の方でも、職業訓練は受けることが可能となっており、求職者支援制度によって給付金や通所手当が受けられることもあります。
欧米諸国の職業訓練事情
日本では職業訓練の多くは、職業訓練校において座学や実習を行いながら職業に必要な訓練を実施して、そこから求職を行っていきます。しかし海外では、実際に職場に出て働きながら訓練するOJTを中心にしているところが多いです。
欧米諸国ではデュアルシステムと呼ばれる形式で行われることも多く、これは座学による知識の習得などと並行して実際の企業に入って働きながら実習訓練をするという職業訓練制度となっています。当然、企業に入っての労働となりますので、この間も収入が発生します。企業側にもメリットはあり、訓練生の中で欲しい人材があればそのまま雇用を希望することも可能です。
日本での日本版デュアルシステムというものもありますが、これは企業に入って行う実習訓練はするものの、期間も時間も海外のものと比べると非常に短く座学が多いのが特徴です(注4)。
ドイツなどの国では、これが教育のひとつの方法として定着しており、2~3年間程度、昼は働き夜は学ぶというような形で職業能力を身に着けていきます。その際、どのレベルの職業訓練なのかといった等級制度もしっかりしており、受けた訓練課程によってその後の就職先のレベルもほぼ決まってきます。
海外ではこういった現場型の人材を育成しようという向きが強い傾向にあります。しかし一方で、不況になると受け入れ先が少なくなり十分な職業訓練ができないなどの問題もあり、国によって課題は様々です。
職業訓練校は就職するための知識やスキルを習得する場所
職業訓練校は求職者の求職を促すための知識やスキルを習得する場です。公的な援助によって、失業保険や支給金を受けながら勉強をすることができるというメリットがありますが、職業訓練校に通ったからと言って確実にスキルが習得できたり就職できることを保証するものではありません。また、希望するコースがあるとも限らないことにも注意が必要です。
しかし、職業訓練を受けることによって、自分の求職活動の幅が広がることは間違いありませんし、キャリア形成のためにも大きな一歩を踏み出せる場合もあります。求職活動中は次の就職先を急ぎ探すことも多いですが、一度立ち止まってこうした職業訓練校への入校を考えることもひとつの選択肢として持っておきたいものです。
参考文献